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ショートショート2月~2回目

不向き

作者: たかさば
掲載日:2022/02/25

 民生委員になった。

 目の前でいい大人に泣き落としされて、絆されたのだ。


 民生委員とは、地域のボランティアのことである。

 色んな役目があるけれど、僕は主に話し相手として活動する事になった。


「嫁が私をイジメるんですよ、毎日がつらくて辛くて…。」

「そうなんですね、大変ですね。」


「どうして私はこんな目に遭わなきゃいけないんでしょうか、もう死にたい…。」

「…そうなんですか?」


「だって、生きていてもいい事なんかないし、目も良く見えないし足も痛い…。」

「…そうなんですか。」


「早くお迎えが来てくれると嬉しいんだけどねえ、そういう訳にも……。」

「…そうでしたか。」


 さっそく僕は、お迎えをよこすよう手配した。


 希望通りに迎えをよこしたのに、ばあさんは不満を漏らした。


 ―――あたしゃまだ孫と遊びたかったのに!

 ―――あたしの貯金まだ使い切ってないよ!

 ―――あたしはね、来月の息子の結婚式を楽しみにしてて…!!!


 文句を言いながら、あの世に連行された。



「介護中の母親が我儘ばかり言うので…辛いんです。」

「そうなんですね、大変ですね。」


「何をしても文句を言って、どう動いても怒られて…なすすべがありません。」

「…そうなんですか?」


「このままだと私もおかしくなってしまう、正直早く死んでほしい。」

「…そうなんですか。」


「もう我慢ができないんです、もういっそのこと…殺してやりたい……。」

「…そうでしたか。」


 さっそく僕は、きっかけを手配した。


 希望通りにきっかけを渡したのに、奥さんは不満を漏らした。


 ―――見た時にはもう死んでいたって言ってるでしょ?!

 ―――私は一所懸命やっていた、みんな知ってる事なんですよ!?

 ―――なんで?!なんで私が殺人未遂になるの?!


 文句を言いながら、警察に連行されて行った。



「出会いがなくてねえ…このまま独身で一生を終えたくなくて婚活に行ってるんですが、全敗なんです。」

「そうなんですね、大変ですね。」


「レベルの低い女性が増えたんだね…僕の魅力に気付かない連中ばかりでして。」

「…そうなんですか?」


「一生を添い遂げる相手ですから、妥協したくないと思っているんですよ。」

「…そうなんですか。」


「従順で色つやのある見目の良い女性がいたら…それこそ命を懸けて尽くすと決めているんですけどね。」

「…そうでしたか。」


 さっそく僕は、従順で色つやのある見目の良い女性を手配した。


 希望通りに従順で色つやのある見目の良い女性と縁を結んだのに、おじさんは不満を漏らした。


 ―――ハハハ!嫁が欲しがり屋さんで困るなあ!毎日がハードでたまらんわ!

