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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
水底の船

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125/201

シーラ③

「なぜイヴァルトはブラム王国の肩を持つのです? 先ほどまでの私への態度にしろ……同格の国相手とは思えませんです」


 長方形になった魔術を消して、商人達を見回します。

 何人かが居心地悪そうに身じろぎし、代表っぽい老商人に視線を送っています。

 老商人はため息をついて、


「……お答えしましょう。実は十年前から大口の注文が入り続けているのです。その規模たるや、イヴァルトの歴史上これまでにないほどです。……発注ルートは偽装されていますが、どうやら大元はブラム王国のようなのです」


 老商人は説明を続けます。


「造船に関わる商人は、かつてない恩恵を受けています。ブラム王国の存在感は計り知れないほど高まっているのです。代金や引き渡し等も問題なく終わっているため、イヴァルトの商人はブラム王国に極めて好意的です。今の戦争を静観する向きが多いのも、やむを得ないでしょう」


 それはきっと、材木を商いにするエルフも含まれるのでしょうね。

 なるほど、どこでも私達への対応が渋かったわけです。私達は大のお得意様の敵なのですから。


 そこで私は小首を傾げました。

 ちょっと妙です。


「……ブラム王国に船がそんなに必要なのですか? イヴァルトへそんなに船を発注したら、大河でも海でも目立ちそうなものですけれど……」


 でもそんな情報はありません。


「仰る通りですが、発注者は壊れたとか他国に払い下げをしたと言ってきています。もちろん、他国の船の総量が増えれば、水運で身を立てるイヴァルトには脅威ですが……実際には、ほとんど増えていません。それは確認しています」


 船が増え過ぎれば、元々大河にある独立商業都市の地位は低下します。

 その辺りを考慮しながら、イヴァルトは造船仕事を受けるのだそうです。


「ブラム王国は船を増やしているけれど、使っていない……ということでしょうか」


 商人達は頷きます。


「船員教育の発注もあるようですが、実を結んではいないようです。不思議な話ではありますが、イヴァルトには何ら損が生まれていないのです」


「……だから連合軍にはつかない、と」


「骨董品などの交易品も、ブラム王国が関わる部分は流れが大きくなっているのです。少なくても、すぐにブラム王国から手を引ける商人はいないでしょうね」


「あなたがたの言い分は、わかりましたです……ふむふむ」


 私は目を閉じて、考えます。

 やはり相当前からブラム王国はイヴァルトへ手を伸ばしていたようです。

 私が大樹の試練を見せなければ、協力は全く得られなかったでしょう。

 貴重な顧客情報を教えてくれたのは、奇跡でした。


 でも、次は?

 ブラム王国がなぜ船をたくさん買っているのか、わかりません。

 どこかに艦隊を派遣するのでしょうか?

 水軍を強化して、連合軍との戦いを優位に進めるつもりなのでしょうか。


 うーん、やめましょう。戦略的な話は手に余ります。

 私のなすべきことは、シンプルにあと一つだけです。

 目の前の商人を味方につけること。

 それだけでいいのです。


「それで、私の味方になってくれるのですか? ブラム王国と手を切って、連合軍に乗りかえてくれるのですよね?」


 直球に聞いてしまいました。

 ぶるぶると商人達が震えます。でも口をつぐんで答えてくれません。


「私、交渉ごとをあまりしたことがないのです……。なので、もう正直に言いますです。私の作った大樹に寄りかかりたいなら、ディーン王国についてください」


 逆に言えば、エルフの平穏を得たくないならブラム王国に付くといいのです。

 私は元奴隷、大樹のない生活がどれほど辛いかわかっています。


 イヴァルトに住む彼らも同じです。

 いきなりの私の言葉に、絶句しています。

 ややあって返事がありましたが。


「……それは即答できかねます。大樹の試練を知るエルフは、もはやイヴァルトでは数少ないのです。皆々を納得させることができません」


 商人達が頑張ればいいだけだと思うのですが。

 仕方ありません、私はため息を吐きます。


「あなたがたは、大樹の試練に挑めるのですか?」


「いいえ……名前は知っていても、術式を知らないのです。魔力も足りないですし、挑めません」


 やはり、そうですか。

 私の母上も大樹の試練は、金の髪を持つエルフの系統でないとちゃんとは知らないと言っておりました。

 そして、当然無闇に教えてはならないと言っておりましたが。

 でも、今はかなりの緊急事態です。

 無闇ではありません。


「私に協力するなら、大樹の試練を教えてあげてもいいですよ」


 ぎょっと、商人達が私を見ます。

 まるで、信じられないものをみるかのように。


「……どうします?」


 交渉は苦手です。乗るかどうか、さっさと決めて欲しいのです。

 商人達が顔を見合わせる中で、私はにこやかに告げるのでした。

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