結末を変える為に(後編)
膨大な仕事に忙殺され、山の様な書類の精査にて腱鞘炎の恐怖に怯えるのは何も里長の玉藍とその手伝いを始めたエリーだけではない。
彼女達以外にも今現在同じ様に書類に苦しみ、頭を抱え、増え続ける書類に恐怖を覚える者がいた。
その彼女の名前は桜花。
朱雀門副門番長で三位一体の彼女達は、自らのやらかしと無礼を仕事で返す為に現在悪戦苦闘を繰り広げていた。
その仕事内容は、朱雀門内での門番の素行調査について。
荒々しい性格の者が多い為やらかしが多い朱雀門の民であっても、それでも国を守る柱の門番である以上、民の模範となるのは当然の事。
そう表だっては言っているのだが実際のところ、外敵との戦いが多く消耗品の様に溶ける門番に品位を求める事はなかなかに難しく、今までなあなあにしてきた部分は確かにあった。
そんなところで今回……最悪のタイミングで過去最大級の爆発を起こしてしまった。
他所からの来訪者、しかも魔王の代行の部下に対して門番が狼藉を働くという最悪としか言えない状況。
しかもその狼藉者を、知らなかったとは言えその馬鹿の直接の責任者である桜花は庇いだて、あろうことか名代とその部下を犯罪者として連行しようとしてしまった。
その責任として考えたら、朱雀門門番の素行調査だけで済むのはありがたいとしか言えない。
切腹どころか首晒しすら場合によってはあり得たのだから。
それも、全く関係のない門番長も含めて。
だからこれはとてもありがたい事で、それだけで済ませてもらったのは温情としか言えないのだが……それでもその仕事は決して簡単なものではなかった。
それが簡単でないから今まで放置された問題であり、あのゴブリンの様な門番である事を笠に着て好き放題する馬鹿が出たと言っても良い。
そして、流石にあそこまでの馬鹿はそうそういないとしても……必ず、同じ様な馬鹿はいるはずである。
もし、もしもの話だが……名代閣下がいる内に同じ様な事件が起きれば……町民相手であっても、門番として民に狼藉を働いた者が出てくれば……今度こそ、本当に全てが終わる。
最悪朱雀門の上層全員が切腹で済めば軽い方と言えるだろう。
だからこそ、桜花は潰れそうなプレッシャーを受けながら、必死に書類を見つめ、仕事をして……そして……絶望を覚えた。
最下層の一般門番を管理する班長全員に問題行動を起こしそうな者、起こした者を報告する様書類を提出する様命じ、そして帰ってきた答えは全員揃って『問題なし』だった。
じゃあもう問題児は誰もいないのかー朱雀門は品行方正で立派な門番ばかりなのかー……なんて思う程、桜花の頭はお花畑ではない。
問題なしという事は、問題を隠しているか放置されているという事でしかない事位末端からの叩き上げである桜花が分からない訳がなく、だからこそ、どうしたら良いかわからず頭を抱え途方に暮れていた。
「じゃあ班長よりもっと上の役職に……いや、下の動きは見えないよねそれじゃあ。じゃあ直接末端の門番達に……いや流石に数が多すぎるし誤魔化されるのが見えるし抜けが出て来る。じゃあ密告したら報酬を……ダメだ悪くない門番が捕まるという最悪な未来にしか見えない。……うーんうーん」
三体が三体、全員が耳をぺたんこにしうんうん悩む頭を揺らす。
どうにかしないと大事だけど、どうしたら良いかわからない。
そんな八方ふさがりでどうにもならない状況に陥っていた。
丁度そのタイミングで、部下が桜花の部屋に唐突に入って来た。
女性の部下で、桜花の信頼する部下の一体。
絶対に悪事に手を貸さず、この状況で頼りに出来る数少ない部下。
その部下は、どこか慌てた様子だった。
「し、失礼します!」
「ノックを忘れてるよー。まあ良いけど。それで何の用? 見ての通り私忙しいんだけど」
「お、お客様が桜花様に会いに……」
その言葉に、桜花は三体共に顔を顰めた。
「えー。いや本当に忙しいんだけど。大した用事じゃないならお帰り……」
「魔王名代様が桜花様を名指しで――」
「すぐに行きます。客間で待たせてるんでしょうね!?」
ヒステリック気味に、顔を青ざめさせ桜花は叫んだ。
