表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
ディーン王国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

187/201

それは罰か救済か①

 大河の貿易都市、イヴァルト。

 ジルが去ってから数週間が経っている。

 レイア議員の病院の奥で、ロアは覚醒した。


(……私だけ死に損なった……か……)


 ジルの前で気絶してから、意識が戻っては切れることの繰り返しだった。

 ロアは果てしない激痛の中で、それでも気力を失わなかった。


 とはいえ、声も出たりでなかったりだ。

 生きている、というよりはただ死んでいないと言った方が正しい有り様だった。


(…………私は、間違ったのか……)


 心にあるのは、後悔と怒り。

 助けようと思った仲間は多分、死んだ。

 浅はかにも利用され、愛する兄も何もかもを無くしたのだ。


 罰を受けるのは、自分だけで良かったはずだった。

 騎士の誓いを立てた部下達に、王命に逆らうことなどできようもない。

 彼らだけは――なんとか逃げ延びて欲しかった。

 それだけが無念だった。


「やり直したい? ロア・カウズ」


 夢か現か。

 ロアのベッドの横に、誰かが立っていた。

 視界の端に、かろうじているのがわかる。

 声からしたら若い女性だろう。


 顔も動かせず声も出せないロアには、そこまでしかわからなかった。

 自分のことはごく限られた人間しか知らないはず――だが、ロアは慌てなかった。


 罪ならば負いきれないほど。

 恨みならば八つ裂きにされるほど。

 ディーン王国、ブラム王国、アラムデッド王国、イヴァルト、聖教会、再誕教団。


 信じられないくらいに、殺される理由があるのだ。

 暗殺者が送り込まれても不思議ではない。


 あがこうと思うほど、生への未練もなかった。

 いまや、ロアの気がかりは1つだけ。

 姉であり自分を匿うという危険を犯しているレイア議員だ。


(……姉様には……手を出さないで……)


「ふふふ、心配しなくても私は誰も傷つけないわ……」


 女性は優しく言った。

 実際、そうなのだろうとロアは思った。

 今のロアには何もできない。

 耳をふさぐことさえできずに、されるがままの状態なのだ。


「あなたには、選択肢が3つあるわ。1つはここで朽ちて死ぬのを待つ」


 ロアは嘆息した。

 わかっている、覚悟していたことだ。

 何者かはわからないし、どうしてそんな事を言うのかもわからなかったが。

 改めて言われて、愉快なことではなかった。


「もう1つは、新しい力を得る……そう、伝説のようにね。死にかけた英雄には、冥界から『スキル』を得る資格がある」


(…………それは、どういう?)


「でも、それでも状況は大して良くはならないわ。四方から狙われることには変わらないもの――どこまで逃げても、追われ続ける人生しかない」


 それは、そうだろう。

 身体が治れば、仲間を探しにいく。


 でも限りなく不可能な話だ。

 諸勢力の目をかいくぐり、生きてる望みの少ない仲間を探すことは。


(…………彼女は、一体……?)


 しかし、まるでロアを治せるような口振り。

 暗殺者ではないのか?


 今更ながらに彼女の正体が気になった。

 殺すなら、さっさとして欲しいくらいだ。

 あり得ない仮定に付き合いたくはなかった。


「――最後の1つは、私の『器』になるか」


 傍らの女性が顔を寄せて、ロアを覗き込んだ。

 ロアは声の出ない中、息だけを荒くした。


 眼前に立っているのは、アラムデッド王国のエリス。銀髪のヴァンパイアだった。


 否、ロアは知るよしもなかった。

 それは仮初めの姿に過ぎない。


 ちらちらと病室に小さな光が舞い踊る。

 川のせせらぎが聞こえ、蛍が飛び交っている。

 死の神エステルがそこにいた。


「『器』になれば、苦痛から解放される――生きている業も私が消し去ってあげる。逆らう存在は、皆殺しにもしてあげる――逆らわなくても、ジル以外は結局殺すけど。悪い話じゃないでしょう?」


(……なっ……これは、一体…………!?)


「レプリカと破片、死にかけたあなたと……運良く条件が重なったわ。ジルはあなたの兄と縁があるみたいね? 魂を接触させたこともあった……だから、手繰り寄せることが出来た」


 歌い上げるエステルに、ロアは何も出来ない。

 目の前の存在がただの幻術である可能性もあったが――ロアにはそうは思えなかった。


 エステルの瞳の奥に、場違いな熱があったからだ。

 まるで恋する乙女のような、そぐわない感情がありありと浮かんでいた。


 異常な存在。

 それがロアの目の前の存在への偽らざる本心だった。


(…………嫌だ……!!)


「……良かったわ、『器』になってくれるのね」


 エステルは恍惚のままに、断言していた。

 ロアは首を振って否定したかったが、それもできない。

 エステルはロアの心の動きを無視して、続けた。


「ああ、これで……時間はかかるけれど、戻ってこられる」


 にっこりとエステルは微笑み、ロアの唇に指を這わせた。

 ねっとりとした紫の魔力が、ロアの体内にゆっくりと侵入していく。


(~~っ!! やめ…………!!)


 拒もうとしても、ベッドが軽く揺れるだけだ。

 その間にもエステルの魔力は、ロアの口内から深く深く、入り込んでいく。


「今度はもう少し、ちゃんと準備しなくちゃね……ふふふ、待っててね。愛しの――ジル」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