 ―――きちんと仕事をしてから強請れと言ってるだろう!…全部やった?!仕方がない…。

 ―――も、もう…か、勘弁し、て……む…り………。


 文句を言いながら、サッキュバスに貪りつくされてしまった。


 人っていうのは…ずいぶん繊細というか…難しいな。


 人に紛れて、人に慣れたと思っていたけど、やっぱり別物感が拭えない。

 人に慣れて、人に成ったと思っていたけど、やっぱり別物でしかいられない。


 人の話を聞いても、人の心の奥底に隠された本音ってのが読めない。


 素直に聞いた言葉を受け入れる事しかできないのだ。

 話してる人の感情を引き継いでしまうのだ。


 どうもこう、相談に乗るってのが分からない。

 イマイチこう、なぐさめるってのが分からない。

 何て言うかこう、同情をするってのが分からない。

 どうにもこうにも、愚痴に対する正しい答え方が分からない。


 さらに言うと、話を聞くと、全部こう、いいネタ来たーって思ってしまう。


 ……どう考えても、僕は民生委員に向いてないと思うんだけどな。

 ……やっぱり、民生委員を断らせてもらおう。


「任期途中で役目を放り出すとはけしからん!」

「次のなり手がいないので、新しい人を見つけてから解任希望を出してください。」

「尊い仕事ですよ、やめたらもうなれないから、考え直して、ね?」

「80歳の爺さんでもやってんだぞ?!48のお前ができないわけないだろう!」

「そうやってすぐに町内会の仕事を反故にするんだ、だから若いものはダメなんだ!」

「人手が足りないんです、お願いできませんか?」

「任命されたら、よほどのことがない限り継続してやってもらわないと…」

「議会で決議しました、あなたの解任は認められません。」


 どうやら僕は、この先ずっと民生委員を続けていかなければいけないらしい。


 ……週1ペースで、人口減っちゃうけどいいのかね。

 ……週1ペースで、犯罪者生まれちゃうけどいいのかね。


 ええと…52週間あるから、年間52人減るんだよね。

 稀に他人も巻き込むだろうから、70人くらい減ることになるかな?


 確か最近、この町は毎年…1000人程度の人口減だったはず。


 ……僕が80になるまでに、およそ2240人の命が消える計算か。


 ……大したこと、ないか。

 この町は30万人が暮らしているんだ。


 どうせ少子高齢化だし、30年後にはもっと人口は減っている。


 腹をくくった僕は、持ち込まれる相談依頼をすすんで受けるようになった。


「ゴミ出しルールが守れないやつがいてねえ!どうにかして制裁を与えてやりたいと思っているんだ!」

「そうなんですね、大変ですね。」


「子供たちの声がうるさくてかなわんのだわ!保育園なんか作ったせいで!」

「そうなんですね、大変ですね。」


「うちの裏庭にヤンキーが溜まるようになっちゃって…一掃したいんだけど、怖くてねえ。」

「そうなんですね、大変ですね。」


 ……週1ペースが週2ペースに。

 ……一回につき一人が、二人、三人、四人、五人……。


 随分人口減は進んでしまったけれども。


「任期が終わったからと言って役目を放り出すとはけしからん!」

「次のなり手がいないので、新しい人を見つけてからやめてください。」

「尊い仕事ですよ、やめたらもうなれないから、続けましょう、ね?」

「80歳の爺さんになるまでやるんだろ!」

「町内会の仕事をやってるってえらそうな顔をするなよ、まだまだ若くてペーペーなんだから!!」

「人手が足りないんです、続けていただけて助かりますー!」

「継続手続きしておきましたのでよろしくお願いしますね!」

「議会で決議しました、あなたに地区代表補佐をやっていただきましょう。」


 どうやら僕は、この先もずっと民生委員を続けていかなければいけないらしい。


 僕は、持ち込まれる相談依頼を、さらにすすんで受けるようになった。


「礼儀のなっていない若者が多すぎる!俺の偉大さを知らしめて崇めさせようと思っているが、力がない!!」

「そうなんですね、大変ですね。」


「ジジイどもが我儘なことを言って若い世代を蔑ろにしている、どうにかして協調性のない奴らを排除したいが方法が分からない。」

「そうなんですね、大変ですね。」


「ママ友ネットワークでのけ者にされて…もう生きていけない、でもやられっぱなしじゃ気が済まないの……。」

「そうなんですね、大変ですね。」



 ……週3ペースが毎日ペースに。



 ……一回につき複数人数が、多数人数が、大量人数が……。



 ……民生委員という仕組みが続けられなくなるくらい、人口が減る日は、そう遠くはないかも、知れない。


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― 新着の感想 ―
[一言] いい民生委員ですね(笑。活躍すべきところで活躍しているようですけどねー。たまに、あれ? なのもありましたけどー。
[良い点] ヒャハ。ヒャハ。ヘイトもりもりヒューマンが消されるの、不快感ないのすごい。今更だけどすごい [気になる点] 人間が繁殖しすぎてやばい。変な錯覚 [一言] びゃあ。もう創作意欲が弾ける炎
2022/02/25 23:44 退会済み
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