第818話 チームシア①白亜の大迷宮(1)
魔王城に乗り込んだアレンたちは魔王軍参謀キュベルの策略により3方向に分かれて行動しなくてはいけなくなった。
今は1階層右手の扉から侵入し、移動したばかりの13時30分頃だ。
アレンの判断でノーマルやエクストラのモード、攻撃、回復などの戦力のバランスを考え、召喚獣を含めて采配してくれた。
『ここが魔王城の2階層か……』
神技「獣神化」を発動したシアが、まっすぐ獣人の姿で立って、果てしなく長い通路を見て、心の声を漏らしてしまう。
アレンからはこのチームのリーダーと言われているので、仲間たちを率いる者として、僅かな弱音も見せたくなかった。
だが、神技「獣神化」によって肉体の構造が、人族や獣人よりも圧倒的に優れた状態であっても、目の前に続く廊下の先が見えない。
白亜の宮殿は、全長100メートルの魔獣でも余裕で通れるほどの高さの天井の細部まで彫刻が刻まれている。
通路は巨躯の魔獣同士が余裕をもってすれ違うほどの幅があり、天井を支えるため、巨大で成形された真っすぐな柱が均等に配置している。
柱、天井、壁が淡く発光しているのか、建物内は明かりの魔導具がないのに視界を遥か先まで見えるのだが、それ以上にどれほど巨大なのか、まっすぐ進んだ先の突き当りがどうなっているのか分からない。
一瞬の迷いを振り払おうとするが、シアの不安を振り払う男が横にいた。
「なんか随分時間が掛かりそうだな。さっさと行こうぜ!!」
『ド、ドゴラ……。そうだな。我らには目的がある。早めに達成し、他のチームを助力せねばな。キュベルの策に乗ってやるものか』
憧れていた長兄であるベクを殺したキュベルの言いようにされてはならないとシアの中で闘志が戻ってくる。
「おう、その意気だぜ!」
神器の大きな斧2つを十字に背負うドゴラが言う。
3チームに分かれ、それぞれの方向に目的があり、その目的を達成する必要がある。
このため、英獣の立場が改められた十英獣の協力をゼウ獣王に依頼したところ快諾を受けた。
【チームリーダーシアのメンバー】
シア、ドゴラ、十英獣10人、ルバンカ、ペクタン
【十英獣の構成一覧(才能及び名前、獣人の種類、立場等、性別)】
・占星獣匠テミ、リス、獣王相談役、女
・槌獣帝ホバ、クマ、獣王親衛隊長、男
・斧槍獣帝ラゾ、犀、獣王親衛副隊長、男
・剣獣帝ハチ、秋田犬、獣王親衛副隊長、男
・爪獣帝パズ、ラーテル、獣王親衛隊、女
・双剣獣帝セヌ、豹、獣王親衛隊、男
・弓獣帝ゲン、ヤマアラシ、獣王親衛隊、男
・聖獣帝フイ、山羊、獣王親衛隊、女
・楽獣帝レペ、狐、冒険者、男
・魔獣帝ラト、鼠、獣王親衛隊、女
※ゼウが獣王になり、テミとレペ以外が獣王親衛隊に加入
※全員の☆の数は5つ
※テミのみエクストラモード
【3チームの目的】
①第一天使ルプトの奪還
②魔王のいる場所へつながる鍵の入手
③魔王城を覆う結界の破壊
【テミの才能名の変遷】
・占星獣師☆☆☆、S級ダンジョンの攻略に貢献
・占星獣匠☆☆☆☆、月の欠片の場所の発見に貢献
・占星獣宗☆☆☆☆☆、大地の迷宮の攻略に貢献
※過去章で無数に案が出ていますがテミの才能はこれでいきます(書籍版に準拠)
ここにきて、リスの獣人で獣王の相談役のテミが口を開く。
「……だが、このまま何も考えず先に進むのも早計だ。この階層は何やらかなり広い大迷宮のようだぞ。正しい道がすぐに出ぬ。大地の迷宮に匹敵するかそれ以上よ」
シアもドゴラもテミの話はよく聞くようアレンから指示を受けている。
そのテミが2階層に来るなり、何か違和感を覚え、手元のキラキラと光沢のある石ころを床石に置いて確認していた。
アレンはテミを魔王軍との戦いに必要とした。
理由として、アレンが前世の経験から、魔王城がダンジョンや大迷宮の可能性があったためだ。
運命神タルロットの加護を持ち大地の迷宮攻略、セシルとアレンのため、月と日の欠片の在処を発見するなど、神界では抜群の活躍をみせた。
彼女の力は必ず魔王城攻略に必要だとゼウに協力を求めたところ快諾を受け、シアが獣人の園攻略以降、アルバハル獣王国に戻っていたテミは共に戦ってくれる。
シアとドゴラの視線を合わせないように静かに魔王城の遥かに続く通路の先を見つめながら、ゆっくりと口を開く。
「そうか……。魔力か何か、この城は視覚で見えるだけの構造ではないようだの」
「お、おい。いつまで座ってんだ」
『良い。むやみに進んでも意味ないということだろう。魔王軍の策がどれほどあるか分からぬし』
「だけど、バフの効果もあるだろ」
床にドッコイショという声が聞こえそうなほどしっかりと座ったテミに対して、ドゴラはソフィーやロザリナからかけてもらった精霊神の祝福などのバフを心配する。
シアは、ルークの時の大精霊タイムによって、バフの持続時間の延長が効いており、4時間はもつため、まだ焦るような時間ではないと言う。
「よいよい。すぐに済む。だから、集中させてくれ。神器トリオンよ、我らの前に立ち塞がっているものを指し示せ。六星占い!」
パラパラパラッ
それぞれ独特の絵柄が書かれた古びたカードの形をした神器トリオンを扱い、この先に何が待ち受けているのか
