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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
ヘフランの攻防

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199/201

行軍⑤

 僕の言葉を聞いてサイネスは含み笑いをした。

 その様子に内心で汗をかく。

 しまった。

 アラムデッドやイヴァルトのことは知られているけれど、《神の瞳》関連については極秘事項だ。

 今の言葉は軽率だった。


 しかし、目の前の貴族は普通の貴族ではない。

 ナハト大公と二分するターナ公爵家の嫡男だ。

 どこからか《神の瞳》について知り得てもおかしくはない。


「やはり知っているようだな、これを。ひとつ言っておくが、俺もこの黒い宝石がなんなのかはよくはわからんのだ」


「……そうなのですか?」


 見たところ《神の瞳》そのものよりも、宝石は一回り小さい。僕が今持っているレプリカによく似ている。


 僕の胸元にある紅いレプリカは、ディーンの大教会に安置してあったもので、聖教会経由で僕に渡ってきた。

 その後の調べによると、各地で同様のレプリカが見つかったらしい。ただ、由来がはっきりして最大の宝石は結局、ディーンの大教会のものであったそうだ。


 そのため僕が他のレプリカを手に取ることは結局なかった。

 試すまでもない、ということだ。

 でも報告ではレプリカは紅いものだけだったはず。

 色違いの宝石があるとは聞かされていない。


「この宝石はターナ家に伝わってきたものだ。しかし宝物庫の中では、さして重要な品物とは見なされてはいなかった。お前の噂を聞いて父が探させたが、やっと見つけ出したくらいだからな」


 ターナ公爵がか。

《神の瞳》について知った上でレプリカを探させたのだろう。


「なるほど……由来は確かなのですか?」


「500年以上前、ブラム王国との戦争で得た戦利品とある。信じるかどうかはお前次第だが」


 辻褄はあっているようにも思える。

 レプリカは一見、単なる宝石。

《神の瞳》について知らなければ、重要性に気づくことはないだろう。


 しかし、黒色の宝石か。

 嫌な感じがする。

 イヴァルトで会ったベルモは「レプリカには2系統――反死霊術のためのものと、死霊術師が造ったもののふたつ」があると言っていた。


 死霊術関連の遺物は慎重に扱うべきだ。

《神の瞳》にしても、人が安易に扱っていいものではない。

 レプリカも――僕の紅い宝石だけが例外だ。

 ベルモという過去の偉人と接触できたから良かっただけだ。


「信じましょう……。しかし、この黒い宝石はどうされるのですか? できれば預からせて欲しいのですが」


「構わん、好きにしろ。もとはヘフランにいるアルマ卿に渡すつもりであった」


 なるほど、アルマは死霊術師について詳しいと見られてる。彼女に見せるために持ち込んだのは、常識的な判断だろう。


 僕に先に見せたのは、呼び出されたからか。

 本題はこの件ではなかったのだけれど、思わぬ収穫だ。


「ではお預かりします……ただ場合によっては破壊するかもしれません。それは了承してください」


 サイネスは僕の言葉を聞いても、驚くことはなかった。

 むしろ予期していた反応だったらしい。


「呪われているのか、それは」


「わかりませんが……念のために破壊することも大いにあり得ます」


「……まぁ、好きにせよ」


 それだけ言うと、サイネスは身体を翻して天幕から出ていこうとした。

 まだ話しは終わっていないのに。

 呼び止めようとした僕に、サイネスは振り返り冷たい目を向ける。


「俺はお前を認めぬ。……スキルで成り上がったお前などはな。余人はお前を神に選ばれた英雄と思っているやも知れぬが――門閥貴族の多くは違うぞ」


 僕はこれ見よがしにため息をついた。

 そんなことは僕が一番わかっている。


《血液増大》がなければ、僕はアラムデッドに婿入りすることもなかった。

《血液操作》がなければ、《神の瞳》を扱えるようにもならなかった。


 大陸を救ったのは僕だけれど、ある意味僕ではない。

 要はスキルが重要だっただけだ。


 僕には抜きん出た武術も魔力もない。

 言われなくても、わかってる。


 だけど――それは皆、同じだ。

 お前だってそのはずだ。


「なら、あなたはどうして貴族たりえるのですか? 公爵という家に生まれついたからでしょう。平民の家に生まれていたら、今ここにあなたはいなかった」


「――っ!」


「私達は同じですよ――貴族の家に生まれて、最初から優位だった。男爵の私でさえ、平民とは比べるべくもない。それもまた神の思し召しではないのですか? それはスキルを得て活用するのと、何が違うのですか?」


「……生意気な男よ」


 サイネスはぎりっと歯を食いしばった。


「だが――貴族をそのように解釈するのを聞いたのは初めてだ。お前はやはり、貴族には似つかわしくない。むしろ学者がお似合いよ」


 あれ?

 てっきり罵詈雑言が飛び出すと思いきや。

 意外なほど、サイネスの言葉は静かに聞こえた。


「足を引っ張るような真似はしない。それで、よかろう」


 サイネスはそれだけを言うと、今度こそ天幕から出ていってしまった。

 僕はその後ろ姿を見送るしかない。

 無理にひき止めるわけにはいかないからだ。


 残された僕の前には、黒い宝石がある。


「……参ったな……」


 難題を押し付けられた気分だ。

 しかし、収穫は収穫だ。


 情報が欲しいのには変わりはない。

 本格的に死霊術師が動き出している今だからこそ、過去の何かでもわかれば足しにはなる。


 とりあえず、黒い宝石について皆に相談するしかない。

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