第817話 地上戦⑦ガンディーラ改(4)
ガンディーラ改は邪神の化身に使った魂の吸収を、攻撃、回復、移動などで何らかの強化に使っているようだ。
長期戦がまずいとガララ提督が、メルスたち外部にまで聞こえるよう叫んだ。
「一気に片を付けるぞ!!」
『ギャウ!!』
『さっさとしてくれ!!』
ハクもマグラもガララ提督の声に応える。
ガンディーラ改や上位魔神や魔神を倒せば、後は魔獣や魔族など数だけだ。
アレン軍たち各軍に任せて、奥の2つの要塞を破壊したり、魔王城を探しに行くこともできる。
『そうだな。こいつらを倒せば、後は奥にいる指揮官たちだけだな』
メルスが、魔王軍の攻撃も苛烈さを増す中、勝負をすぐに決めてほしいと言う。
攻めてくる魔獣たちを倒さないと言う選択肢もなく、倒す際も復活できないように破壊しないと、邪神の化身となって復活する。
「分かった。行くよ! 神技発動! 迷宮主降臨!!」
メルルが駆動室の中で天に右手を掲げ、かっこいいポーズを取りスキル「神技発動」を使用し、神技「迷宮主降臨」を発動した。
超神合体ゴーレムの頭上に魔法陣が現れ、迷宮神ディグラグニが降臨する。
カッ
『おお! また苦戦中だな!!』
ダンジョンマスターで迷宮神ディグラグニがメルルの神技「迷宮主降臨」を発動し、全身を外骨格として強化するように金色に輝くパーツが分かれ、覆っていく。
【神技「迷宮主降臨」の効果一覧】
・発動者のゴーレムと合体できる
・極大(1門)、特大(2門)、大(4門)、中(8門)、小(16門)の魔導砲使用可
・全ステータス10万上昇
・効果は1時間
・発動者の指示で変形可能
※迷宮主だが迷宮神でもある
ズウウウウン
メルルの神技「超神合体」と神技「迷宮主降臨」を使っても全長200メートルから250メートルになったが、全長300メートルのガンディーラ改が頭1つ以上大きい。
だが、強化につぐ強化によって、攻撃力が40万を超える。
「よし、メルル! このデカブツをぶん殴れ!!」
「うりゃあああああ!! 真・重飛手!!」
駆動室の中で、ガララ提督は挨拶代わりと言わんばかりに、メルルたち右腕役にガンディーラ改を攻撃するように指示を出す。
超神合体ゴーレム(※迷宮神付であるが以降もこの表現で統一)の右腕がこれまで以上の速度でガンディーラ改に向かう。
距離がそこまで離れていなかったため、ガンディーラ改の駆動室内で退避行動がとれないでいる。
『超音速飛行物体確認し魔力障壁発生せよ。管理者権限による稼働掌握。退避行動開始』
『攻撃をしてくるぞ! る、ルキモネ様!?』
ガンディーラ改の駆動室内で指揮官の上位魔神が、超神合体ゴーレムの攻撃とルキモネの淡々とした声と驚きの声が響き渡る。
ガンディーラ改を動かす権限を掌握したルキモネが、急所である胸部付近に向かう超神合体ゴーレムに対して魔力による障壁を張りつつ、背後へと退避行動を取る。
超神合体ゴーレムの右腕はガンディーラ改の魔力障壁を破壊している間に、本体は退避されたため、狙った位置が外れ肩の部分に接触して大きく陥没させる。
超神合体ゴーレムは、腕の中心の弾性のある漆黒のケーブルが巻き取られ、飛び出た右腕は元通りの位置に収まる。
メキメキ
ガンディーラ改は両肩の煙突から光の粒子を吸引すると破壊された肩付近の陥没や割れ目があっという間に修復される。
「……野郎。やっぱり随分強化されているな。それにとんでもねえ反応速度だ。ここは一発で決めるぞ! 魔導砲だ! 大技を使うぞ!! 皆気合い入れろ!!」
頭役のガララ提督は、今の攻撃で敵の守備や回復速度、神技2つの合わせ技のゴーレムの力でどれだけ攻撃が通じるか十分把握できたようだ。
また神技「超神合体」と神技「迷宮主降臨」はそれぞれのクールタイムは1時間なのだが、両方合わせて発動すると10分かそこらであった。
今回は時の大精霊の加護とロザリナのスキルで時間が3・8倍に延長できたが、悠長にできる余裕はない。
「そうだね。短期決戦だ! ディグラグニ、一番大きな砲台になって!!」
『おう、ぶちかませ!!』
ガチャガチャ
オリハルコンで出来た超神合体ゴーレムを外骨格のように覆うディグラグニは、両肩から伸び、胸にかけて1つの巨大な砲門に変わっていく。
メルルのスクリーンに照準が表示され、砲台の中に魔力が集まっていく。
「ぐぬおおおおお!!」
