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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
二度目の元勇者、三度目の元魔王

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一歩ずつ確実に、だけど確かに近づいて


「やっぱり、忍者は本当にいたんだ!」

 キラッキラの目をしたクロスは、VOIDと戦うそれを見る。

 その……覆面タイツ姿の四名の変質し――忍者を。


 彼らは空に浮いていた。

 魔法も使わず、平然と空に。

 何故か?

 それは当然、彼らが忍者であるからだ。


 忍者、それは蓬莱の里に古くより伝わる伝説の戦士達。

 忍者、それは摩訶不思議な力を使い奇跡を成し遂げる守護英雄。


 忍者、それは……ぶっちゃけ絵物語に伝わる御伽噺で、そんなトンチキなもん存在していない。

 もし百歩譲ってそんのがいたと仮定しても、今目の前にいる全身タイツ姿のカラフルな覆面で目立っているトンチキなもんではないはずだ。


 じゃあどうして今クロス達の前に忍者が出たかと言うと……以前蓬莱の里に向かった時、クロスがそう信じたから。

『部外者には秘密にしているが、忍者という最強極秘集団が存在する』

 魔王名代の謎の信仰に里の指導者は微妙に頭を抱え、同時に彼をがっかりさせたくなくて、そうして……ニンジャ部隊なんて物を設立した。

 物になれば儲け物、駄目だとしても外への広報担当にでもなれば良い位の気持ちで。

 だから彼女も、まさかこんな形で彼の役に立つなんて思ってさえいなかった……。


「とうっ!」

 空から、より厳密にいうなら凧揚げ用の『タコ』から彼ら四名は地に降りた。

 無駄に恰好つけた着地ポーズで。

 普通に着地出来るだろうにわざわざかっこつけて無意味なポージングを取る事に女性陣は呆れかえっているが、クロスはやけに嬉しそうだった。


「赤い血潮は正義の証! レッドフォース!」

 決めポーズと共に赤タイツ男の背後に赤い煙の爆発が。

「白き稲妻ここに参上! ホワイトフォース」

 赤の隣でポージングを取り、白い煙が巻き起こる。

「光ある所に影あり、影あるところに闇夜あり。闇夜あるところ我あり。シャドウフォース」

 でんでけでんと謎の楽器の音楽と共に背後の方でポージング。

「冥府に誘う死番のシノビ、死して屍、拾うものなし。グリーンフォース」

 四名揃ってポージング。

 そして……。

「我ら忍者軍団、シノビフォース!」

 トランペットらしき音と共に、彼らの背後で無駄にカラフルな爆発が巻き起こっていた。


「か、かっけー!」

 子供みたいに喜ぶクロスとは対照的に、女性陣は口を閉ざす。

 例えそれが『だせぇ』という偽りなしの本音であっても、その声を届けクロスを傷つけるのは彼女達にとって本意ではなかった。


 とは言え、やはりダサくて、正直クロスの感性がさっぱりわからなかった。


「勇者の諸君! ここは我らに任せたまえ! とぅっ!」

 レッドは叫んで再びタコに乗る。

 じゃあなんで降りたんだよという言葉をメリーは喉元で必死に食い止めた。

 ついでに残り三名もタコに登った。

 十数メートルをひとっ跳びの時点で相当の実力者であるだろうに、何をしているのだろうか。


「忍法……化身曼荼羅の術!」

 レッドが手を印を作ると背後の白いたこに模様が浮き上がりそこから魔法陣が発現し真っ赤なエネルギー体の獅子が出現した。

 星座の点を線を繋げた様なデザインの真っ赤な獅子は地に降り立ち、VOIDをぶちのめしだした。


「は、はぁ!? 何あれ!?」

 それを見たメディは随分素っ頓狂な声をあげていた。

「どしたのメディ?」

「いや、だってメリー。アレ……何? 魔法じゃないわよ」

「え? まじで?」

「まじで。……少なくとも、魔法特有の反応はないわ。魔力は込められているけど……」

「じゃあ、ああいう生物を隠してたとか?」

「ううん。生体反応もない。だから何らかの技である事は確実だけど……魔法じゃない……でも……」

「だから忍法だよ忍法!」

 テンション高くクロスは叫ぶ。

 正体とか本当は何とかぶっちゃけどうでも良かった。


「ついでに言えば、あいつら結構強いわね」

 VOIDをなぎ倒す赤い獅子もそうだが、単純に一度もVOIDに襲われていない。

