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4.2.ルーエン王国へ


 段々と寒くなってくる風に身を震わせる。

 油断してしまえばすぐにでも風邪をひいてしまいそうだ。


 予想だにしていなかった寒さに、木幕とレミは失敗したと頭を掻いた。

 何故ならこんなに気温の変化があるとは思わなかったので、防寒着を全く用意していない。

 木幕の着ている服はそれなりに温かい物なのだが、風通しがいい生地なので服の隙間を縫って冷たい冷気が体を撫でる。


 これはいかんと、移動中の馬車の中にできるだけ引きこもることになった。

 護衛は木幕とレミの二人だけ。

 今回は商人の護衛ではなく、簡単な物資輸送の護衛なので報酬も少ない。

 これしかルーエン王国行きの護衛依頼が無かったのだ。

 仕方がない。


「失敗しました……」

「うむ……。今度からもう少し土地の環境について調べてから向かうことにしよう……」

「はい……」


 辛うじて寝る為の毛布を借りれているのが救いだ。

 少ない物資の輸送なので、狙ってくる盗賊は殆どいないし、今走っている所は魔物も出る方が珍しい道中。

 ほぼただ乗りのような状態ではあるが、万が一には備えたいという依頼だ。


 にしても寒い。

 体温を逃がさまいと体を縮こませる。

 肌に触れている鞘が冷たいが、これは大切な物だ。

 同じように温めてやった。


「大丈夫ですかい?」

「あ、どうも……。やっぱ寒いですね……」

「この辺はねぇ。ルーエン王国の隣に雪国の要塞がありやしてね? 名前をローデン要塞ってんですが、そこで冷やされた風がこっちに流れてくるんでさ」

「なるほど……」

「もう少し暖を取れるものがあったらよかったんですが、乗ってるのが薬品ばかりなもんで……」


 それを聞いて、馬車の中を見渡してみる。

 小さな箱から大きな箱まで様々な物があるが、馬車が揺れる時にチャカチャカという音が鳴っていた。


 薬品というと、この馬車は薬師の所からの物資調達依頼なのだろう。

 横から話を聞いて勝手に納得した木幕だったが、どうやらそうではないらしい。


「ルーエン王国の王城に持っていくものなんでさ」

「ぬ!?」

「ええ!? そ、そんな大切な物なんですか!? 護衛二人でよかったんです!?」


 このカミングアウトには流石に驚きを隠せない。

 御者の後姿を見ながら、二人は目を大きく開けて驚いた。


 城に持っていく薬品となれば、おそらくそんじょそこらの町医者が扱えるような金額の物ではない。

 高級品として扱われるものが多いはずだ。

 それをたった二人の護衛、そしてこんな小さな馬車に乗っけて運ぶなど、普通に考えればあり得ない事である。


 しかし、彼はカッカッと笑いながら手を広げて説明する。


「だからこそでさ。盗賊の狙いは基本的に食料。こちらの人数が割れれば、どれだけ食料を詰め込んでいるかが把握できる。物資はついでに貰う程度のもの。こーんな小さな馬車、盗賊総出で奪おうなんて事しませんでさね」

「……な、なるほど?」

「……」


 だからこそ襲うのではないだろうか……。

 木幕は心の中でそう呟いたが、口には出さないでおいた。


 今の彼らは少ない物資を持っているとはいえ格好の獲物だ。

 この御者、あまり相手の考えを読むのが得意では無い……というより、その場しのぎの適当な案で何でも解決しようとしている気がする。

 おそらくこの護衛の数も、出費を減らしたいが為のもの。

 報酬金が普通よりもやけに少ない事から、それが露見してる。


 確かに盗賊は食料を狙うだろう。

 だがそれよりも彼らは移動手段である馬を狙う事の方が多いはずだ。

 最悪食べることもできるので、それなりに重宝はする。

 それに、この馬車にも馬用の食べ物や水も積まれていた。

 この馬車を襲うだけで暫くの馬の食料、盗賊が食べる食料、更に金や薬品、武器なども手に入る。

 襲う理由など、これだけで十分だ。


 これは最悪の場合を想定しておいた方がよさそうだ。

 木幕は馬車の後ろまで歩いていってそこに腰を落とす。

 垂れ幕を首にかけ、外の様子を見れるようにして置いた。


 寒いが、身を守る為にはこうして警戒しておかなければならないだろう。

 前は御者が見ているので、木幕は後方を担当することにした。


 とんだ貧乏くじを引かされたものだ。

 大きなため息をついて、道中の無事を一度だけ祈っておいた。


 よく今までこの御者は生きてこられたものだ。

 レミも木幕の動きを見て、考えていることが分かったらしい。

 溜息をついてすぐに出れるように準備を整え始めたのだった……。


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