胴体役の5人のドワーフが前進にゴーレムの全身に配分された魔力、ドワーフたちの全魔力を集めていく。
魔力を抜かれる衝撃に、ドワーフたちの表情が苦痛に染まる。
『砲台の中心に魔力量が増大しています!! 対処しなければ被害は甚大の恐れがあります!! 恐らく神界でガンディーラを倒した敵の砲撃かと思われます!!』
守りの要である左腕部門の魔族たちが、敵攻撃の様子を捉え指揮系統である頭部門へ情報を伝達する。
『超メガロン砲を全力で放て! 魔素吸収機構の稼働率を最大限上げるんだ!!』
上位魔神が最大出力で超メガロン砲を超神合体ゴーレムに放つように言う。
『魔導砲発射!!』
『超メガロン砲発射!!』
魔獣たちの攻撃を増す中、ガンディーラ改と超神合体ゴーレムの巨大な2体の打ち合いが始まった。
両者の間には300メートルほどの距離があったのだが、その中央で強力なビーム砲がぶつかり合う。
「どうした! 押されてんぞ!! さっさとぶっ飛ばせねえか!!」
ガララ提督が力負けをしていることに気付いた。
魔獣たちの魂を吸収し、その力を超メガロン砲の威力に変換しているガンディーラ改の威力が魔導砲よりも勝っていた。
「こ、これ以上は!?」
「全力でやってるよ!!」
魔力を供給する胴体役のドワーフたちは、皆の体力まで魔導砲に向けていると言う。
メルルたち右腕役のドワーフたちはこれ以上にない威力で魔導砲を放っている。
前回、神界でガンディーラと同じような状況で打ち勝ったのだが、今回は魔素吸収機構の分、敵の方が上手だった。
どうやら周りで死んでいく魔獣の魔力なども力に換えているようだ。
中央付近で魔導砲と超メガロン砲がぶつかり合っていたのだが、だんだん、メルルたち超神合体ゴーレムの方へ衝突面が近付いていく。
『ふははははあ!! そのままディグラグニごと吹き飛ばせ!!』
『は!!』
『は!!』
ガンディーラ改の中で指揮官の上位魔神が勝利を確信する。
ガンディーラ改の駆動室のある胸部付近を狙った魔導砲の砲台寸前まで、超メガロン砲が迫った。
『……だが、おかげで無防備な貴様らにこれほど近づけた』
『胸部付近に高魔力体の接近を確認。召喚獣メルスが近距離接近』
ルキモネの声が駆動室内に響き渡る。
メルスはハクとマグラに魔獣たちの攻撃を任せ、お互いに強力な一撃を打ち合っているガンディーラ改の駆動室の最も近い胸部付近の上に立っている。
『な!? 馬鹿な!! 速やかに撃ち落とせ!!』
『しかし、魔力量の全てを割いており割いており……』
すぐには調整が聞かないと魔族たちがいうのだが、そのゴタツキの中でも、メルスは淡々と特技と覚醒スキルを行使する。
『スパークリングショット……霊魔結合。目録……「雷神槍」、ライジングペネトレイト!!』
メルスは天使B「鞭」の覚醒スキルを特技「霊魔結合」で威力をそのまま天使B「槍」の覚醒スキル「ライジングペネトレイト」へと上乗せさせる。
足元にあるガンディーラ改の胸元目掛けて一気に貫いた。
①特技名:スパークショット
・無数の槍の連打を浴びせる
・雷属性、マヒ効果付与
・射程距離は100メートルほど(近距離ほど威力大)
②覚醒スキル名:ライジングペネトレイト
・雷属性、麻痺効果付与
・射程距離は1キロメートルほど(近距離ほど威力大)
・敵内部で放電する
・クールタイム1日
メルスの一撃は、ガンディーラ改の中へと貫通していく。
この覚醒スキルは貫通と内部破壊に特化しており、要塞の中や強力な防壁の中にいる敵を一層するのに適していた。
2つの特技や覚醒スキルを組み合わせることによってメルスは幅の広く高威力の攻撃手段を持つ。
『ぐはあああ!?』
駆動室まで到達した力は放電が周囲に拡散するように、指揮官の上位魔神を衝撃波と電撃で塵にする。
さらに、まっすぐ進んでいた衝撃波は無数に枝分かれして、駆動室内に満たしていく。
300体ほどいた魔神や魔族たちを焼き払い、指揮系統と動力を失った。
『む!?』
超メガロン砲の威力がメルスの攻撃によって失ったことを確認した瞬間、魔導砲がメルスの立っている胸部へと到達する。
ドゴオオオオオオンッ
寸前で退避したメルスのいた位置を魔導砲が貫いていく。
天使Bの覚醒スキル「ライジングペネトレイト」の数十倍の巨大な大穴を開け、その威力は、背後にいる魔獣たち数万体を数キロメートルに渡って消滅させていく。
