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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
ディーン王国

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194/201

就任式⑥

 夜も過ぎ行くと花火が打ち上がった。

 赤や青の閃光がぱっと夜空を照らす。


 本当にお金がかかっているなぁ。

 我ながら感心してしまう。


 ライラと別れた僕は、会場を巡っている。

 お馴染みの面々にもちゃんと挨拶することができた。


 アエリアは綺麗なドレスに身を包み、そつなく応対をこなしてる。

 黒髪をかきあげ、表情豊かな彼女の瞳は多くの人を惹き付ける魅力がある。


 アエリアの腰にしがみつくようにしているのはシーラだ。

 普段の動きやすい服ではなく、ドレス姿だった。


 縮こまりながら金髪で目元を隠している。

 僕もめったにみないドレス姿で、会場にヴァンパイアやエルフが珍しいこともあってよく映えている。


「よく似合っているよ、シーラ」


「あう……。ひらひらしているのは、あまり着ませんです。いまいち慣れません」


 どうやらハイヒールの靴に相当な違和感があるらしい。

 さっきからちらちらと足元を気にしている。


「おしゃれをあまりしてませんでしたからね~。これも慣れですよ、慣れ!」


「アエリアはさすがにしっかりしているね」


 なんだか最近はアエリアがシーラの姉のような感じだ。アエリアは面倒見もいいし、良いコンビだと思う。


「ええ、シーラちゃんはお任せください!」


 胸を張るアエリアに任せて、その場を後にする。

 他の人と話ながらふたりを気を付けていると、彼女達はかなりの人気者だ。

 まぁ、ふたりとも綺麗だし……。


 と、そこへナハト大公が現れた。

 彼が手を軽く振ると、心得たものか周りの貴族が遠巻きになっていく。


 会場の中で、僕はナハト大公とふたりきりになった。


「ふむふむ……そろそろ式も終わりだのう。そなたも疲れたであろう」


「いえ、そんなことは……」


 言いながらも肩に重さがある。

 ずっと貴族と会い続けて、思いの外気は張っていた。


 そんな僕を見透かしているのだろうけれど、ナハト大公は微笑みながら話を続けた。


「ヘフランの攻防は続いておる。状況としては一進一退じゃな。敵も精鋭だが、こちらも精鋭揃い。ブラム王国の包囲網が出来つつあるゆえ、長期的に見て優位は動かぬが……」


「油断はできない、と……」


「うむ……敵も手札があればそろそろ動き出す頃じゃ。ヘフランへと行く道も、気を付けるのじゃぞ」


 僕は気を引き締めて頷いた。

 式が終わり準備が整い次第、出立する。


 僕もナハト大公も忙しく日々を過ごしていた。

 もしかしたらナハト大公とふたりきりで話す機会も、そうないのかもしれない。


「ターナ公爵とのこと、すまなんだの」


 いっそ聞き取れないほど小さな声で、ナハト大公が呟いた。

 かすかに悔恨が感じられる響きだ。


「元々は門閥貴族の人事に絡むいさかいだったのが、何十年も尾を引くことになってしもうた。イライザのこともある程度、知ってはおったが……」


「そうだったのですか……」


 宮廷の実力者なら、イライザの出自やらを知っていても当然だろう。

 ある程度を把握した上で、これまでイライザを僕に付けたままにしていたのか。


「彼女とのことは、ワシも後ろ立てになるつもりじゃ。それがディーン王国の次の世代のためにもなろう」


「ありがとうございます……」


 後々、イライザとのことを後押ししてくれるということだろう。

 そんな風にナハト大公が明言してくれるとは思っていなかった。


 でもこれもまた、まさにナハト大公なりの考えなのだろう。

 ブラム王国と教団という脅威がある今、派閥を越えて一致団結するまたとない機会でもあるのだ。


「そろそろ最後の挨拶の時間でございます……あれ、何か?」


 イライザがすっと現れ、僕はナハト大公と顔を見合わせた。

 まさか内容を言うわけにもいかない。

 多分、お互いに変な顔をしていただろう。


 ナハト大公が「ほっほっほっ」と笑いだし、失礼かなと思いつつも僕もつられて笑ってしまった。


 僕達が笑い終わるまで、イライザはずっと首を傾げているのだった。

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