第812話 地上戦②天使Dの召喚獣
1000体ほどの少数部隊の進軍を十数回に分けて続け、容易にアレン軍にせん滅されてきた魔王軍が新たな攻撃を仕掛けてきた。
『この程度の数減らしだけでは全然だな。もう一撃お見舞いするか。む? 今度は随分、多そうだな。このままでは倒せないと学んだのか?」
『敵軍は5000体だ! これまでよりも敵軍が数倍多いぞ!!』
メルスからの新たな情報がアレン軍に届けられる。
アレンたちが魔王城に入り、何分もしないうちに魔王軍は攻撃手段を変えてきたように感じた。
何を狙っているのか分からないがメルスは敵軍の動きに違和感を覚えていた。
度重なる単調な攻撃に意味があるのかもしれないと。
『あちらも結局罠だったか……。気を引き締めねばならぬな』
メルスはホルダーの召喚獣のカード補充によるアレンからのメッセージは受け取っている。
完全に魔王城に閉じ込められているため、アレンの側にいるグラハンの共有が切れていることにも既に気付いている。
アレンとの情報共有が限られる状況の中、自分らのすべきことに集中することにするのだが、それで大丈夫なのかと双子の妹のルプトの顔が視界にちらつく。
数十キロ先にはまだ無事な2つの要塞があり、そこから魔族たちが巨大な砲台を運び出し、接近していることに気付いていた。
また、地下迷宮からも魔族たちも地面から引き上げるように砲台を移動させている。
なお、連絡手段に魔導書のメモ機能による文書でのやり取りは使えない。
これは魔導書に付属の機能であるが、特技「天使の輪」の効果の範囲外だ。
『なんだ? 随分でかい砲台だな』
ゴトゴトゴトッ
メルスが思わず声を上げたのは魔導兵器を鳥Eの召喚獣の覚醒スキル「千里眼」が捉えたからだ。
氷の大地を巨大なキャタピラーで地面を踏みしめながら進む戦車タイプのゴーレムのようなものだ。
先端に数十メートルにもなる砲台を取り付けてあり、魔族たちが数十人ほどが荷台に乗り込み、砲台に取り付けられたタッチパネルを操作したり、魔力を送ったりしている。
既に敵軍の最長射程距離である30キロメートルを割り込み、砲台をこちらに向けている。
大小3種類ほどの大きさの砲台を、長距離の位置で陣取り砲身をこちらに向けて何やら調整中のようだ。
【30キロメートル先の魔王軍の動き(数)】
・100メートル級の砲台(2):各50人
・50メートル級の砲台(6):各20人
・10メートル級の砲台(8):各10人
【魔導兵器による魔族の構成】
・上位魔神1体
・魔神18体
・魔族280体ほど
【断崖絶壁を背にするアレン軍からの距離と動き】
・1キロメートル:5000体の魔獣の軍勢が突進
・5キロメートル:メルル、ガララ提督、ハク、ガルムが前進
・10キロメートル:魔王軍の指揮官たち(迷宮を防壁に利用)に後退
・30キロメートル:戦車タイプの砲台無数まで前進
・50キロメートル:要塞2つ
※魔王軍の魔族、魔獣たちはアレン軍の周知30キロメートルまでに約300万体が弧を描くように囲んでいる
※アレン軍を召喚獣たちが守っている
※アレン軍の背後には沈んだヘビーユーザー島を盾に戦略艦4つ待機
メルスが急いで現状を理解してアレン軍に情報を送る。
『今の攻撃で俺の射程範囲を図ったのか』
天使B「鞭」は最大射程が10キロメートル(有効射程は5キロメートル弱)の攻撃をした瞬間、指揮官役の上位魔神、魔神たちが10キロメートル近くまで後退を始めた。
さらに300万体のすし詰めの陣形も広がりを見せたように思える。
指揮官たちも砲台もメルスの天使Bのどの武器でも到達できない射程外だ。
