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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
二度目の元勇者、三度目の元魔王

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ラスト・エピローグ(前編)


 アリス騒動が集結し、数か月の時が流れた。


 何事もなくなり、皆の日常が戻って来る……事はなかった。

 彼らを取り巻く環境はあまりにも変わり過ぎていた。

 国という制度そのものが限界となってしまった程に。


 パルスピカは相変わらずクロノアークの王をやっている。

 魔王国を引き継いだ国でありながら小国で、あとついでに自走出来る。

 あまりにもトンチキ過ぎる代物で、後世どころか現世でも都市伝説的な扱いになっていた。


 パルスピカ自身はまあ、王として忙しいながらも成長しうまくやっている。

 ただまぁ誰に似たのか、偶に脱走し行方不明になる名物王様となっていたが。


 ヴィクトアリアは今こそが最も忙しい彼女の時間と言えた。

 彼女は戦う存在ではなく、救う存在だからだ。

 故に、戦後こそが彼女の本当の働き場。


 誰かを助ける為に、助けの手から零れ堕ちた人を救う為に。

 そんなアリアは天使達と共に各地を飛び回り、救いの救世主をやっている。

 天使信仰が戻って……いや、新しく誕生するのも時間の問題だろう。


 アリアに着いて行っているミリアと違い、アンジェは早々に離脱した。

 自分の場所はここじゃないと言ってどこかに消えてひっそり孤独に生きようとしていた様だけど……メルクリウスに早々と見つけられ『探したぞ、戦友』なんて声をかけられどこかに連れていかれた。

