4.24.ご対面
庭の片付けも何とか終わり、時刻は夕方だ。
今度は中の掃除をしなければならないのだが、流石に皆くたくたなので今日はこの辺で切り上げることにした。
と、いうことでここに住むにあたって見知っておかなければならない人物がいる。
と言うより亡霊なのだが、全員を集めて彼女を紹介することにした。
「こちら、このお屋敷の元主様のメランジェさんです」
『どうもー!』
『イヤアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
子供たちは姿を見てポカンと口を開けて固まっていたが、メランジェが声を発したと同時に叫び声を上げる。
スゥに至っては固まったまま動けなかったようだ。
すぐに全員が物陰に隠れてしまった。
メランジェはこの光景を見るのが初めてでもなかったので、なんとも面白おかしく笑っていた。
予想通りの反応が見れて満足だったらしい。
ライアとシーラもその姿を見て驚いていたが、ライアだけは何とか踏ん張ってレミに問う。
「ぼっ、ぼぼ亡霊!? れれ、レミさんこれは一体……!」
「実はここ、幽霊屋敷と名高い屋敷なのです」
「なんて場所に子供たち連れてきてるんですか!?」
「でも大丈夫です。大体の噂は彼女のせいで、別に悪気は無かったんです」
『人間たちが勝手に噂してただけよ。確かに夜になってここに来た人たちにはちょっとちょっかい出してたけど』
「そ、そうなのですか? だ、大丈夫なんですよね!? ていうか何で鹿の頭!?」
印象こそ強いが、これを外すと骸骨が露出するのでまだいい方である。
とは言えそれを子供たちの前で言うわけにはいかないので……。
「この方の趣味です」
『えっ?』
「えっ?」
という事にしておいた。
こうして置いたほうが何かと警戒心は解かれやすいと思ったからだ。
そもそもこんなに友好的な亡霊こそ珍しい。
いや、この世界にこの一体しかいないのではないだろうかという程だ。
「成仏はせんのかえ? 何なら念仏を唱えてやるが……」
「守護霊になるのだとか言っておったぞ」
「……まぁ確かに、悪そうな気配は感じれぬの。子供たちや、このお方は多分大丈夫じゃぞ。出ておいで」
沖田川がそう言うと、子供たちはおどおどと出てくる。
初めは怖いだろうが、慣れてしまえば日常だ。
次第にこの生活に浸透して行ってくれることだろう。
子供たちが警戒心を解き始めたあたりで、レミは彼女に聞かなければならないことがあった。
「そう言えばメランジェさん。井戸が枯れていたんですけど、昔はどうしてたんですか?」
『井戸? 溜め井戸だったからねぇ……。使用人が頻繁に運んでいた気がするわ』
「まぁーそうなりますよねー」
昔もそうだったというのであれば、これからも同じようにするしかなさそうだ。
飲料水の確保は今後の課題として、対策を練っておくことにしよう。
もしかすると、まだ毒が残っていて井戸が使えない可能性もある。
まぁそれは検証してから考えればいい事だ。
ライアが既に三回ほど往復して水を運んできてくれたので、それをくみ上げて適当な場所に置いてある。
随分と放置されていた場所なので、虫やネズミなどが水を飲みに来てくれるだろう。
それで毒があるかどうかを検証する。
銀などで作られた物を使用して確かめるという事もできないことは無いが、そんな高価な物は持ち合わせていない。
まぁ毒があったらあったで、ネズミ退治にはなるかなという軽い考えで良い様に捉えることにした。
暫くの飲み水は、先程ライアが運んでくれたものを使用する。
井戸に入れずにシーラが掃除してくれた水釜に入れているので、これは問題なく飲むことができるだろう。
『話はまとまった? じゃあ寝室にご案内するわよー』
「え? 掃除されていた場所は分かってるんですか?」
『勿論。彼女が掃除している部屋をずっと見てたからね……』
「ええっ!? ずっといたんですか!?」
まさかの発言にシーラは声を上げて驚いてしまった。
亡霊にずっと付きまとわれていたなんて思ってもいなかっただろう。
悪い趣味だなぁとは思いながら、来て早々に説明しなかった自分にも非はあると反省して、今回は何も言わなかった。
「ま、いっか」
とりあえず今日やることは大体終わった気がする。
全員が移動できたし、これで立ち退きを強いられることは無いだろう。
後は生活を安定させる事と、子供たちにも仕事をしてもらう事。
料理なども覚えてもらえばもっと生活が豊かになるはずだ。
レミもそれくらいの事は教えることができるので、今度は女の子全員で買い出しに行くことにした。
子供たちも初めてまともな買い物ができると楽しそうにしている。
これは早々に行って慣れてもらったほうがよさそうだ。
とりあえず一週間。
この期間で子供たちを育成し、しっかりとご飯を食べさせて体力を付けさせる。
それからギルドやお店などで仕事を探す。
全員が働ける年齢ではあるので、何処かしらで仕事は見つかるだろう。
だが後々の事を考えれば、お店より冒険者の方が良いかもしれない。
スラム出身だとバレてしまうのも時間の問題だと思う。
そうなると働いているお店から追い出されると言ったことも発生しかねない。
その点冒険者であれば、自由に仕事を受けることができる。
まぁここは子供たちの素質と相談だ。
「じゃ、今日は寝ましょうね~」
「「はーい」」
「怖い……」
「うん、怖い……」
「メランジェさん! 夜に子供たちがいる部屋に入っちゃダメですからね!」
『え!? 嘘でしょ!?』
「駄目ですからね!」
『そんなー!』
相当ショックだったのか、紙きれが落ちるようにして、地面に沈んでいったメランジェだった。




