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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
水底の船

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138/201

大河、闇、雨①

 それから何時間も、僕たちはロアに付きっきりになった。

 丁寧にロアの血流を操作して、砂粒を取り出していく。


 取り出した破片はーー12個にもなった。

 こんなにスキルを連続で使ったのは、初めてだ。

 それでも、やり続けるしかない。


 全身がくたくたで、頭がふらつく。

 もっとも、疲れたのはこの場にいる全員だろうけれども。


「……終わりました、ジル様」


 13個目を取り出すとイライザが力なくつぶやいた。

 どうやら、これが最後だったらしい。

 肩口の傷は、あっという間にふさがる。


 白い布の上には、13個の紅い砂粒が無造作に置かれていた。

 魔力はもう、何も感じない。

 そういえば地下からの魔力も消えていた。


「お疲れ様、皆……」


「……これで、ロアは助かるんですか?」


 レイア議員の声にも、疲労が色濃い。

 イライザがしっかりと頷いて答えた。


「大丈夫です……ロアはこれで助かります。もっとも、体力をかなり失っていますからーーしばらく目は覚まさないでしょうが」


「ああ、それでも…………!」


 深く息を吐く、レイア議員だった。

 僕もーー肩の荷が降りた気分だ。

 遠回りだったかもしれないけれど、誓いを果たすことができた。


「後のことは病院の方々に任せましょう……ジル様、私たちは紅い砂粒を調べないといけません」


「ああ、そうだね……レイア議員、これは持ち帰る。いいかな?」


「……もちろんです。ロアが助かったのですから……」


 レイア議員は、僕たちに深くお辞儀する。

 ただ、僕たちもレイア議員には感謝しないといけない。


 もし、彼女が妹をーーロアを想わなければ、手がかりは途絶えてしまっていた。

 妹、妹か。

 僕も妹を守るために、こうしているのだ。

 それを無駄にはできない。


「何卒、ロアのことは……」


 潤む瞳のレイア議員に、約束を守ることを再度誓う。


「……わかっています。約束は、必ず守ります」


 力強く頷いた僕は、レイア議員の病院を後にした。


 宿舎に戻る途中、護衛がとんでもない知らせを持ってきたけれど。



 ◇



「……ライラさん、これは……」


 イヴァルトの監獄に、僕はいた。

 病院を去り、護衛が案内してくれたのは貴人向けの監獄だった。


 目の前には縛り上げられ、牢に入れられたバルハ大司教がいる。

 彼の従者数人も、牢に入れられていた。


 全員がぼろぼろになっている。

 かなり手荒い扱いになっていたようだった。


「抵抗しましたので」


 ライラがすました顔で言い放つ。


「……なるほど……」


「イヴァルト各地の聖堂を通じて、魔力を操っていたようですね……イヴァルトには水路が張り巡らされているでしょう? それと小舟を使って魔術を編んでいたのです」


 それはイヴァルトでないと、無理な手法だろう。

 種が明らかになれば、手品も大したことがない。


 これから入念に調べれば、証拠は続々と上がるだろう。

 それにしても電光石火、審問官は動きが早い……。


 僕を認めたバルハ大司教が、大声で抗議してくる。


「特使殿、これは一体……!? 私が何をしたというのですか!」


「……しらばっくれるのは、止めてください」


 僕は、布を広げて紅い砂粒をバルハ大司教に見せた。

 まだ調べはしていないが、砂粒がレプリカならーー反応は予測できる。


 案の定、バルハ大司教が目を見開いた。


「……貴様!!」


 叫んだ大司教の顔は、これまでにない邪悪で歪んだ顔だった。

 あえて言わなかったが、グランツォと同じ顔だ。


 ……隠すつもりもない、か。


「理由は、もうお分かりですね……」


 バルハ大司教が憎々しげに口をつぐむ。

 やるべきことは、多々ある。


 砂粒を調べて機能を明らかにする。

 大司教の身辺を洗って、他に協力者がいないかどうか調べる。


 ただ、根本は押さえた。

 遠からず、明らかになるだろう。


「イライザ、イヴァルト当局への連絡は任せたよ」


「はい、ジル様」


「バルハ大司教、あなたを死霊術への関与で正式に拘束します。近日中に連合軍へと身柄は引き渡されるでしょう」


 バルハ大司教がイヴァルトに張った根が、どれほどかはわからない。

 安全のためには、イヴァルトから立ち去るべきだろう。


 ブラム王国や教団に身柄を奪われては、元も子もない。

 ロアはまだ目を覚まさない。監視だけして、また後日来ればいいだけの話だ。


 僕の言葉を、バルハ大司教が鼻で笑った。


「ふん……何も知らん小僧が」


 バルハ大司教と話すことは、もうない。

 冷めた目で、挑発を受け流す。


「……大陸の掟くらいはーー人として守るべきことは、知っています」


 僕たちは宿舎に戻らず、監獄に寝泊まりすることにした。

 監獄は堅牢で、イヴァルトのなかでも守備力があるからだ。


 連合軍に引き渡すために、ガストン将軍を呼び寄せる手配をする。

 すぐにガストン将軍は来るだろうーーそうすれば、イヴァルトにも別れを告げることになる。

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