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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~   作者: りょうと かえ
水底の船

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105/201

カバ

 ずしりと大地が揺れた。

 揺れるたびに泥とモンスターの血肉が混じる、不快な響きがする。


 すでに戦いが始まってから夜へとなっていた。

 雨と暗がりで、モンスターの群れを見通すことはできない。


 それでもーー魔力の波と大気を伝う存在感が、確かに予感させる。

 一歩ごとにそれが近づくにつれて、鳴動は大きくなっている。

 鳴り響く音が、それが巨大であると告げていた。


 見れば、鉄盾隊も周りのモンスターも動きを止めていた。

 それまでの喧騒が静まり始め、雨音がざぁざぁといやに強く不気味に耳に入ってくる。


 中空にモンスターの青い瞳が浮かぶ。

 それの瞳だ。

 並のモンスターの二倍の高さにある。


 まるで青色の松明のように、ゆらりと上下しながら近付いてくる。さながら建物の二階から、灯りが掲げられているに等しい。


 濡れた巨体が段々と明らかになる。

 それは、巨大な赤紫の肌をしたカバだ。


 ぎょろりと青い瞳を動かし、カバは僕達の陣を見つめていた。

 魔力の波動は針山のように鋭く、僕の感覚を刺している。


「やはり奴か……来ていたか!」


 ガストン将軍が叫び、クロスボウを構えて射つ。


「どうじゃ……!」


 これまでモンスターの肌を貫いてきた矢は、カバの頭部へと飛びかかる。

 カバは少しも動じず、鼻先で矢を受け止めようとする。カバの眼前に魔術の盾が一瞬、中空に浮かんで消えた。


 鈍い金属音が鳴るものの、全くクロスボウの矢は刺さらない。

 鉄板に弾かれたかのように、矢はひしゃげて落ちる。カバは平然としている。


「信じられない……!」


 飛行騎兵も相手が相手のために、手を出せずにいる。

 今のところ恐ろしい威圧感以外に、カバは何もしていない。


 ただ、歩いて河から上がっただけだ。

 カバの青い瞳が燃え上がり、細められる。


「来るぞい!」


 ガストン将軍のかけ声に、とっさに防御する。

 カバから放たれた魔力がばちりと弾け、稲妻のように走り抜ける。


 間違いなく、電撃の魔術だった。

 青白い閃光がカバの肌から、足元へと放たれる。

 そのまま周囲をなめ尽くすように、電撃が爆ぜる。敵味方関係なく、巻き込んでいた。


「ぐっ……! 無茶苦茶なやつだ!」


 つんとした痺れが全身を駆け抜けた。

 まずい、僕の血を逆流して電撃が流れ込んでくる。

《血液操作》している限り、避けられない。

 頭がくらくらする。

 痛みよりも麻痺がひどい。身体に力が入らなくなる。


 しかし致命傷にはほど遠い。

 本気でないのか、雨のせいで拡散しているせいかもしれない。


 だけれど集中が維持できない。

 僕の作った血の壁は崩れて、液状化し始めた。意識がぶれているからだ。


 上空の飛行騎兵も魔術でカバを攻撃するものの、効果があるようには見えない。

 多分、このカバの魔力はかつて戦った大司教級の強さだ。

 宮廷魔術師の魔術でも有効打にはならない。


 残るは近接攻撃しかない。

 ガストン将軍が大斧を持ち、構えている。

 ライラが戻っていれば心強かったけれども。


「……大物ですね」


「ライラさんッ!? 向こうは……」


 かたわらにはライラが立っていた。

 肩で息をしているが、目立った外傷はない。

 モンスターの青い返り血が所々についているくらいだ。

 それよりも全身から放たれる殺気の方が凄い。


「まだ終わってはいませんが、とてつもない気配がするもので……加勢に来ました」


「わかった……僕も戦う」


 僕は立ち上がり、血の流れを制御する。

 モンスターの群れは僕達よりも近くから電撃を食らっている。

 今のところ、モンスターの群れが仕掛けてくる様子はない。


 カバはゆっくりとモンスターを踏みつけに近づきつつある。

 もうあと少しで血の壁へと到達する所だ。


 有無を言わさぬ威圧感に、絶大な魔力。

 僕はアラムデッド王都で対峙したクラーケンを思い出さずにはいられなかった。


 いままではいつの間にかいなくなったりしたようたけれど、仕留めるに越したことはない。


 血の壁から血の鎧へと意識を切り替えて、僕は血の鎧を身にまとう。

 ついでに血の剣も作り出し、構える。


「ほうほう、剣に鎧とな……! ジル様も前に出なさるか!」


 ガストン将軍は貴族ではなく、戦場に生きる騎士だ。戦えるものが立ち上がるのを止める男ではない。


「ジル様、危なくなったら下がってくださいね」


 ライラが疾風のように駆け出す。武器は持たず、飛び跳ねるようにカバへと立ち向かう。


「おお、なんという健脚! 負けてはおれん!」


 ガストン将軍も腰に力を入れて、大岩が転がるような突進を仕掛ける。

 ぶつかる物全てを打ち砕く力強さがある。


(血よ……僕の身体を動かせ。限界を超えて……!)


 僕も踏み込んで走り出した。

 カバの目の前には僕の血が広がっている。


 すでに戦場の血の量としては十分すぎる。

 意識を滑らせて、血の壁から足場を生み出す。


 ライラはすでにモンスターの群れに一撃を食らわせ、カバの斜め後ろに回り込んでいる。

 死角から頭部へと殴りかかるつもりだ。

 ガストン将軍はカバの脚を切り落とさんと、一直線に突っ込んでいる。


 僕はガストン将軍を追い越し、血の壁から血を繋いで飛びかかる。

 人間離れした跳躍も、血を操作してバネが飛び出すようにすれば可能だ。

 三方向から一斉に、僕達は攻撃していた。

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