 あのポージングしていた間も含めて。

 ふざけているが立ち回りはガチだった。


「化身、曼荼羅の術!」

「化身曼荼羅の術」

「化身……曼荼羅」

 それぞれも同じ印を手で造り、化身と呼ばれるエネルギー体の獣を生み出していく。


 それぞれ白い馬、灰色の狼、緑色のカピバラとなっていた。


「……何でカピバラ?」

 とうとうメリーは突っ込んだ。

 他は割と真っ当で比較的恰好良いのに、一頭だけ方向性が何かおかしい。

 しかも他のは稲妻の様な線状のエネルギーで構築された立体絵みたいな感じなのに、カピバラだけぬいぐるみみたいにもっふもふしていた。


「でも、一番強いっぽいぞ?」

 ゴロゴロ転がりVOIDを飛ばしていくその雄姿を見ながらクロスはそう言葉にする。

「クロス的に、ありなの?」

「可愛いのもありじゃね?」

「さいで」

 メリーはもう何も言えなかった。


「さあ、我らに任せ先に行きたまえ!」

「なぁに心配要らぬ。我らはゆっくりと朝餉を終えておいかけるが故な」

「べ、別にあんたの為じゃなくてシノビの命でやってるだけなんだからね!」

「にんにん」


 それぞれ好き放題言ったあげく、好き放題戦いだした。


「……よーくわかった。あんたらただの面白集団だな」

「そんな訳ないだろメリー。忍者だぞ忍者。きっと凄い極秘ミッションとか抱えているんだよ。さ、行こう。忍者の邪魔をしたらいけない」

「さいで」

 メリーはもう、何も言わない事にした。

 色々種が気になってうずうずしているメディをソフィアが引きずりながら、彼らは先の道を進んだ。


 極秘ミッション。

 クロスの手助けをしろと里の長より言われていたから、そこだけは、クロスの想像が当たっていた。




 道を走りながらのいつもの時間。

 空の天使を適当に相手してやって、VOIDとやら殲滅していって、そのついでに困ってる人が居たら助けていって。

 そんな最中。

「ところでさークロスー」

「なんだいメリーさんや」

「そーりんって奴、生き残ると思う?」

 数日前の事をほじくり返し、そんな質問をぶち込んだ。


 メリーの疑問は至極当然と言える。

 なにせどれだけ強かろうと彼が生き残る可能性は限りなく低い。

 独りでは出来る事など、たかが知れているのだから。

 だというのに、補給も出来ず、交代要員もなく、その場に残り戦い続ける様にクロスは命じた。


 そんな事出来る訳がない。


 メリーは当初、生かすつもりがないからの使い捨ての命令であるとさえ思っていた。

 ただ、冷静になって考えてみればクロスがそんな命令を安直に出すとは思えない。

 だから、その意図が今更に気になっていた。


 実際、クロスも処刑代わりにそんな命令を出した訳じゃなく、宗麟なら生き残れるかもと思って出した。

 とは言え、積極的に生きていられる様な命令でもなかったが。


 そうでないと意味がないからだ。

 彼はそういう、ギリギリの死地でなければ生きていると実感が出来ないのだから。


 クロスは知っていた。

 その死と隣り合わせの世界に己を叩きこみ続けたクロスだからこそ、誰よりもその気持ちが理解出来た。


「んー三割……いや、五分五分かなって」

「ごぶごぶ?」

 ゴブリンの真似っぽい行動をしながらメリーは聞き返してきた。

「うぃ。ごぶごぶー。まあ、死んで欲しい訳じゃないからな。実際役に立っただろ?」

「まね。しばらく敵の数減ったし相当戦い続けたんじゃね?」

「だな。後は適当に気を利かせて離脱し生きてくれたら良いんだけど……あの別れじゃ無理だろうなぁ……」

 呟き、クロスは小さく溜息を吐く。


 もしも亡骸でも見つけられたなら、良い墓作って良い酒でも備えてやろうなんて考えて――。


「大丈夫そうですよ」

 ソフィアは微笑みながらそう口に出した。

「ソフィアがわかるって事は……神託か?」

 クロスの言葉にソフィアは頷いた。


 余裕がなく、急ぎの旅である。

 だから彼らは連絡を取る手段を持たない。

 ただし――神を除いてだが。




 本拠点、聖女、そして娘。

 この三地点は神託と神への言伝を届ける事が可能となっている。


 クロノアークという名になった事により出力が向上したその影響だろう。

 今まで以上に神と親密な距離感となっていた。

 とは言え大いなる神との対話である以上問題がない訳ではない。

 完璧からは程遠く、伝言ゲームの様にミスを犯す事もしょっちゅうである。


