第790話 攻略準備9日目:里帰り
9月30日、明日魔王軍との戦いに備えた前日の昼前だ。
昨日は皇帝や女王などを交えたWEB会議の後、ヘルミオスやガララ提督、将軍や副将軍級との打ち合わせを夜遅くまで行った。
昨日、ヘビーユーザー島の市民の避難については各村の村長が同意してくれたため、エルマール教国ニールの街とラターシュ王国学園都市への受入れを行う準備が迅速に行われている。
アレンは創生スキルが3巡目に達したスキルレベルは8となり、目下スキルレベル9を目指している。
(無理だ。限界だ。これは三巡目を9まで上げるの無理だったぞ)
スキル経験値があと40億も必要なので、今日とか明日、スキルレベル9にするには厳しいようだ。
アレンがこの9日間において創生スキル上げに拘ったのは、新たな召喚獣の種類を増やすため、そして、メルスとリオンを強化するためだ。
召喚獣を増やし、成長スキルで成長レベル9まで上げると、アレンの貰える加護によるステータス増加の恩恵が大きくなる。
天使系統、神系統の恩恵は特に大きい。
【成長レベル9時の各系統の加護の増加ステータス】
・神Sの召喚獣は全ステータス30000
・神A以下の召喚獣は全ステータス20000
・天使Sの召喚獣は全ステータス20000
・天使Bの召喚獣は全ステータス10000
・その他Sランクの召喚獣は2つのステータス10000
・その他Sランク以外の召喚獣は2つのステータス1000(1体目)
・その他Sランク以外の召喚獣は2つのステータス400(2体目以降)
※神Sの召喚獣は成長レベルなしだと15000
※天使Sの召喚獣は成長レベルなしだと10000
※天使Sの召喚獣は成長レベルなしだと10000
※その他Sランクの召喚獣は2つのステータス10000
※天使AおよびSランクの召喚獣は1体限り
【創生スキル三巡目スキルレベル8の神及び天使系統の召喚獣】
・神:A(武器)、B(防具)
・天使:B(武器)、C(防具)、D(魔法具)new!
※天使Sの召喚獣がいる場合、天使Aの召喚獣はいない
無理だった要因にはアビゲイルを中心とした神界の竜人たちがもってくる霊石が日を追うごとに減っていったのも理由だ。
創生のスキルは必ず霊石を必要するのだが、神界の霊獣たちが、この大事な時に狩りつくしたと言ってもよいほど激減してしまった。
魔石を霊石に変換する魔導具を魔法神から貰っていたのだが、変換速度が思ったよりも速くなかったため、これ以上の創生のスキル上げは難しかった。
睡眠時間を削り、限界までスキルレベル上げを行ったが、これからの予定を考えれば、ここで潮時のようだ。
「リオン、オキヨサン、手伝い助かった」
創生スキル上げを止め、召喚獣たちに労いの言葉を送った。
『うむ、明日は戦いだな』
『ケケケ、お安い御用だね』
(いや、戦いの前に家族を会わせないといけない)
『よし、訓練終了だ。皆、家族に会うんだ。汗を流して着替える準備をしてくれ』
「うん、分かった! リリィも村に帰っているって!」
家族と会えることが嬉しかったのか、剣神と修行していたクレナがきりがよく剣を下した。
『おう、家族に会ってこい。家族は大事だからな。ほらよ、俺の神器大事に扱えよ』
「ありがとうございます!!」
創造神を父に持つ剣神が神器アスカロンをクレナにもう一度貸してあげる。
この会話でドゴラたちほかの修行している仲間も耳に入ったのか、武具神たちとの修行を切り上げる。
『おし、お前もよくやったな。ほれ。神器ヘラルドだ。受け取れ!!』
午前中ぶっ通しの修行で息が切れたドゴラに向かって、ムッキムキの斧神バッカライが自らの身長ほどありそうな2メートル超えの大斧を投げる。
「お!? いいのかよ!! 助かるぜ!!」
片手で神器カグツチを持っていたドゴラがもう片方の手で白金に輝く神器ヘラルドの柄の部分を握りしめて受け取った。
『ああ、問題ない。戦いが終わったら返しにこい』
『うむ、そうだな。火の神の使徒ドゴラよ。一時的に預かるだけだからの』
神器カグツチ越しに、神器ヘラルドを受け取ったドゴラが、誰の神の使徒なのかよく覚えておけと念を押す。
(いや、返しに行く暇なんて与えないけど)
アレンはこの会話を横で聞きながら、ドゴラが無事、9日間の修行の中で十分に強化できたことを感心する。
ただし、せっかくもらった貴重な武器はこのまま頂くに限るとアレンは悪い顔で考える。
カッ
今度は剣神の道場の壁に飾られた掛け軸が光り、ぞろぞろとヘルミオスたちが武神の修行から解放されて出てくる。
「やあ、皆、修行切り上げたところかな?」
「そのとおりです。外の拠点で軽く汗を流し終わったら出発しましょう」
「助かるよ」
(さて、魔王軍戦う前の里帰りイベントだ。軍を持ってしまって数が多いとなかなか上手くいかないな。明日には帰りたい場所に帰れると思って、辛抱してくれ)
仲間たちの中には魔王軍と戦う前に家族と会いたい者が多い。
家族を守るためにも魔王との戦いに参加してくれて、アレンのパーティーに入ってくれた仲間たちだ。
戦争前に大事な帰郷の時間を設けたのだが、召喚獣の枠も転移できる箇所や時間も有限であった。
9日目の12時以降、準備、各自をアレンとメルスで50ヶ所近い場所へ転移する。
その後、明日の9時になったら、2人で回収し、12時の魔王軍との戦いに備える予定だ。