 まあ、悪い事にはならないだろう。


 ミリアはアリアに次いで天使の指揮を執っている。

 相変わらず生活能力皆無で日常駄目駄目まっしぐらだけど、少しだけ音楽の事を勉強する時間が増えていた。


 アウラは元の城に戻って来た。

 元というよりも、色々と体制が変わったから旧魔王城というべきだろうが。


 パルスピカの手伝いをするつもりだったのだが、予想以上にアリスと天使の傷跡が深く土地問題をどうにかしなければならなくなったからだ。

 土地が足りないという悲鳴は魔王時代何度も叫んで来たが、土地が余りまくって責任者がいないというのはちょっと未知の経験であった。

 その所為でラグナもクロスから離れ人間世界に戻されて、泣きながら土地を管理する権力者を探す毎日となっている。


 そう、あの頃の日常は戻ってこない。

 だからこう言い直すべきだ。


 新しい日常が、始まったと――。


 そんな皆が新しい日常を過ごさんとする中で、小さな騒動が……。


「クロスはどこ行ったー!?」

 アウラの住まう王城にて、忙しない様子でメリーが叫ぶ。

 だけど誰も慌てない。

 兵士達は微笑ましい目でそれを見て、メイドたちはもうそんな時間かという感じで時計に目を向ける。

 ぶっちゃけ誰かがクロスを探すのは何時もの事であった。

 なにせ彼ときたらあっちにふらふらこっちにふらふら。

 その上目を離すとすーぐに仲良い女を増やす。

 だからそれは何時もの事で誰も慌てないのだが……逆にそんな理由と……後まあメリーとしてもちょっとやんごとない理由もあってメリーだけは慌てていた。


 多少騒がしいけれど、まあそれもまたいつもの単なる日常であった。

 まだ、この時までは――。

「騒がないでよメリー。胎教に悪いわ」

 メディはそう言って微笑を浮かべる。

 お腹の膨れたソフィアの横で。


 そう、これがメリーの焦る理由。

 あの場にて妊娠の発覚したソフィアだけでなく、その後にメディも平然と妊娠しやがった。

 だから遅れてなるものかーとメリーはクロスの元に駆け寄って、まあ仲良くするけどダウンするなんて日々を繰り返していた。


「ぐぬぬ……ごめんなさい」

「はいよろしい」

 伝家の宝刀『赤ちゃん抱かせない』攻撃が怖くてメリーは素直に謝った。


「それで、クロスがまたどこかに行ったって? どうせ城下町でナンパでもしてるんじゃない?」

「そんなだから私が困ってるのよ。後城下町の方にはいない」

「どうしてわかるのよ?」

「シアもミリアもホワイトリリィちゃんも来ない日だから」

「ああそうなの」

「ついでに言えばメルクリウスもアンジェもいない日だしレティシアとのデートは相変わらず振られてたし」

「ああ……ちょっとあれはびっくりしたよね」

 レティシアはあの後、何を思ったのか急に市長になると言いだして潰れかけた街を買い取り復興作業を進めていた。

 それはアリアの様な善意ではなくてちゃんと自分の欲求の為。

 それが何なのか、レティシアの言う熱が何なのかはわからないが、思った以上に真面目にちゃんと市長をやってはいるそうだ。

 まあその所為でクロスは割とすげなくされているが。


 というよりも、クロスに言い寄らわれて断るのが楽しいという様な様子であった。

 あそこまで追いかけられるのはそれはそれできっと熱を感じられるから、ちょっと羨ましいとメリーは思っている。


「その他にも全ての予定を網羅、クロスが好きそうな女の子の場所も把握、突発的なイベントも含めて探したけどいないのよね。だから知らない?」

「知らない。というかその熱意にちょっと引く」

「知りませんねぇ」

 メディとソフィアは揃って首を横に振る。

 そもそも彼女達は自分からクロスを探す立場にいない。

 お腹の為に自愛しながらただクロスが会いに来てそれに応える立場である。


 だからこそ、用事のない時はここに寄っていると思ってメリーも来たのだが……。


「何か嫌な予感がする。……具体的に言えば出し抜かれた的な感じの。……はっ!? まさかステラか! あの泥棒猫!」

「私どっちかというと犬っぽくない?」

 にゅっと当たり前の様に、背後からステラが現れた。

「ああ居たの」

「居たの」

「そんでクロスどこ?」

「知らない」

「いや、知らないって訳ないでしょ。あんたら互いの居場所どころか隠し事までバレバレ状態じゃん」

「うん。知ろうと思えば」

「じゃあおせーて」

「知らない」

「は? 馬鹿にしてる? それともからかってるの? 良い立場じゃない。ちょっと今から一戦しましょうか? 夜の方でも可」

 メディは『あんたら仲良いわね』という言葉をそっと飲み込む。

 半分冗談の挑発とは言え、あのメリーが平然と夜のお誘いをするなんてのはちょっとばかし想像出来ない事だった。

 我儘になったというか自由になったというか……。

 いや、そうじゃない。

 メリーらしく振舞える様になったのだ。

 人と違うという事を、自分も周りも受け入れて、そしてその上で自分らしくあっても良いと。

 他の誰でもなく、ステラのおかげで。


「ごめん。しばらくはどっちも無理かな」

「……どうしたの? 体調悪いの? 確かに顔色ちょっと悪いけど……」

「ううん。体調悪いんじゃなくて……えっと……」

 少し頬を赤らめながら、ステラはメディとソフィアの方を見る。

 正しく言えば、メディとソフィアのそのお腹を。


 メリーはステラの目線とその先の彼女達のお腹を見比べて……。


「あ、あー。そういうね。なるほどねー。あー。あー! そっちかよ! そういう事か出し抜かれたってのは! ちくしょーがー! おめでとう!」

 叫び、メリーはだっとその場をいなくなって――。


「はいこれ!」

 花束を持ってさっと戻って来た。

 これでこの部屋に飾られる花束は三つ目。

 全部血と涙を流しそうな程の悔しさと溢れんばかりの祝福を込めたメリーお手製である。


「ありがとうメリー。それでメリー」

「はい。なんでしょうかおめでたいステラ様」

「ひくつぅー」

「拗ねもするわよー。それで何?」

「クロスの居場所がわからないのは――」

 ステラが何か言おうとして、その言葉を止め警戒態勢に入る。

 メリー、ソフィア、メディもまた同時に何時でも動ける様に。


 この辺りは場所は本来は王の妃達の部屋となる区画であり、城の奥の方である為普段は誰も通らない。

 そういう部屋となっている。

 ここを通るのは一部の許されたメイドだけ。

 そしてそのメイドの中で、どたどたと乱雑な足音を立てる様な不埒者はいない。

 だから誰か招かれざる客が来た事を示して――。


「し、失礼します!」

 叫び声をあげ入った来たのは、女性文官だった。

 メリーはそっと手を下し、警戒態勢の維持をハンドサインで出す。

 安全であるとわかっても、警戒は解かない。

 何かあった時に傷付くのは、お腹の子なのだから。


「彼女は大丈夫。それで用事は何? 見ての通り子熊を抱えた母熊状態でピリピリしているんだけど?」

 ニコニコと笑顔の威圧をかけ、メリーは尋ねる。

 ソフィアは『くまちゃんですよー』なんて気の抜けた事を口にしていた。


「は、はい。すいません。アウラフィール様がどこに行ったのかご存知ありませんか!?」

「へ?」

「えっと、その……いなくなってて、突然……」

「あんた、それ何時から……」

「け、今朝からです!」

 メリーの灰色の脳細胞が高速で回答を導き始めた。


 ステラはクロスの居場所を知らないと言った。

 そんな訳がないが、ステラはあまり嘘をつかない。

 だったらつまり、本当に知らないという事なのだろう。

 普段はわかるのに、知らない。 

 それに適合する状況をメリーは一つ知っている。

 つまり……居場所がわからない程遠くにいるという事だ。


 そしてアウラが今朝から行方不明。

 別にここは誰でも良い。

 ただ、クロス好みの女性がいなくなって、クロスが遠くに居るという事に意味がある。


 色々重圧の消えたクロスはいきなり突拍子もない行動を取りだす様になった。

 それこそ、何の計画もないままメリーを連れて転移にて温泉巡りなんて事も一月前には行った。


 だったらもう、後の推理は、朝食を作るよりも容易い――。


「そう言う事か……そう言う事かぁー!」

 メリーは叫び、最後の確認の場所に赴かんと全力疾走する。


 クロスの場所を確認する最後の場所……即ちキャロルの部屋。

 もしもクロスが長期でどこかに行くのなら、愛娘であり保護下にある彼女を連れていかない訳がないからだ。


 そしてメリーはキャロルの部屋で、置手紙を発見し、城中に響く様な叫び声をあげた。

 そんな彼女のイライラはしばらく続いたが、精霊の目にて色々見抜けるエリーに出逢って憑き物が落ちたかの様に落ち着いて、ステラと一緒に揃いソフィア、メディの横に並ぶ様になった。

 優しい顔をして会話をする四人は、外見はまるで違うのに姉妹かの様に親しそうだった。



ありがとうございました。


すぐ次に更新します。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  パル君?いやパル君!?  あれだけ格好良い宣誓したのに、脱走してんの!?  メリーちゃん、だいぶ変わったなぁ……まさかの出し抜かれまくっての不憫属性獲得……  皆がおめでたなのを素直に…
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