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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
ヘフランの攻防

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198/201

行軍④

 お菓子の人であるノートラムが去った後、僕達は詰めの作戦会議をした。

 明日の夜に行うサイネスとの会談対策だ。


 まず話し合いは僕とサイネスの陣の間。

 もちろん護衛は近くに待機させるけど、二人きりだ。


「いきなり襲い掛かってくることはないでしょうが、気をつけてください」


 イライザはサイネスへの警戒心を隠さない。


「ないとは思うのですが、遅効性の毒とかもありますから」


「まさかそんなことはないと思うけど……」


「サイネス様はディーン王国でも最上位の貴族です。財も権力もあり、政敵を葬る手段を持ち合わせているのは間違いありません。くれぐれもご用心を」


 見回すと、他の皆も同じ意見のようだった。


「わかった、細心の注意を払うよ……。そういえば、サイネスのスキルを知っている人はいる?」


 得たスキルは国家に報告する決まりだけれど、詳細は他人にはわからない。

 僕も知っているのは直属の兵だけで、他の貴族はおろか、傘下の兵のスキルも知らない。

 サイネスのように自分で戦わない貴族のスキルが表に出ることは、少ないのだ。


「……ジル様、申し訳ありませんがわかりません。ただ――それほど強力なスキルではないと思います。それであれば、噂程度には出てくるはずです」


 暁の騎士トーマがそうだったけれど、使い勝手の良いスキルは使いたくなるものだ。

 僕はイライザに同意した。


 サイネスのスキルは気になるところではあるけれど、情報がないなら仕方ない。

 話し合う内容を最終確認した僕は、会議をお開きにして眠りにつくのだった。



 ♦



 翌日の夜。

 用意された天幕に僕は向かった。

 待ち合わせの時刻のちょっと前に、到着する。


(最悪は肩透かしで本人は現れずに終わることかな……。嫌がらせとしてはなくはないけど……)


 僕は椅子に座って待った。

 少しすると、天幕の外から兵士の声がする。


「サイネス様、ご到着!」


 僕が立ち上がるのと同時に、サイネスが天幕に入ってきた。

 軽めの服装で特におかしいところはない。

 ただ、いくぶんか緊張しているようだ。


「……待たせたか、悪く思うな」


 素っ気なく言うと、サイネスはどかっと椅子に座る。

 僕はその態度に驚いてしまった。


 あのサイネスが、開口一番に謝ってきた?

 夢でも見ているのだろうか。


「い、いえ……時間通りです、ターナ公。遅れてはいませんよ」


 なんとか返事をした僕も、椅子に座り直す。

 僕の様子を見た


「なら、いい。早速本題に入ろう。今後の行軍のことであったか……。遅れはなかったと思うが、なにかあったのか?」


「……支障があったというわけでなく……今の現状の問題です」


 思わぬサイネスの態度だが、僕がひるむわけにはいかない。

 こんな協力的な態度は予想外だけれど、裏がないとも限らないのだ。

 僕の言葉に、サイネスは嫌そうに眉を寄せた。


「俺はお前が好きではないが、能力に思うところがないわけではない。補佐に実績のあるガストンがいるし、ヘフランにはちゃんとした指揮官もいる。行軍で問題がなければ、それでいいだろう」


「そうはいきません。最近は式にも出ておられないではないですか。もう少し、話し合いに出てもらわないと困ります」


「真面目な男だな……。そんなことを言うために、俺を呼びつけたのか。周囲は反対しただろうに」


「ですが、必要なことだと思います。死霊術師は数こそ少ないものの、それぞれが一流の魔術師です。ゲリラ戦術を仕掛けてこないとも限りません」


 食い下がる僕に、サイネスはため息をついた。


「そんなことは俺もわかっている……本当にそれだけを言いに来たのか? いい加減、遠回しに過ぎるぞ。本題に入れ」


「……? どういう意味でしょうか」


 これが呼び出した本題だ。

 遠回しもなにもない。


「これを知っていたわけではなかったのか……。まぁ、いい。丁度良い機会だ。お前に見てもらうのも一つの手か」


 サイネスはそういうと、懐から小さな布包みを取り出した。

 そのまま布を解くと、見覚えのあるモノが目に入る。

 僕は思わず絶句する。


「……それは、まさか」


 色合いこそ漆黒だけど、その美しい形を見間違えるわけがない。

 それは紛れもなく《神の瞳》のレプリカ。


 今、僕の胸元にあるレプリカと同じ形状の宝石のように、見えたのだった。

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