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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
水底の船

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90/201

ライラの誘い

 ドアから入ってきたライラは、先ほどの5色の法衣を着てはいない。

 代わりに、貴族風の衣装をまとっていた。


 銀と紫が控え目にデザインされ、だいぶライラの印象が異なっている。

 わからなかったけれども、胸がかなり大きくーーあからさまに強調されている気がする。


 右手にはワインボトルを抱え、左手には布が被さったバケットを下げていた。


「よろしいですか、ジル男爵」


 ふいっとライラが腕を上げると、何用で来たかすぐにわかった。

 僕の部屋で飲んで親交を深めるーーということだ。


「……ジルと呼んでください、ライラ審問官」


「それなら、私もライラで構いませんよ」


 ライラは軽く言うと、テーブルにボトルとバスケットを置いた。

 まだ夕方なのだが、そんなことはお構いなしのようだ。


 ライラはひょいと棚の上にグラスを取ると寂しさをにじませて、


「私が食堂に行くと緊張させてしまうみたいで……すっかり部屋で食べるのが当たり前になってしまいました」


「……なるほど。聖教会の高位聖職者でありますからね……」


 審問官だから、とは言えない。

 実際、今の僕も相当緊張していた。


 声も手も震えてはいないはずだけれど、自信はなかった。

 高等審問官は例えれば貴族では侯爵くらいか。かなり上位なのだ。


 審問官に無礼を働いた、ということで死刑になった平民の話もあるくらいだ。

 聖教会の人相手は貴族でも神経を使うが、審問官は尚更だった。


「大したことではありません。少しお互いのことを知り合える機会になればーーと。それだけですよ」


 グラスに優しく、ライラがワインを注ぐ。

 状況的にはディーン貴族である僕を訪ねているのはライラなので、僕はなにもしなくてもいいーーはずだ。


 2つのグラスに注ぎ終えると、ライラが片方を差し出してくる。

 僕は両手でグラスを受け取り、目礼する。


 バスケットの布を外すと中にはローストビーフと薄く切ったパン、それに炙り肉があった。


 ローストビーフにはマスタードがつけてられており、瑞々しいピンクが食欲を誘う。

 炙り肉は多分、匂いからしてあっさりとした豚肉に塩と胡椒で濃く味付けしたものだ。


 聖職者は教会が大海に漕ぎ出すのを禁じている関係で、水産物を口にすることは滅多にない。

 野菜と肉が主食になるのだ。


 ライラが飲食物を持って入室したことで僕の夜の食事は不要と判断されて、晩餐はなくなることだろう。

 昼食は軽く食べるのがディーン王国の習わしなので、すでにお腹いっぱい食べることは出来る腹具合だ。


「頂戴いたします、ライラさん」


「ええ、どうぞ。お口に合うと思います。あ、その前に……お祈りをしましょう」


 そう言うとライラは目をつぶり手を組んで祈り始めた。

 僕も食前の祈りを飛ばすことはないので、ライラと手を組んで同様に目をつぶる。


「5つの神、いと素晴らしき恵みに感謝いたします。地に生まれし物は我が肉に、天より降る慈悲は我が魂に。御名を讃えてーー」


「御名を讃えてーー」


 僕も唱和する。

 目を開けると、ライラが早速ワイングラスを揺らして匂いを堪能しているようだ。


 僕はまだワインの美味しさがよくわからないので、舐めるように恐る恐るなのだけれど。

 発酵したブドウと、甘い砂糖の香りがする。


 口に軽く含むと、そんなに酒精がない気がする。

 僕の年齢に合った品物のようだ。


 ライラはグラスを口につけると、ぐいっと、一息で飲む。

 並々と注がれていたワインがつるりと消えている。


 うん? 一口で飲んじゃうの?

 僕は小首を傾げそうになった。


 さらにライラは自分でワイングラスに紫のワインを注ぐと、勢いよく二杯目も飲み干す。

 少なくても、僕が知る限りこんなペースです飲む人は初めてだった。


「おいしいですねぇ……」


 頬に早くも赤みが差したライラが、うっとりと艶やかに呟く。

 皿に載ったローストビーフも、くるくるとフォークで丸めてパクパクと食べている。


 遠慮、というものが感じられない。

 いやまぁ、僕に遠慮することはないんだろうけど。


「ジル、手が止まってますよ……?」


 首をちょっと突き出して、ライラが呟く。

 目が細められているのがすごく怖い。


 あれ、ライラってこんな性格なの?

 手をわたわたと振って、僕はグラスに口をつける。

 ワインが喉を通り抜けて、身体を熱くする。

 テーブルにグラスを置いて僕は、


「い、いえ! おいしくて味わってましたよ……!」


「はぁ……遠慮しないでくださいね。もっともっと飲んでください……今日はたくさん飲みましょうね、お部屋の外にあと3本、ボトルを用意させてますから」


 と、ライラはとんでもないことを口走るのであった。

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