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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
水底の船

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130/201

決断②

幕間にある「会議②」の伏線をやっと回収できました……。

「……わかった。最後に、ということだね」


 ライラは僕たちのなかで、唯一ディーン王国に属していない。

 あくまで、聖教会からの派遣者だ。

 慎重に語らなければならない面も、あるのだろう。


 次の報告はイライザだ。

 イライザは午前中は僕の交渉指南をしてくれた。

 情報収集は午後だけ……それでも、成果は大きい。


「まず、レイア議員の病院には不審な物品の動きがありました。魔術的な治療に使うーーかなり高価な物品がここ、1ヶ月くらい頻繁に納入されています」


 イライザは紙を広げ、調べてきた物品を説明する。


 全部はわからなかったけど、いくつかは僕も聞いたことがある品物だ。

 ディーン王国でしか手に入らない、薬草やモンスターの部位なんだけれど。


 どういう交渉術を使ったか、なんとなく察せられる……。ディーン王国からの供給を止める、と言ったんだろうな。


「……でも、合計するとすごい金額だね。僕ですら、めまいがする」


「ええ、1ヶ月で既に、大貴族でないと支払えない額です。恐らく……それだけ信用がある患者が、レイア議員の病院に入院したのだと思います」


 僕はイヴァルトの医療水準をよくは知らない。とはいえ、大陸三大国よりも優れてるとと考えがたい。


「イヴァルトの有力者、じゃないですよね……?」


 おずおずとアエリアが発言する。

 そう、イライザの情報が正しければ間違いなく患者は大商人か大貴族だ。

 ここ1ヶ月の話なら、どこかで話題になってもおかしくはないのだけれどーー。


「噂話すら、ないね……イヴァルトの人間じゃないのかな?」


「事前にイヴァルトにいる有力者の近況は、ほぼ全て押さえてあります。もしそんな入院をしていたら、どこかでわかるはずです」


 ライラの指摘に、僕も頷く。


「となると、その患者はイヴァルト以外から来た人か……。でも、レプリカとどこまで関係があるかな……?」


「……その患者は、ブラム王国の人間である可能性があります」


 イライザの言葉に、僕は目を見開く。


「この品物が流れ始める前に、グラウン大河から死体がいくつか流れ着いたそうです。鎧を着た騎士だった、と……。どうもブラム王国からの逃亡者らしいです」


「なるほど……ナハト大公も離反するよう仕向けると仰っていたけれど……」


 イヴァルトにはたくさんの人が行きかい、様々な国と交易をしている。

 逃亡の経由地点にするには、うってつけの場所だ。


「その逃亡者が患者だとして……推測通りなら、かなりの訳ありということになるね。魔術的な治療だけど、品物から病状は推定できるの?」


「単なる魔術の傷だけでなく、やけどや神経の断裂も深刻でしょう……。多分、モンスターの攻撃によるダメージだと思います」


 脳裏に、つい先日のグラウン大河での戦いがよぎった。カバの使ってきた魔術は忘れもしない、雷の槍だ。


 ライラに視線を向けると、彼女も頷き返した。


「それは、カバの雷の魔術では? ……実際に患者を見てみないといけませんが……」


「うん……だけど、なんとなく繋がりが見えてきた。1ヶ月前に、ブラム王国からの逃亡者がイヴァルトに来る……だけど、モンスターに攻撃されて重傷を負った。その傷はまだ癒えてなくて、希少な品物で治療をしている、ということだね」


 さらに、僕は言葉を続けた。


「もしそうなら、レプリカが今も病院にある理由がわかる。レプリカの有用性に、全く気がついてないのかも…………」


「その可能性は、大いにあり得ます。ディーン王国ですら、レプリカの由来はわからなくなっていたのですから……。イヴァルトの人間が荷物を改めても、わからないでしょう」


「そうだね……なんにせよ、早急にレイア議員の病院を調べる必要がありそうだ。できれば明日にでも調べたいけれど……」


 しかし、もうひとつ調べなくちゃいけないことにバルハ大司教の件がある。

 レイア議員の病院に全員で乗りこむか……それともまた、人手を分けるか。


「それはまた考えようか……。イライザからの話は終わりだね? ライラさんの話を、最後に聞こう」


 ライラは、いつになく深刻に思いつめているようだ。


「……はい。今日収集された情報から、私はひとつの懸念を持ちました。イヴァルトがーー教会の戒律を破っているか……もしくは、戒律を破る片棒を担いでいるのではないかと」


 ふう、とライラは息を吐く。


「その戒律は、死霊術の禁止と同じくらいの重みがありますーー3ヶ条はご存じですね? 大陸の外へ出ることを、神は禁じています……大海へと漕ぎ出してはならないのです」

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