 ソフィアは伝える能力こそ高いが神の言葉を正しく受け取る能力は低い。

 受信能力が低いのは能力そものが劣っているというより、相性や距離、頻度、準備等といった事情が背景にある。

 簡易でも儀式場を用意しこちらから神託を求めればもっと正確に受け取る事は可能なのだが、そんな物を用意する時間も余裕も今のクロス達にはなかった。


 だから、伝わるのは精々五割程。

 今回の宗麟については、おおよそ二千字の訳わからない暗号染みた神託を解読し『宗麟がアウラと合流した』と言う事だけ判明した。

 詳しい事情はさっぱりだが、無事ではあるらしい。


 クロノアークの大聖堂はソフィアとは反対で、高い神託受信能力を持っているが神に言葉を届ける力が非常に弱い。

 大聖堂の管理者の子供二人に聖剣、そして神魔の王が勢ぞろいし、祭壇含め正しく管理された清浄なる儀礼場にて儀式を行っている。

 神託を受ける為の儀式である為、何時もの様な小難しく堅苦しい謎の神託ではなく、優しくわかりやすくクロノスの声が届いている。


 その反面、個別での繋がりが弱い為神に言葉を上手く伝えられていない。

 そもそも神とは区切られた別の世界に立ち見守る者である。

 聖女ソフィアでもない限り普通はそう安易に声をかける事など出来ない。


 尚、あらゆる意味での例外がヴィクトアリアである。

 アリアはどこに居ようとも女神に声を届けられ、正しく声を受け取れる。

 魔力消費が激しい為常に接続しておくなんて事は出来ないが、それでも他とは比べてはるかに気軽に送受信を行えた。

『娘である事』

『神の因子をその身に宿している事』

 二つの意味で、アリアは神に近かった。


 ちなみにだが、唯一の神、絶対の女神であるクロノスはこの無線機代わりに使われているこの『人にこき使われる現状』を割と喜んでいる。

 元々クロノスは傲慢からは程遠く、気さくで気楽で良くも悪くも神様らしくない性格をしている。

 天使とは真逆の性格をしていると言っても良いだろう。


 辞めても良いのなら神様なんて止めてひがな一日中地上での推しメンツを眺め続けて生きたいなんて考える位には小市民で庶民的である。


 だからこの、神様を顎で使っている傲慢な人間様の現状に欠片も文句はない。

 いや、文句はないどころか『人が今までよりこまめに声をかけてくれる』『人の為に役に立てる』『娘と何度も連絡を取れる』と一石二鳥にも三鳥にもなっていて、喜んじゃいけないとわかっているけど嬉しくなっている位だった。


「と言う感じで宗麟さんは無事合流出来たみたいです。何か言伝ありますか? 上手く伝わるかわかりませんが」

「短い方が良いんだよね?」

「はい。長い文章を伝えるのなら軽くでも儀礼化しますが?」

「いや、そこまではしなくても良いさ。『アウラの言葉は俺の言葉と思え』って伝えといて」

「わかりました。伝わるかわかりませんが……たぶん大丈夫でしょう。……厳しいんですね。クロスさん」

「ん? どして?」

「いえ、パル君に預けませんでしたので……」

 奇札である宗麟をパルスピカに預けず、アウラに託す。

 ソフィアにとってその行為は、苦しんでいるであろう息子のパルスピカに助力しない様に感じられた。

 ただ、逆である。

 苦しんでいる現状だからこそ、パルスピカに宗麟を預けるなんて事出来なかった。

「パルじゃ絶対持て余すだろ。ああいう人の皮を被った刃物は。その手のおかしな奴はアウラ以外に任せられない。馬鹿と刃物はなんとやらってな。……後でアウラには怒られるだろうけど」

「アウラ様に怒られる事も期待してるんでしょ? クロスさんは?」

 ソフィアの言葉にクロスは何も返さない。

 代わりに、にっこりと誤魔化す様な笑みを浮かべておいた。


ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついにピュアブラッドですら教えてもらえなかった忍者が存在するのか問答に答えが!!(*´∇`*) しかも戦隊であるところから彼等はカクレンジャーなのだと理解できました
[良い点]  忍者だぁぁぁああぁぁ~!  やっぱり宗麟生き残ってたか、生ぬるい場所に置いたら実力で生き残るし、絶対的な死地に置かれれば逆境で生き残る確率が飛躍する、マジでやべぇ奴過ぎる。笑 [一言]…
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