(セシルは結局帰れなかったと)
アレンは、セシルから預かった手紙を魔導書から取り出した。
古代魔法が未だに完成しておらず、彼女に託された手紙をこれからグランヴェル家に送り届ける必要がある。
アレンは手紙から出発の準備に取り掛からず、畑の側にいるイグノマスに視線を移す。
「結局、ラプソニルは許可しなかったが、タコスの『擬態』で姿を変えてパトランタへ戻ることは可能だぞ。親もいるんじゃないのか?」
魚Aの召喚獣を使って姿を変えようかとアレンは提案する。
「……俺は地方の生まれだ。帝都には両親はいない。女帝陛下との約束を守らないといけないからな。明日には魔王を倒して晴れて俺は自由の身なのだ。2日の辛抱よ。あと、俺の女帝陛下を呼び捨てにするな」
(お前も「俺の」とか言っているし)
プロスティア帝国で内乱を起したイグノマスは魔王罪とも言うべき、プロスティア帝国からの国外追放となった。
壮絶な戦いが予想されるので仲間に悔いが残らないようにと思ったが、晴れ晴れとしたイグノマスの表情を見ていたら杞憂であった。
そのほか、残ると言えばシアと十英獣も帰郷せずに残る。
獣神ガルムとの特訓の真最中で「大事な戦いの前にゼウ獣王を見る趣味はない」とシアから一蹴される。
少しでもコンビネーションを良くしたいと十英獣の9人も残る。
そうこう考えているうちに皆の出発準備が出来たようだ。
「じゃあ、メルス。予定通りに連れていくぞ」
「よし、帰ろう!!」
「ニーナか、元気しているかな」
(お前が両親を解放したおかげで久々の一家団欒だな。ちゃんと帰ってくれてたらいいんだけど)
二手に分かれて転移する合図を送るとルークが拳を掲げて喜びを爆発させる。
キールも久々のカルネル領に帰れるとあって、自然と顔が綻びる。
時間にも転移先にも制限があることもあり、前もって王都の貴族院に通い始めたニーナには、グランヴェル伯爵にお願いして、この日に合わせて実家のカルネル領に戻るよう伝えているはずだ。
「じゃあ、いくぞ!」
『ああ、ヘルミオスたちよ。大地の迷宮経由だ』
メルスがララッパ団長とその配下の魔導技師団を回収、ヘビーユーザー島へ向かう。
メルスにはメルルやドワーフ部隊、ヘルミオスとそのパーティーの移動をお願いしてある。
なお、ドベルグからは「残した家族などいない。ここで、少しで多く剣を振るっていたい」と強く辞退された。
帰りたい人。
帰れない人。
帰りたくない人。
皆の思いが錯綜する中での魔王軍との戦いとなった。
ヘビーユーザー島に移動したアレンは2万の軍隊の中、ロザリナとアレン軍の魚人部隊をプロスティア帝国に送る。
魚人兵の中にもイグノマスが将軍であったころから忠誠を誓い、アレン軍に入ってきた者たちもいる。
イグノマスが帰らないからと辞退しようとしたが「帰りたい魚人もいるからとそこは合わせよ」とアレンが軍の総帥として一括する。
また、ロザリナのような属州、そのほか広大な海の大帝国の出身の魚人だが、家族と共に帝都パトランタで1日過ごすよう伝えてある。
女帝ラプソニルにできる限る家族を帝都に集めてほしいとお願いし、快く引き受けてくれている。
(そろそろ歌姫コンテストだな。マクリスはご厚意のお返しだな)
秋の大事なイベントにマクリスを貸し出す約束を女王としたことを思い出す。
なお、アレン軍はこんな感じで故郷に帰っているが、プロスティア帝国軍や5大陸同盟軍など明日の戦いに備えてそのほとんどが戦場で明日に向けて待機している。
先日のWEB会議で作戦は伝えたが、その間も5大陸同盟軍は既に戦地に向けて行動しており、家族の下へは帰れていない。
今回の各国のアレン軍に対する計らいは、アレンが交渉した結果でもあるが、魔王軍と戦う際の最前線を予定しているアレン軍たちへのせめてもの労いの意味が込められているようだ。
次にソフィー、フォルマール、エルフの部隊だ。
エルフの部隊だが、ローゼンヘイムの広大な国から集まってきたので首都フォルテニアで一晩を過ごしてもらう。
なお、魚人部隊と違い、エルフの部隊は先のローゼンヘイムへの侵攻によって家族を全て失い、魔王への復讐と女王への忠誠を誓って戦う者が多く、戦いの準備のため戻りたくないという者も多かった。
国に戻ると、自らの強い意志が乱されそうで不安だったのだろうか。
だが、ソフィーが「戦いの前に女王へお顔を見せるのはエルフの務め。危険な戦いに身を置くならなおさらです!」と一括して全員、里に帰ることになった。
やり取りを見ていたらソフィーにも女王としての風格が現れ始めているようだ。
(ダークエルフの里は送る場所が纏まってて一番便利だね。おお、なんか世界樹が一段とでかくなったような……)
魔王軍との被害も少なく、砂漠の中の里に帰るだけで良いので一番送迎が楽だなとアレンは思う。
「うおおおお!! 帰ってきたぞおおおおお!!」
「ほう、でかくなったな」
「へへ。俺、神界でさ……」
「ルーク、皆を社に案内してからにしましょう」
「分かりました。母上!」
オルバース王と王妃の下へ駆けて行ったルークが喜びを爆発させる。
ダークエルフの里に精霊王エリーゼによって植えられた世界樹は、しばらく見ないうちに随分と大きくなった。
生命の泉が溢れそうで、命の雫をたくさん貰い、大きく成長したようだ。
ダークエルフたちを見送り、次の転移先へと向かうアレンたちであった。





