表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
水底の船

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/201

大河、闇、雨⑤

「おお、天使様……!!」


 バルハ大司教が感極まった声をあげる。

 対して、僕は愕然としていた。


「まさか、このタイミングで……!!」


 イライザがふらつきながら、近づいてくる。


「ジル様……!」


 水面から浮かび上がるカバは、大きく口を開け、咆哮した。

 腹に響く低音だ。身体の芯が激しく揺さぶられる。


 カバが港に巨大な足をかけたとき、その足元からモンスターが這い出してきた。

 ナマズのモンスターや、ブルーリザード……ガストン将軍の陣で戦ったモンスターだ。


 いや、それだけじゃない。

 見回すと様々な波止場から、モンスターが上陸しつつあった。


 たちまち、近くからも遠くからも悲鳴が上がる。


「う、うわぁぁぁ!! モンスター……!? どうして街に!?」


「助けてくれ……!! あちこちからだっ!」


 港の揺れは小さくなっている。

 しかし、状況は深刻だった。すでに港の周囲はパニック状態だ。


 聖宝球に守られているはずのイヴァルトでは、あり得ない光景だった。

 しかも港に立つのは、通常のモンスターより倍は大きいカバだ。


 奴が放つ威圧感も、心臓を鷲掴みにせんばかりだった。

 単なる市民や船乗りに耐えろ、と言っても無理な話だろう。


「ジル様、ひとまずお引きなされい! ここでは混乱に巻き込まれますぞ!!」


 ガストン将軍と鉄盾隊が、素早く武器を構えて並び始める。


「ガストン将軍……!!」


 ガストン将軍は、アゴヒゲを揺らしながら言い聞かせるように語る。

 陣の時と違って、ガストン将軍は僕に後退を促す。


「ジル様、こやつらの足止めはお任せあれ! どうか、お退きを!」


「そうです、ジル様……この場は一度、体勢を……!」


 隣に駆けこんできたイライザが、僕を諭す。

 わかっている、何を優先すべきかは。


 とにかく、バルハ大司教だ。

 転がっているバルハ大司教に素早く駆け寄り、首根っこを掴む。


「おい……!! イヴァルトを滅茶苦茶にするつもりか!? 生まれ故郷だろう!」


 バルハ大司教は頭に袋を被せられたまま、肩を震わせて愉快そうな調子で反論してきた。

 引っ張ろうとする僕に、抵抗してくる。


「主が再誕した折りには、どうせ消えてなくなるのだ! いまさら惜しむと思うのか!」


 バルハ大司教がーー今度は、カバへと狂信を隠さずに呼び掛けた。


「天使様、憎き敵はここにおりますぞ! 鉄槌を! 雷をォォ!」


 カバの厳めしい青い瞳が、僕を見据える。

 知性があるかどうかわからないけれどーー瞳は野生の憤怒で満たされている。

 それだけで、僕は総毛立つ。


 来るーー!

 紫の巨体から、槍のように鋭く魔力が放たれた。

 雷の槍がガストン将軍を飛び越えて、的確に僕を狙う。


 間一髪、僕は飛び退いた。

 神聖魔術が活きたーー雷の槍が激しく弾ける。

 まさに、槍が叩きつけられたのだ。

 拘束されていたバルハ大司教に、逃れる術はない。


「あがががっ……!! 天使様……私はまだ……!?」


 苦痛を叫びながら、バルハ大司教は雷に撃たれていた。痙攣し、衣服は焼け焦げていく。


「まだ…………私は……」


 そのまま、ぴくりとも動かなくなる。

 まずいーーけれど今、抱えて移動できるほどの余裕がない。


 カバは鼻息荒く、魔力を再度集中させる。今度は足元に魔力が集中している。


「ジル様……!」


 イライザが僕の肩に身体を寄せながら、地面に両手を当てる。

 カバの魔力が膨れ上がり、炸裂する。広域への電撃魔術だ。


 イライザの周囲に緑の光が陣となって沸き上がる。

 広がる電撃の攻撃力はさほどでもない。緑の陣に雷撃は弾き返される。


 ガストン将軍たちは、魔術の鎧で耐えているようだ。まだピンピンしている。


「でも……大司教はダメか……!」


 バルハ大司教は今度も雷撃をまともに受けていた。おそらく、もう助からない。


 しかも、街中でいきなり広がる雷撃を放ったのだ。市民たちも倒れ、混乱は深まるばかりだ。


 また時間が経てば、カバは大河へと帰るのだろうか。

 しかし、それではーー延々とイヴァルトは襲われ続けることにもなりかねない。


 せっかく捕らえたバルハ大司教を、始末されてしまった。

 悔しさに、唇を噛み締める。


 このまま、ディーン王国には戻れない。

 でも、考えなしに僕が突っ込んでもカバは倒せないだろう。


「……すぐに戻る、ガストン将軍!」


 イライザを伴い、僕は不本意だけど一時後退する。

 振り返るとガストン将軍が斧を高く掲げていた。

 気にするな、とでもいうように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