「もちろんです。最高級のお茶とお茶菓子を出し、現在お待ちいただいています!」
「すぐに……いや、せめて門番として身だしなみを整えてから……五分で行きますのでその間を」
「はっ!」
いつもはお互いゆるーい関係の部下と桜花だが、この時ばかりは外部から侵略者が現れた時と同じ程の緊迫した空気が流れていた。
「お待たせしみゃみた!」
そうかみかみで叫びながら、畳の部屋で待つクロスの元に飛び込んで来る桜花。
それは誰が見ても、相当慌てて急いだとわかる様な有様だった。
クロスは微笑んだ。
「落ち着いて。急がなくても良いからさ」
「は、はひ! 名代様……ではなくクロスさん、どの様なご用事でしょうか?」
里長より『あまり持ち上げられるのを好まず、『クロスさん』と呼ばれたいそうなので、そうしてあげてください』なんて控えめながら逆らえない絶対の命令を受け、それに従い桜花はそう尋ねた。
「あーうん。……いや、何と言うか……君この前とは全然違うね」
緊張していながらもわかる程の真面目な印象。
それはこの前のとりあえず体で責任を取りますとごり押そうとした頭が桜以上にピンクであった桜花とは全く異なっていた。
「その節は申し訳ありませんでした。あの時は少々以上に慌てておりまして……」
「そか。まあ、慌てなくて、ついでに緊張しないで普通に接してもらえたら嬉しいかな」
「善処します」
そんな桜花の言葉に、クロスは苦笑いを浮かべた。
「ところで、どの様なご用事でしょうか? 何か私にして欲しい事があれば何なりと」
わざわざの呼び出しの理由を考え、桜花はそう言葉にした。
「もちろん、性的な事で――」
左端の桜花がそう呟くのを残り二体が冷や汗を掻きながら必死に黙らせ、クロスに対し何でもないですよと言わんばかりに笑顔を浮かべた。
「ああうん。中身は変わってない様でちょっと安心したよ。実は聞きたい事があってね」
「はい。何でしょうか?」
「素行調査だっけ? 門番達のチェック。上手く行ってる?」
「もちろんですとも。クロスさんの心を煩わす様な事はありません!」
そう、あまりにも整いすぎて演技だとわかる様な満面の笑みで、桜花は言葉にした。
「そか。……んで、本音は?」
「どうしたら良いかすらわからず途方に暮れていますごめんなさい!」
桜花は三体揃って、泣きながら叫んでいた。
「だよねぇ。という訳で、ちょいと相談があるんだけど……」
「はい? どんなでしょうか?」
「俺が手伝うからさ、終わったらやって欲しい事があるんだ」
「手伝うと言われましても……いえ、ありがたくはあるのですが正直そんな簡単な問題では……」
そう言葉にする桜花の前に、クロスはぽんと三枚程の書類を提示した。
「これは?」
「見てくれたら」
そう言われ、桜花は三枚の書類を分け一体ずつ手に取り同時に読む。
それは、朱雀門においての門番三名のあまりよろしくない素行の情報と証拠が書かれていた。
しかも、末端ではなくそこそこ立場あるというとても探しにくい相手の。
それは桜花が喉から手が出る程欲していたけど、どうやっても見つけられない情報。
つまり、桜花の仕事の答え、結果そのものだった。
「これは……一体どうやって……」
「ちゃんと火伏からは許可取ってるから安心してくれ。違法な事はしちゃいない。という訳でまあ、書類仕事はあんま出来ないが、こういう事なら手伝えると思うんだが……」
その言葉に桜花は頷き、頬を赤らめた。
「わかりました。終わった後、誰にも内緒で、秘密として私の体を好き放題蹂躙したいと。はい、望むところで――」
「誰もそんな事言ってないから……」
桜花は三体揃って、首を傾げた。
「え? だって内密に顔を出したという事だからそういう事では……」
「どうしてそう思ったかわからないけど違うから……」
そう言ってクロスは小さく溜息を吐いた。
「それじゃ、私にして欲しい事って何です?」
「玉藍の手伝い」
そう、クロスは短く、そして絶対に勘違いされない様要求を伝えた。
それを考えたのはクロスではなく、エリーの方だった。