『……ふう これなら我らは指揮官たちをせん滅し……。ん?』
ガンディーラ改を倒し、背後20キロメートルほどにいるアレン軍たちの奮戦を確認する。
彼らだけで任せられると考え、10キロメートルほど離れた先にいる魔王軍の指揮官の上位魔神や魔神たちがいる。
上位魔神だけでも10体ほどいるため、彼らを倒しきらないとアレン軍たちの攻勢が安定しない。
ハクやマグラに消耗したメルルたちドワーフのことを任せて、メルスは単身、指揮官の魔神たちを倒そうとしたところだ。
指揮官の魔神たちの側には穴があり、地下に広がる大迷宮と繋がっている。
そこから無数の砲台の付いた魔導兵器が運び出されていく。
ゴトゴトゴトッ
ゴトゴトゴトッ
『いかん!!』
「メルス!? あれって!!」
急に魔王軍のところに向かったメルスに対して超神合体ゴーレムの視界越しにスクリーンで確認したメルルたちが驚くが、詳しい話をしている暇はなかった。
メルスの心の中で『間に合わない』という言葉が響く。
攻撃範囲の広い天使B「鞭」と貫通力と射程距離の長さが優位の天使B「槍」の覚醒スキルは使ってしまった。
天使Bの武器を全て一旦削除して、再度、創生し直すには時間が足りない。
『分担の通りだ! 我はガンディーラ改弐式に乗り込む!!』
『我らはガンディーラ改参式だ!! 肆式、伍式の準備はまだ整わないのか!! 我らの後に続け!!』
『メルスだ! 敵が迫っているぞ!! 変形前に攻撃を受けさせるな!!』
『ガンディーラ改弐式!!』
『ガンディーラ改参式!!』
メキメキ
ズウウウウン!!
砲台のついた魔導兵器が変形し、ガンディーラ改2体が足元から現れ、巨大で全長300メートルのヒヒイロカネ製のゴーレムが現れる。
さらに肩の魔素吸収機構から魂を吸収し、2体のガンディーラ改は漆黒に色を変え始めた。
『い、今なら! 目録! トールスラッシャー!!』
ズアアアアンッ
『がは!?』
『ぐあ!?』
ガンディーラ改が2体現れるとその1体の体が耐久力の低いヒヒイロカネからオリハルコンに変わる前に、天使B「大剣」の覚醒スキル「トールスラッシャー」を胸部付近に叩き込む。
まだアダマンタイト製に変わり切る前だったため簡単に切り裂かれ、駆動室内の上位魔神や魔神、魔族を一掃していき、1体のガンディーラ改を容易に倒すことができた。
だが、視界の端でもう1体のアダマンタイトに染まり、オルハルコンになりかけたガンディーラ改参式の太い腕が迫る。
ブンッ
『ぐ!? 間に合わなかったか!? だが1体なら……。ば、馬鹿な…まだいるのか!!』
致命傷を避けつつ吹き飛ばされる中、共有の意識を切らなかったメルスはさらに複数の魔導兵器を迷宮通路から砲台を積んだ魔導兵器を魔族たちが続々と運び出していくのを見た。
指揮官役の上位魔神、魔神たちがそれぞれ分散するように魔導兵器の上部へと乗り込んでいく。
ガチャガチャ
ズウウウウン!!
「おいおい、何体出てくんだよ……」
「どんどんでてくるよ。こ、こんなのって無理だよ……」
『メルル、超神合体ゴーレムの持続時間が間もなく終了します』
ガンディーラ改弐式の出現を防いだが、参式が背後を守るように肆式、伍式のガンディーラ改が現れた。
『各ガンディーラ改の指揮官に継ぐ。2体消耗したがおかげでメルス含め敵戦力の完全な把握することができた。戦闘情報を同期し、全てのガンディーラ改でもって敵軍を掃討せよ!!』
2体の駆動室の中で上位魔神や魔族たちが返事をする。
『は! 六大魔天ルキモネ様!!』
『皆殺しだ! 勝利は近いぞ!!』
『我ら魔王軍に敵うと思うな!!』
メキメキ
ガンディーラ改参式の背後に準備が整った肆式、伍式の巨躯が現れる。
速やかに参式の背後で全身をオリハルコンの強度に変えていく。
ゴトゴトッ
目の前に3体のガンディーラ改が現われているのだが、それでもその背後に地下迷宮から運ばれる砲台の魔導兵器が止まることはなかった。
『陸式準備完了しました!!』
『漆式進軍します!!』
『捌式と玖式はどうした! さっさと前に進まぬか!!』
絶句するガララ提督とメルルに対して、タムタムが非情な報告をする。
だが、それでも準備が整ったと言わんばかりにさらなる魔導兵器の運び出しするのだが、今はそれを止める術がなかったのであった。
絶望的なまでの戦力差の中での戦いを予感し、メルルたちは駆動室の中で息を飲むのであった。