魔王軍の動きに戦術的な知性を強く感じる。
『また砲弾や魔力砲が飛んでくるぞ! 人族部隊は自軍の被害を最小限に抑えるのだ!!』
敵の狙いが分からないが、自軍の射程をはるかに超える距離からの攻撃が魔王軍には可能だ。
敵の手の内が分からぬ以上、守りを優先させ、最大限警戒するよう警戒するよう叫ぶ。
『メガロン砲放て!!』
戦車タイプの魔導兵器の上に乗る指揮官役の魔神たちが号令を上げた。
50メートル級の2つが魔力により砲身が下から幾何学の光を放つ。
『メガロン砲発射!!』
『メガロン砲発射!!』
『ギチギチッ!?』
『ギチギチッ!?』
魔力が充足した2発のメガロン砲による魔力の超高熱のビームが発射される。
1つは計算されたようにきれいな放物線を描き、地を這う虫Bの召喚獣に直撃する。
もう1つは一切折れ曲がらず、一直線に、一瞬で空を飛ぶ虫Aの召喚獣に直撃する。
『馬鹿な!? 召喚獣本体を狙っただと!!』
パアッ
すごい勢いで子アリポン、子ハッチたちが消えていく。
また虫Aと虫Bの召喚獣は特技「産卵」を使いステータス半分の分身を作り、アレン軍たちが一気に魔王軍と接敵しないよう、敵の数減らし、壁の役割をこなしている。
虫Aの召喚獣と虫Bの召喚獣と一緒に子アリポン、子ハッチたちが全て消えてしまった。
虫Aと虫Bの召喚獣は自らの分身とも言えるステータスが軍勢を作ることができるのだが1つ大きな弱点とも言えるデメリットがある。
子ハッチや子アリポンを作っても、産んだ召喚獣本体が倒されてしまったら、それらは全て消える。
まるで女王アリ、女王ハチを失った巣の群れが全て消滅するような事態が起きる。
だから、攻撃されないよう分身たちを前線に出し、自らは後方に控えている。
さらに、見た目や大きさも同じため、どれが本体の虫Aや虫Bの召喚獣か分からない設定とい念の入れようだ。
メルスが第一天使だったころ、自らがデザインした部分もあったため、見分ける方法は不可能と思ったのだが、今はそんなことを考えている場合じゃない。
『……見た目ではないとするとステータスを把握しているのか。時間がない! ハッチ、アリポンたちよ! 壁を増やせ!!』
まもなくアレン軍に新たに迫る5000体ほどのオーガキングの軍勢の対処をしなくてはいけない。
あと1分も経たないうちに次の戦いが始まってしまう。
消された虫Aと虫Bの召喚獣を召喚士、特技「産卵」を発動させ、召喚獣たちを元の数、前線に配置しようとしたところだ。
メガロン砲の倍以上の大きさの超メガロン砲の発射準備が整っていた。
上位魔神の指揮の下、頭にインカムやヘッドホンなどをつけた魔族の1人が、砲身の根本に存在するタッチパネルを叩くと魔導具でできた砲台が細かく狙いを修正していく。
『何をやっているんだ……。今度はどこを狙っているのか』
慌ただしく虫Aの召喚獣と虫Bの召喚獣に特技や覚醒スキルの使用を指示する中、鳥Eの召喚獣を使い、ヘビーユーザー島を貫通させた砲台の動きに警戒する。
いつ攻撃するか確認しようとする視界が、特技「産卵」と覚醒スキル「王台」で増えた虫Aの召喚獣と子ハッチの軍勢によって一瞬隠れた隙に砲台から発射される。
『超メガロン砲発射!!』
100メートル級の砲台から超高熱のビームが発射された。
『!?』
召喚されたばかりの虫Aの召喚獣が今度は叫ぶこともできず腹を超高熱のビームが貫通してしまう。
だが、光る泡に消える一瞬の時間の中で、何が起きたのかメルスは分かった。
『馬鹿な!? ぐは!!』