明らかに抱える必要のない仕事を抱える玉藍の状況を改善するにはどうすれば良いか。
それを考え、そして至極当たり前の結論が導き出された。
出来る誰かに仕事を任せるという当たり前の結論が。
そしてエリーがその最初の引継ぎ先として選んだのが、桜花だった。
理由は二つ。
一つは、高い情報処理能力を持っている事。
三位一体という性質は作業能力を単純計算で三倍になり、応用次第では三乗にもなりえる。
それこそ、桜花が処理能力を鍛えれば魔王から直接スカウトされてもおかしくない程。
それ位、ケルベロスという種族は優秀で、そして個体数が少ない。
そんな相手を腐らせておくのはあまりにも惜しいと言える。
もう一つは、現状容易く恩を売れるからだ。
まさか全く進まなかったとは思っていなかったが、エリーは最初から桜花が苦戦する事を知っていた。
部下の行動見直しと不適合者の特定。
そういった作業を単純な情報処理として行っても効率が悪い。
自分が同じタイプであるからエリーはその事を良く理解していた。
そういった作業は業務や作業ではなく、ましてや問題解決を組織図の中から考える者では効率があまりにも悪い。
ではどうするかと言えば……ただ向き合えば良い。
組織と上司と部下ではなく、ただの対等な存在として、その門番達と向き合い続ければ良い。
とは言え、あいにく情報を扱う事に得意な桜花やエリーにとって、そういう事は不向きである。
逆に言えば、そういう事に向いている者も確かに存在する。
面倒な人間関係を綺麗に纏め続け、偉業の達成に一役買った、そんな賢者と呼ばれる存在の様な……。
誰かと向き合う事が得意な存在が。
「という訳で色々話を聞いたらとりあえずでだが三名ほどあかん奴を把握したぞ。何かここの門番達にゃ部外者とは思えないほど良くされて色々教えてくれたぞ。ついでにお茶も奢られた」
そうクロスは言葉にした。
「まあ、そりゃクロスさんは大人気ですからねぇ。門番からも朱雀街の民からも」
「うん。ちょっと予想外過ぎてびっくりしてる。どうしてこんなに?」
一応は門番の仕事場をうろつくのだからと火伏に許可をもらったが、これはいらなかったんじゃないだろうか。
そう思う程にはクロスはどこからも受け入れられ、歓迎されもてなされた。
「うちは喧嘩がコミュニケーションですからね。朱雀街で一番強い門番長をまっすぐぶっ飛ばすという事はこの街で英雄以上の人気を得られ、同時に誰からも尊敬されるという事です。だから結構な数喧嘩を売られませんでした?」
その言葉にクロスは頷いた。
そう、朱雀門でも、朱雀街でもびっくりするほどちやほやされた。
通りがかるとあちらこちらから金は良いからと食べ物を渡され、道を歩けば男女問わず好意的な黄色い声。
朱雀街らしからぬ下手からの対応で握手を求められたり、かっこいい力つよい凛々しいとやんややんやと褒められたり。
まるで街を歩く勇者の様な扱い。
それほどクロスは朱雀門、朱雀街から人気が高まって、頂点に達していた。
それと同時に、喧嘩をふっかけてくる回数もまた非常に多かった。
『俺と戦って下さい』
『一戦、相手を』
『あの時の感動を俺にも』
『拳で語りたい』
そんな悪い意味で決してなく良い意味で尊敬されたからこそ、クロスは何度も何度も挑戦状を叩きつけられた。
「それで、どうやって断ったんです? 彼らしつこかったでしょう。最悪そのまま殴りかかってきますし」
「え? 断らず全部受けたけど」
「え? まじで? ……え、えぇ……。……そのの割には傷一つ見当たりませんが。それどころか汗一つ掻いた痕跡も……」
「これでも一応そこそこ強いんでね」
そう言ってクロスは微笑み、桜花の顔を引きつらせた。
朱雀街は喧嘩の街と言っても良い程喧嘩が盛んである。
それは娯楽であり、コミュニケーションであり、体調の確認であり、意地のぶつかり合いであり。
そんなこれでもかと様々な意味を込められたのが、タイマンでの殴り合いである。
だからこそ、殺し合いは弱くても、戦う事は出来なくとも、それでも喧嘩は強いという魔物がこの街にはごまんといる。
そう、街単位で喧嘩慣れしているのだ。
