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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
水底の船

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132/201

舞う蝶のような①

 翌朝、僕たちは支度をととのえて宿舎を出た。

 支度中に、イライザが早馬をレイア議員に向かわせている。


 特使としている以上、僕たちが動いているのは察しているだろう。

 とはいえ、今回は単なる情報収集でも交渉でもない。

 ほとんど不意打ちで、入院している患者を見せてもらおうとしているのだ。


「……穏便にいくといいね」


 馬車に揺られながら、僕は呟いた。

 初対面のときは、雑談程度で終わっている。

 もしディーン王国に渡すつもりなら、あのときにレイア議員から言ったはずだ。


「相手の立場や状態によっては、言い出せなかったのも仕方ないかと……」


 とはいえイライザも、少し不安そうな顔だ。


「そうだね、他の職員や患者もいる。どこで情報が漏れるかわからないし」


 あれこれと話をしている間に、レイア議員の病院へと到着する。

 入口には、早馬に行かせた兵が敬礼して待っていた。


 レイア議員は、突然の訪問に驚いたみたいだけど、会ってくれるらしい。

 よかった、まず第一関門は突破だ。


「……よし!」


 気合いを入れて、白い門をくぐる。

 中に入ってすぐ、広間にレイア議員が待っていた。


「突然の訪問、申し訳ありません……レイア議員」


 レイア議員は、柔らかく微笑んだ。

 しかし、笑っているのはレイア議員だけだ。

 他の広間にいる職員の顔や身体は、こわばっている。


「いえいえ……ディーンの特使でありますもの、歓迎しますよ。十分なおもてなしは、できないかもしれませんけれど……」


 そのまま、客間へと先導される。

 前に来たときも思ったけれど、入院患者の家族が面会に使うためか、かなりの広さだ。


「お気遣い感謝します。私も、長居するつもりはありませんから」


 僕たちとレイア議員は、席についた。


「あら、そうですか? てっきり、何かよいお話があるかと思いましたが……」


「……多少は、手土産があります」


 イライザが、僕の血が入った筒をレイア議員に差し出した。

 ラベルが貼ってあるわけではないので、レイア議員から中身はわからない。


 でも、このタイミングで差し出した筒だけで、中身を悟ったようだ。


「まぁ、ご丁寧に……これは大切に頂きますね」


 大切そうに受けとると、筒を従者へと引き渡した。


「それで、お話というのは……?」


「ガストン将軍から、確かめて欲しいと言われたことがあります……先日はお話ししませんでしたが……。1か月前のことです。ブラム王国の人間が、岸に打ち上げられた件です」


 ガストン将軍うんぬんは、嘘だ。

 実際には、ガストン将軍からは何も聞いていない。

 レイア議員は微笑みを崩さず、


「……どうやら、ブラム王国は相当混乱しているみたいですわ。連合軍と戦いたくないために、脱走する兵がいるのは不思議ではありません」


 ある程度、こちらが情報を持っているのを前提にしてきた。

 ことさらに隠すわけではないが、それがなにか? という感じだ。


「そうでしょうね……今、イヴァルトへ生存者がいるかと問うのは、無粋でしょう。仮にイヴァルトへ逃げこんだ者がいても、それが誰だかわからないのですから……」


 僕は、ゆっくりと首を振る。

 いかにもイヴァルトのことを考えている風に。


「もし、これだけなら良かったのですが……イヴァルトにはもうひとつ、重大な疑惑があります」


「……身に覚えがありませんが、それは?」


「大航海に使われる船を建造した疑惑です……噂でも聞いたことはありませんか?」


 ぴくり、とレイア議員がわずかに目を細めた。


「ブラム王国から多くの仕事を得ているのは事実ですが、それは…………」


 ライラが、言葉を挟む。

 打ち合わせ通り、非常に不機嫌そうに。


 演技だとわかっている僕たちでさえ、直視できないレベルだ。


「大航海の疑惑は、軽いものではありませんよーー審問の対象です。しかも、イヴァルト全域に渡るのですから」


「そんなことをすれば、大きな反発を招くだけでしょう。強権をもってしても、うまく行きません」


 イヴァルトで生きてきたレイア議員は、聖教会の強硬さを知らない。

 長年、郊外の教会支部と仲良くやれば良かったのだから、無理もないけれど。


 やった、と僕は内心思った。いかにも驚いた風を装う。


「今のは、信じがたい言葉ですね。審問への非協力はそれだけで重罪ですよ? ディーン王国では貴族でも、審問には無条件に協力します」


 これは本当だ。

 ライラとの初対面では、僕は何もしていないのに苦手意識があった。

 そのくらい、審問官には権威がある。


 ライラの顔から、笑みが薄れてきた。

 悪いけれど、そうでないと困る。


「私には、審問の発動権があります。そしてジル様をはじめとし、審問の協力を要請することもできますーーガストン将軍にも、協力は要請できるのですよ」


 ライラからの露骨な脅しだ。

 僕が取りなすように言う。


「ライラ審問官、それは……レイア議員は協力しないなんて、言っていませんよね? 脅迫めいた物言いは、それこそ反発を招きます」

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