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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
水底の船

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123/201

シーラ①

 シーラです。

 今日は朝に呼び出され、重大任務を預かってきました。なんと、イヴァルトでの情報収集です。


 びっくりしてひっくり返りそうでしたけど、誰も私の様子には気がつきませんでした。

 奴隷の頃の癖で、感情を極度に抑えているせいでしょう。


 とはいえ、任された仕事を断るのは私の性分ではありません。

 粛々と説明を受け、いざ出発です。

 あ……途中までライラ様と一緒のようですね。

 ちょっとドキドキします。


「……シーラはとても強くて勇気があると、ジル様が誉めていました」


 イヴァルトを馬車で移動中に、ライラ様から突然の話題です。

 まぁ、誉められるのは嬉しいことです。素直に受け取っておきましょう。


「ありがとうございますです……私からすれば、ジル様の方が勇気がおありになると思いますですが」


「ふふ、そうですね……」


 意味深で探るような微笑みかたです。

 なんだか嫌な予感がします。

 馬車ではライラ様と二人きりです。

 逃げ場がありません。


「そういえば、シーラはジル様とどの程度の仲なのでしょう……出会いはかなり驚くべきものだったと聞いています」


 わあ、怖いです。ものすごい牽制です。

 寵愛を受けているかどうか、私が奴隷であることも含めて聞かれています。

 こんな聞き方ってありなんでしょうか?

 ありですね、ライラ様はとても偉いのです。

 ライラ様の表情は変わらないですが、意図を読み違えるほど馬鹿ではありません。


 正直に答えましょう。

 ライラ様を敵に回すつもりは全くありません。

 わざとらしく肩をすくめて、答えます。


「主従関係、それだけです。どうやら私はジル様の妹君に似ているようで、親切にされておりますですが……異性として見る対象ではないようです」


 一息で言い切りました。誤解の余地のない説明です。

 私の言葉に、ライラ様が目を見開きます。

 結構はっきりした言い方なので、驚かれたのでしょう。

 しかし、事実だけ述べました。


「なるほど……よくわかりました」


 深く息を吐くライラ様に、私は悟らざるをえません。

 多分、ライラ様はジル様にアプローチをしかけたのです。しかも、結構際どいやり方でしょう。

 でも、それだとうまく行かないと思います。

 押せば逃げるのがジル様です。

 逃げるか受け身に回らないと、駄目なのです。


「何か、考えがありそうですね……」


 ずいっとライラ様が身を乗り出してきます。

 すごいです、私が考え事をしているのを察知するとは。

 母上以外、初めてかもしれません。

 ちょっとした親近感です。


「有益な情報には、それなりの見返りを用意します……どうです?」


 むむっと私は素早く思考します。

 ライラ様は高位聖職者です。地位としては、他にジル様に想いを募らせる方々よりも確実に上です。


 対して私は、生まれが平民、後ろ盾はジル様だけ。圧倒的に不利な立ち位置にいます。

 この上、ジル様争奪戦に乱入者が現れたら、どうしようもありません。

 白旗を振って脱落した方がいい人生を送れます。

 奴隷から解放されただけで満足しましょう。

 欲張りは破滅します。


 そうです、とりあえずライラ様に情報を渡しましょう。

 私はどこかで滑り込めばいいのです。


「……追うと逃げるのは、襲わせるか罠を張る方がいいと思いますです」


「ふむ……う~ん、それは考えていませんでしたね。ふむふむ……」


 腕組みしてライラ様が思案します。

 ややあると、馬車が止まりました。

 ちょうど別れる場所に着いたようです。

 私はここで降りて、エルフの住む区画に向かうのです。


「ありがとう、シーラ。ジル様へと近づく、いい情報だと思います。見返りは期待していてくださいね」


 何が出てくるのでしょう。わくわくします。

 ドアに手を掛けると、ライラ様はにこやかに手を振って見送ってくれます。


 首をぐるりと回して見渡すと、そこら中に材木がたくさん置いてあります。

 エルフは人見知りなので、イヴァルトでもまとまって住んでいるのです。


「船もここら辺で作っているのですね……」


 エルフは主に、造船に従事しています。

 魔術で船を造るらしく、魔力も他とは比べ物にならないほど満ちています。

 回る距離は少ないみたいですが……問題はどう切り込むかです。


「……とりあえず行きますです」


 護衛を連れて私は歩みだします。

 気分はまさに初めてのお使いです。

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