だから、朱雀街の流儀を知った程度のクロスではあまりに不利と言えよう。
ついでに言えば、クロスの人気で考えるなら受けた喧嘩の数は十や二十では確実に済まない。
しかも、頂点に挑戦するのだからある程度腕に自信がある奴だけである事も容易に想像が付く。
それでも……クロスは汗一つ垂らさず、全てを圧倒してきたらしい。
それは、桜花の知る常識では考えられない事だった。
「やっぱり、なんだかんだ言っても、元勇者なんですねぇ」
桜花のしみじみとした呟き。
その言葉はクロスにとってとても嬉しい言葉であったからか、クロスはいつもと違う穏やかな笑みを浮かべていた。
「ところで、これ話と関係なく俺の個人的な質問なんだけど良いかな?」
「あはい。スリーサイズは三体共に違うので伝えるのに少々時間がかかりますよ」
「それはそれで個人的にとても興味あるけどそれはまたという事で」
「はい興味ないですよねすいま……あれ? 興味あるんです?」
ちょっと予想外のクロスの返しに桜花は戸惑った。
桜花の中ではクロスは下ネタが苦手な相手となっていた。
実際は逆であるが、桜花はそう思っていた。
「そりゃ興味あるよ。可愛い女の子に興味ない訳ないじゃん」
その言葉に真ん中の桜花は目を丸くし、左側は頬を赤らめ右側は嬉しそうに頭を掻いた。
「でも、今までそういうそぶりは全く……」
「これはね桜花。これは一つの真理なんだが……あんまりがっつかれると、男は一歩引く。例えそういう事に興味津々な俺でも、そこまで押されると、一歩引く」
「なんと。そうだったんですね」
そう言いながら、左端の桜花はメモを取り出しさらさらと何かを書き込んだ。
「そうなんですよ。という訳で、可愛い子と仲良くはしたいので、ボチボチとで良いなら仲良くなりましょう」
「喜んで!」
三体同時の前のめりの言葉。
その声の大きさにクロスも出した桜花も驚いて目を丸くし……そしてお互いの顔を見ながら笑いあった。
「うん。これ位の距離感が、友達より親しい位の距離感が俺は好みだな。そういう事で本気だったらよろしく」
「了解ですクロスさん。私も異性の友というのはあまりいませんのでちょっと新鮮で、嬉しくて、あとちょっと恥ずかしいですね」
そう言って、桜花は三体共にはにかんだ。
「そうそう。そんな感じの表情にぐっとくるんだよ」
「もー。クロスさんはそうやって恥ずかしい事を言ってー。……ところで、つい忘れてましたけど個人的な質問って何です?」
「あ、俺も忘れてたわ。いやさ、君達三体の端末名って何? いや、答えたくないなら良いけど」
その言葉に、桜花は三体共に首を傾げた。
「端末名って、何ですか?」
「あれー? いや、桜花って、三体での名前でしょ?」
「はい」
「だから君達一体ずつの名前は……」
「三体別々の魔物じゃなくて、一体だから名前は一つで良いんじゃ……」
「ああ。他のケルベロス知らないからか……」
そう言ってクロスはひとり納得した様子となっていた。
「……クロスさん。里長の手伝い、受けて良いのですが、一つ条件を付けさせて下さい」
「ん? 変な事以外なら何でも聞くけど」
「私、クロスさんに逢うまで自分の種族がけるべろす? とかっていう事すら知りませんでした。だから、その種族について、知ってる事を教えてもらって良いですか?」
「ああ。そういう事なら条件関係なく喜んで話すよ」
「ありがとうございます。あ、冷めましたのでお茶を淹れ直しますね。……部下が」
そう言いながら桜花三体はてきぱきと分担して茶器を回収していった。
「ケルベロスの生態を良くスライムが増殖するようなものなんて言われるが、俺から言えば少々違う。ケルベロスの生態はむしろ蟻の巣とかに近いと考えてる」
「蟻の巣ですか?」
「うん。女王こそいないけど、何らかの用途に特化されて数を増やす社会型昆虫の巣。あれみたいな生態に限りなく近い、あの巣を種族に例えたものがケルベロスの生態に非常に類似する。って、俺の知り合いは言ってた」
「ですが、私達三体は別に役割分かれてませんけど……」
そう言って、三体は仲良くお互いを指差し合った。
