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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
ディーン王国

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169/201

模擬戦②

 ツアーズは野外訓練場の中央まで進むと振り返り、よく通る声で呼びかけてきた。


「五分後に始める。最終確認をせよ」


 チームごとに少し離れて、短めの作戦会議だ。

 正直なことを言うと、かなり急な展開ではある。事前に準備も何もない。

 ぶっつけ本番もいいところだ。


 アエリアはすでに手足を伸ばしながら、準備運動をしている。


「組分けはどうしますっ?」


 アエリアには緊張や気負う様子はなかった。


「……アエリアとライラが最初。僕とイライザ、シーラが後に出る」


 ライラも腕をぐーっと伸ばしている。


「理由を聞いてもいいですか?」


「僕を除いた戦力を均等にしたつもりだよ。これはあくまで模擬戦だ――何かあるかもしれないけれど、考えすぎてもしょうがない」


 武術についてなら、ライラとシーラがツートップだろう。次にアエリア、最後に魔術師のイライザだ。

 魔術ならイライザ、シーラ、アエリア……そして身体強化以外使えないライラの順だ。


 しかし前提として、魔術の腕前に優れている者はほとんどいないはずだ。

 武術よりも魔術の方が習得がはるかに難しい――そもそも一人前に魔術が使えるならどこかにもう雇われているはずなのだ。

 模擬戦はおそらく武術比べが主で、あとはちょっとした魔術くらいだろう。


 そうなると、この組み合わせ――アエリアとライラが先の方がいい。


「同じくらいなら、そうなりますが……。ジル様のことを考えると心配です」


 やや渋るイライザに僕は軽く首を振る。


「君たちの誰が欠けても、僕にとっては辛いことだし打撃だよ。……なら、同じくらいの危険の方がまだいい。戦場に出ても、誰かにだけ危険は押し付けられない」


「……ベヒーモスで囮を買って出たジル様が、それを仰るのですか……。ですが、意図はわかりました。反対はしません」


 軽くイライザが息を吐いたと同時に、馬車が何台も訓練所に入ってくる。

 ガチャガチャと物がぶつかる音がする。きっと模擬戦で使う装備を運んできたのだろう。


「作戦会議は終了だ。各々、馬車から武具を取りたまえ」


 運ばれてきたのは、やはり武具だった。

 僕とイライザは木剣を取る。アエリアは小さめの木剣を二本、二刀流でやるつもりだ。

 シーラは手甲を着けて、いつも通り格闘戦だ。ライラは槍を構えていた。


「防具は軽めだね……みんな、気をつけて」


 重装鎧は用意されておらず、革の胸当てや木の盾程度だ。

 貴族はほぼ身体強化を使えるし、攻撃力はかなりのものになる――つまりこの程度の防御力はあまり期待できない。

 油断すると、大ケガしかねない。


 各々防具も着けると、ツアーズが宣言を始める。


「対戦の組分けは、こちらで決めさせてもらった……まずはジル男爵チーム対グロノ子爵チーム。騎士ヤドムチーム対騎士ペストロチーム」


 いきなり一戦目!?

 いや――これも策略か。どうやら同時に2組ずつこなしていくらしい。

 その間、他の組は見学だ。もし2順目があるなら、万全な見学者が多い先の対戦の方が、わずかに不利と言える。


 前に出た僕たちの隣には、いかにもゴツい5人組がいた。

 明らかに体格が良くて、身のこなしは戦士のものだ。魔術師らしき者は一人もいない。


 すすっと寄ってきたイライザが小さく早口で、


「……グロノ子爵はターナ派の小飼です。チームメイトもターナ派の騎士ばかりですね」


「わかりやすい様子見、ってことかな」


「はい、こちらの力量を調べるためかと」


 それを聞いた僕は、アエリアとライラに耳打ちする。


「敵はターナ派の当て馬だ。……隙は見せないようにね」


『はい!』


「では先の二人、前へ!」


 ツアーズの声に、それぞれのチームから二人がみんなに向き合うように並ぶ。


 相手は長槍と剣盾使いの二人だ。

 二刀流のアエリアと槍のライラと似た装備だ。


 問題は身体の大きさで、相手の二人は2メートル近い。

 対してアエリアもライラも女性としては長身だけれど――30センチ以上小さい。

 一見すると勝負になるような組み合わせではなかった。


「時間は5分、本気にはなってもらうものの度を弁えるように……では、始め!」


 それぞれが武器を構えると、空気が変わったのを感じる。

 視線が中央に集まるが――決してアエリアとライラに好意的なものではない。


「ひゅー! そんな華奢な身体で、戦えるのか!?」


 野次が後ろから飛ぶ。


「降参するなら、今のうちだぞ!」


「そうだ、騎士を舐めるな!」


 どんどんと野次は増えるばかりだ。

 元々、悪口に晒されてるとはいえ、全くいい気分ではない。


「……好き勝手に……」


 そこで、僕ははっとした。

 ぞっとするような視線で、ライラが敵を見ている。アエリアもにこにこしているものの――手先で剣をぐるぐると回して、落ち着きがなかった。


「……おふたりとも、やりすぎるかもです」


 シーラが黙祷するように目を閉じた。僕も少しだけ相手に同情する。


「それはそれで……問題かもなんだけどね」

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