決断②
幕間にある「会議②」の伏線をやっと回収できました……。
「……わかった。最後に、ということだね」
ライラは僕たちのなかで、唯一ディーン王国に属していない。
あくまで、聖教会からの派遣者だ。
慎重に語らなければならない面も、あるのだろう。
次の報告はイライザだ。
イライザは午前中は僕の交渉指南をしてくれた。
情報収集は午後だけ……それでも、成果は大きい。
「まず、レイア議員の病院には不審な物品の動きがありました。魔術的な治療に使うーーかなり高価な物品がここ、1ヶ月くらい頻繁に納入されています」
イライザは紙を広げ、調べてきた物品を説明する。
全部はわからなかったけど、いくつかは僕も聞いたことがある品物だ。
ディーン王国でしか手に入らない、薬草やモンスターの部位なんだけれど。
どういう交渉術を使ったか、なんとなく察せられる……。ディーン王国からの供給を止める、と言ったんだろうな。
「……でも、合計するとすごい金額だね。僕ですら、めまいがする」
「ええ、1ヶ月で既に、大貴族でないと支払えない額です。恐らく……それだけ信用がある患者が、レイア議員の病院に入院したのだと思います」
僕はイヴァルトの医療水準をよくは知らない。とはいえ、大陸三大国よりも優れてるとと考えがたい。
「イヴァルトの有力者、じゃないですよね……?」
おずおずとアエリアが発言する。
そう、イライザの情報が正しければ間違いなく患者は大商人か大貴族だ。
ここ1ヶ月の話なら、どこかで話題になってもおかしくはないのだけれどーー。
「噂話すら、ないね……イヴァルトの人間じゃないのかな?」
「事前にイヴァルトにいる有力者の近況は、ほぼ全て押さえてあります。もしそんな入院をしていたら、どこかでわかるはずです」
ライラの指摘に、僕も頷く。
「となると、その患者はイヴァルト以外から来た人か……。でも、レプリカとどこまで関係があるかな……?」
「……その患者は、ブラム王国の人間である可能性があります」
イライザの言葉に、僕は目を見開く。
「この品物が流れ始める前に、グラウン大河から死体がいくつか流れ着いたそうです。鎧を着た騎士だった、と……。どうもブラム王国からの逃亡者らしいです」
「なるほど……ナハト大公も離反するよう仕向けると仰っていたけれど……」
イヴァルトにはたくさんの人が行きかい、様々な国と交易をしている。
逃亡の経由地点にするには、うってつけの場所だ。
「その逃亡者が患者だとして……推測通りなら、かなりの訳ありということになるね。魔術的な治療だけど、品物から病状は推定できるの?」
「単なる魔術の傷だけでなく、やけどや神経の断裂も深刻でしょう……。多分、モンスターの攻撃によるダメージだと思います」
脳裏に、つい先日のグラウン大河での戦いがよぎった。カバの使ってきた魔術は忘れもしない、雷の槍だ。
ライラに視線を向けると、彼女も頷き返した。
「それは、カバの雷の魔術では? ……実際に患者を見てみないといけませんが……」
「うん……だけど、なんとなく繋がりが見えてきた。1ヶ月前に、ブラム王国からの逃亡者がイヴァルトに来る……だけど、モンスターに攻撃されて重傷を負った。その傷はまだ癒えてなくて、希少な品物で治療をしている、ということだね」
さらに、僕は言葉を続けた。
「もしそうなら、レプリカが今も病院にある理由がわかる。レプリカの有用性に、全く気がついてないのかも…………」
「その可能性は、大いにあり得ます。ディーン王国ですら、レプリカの由来はわからなくなっていたのですから……。イヴァルトの人間が荷物を改めても、わからないでしょう」
「そうだね……なんにせよ、早急にレイア議員の病院を調べる必要がありそうだ。できれば明日にでも調べたいけれど……」
しかし、もうひとつ調べなくちゃいけないことにバルハ大司教の件がある。
レイア議員の病院に全員で乗りこむか……それともまた、人手を分けるか。
「それはまた考えようか……。イライザからの話は終わりだね? ライラさんの話を、最後に聞こう」
ライラは、いつになく深刻に思いつめているようだ。
「……はい。今日収集された情報から、私はひとつの懸念を持ちました。イヴァルトがーー教会の戒律を破っているか……もしくは、戒律を破る片棒を担いでいるのではないかと」
ふう、とライラは息を吐く。
「その戒律は、死霊術の禁止と同じくらいの重みがありますーー3ヶ条はご存じですね? 大陸の外へ出ることを、神は禁じています……大海へと漕ぎ出してはならないのです」