「ケルベロスの一体毎を端末と呼ぶんだけど、その端末毎に名前を付けなかったからと、三体しかいないから役割を分ける必要もなかったからだと思うよ」
「ほうほう。ところで、クロスさんの知るケルベロスって何体位に分かれてました?」
「俺の知るケースだと、桜花と同じく三体で役割分けてなかった奴と、九十九体に分かれて役割分担しながら纏まって戦う軍隊の様なスタイルの奴と……あと、街」
「街?」
「うん。千体を越える魔物の街。その千体全員が、一体のケルベロスだったよ」
「へー! それは面白いですね。今その方はどこにいるんですか?」
その言葉に、クロスは困った顔で苦笑いを浮かべた。
今まで見せた事もない、答えにくそうな罪悪感に満ちた顔。
それで、桜花は察してしまった。
「ご、ごめんなさい。やっぱり何でも――」
「いや。良いさ。ちゃんと答えないとな。彼らは人間だった時に出会った。そして、その全てを俺達は倒して――いや、殺してきた。それを間違いだったとは思わない。その理由は確かにあった。だけど……すまん。同種のそういう話をしたのはあまりにも不躾だったな」
「い、いえ! 気にしないで下さい。当たり前の事です。それに、私別にケルベロスという種に対して愛はないんで。本当に気にしないで下さい」
おろおろと、そう言葉にする桜花。
それにクロスは寂しそうに笑った。
「と、ところで、ケルベロスの端末数って増やせるんですか?」
話を強引に変える意味も込めて、桜花はそう尋ねた。
「んー? ごめんちょっとわからないかな。結構レアな種族らしくてこっちでは出会った事ないし俺の知ってる知識は人間から見た時の知識だけだし」
「そうですか……うーん。増やせそうな気がしないでもないんですけどねぇ……。そうだ。クロスさんちょっと協力してくれませんか?」
「ん? どうやってだ?」
「端末増やせるか試すからその間ちょっと布団の染みを数えて貰えたら――ふべっ」
クロスは、桜花の脳天にそっとチョップを叩きこんだ。
「それで増えるのは娘か息子と言った別のケルベロス……ああいや、どうなるんだろうその場合。……ケルベロスの異種配合ってどうなるんだ?」
「……さあ。どうなるんでしょう? やっぱり試してみて――ぶへぇ」
「うん。俺もわからんわ」
「ですかー」
そう言いながら、真ん中の桜花は叩かれた頭をさすった。
「んー端末? というか私達が増やせたら大分便利なんですけどね。あと一体いたらなーって思った事は何度もありますし」
「その感覚は俺にはわからないからなぁ。……とまあこんなもんだな俺の知るケルベロスの事は。とりあえず人型に近い奴は多かったぞ。というか人間そのままの奴ばっかだった。だからその耳はケルベロスによるものか他種族が混じった結果かは俺もわからん」
「なるほど……。ありがとうございました。少しだけですがちょっとすっきりしました」
「すっきり?」
「はい。私捨て子だったので。それで今まで自分が何なのかわからないなりに生きて来たので。なので種族がわかっただけでもびっくりですよ」
そう言って笑う桜花の顔はあっさりとしていて、だからこそ、クロスは何とも言えない悲しい気持ちになった。
「……ヘルメットがなかったらなぁ」
そう、ついクロスは無意識に呟いていた。
「ん? 兜が邪魔ですか? はい。これで良いです?」
そう言いながら、真ん中の桜花は兜を取った。
それを見て、クロスはそっと優しく、桜花の頭を撫でた。
どうして撫でられているのかわからない。
だけど……家族という存在と接した記憶のない桜花は、誰かに頭を撫でてもらった事のない桜花はその優しく撫でられる心地よさに驚きながらも一切抵抗せず受け入れた。
それは恋や愛とかそういったものではなく、慈しみや憐憫に近い様に感じる。
だからこそその手はどこまでも優しくて……まるで非常に年が上のお年寄りに頭を撫でられているかのように感じられて、心の底から安心する事が出来そうで……。
残り二体の桜花は兜を脱ぎそわそわしながらそっと撫でられている桜花の後ろに並んだ。
ありがとうございました。