虫Aの召喚獣の貫通させた超メガロン砲は、メルスを狙って直撃した。
メルスは超高熱に包まれ、遥か後方まで吹き飛ばされた。
一瞬だが、意識が飛びそうになったメルスだが、自らの体力が一撃で6割近く消し飛んだことを理解する。
そんな中でも召喚している召喚獣たちとの共有は切らずにいる。
自らがやられたら全ての召喚獣は消えることはよく理解している。
そうなれば、前進し、指揮官や要塞を破壊しようとするメルルたちは応援がなくやられてしまうだろう。
アレン軍も容易に蹂躙されるのだが、その状況を数回の単調が攻撃で把握した者が魔王軍にはいるようだ。
『随分な切れ者なようだな。ここまでの攻撃はこの作戦をするための布石だったわけか。2発受けたら危なかったということか。オキヨサン、助かるぞ』
『ケケケ、自らの命を優先してください』
鳥Eの召喚獣に戦車タイプの魔導兵器の上の指揮官の様子を捉えた。
『直撃しました、ルキモネ様! …は! 直ちに……上空に待機するメルスはまだやられておらぬ。座標指示がすぐに送られてくるぞ。今度こそ完全に倒すのだ!! これでメルスの行動が変わるはずだと仰せだ!!』
『は!!』
『は!!』
『は!!』
インカムのようなものを取り付けた上位魔神が魔神や魔族たちが新たな指示を出す。
『……なるほど、この場にいない、さらなる指揮官役がいるということだな。天使Dがなければ助からなかったもしれぬな』
メルスは自らの両手に付けた指輪を確認する。
召喚獣は基本的に武器も防具も魔法具も装備できない。
武器を手に掴んだりすることができるのだが、それは振り回したりするに限られている。
だが、天使系統の神系統の召喚獣であるメルスとリオンは創生スキルによって解放された下位のランクが武器や防具となって自らのステータスを強化したりすることができる。
【天使Dの召喚獣「魔法具(指輪)」の効果一覧】
・体力10000 体力秒間1%回復
・魔力10000 魔力秒間1%回復
・攻撃力10000 物理ダメージ10%増
・耐久力10000 ダメージ10%減
・素早さ10000 回避率10%減
・知力10000 魔法ダメージ10%増
・幸運10000 デバフ回避10%
【天使Dの召喚獣「魔法具(指輪)」の特徴】
・メルス専用
・最大2つまで装備可能
・魔法具のためバフによる増加の対象
・アレンの加護、成長レベル9で全ステータス1万上昇
現在、体力と耐久力の天使Dを2つ装備している。
次の一手を考えている間に、アレン軍が5000体の魔獣たちと接敵する。
今回もアレン軍の日頃の訓練が効果的であったのか、なんなく陣形を崩すことなくほとんど被害無く魔獣たちを何分も時間を掛けず倒していく。
死体の山を踏みながらアレン軍も前進を続け、勇者軍、ゴーレム軍も後に続いていく。
『……そろそろだな。十分な数がやられたぞ!! 化身砲を放て!!』
『は!!』
『は!!』
だが、敵陣の死亡はメルスやメルルたちの攻撃もあって10万体を超えたところで、砲台を上空に掲げる。
魔王軍の指揮官役の合図に無数の砲台が上空に撃ちあがると砲弾が閃光のように始めた。
四肢が千切れ、地面に転がる魔獣の躯の虚無の瞳に炸裂した砲弾の光が降り注ぐ。
『ま、まさか。これは!!』
神界に魔王軍侵攻のおりにメルスは魔神王ガンディーラが同じ光を放っているのを見ていた。
『ぐらぴゃあああ!!』
死んでしまった魔獣たちが四肢を無理やり繋げ、ゾンビのように動き出すのであった。
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