「……大迷宮になっているのか。魔獣を超えた者たち。……これは両刀の化け物。一度戦ったことのある奴だな。おぞましい気を感じるが、バスクなのか?」
「おい、この先にバスクがいるのか!!」
「な、何をするんじゃ! 占いの途中に邪魔するでない!!」
「げふ!!」
ドゴラの声にテミの両肩を掴んで持ち上げようとしたため、驚いたテミに両足で蹴り上げられてしまう。
『だから言っておるのに……。なるほど、大迷宮と魔神たちを使って我らを消耗させて、最後にバスクを使って倒そうという算段か。容易くは攻略させまいと』
シアは、ドゴラに失礼なことをされて叱るテミを落ち着かせながらも、占いの結果を皆に伝える。
「まだあるの。……バスクは何か鎖に繋がった何かを……。随分強力な結界を貼られておるようじゃが、羽の生えた天使……」
「ルプトまでおるのか! この扉が当たりじゃねえか!!」
3方向に分かれた先に、バスクとルプトがいるなら、さすがにこれ以上聞いていられないとドゴラは鼻息を荒くする。
「何千、何万か複雑な道になっているの。なるべく最短の道を示そう。それでもかなり進まねばたどり着けぬが。皆、危険であることには変わりないからの」
『……これは我らがやってくることを分かった上で周到の準備した場所だ。どんな敵の罠の中であっても進まねばならぬ。だが占えるだけ占ってくれぬか、テミ殿よ』
テミとシアの言葉に皆の表情にドゴラも含めて全員の緊張が増す。
テミはアレンの相談も受けて、出発前に今回の魔王軍との戦い結果の占いをしてもらった。
作戦が決まった際、どれだけの成功率があるのかとか、どれほどの被害がでるのかなど占おうとしたのだが、今回同様に、魔王軍の強力な結界で、何が起こるのか分からなかった。
正確な未来が分からない中、テミが口にした言葉をアレンが仲間たちに聞かせたとき、今回と同じ表情になる。
「絶望の口が開かれる。誰もが命を懸けた危険な戦いになるだろうの。どれほどの者が生きて帰れるのか分からぬが、挑戦せねばそれ以上の対価を我らは払うことになるだろう」
ドゴラがS級ダンジョンで占ってもらったと同じかそれに近い表現であった。
作戦をいくつか提案したのだが、占い結果は変わらなかった。
「だが、進まないとあいつは倒せないし、ルプトは助けられねえだろ!!」
ドゴラのやる気が不穏の振り払おうとする。
『流石はドゴラよ』
シアもニヤリと肉食系の獣人独特に伸びた犬歯をちらりと見せて笑って見せる。
「よし、罠が少なく敵もおらず、最短の道を指し示そう。星の運命!!」
彩豊な小石を使い、スキル「星の運命」を使い、最善手の行く手を指し示す。
「お、そろそろ。出発か」
「そういうことだ。そろそろ起きろ、レペよ」
寝転んで様子を見ていたレペがあくびをしながら、休憩は終わりかと言わんばかりに、背伸びした。
あまりに緊張感のある状況の中でマイペースを崩さないレペに対して、ホバ将軍は呆れることがあっても怒りの感情が沸いてこないようだ。
ここまで黙っていたが、一緒に行動を共にするルバンカが口を開く。
『……まて、念のために伝えておくが、我の視界はアレン殿と共有されておらぬ。扉を抜けたこの場所もまた、何らかの結界の中のようだ』
「援助も助力も厳しいというわけだな。キュベルの策略か」
『そういうことだ。心して進もう』
テミとの話の中、ルバンカも自らができることは確認していたようだ。
側にいるペクタンも同じ状況のようだ。
地上で戦うメルスたちと魔王城に入ったアレンは視界の共有ができなくなった。
1階層から別々の階層へ移動したアレンとルバンカもまた、何かの力で隔てられているのか視界を共有されることはなかった。
これは意思の伝達もできないし、何が起きても助けにも行けないし来ないことを意味する。
『なるほど、ペクタンは我らの回復の要の1体。隊列は余とドゴラが先頭を進む。ルバンカはペクタンを抱えて背後から進め』
『ん? 最前列になって盾になっても良いのだぞ』
『貴様のようなデカい奴が先頭だと背後の連携が乱れる。強敵がいることが分かったのだ。後衛たちとペクタンを守ってくれ』
全長30メートルの巨躯で最前列を進まれると視界が隠れて判断を誤るとシアは言う。
一緒に1ヶ月も原獣の園で夢の中でシアと過去を共有しているためか、お互いの意見は会話しているから、忌憚のない意見が交わされる。
だが、そこへホバ将軍が待ったをかける。
「待って下され。シア様よ。ゼウ獣王陛下からもシア様をお守りするよう申しつかっております」
完全なる罠の中に飛び込もうとするので最前列は自らが率先して進むと言う。
『ガルム様の下でも修行をしたが、貴様では瞬発力に欠けるでな。貴様は肩にテミ殿を乗せて進んでくれ。テミ殿と共に案内を任せるぞ』
戦闘向けでないテミは道の案内係のため、どうしても最前列に置いておく必要がある。
テミの護衛にホバ将軍をつけるとシアは言う。
「そのような冗談をこのような時に。ですが、分かりました。危険になったらいつでも盾にしてくだされ」
隊列の構成を簡単に話し合い、魔王城攻略の話が進んでいくのであった。





