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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
ディーン王国

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174/201

模擬戦⑦

 大気が震え、闘争の気配が満ちる。

 セラートが並んだゾリンから一歩、前に出る。


「ゾリン殿、いかがする?」


「ふぅむ、ヴァンパイアの娘っ子の方が組みやすしそうだが……俺はいつも通り、待つ」


「なら、私が前に出よう――《疾風剣》の名の通り」


《静寂なる》ゾリンは腕を引き、木剣を短く持った。小回りのきく持ち方で、防御を重視した構えだ。

《疾風剣》セラートは二つ名からして、攻撃的な剣術だろう。


 対してライラとアエリアも、緊張の面持ちで並び立つ。リーチがあるのは槍のライラだ。

 いかに名のある使い手のセラートとはいえ、2対1では不利だろう。


 じりじりと距離を詰めるなか、右脚に力を込めたセラートが踏み出し――跳んだ。

 まさに飛翔と言っていい。


 左に立つアエリアの方へと、セラートは高らかに飛ぶ。そのジャンプ力は超人のそれであり――一息にアエリアの背を飛びこす信じがたいものだ。


 とっさのことに、アエリアの反応がわずか遅れる。セラートの曲芸めいた動きは、攻撃のものではない。アエリアの肩越し、数メートル後ろに彼は着地する。


 さらにセラートの飛翔と同時に、ゾリンも動く。それまでの様子見からは信じられないほど、弾かれたようにライラに向かう。


 間合いをモノともしないゾリンの猛攻が、ライラを襲いはじめる。意表を突くセラートは、アエリアを狙う。


「見ろ、挟み撃ちだ!」


「あっという間に流れを掴んでる……さすがだ!」


 機先を制したのは、ゾリンとセラートだ。拳を握りながら、見守るしかない。


 懐に入り込もうとするゾリンを阻止しようと、ライラは連撃を放つ。

 乾いた木剣と槍のぶつかる甲高い音が響き、恐るべき速度の攻防が繰り広げられる。


 しかし、先程のように圧倒的な勝利とは行かない。ゾリンは器用に――目を疑うほどの技前で槍をさばいている。


「……足止めか……。ライラが、攻めあぐねてる」


 一方、着地したセラートは体勢を整えアエリアに猛然と仕掛ける。

 低空を走り、剣を振り抜く動きはまさに一陣の風のごとく。


「うわわっ!?」


「ほぅ? この一撃を防ぐか……」


 紙一重でアエリアは木剣を交差させ、セラートの一撃を防いでいた。

 そのままセラートは立ち止まることなく、ふたたび攻撃に転じる。嵐、もしくは竜巻のような剣術だ。


「槍の攻撃を難なくしのぐゾリン様、刈り取るような剣術のセラート様……」


 こぼれる僕の言葉に、周囲は気づく様子もない。技量としてはゾリンとセラートの方が、上回っている。単純にそれだけの、致命的なことなのだ。


 このままではアエリアが先に潰され、2対1になってしまう。そうなれば、どうしようもない。


 ライラは神聖魔術を使っている訳ではないようだけど、どうするつもりか。


「もう、ライラ様……持ちません!」


 悲鳴をあげるアエリアに、ライラが目もくれず叫ぶ。


「仕方ありません、作戦通りに!」


「……うう、はぁい!!」


 セラートの一撃離脱戦法、その離れた瞬間にアエリアが二刀のうちの1本を投げつける――ゾリンに。


 不意を突く行動、というより訳がわからない。皆が呆気にとられる。

 当然、ゾリンほどの使い手が武器を投げる技を警戒しないわけはない。手首を回して最小限の動きで、アエリアの投げた剣を弾く。


 誰もがアエリアの投げた剣に意識を向けた一瞬――僕はライラの魔力が爆発したのを悟った。

 ゾリンの腹部にライラの槍が、突き刺さる。


 一緒に訓練したのでなければわからないだろう、それほどの短い時間だがライラは神聖魔術を使った。


 勝つために、あるいはこの程度ならわからないだろうと踏んだのか。


 アエリアの剣は、目くらまし。

 一瞬の神聖魔術で討ち取るための、そのための動きだった。


『なっ……!?』


 会場中が絶句する。

 端から見れば、ゾリンが隙を出してやられたようにしか見えないだろう。

 それほどに意表を突く、まばたきほどの一撃だった。


 それはセラートも例外ではない。目を見開き、反応が遅れる。

 ちらと横目で見ると、サイネスもあんぐりと口を開けていた。

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