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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

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旅を重ねる赤髪少女(後編)


 出来るだけ遠くに……必死に走って逃げて。

 全力ではないにしても、相当速い速度での逃走で、途中男の子の足がもつれそうになったから背負って、赤毛の女の子の手をしっかり繋いで走って走って……。

 エリーが暴走しても問題のない距離まで逃げた後、クロスは一息ついた。


「願わくば……後で怒られる程度の爆発でありますように……あの様子ならガチで爆発しかねないし……」

 そう、クロスは小さな声で呟いた。

「あの、助けてくれて、その、ありがとうございます」

 赤毛の女の子の遠慮がちなそんな言葉。

 その言葉がお世辞交じりである事がわかるクロスは苦笑いを浮かべた。

「そのつもりではあったけど……エリーが暴走してしまってより大げさになってしまって。却って迷惑だったよね? ごめんほんと」

「へ? そんな事ないですよ。困ってたので」

「でもさ、君、強いでしょ? あのチンピラなんか物の数じゃない程度には」

 クロスの言葉に、女の子はぴくっと反応し少し寂しそうな顔をした。

「どうしてどう思いました? もしかして、私の種族とかわかったりします?」

「うん? 確かに俺は擬態しても種族とか割と読める方かな。でも君の種族は良くわからないよ?」

「じゃあ、どうして私が強いと思ったんです?」

「服装だよ」

 クロスはその子の体を見ながら答えた。

「例えばブーツ。君みたいな可愛い子らしくない丈夫で分厚い物。サイズぴったりでいて同時にしっかり足に馴染んている物。例えばゴーグル。使い込まれた痕があって、最近じゃない傷が幾つも見える。そして一番は、そのマント。地味な茶色で、薄汚れていて。でもさ、他の服装よりも遥かに上等な物を使っていて、しかも丁寧な手入れが行き届いて見える」

 冒険者にとって、長旅を繰り返す者にとってマントとは第二の肌であり、最も頼りになる友である。

 傷を防ぎ、汚れを防ぎ、熱を防ぎ、寒さを取り除く。

 マントに幾ら金をかけるかで冒険者としての質が見えると言っても良い位だ。

 そしてそういう意味として言えば、この子は間違いなく、冒険者と遜色ない程に旅慣れしている様子。

 生前のクロスが出会った一流の冒険者達と比べても良い位には、彼女は優秀そうだった。


「少人数、場合によってはたった独りかな。それで旅を続けているんだから弱い訳ないね。でもあいつらに逆らわなかったからあまり話を大きくしたくなかった。それなのにちょっかいをかけて物事をややこしくしたから、ごめんね本当」

 そう言って、クロスはぺこりと頭を下げ……そしてそっと、少女の顔を見つめる。

 その顔は、太陽の様な、びっくりするほど良い笑顔を浮かべていた。

「かっこよ! なにそれ服装とかで相手の実力を判断するとか実力者みたいで超かっこよ! お兄さん顔だけでなく立ち居振る舞いもかっこよ!」

 何故かテンション高く、さっきまでのが猫かぶりであったとわかる程女の子は盛り上がっている。

 クロスの肩の上にいる男の子も、ぽかーっとした顔をしていた。


「あと実力を見て強いって言ってくれたのが超嬉しい! 初めてだもん。ちゃんと私を見て強いって言ってもらったの。ふふ。ついでに気にしないで良いよお兄さん。どうせ大事になっていただろうし。それにあのめっちゃ綺麗な金髪美女さんが怒ったのってお兄さんの為なんだし」

 女の子はにへらーと笑いながらそう言葉にした。

「……んー。何と言うか……まっすぐ褒められるって照れるね。しかもこんな可愛い子から」

「お兄さんかわよ。ってあれ? もしかして私口説かれてる?」

 まんざらでもなさそうな顔で、彼女はそう言葉にした。

「いや。まだそんな気はないから安心して良いよ」

「まだって事はそうなるかもって事なのかな?」

「そりゃ可愛い子にはモーションかけたくなるってのが男の性だし。とは言え、あまり声かける訳にはいかないけどね」

「どして?」

「俺、ハーレム希望だからさ。そういうのがオッケーな種族以外だと嫌がる子多いでしょ? ところで君はどう? もし良いならモーションかけちゃうけど。一夜のアバンチュールでも可」

 外見と異なり中身は成熟していると判断したクロスはナンパ代わりにそう声をかける。

 それに女性は嬉しそうにしながらも少し困った顔を浮かべた。

「私だけを愛されるのでも私は嬉しいのに……ハーレムの中に私が入るなんてそんな夢見るのは駄目かなーって」

「……ん? 普通逆じゃない? どゆこと」

「残念! それ以上私の事を聞くには好感度が足りません。かっこいいだけじゃダメですー」

「ちぇー。んじゃ好感度稼いでからまた尋ねるよ。じゃあさ、その代わりに一つ教えてくれない?」

「ん? 何何?」

「俺の名前はクロス。クロス・ネクロニアだ。君の名前は?」

「……おお! 名乗ってなかったね。私の名前は……アンジェリーナ。流れのアンジェリーナ。アンジェって呼んで。かっこいいクロスおにーさん」

「ん。わかったよアンジェちゃん」

「おおう……ちょっとトキメクちょろい私。んで話変わるけどさ、私も一つ聞いて良い?」

「何でもどうぞ?」

「さっきの金髪美女さん。どしてお兄さんの為にあんなに怒ったの?」

「うん。エリーは俺の騎士だからさ。俺が馬鹿にされるのは許せない事だったらしい。こんな程度の俺なのにね。もったいないよ本当」

「……めっちゃかわよ。え? あんな大気が豹変するほど怒るの? あんな綺麗な顔の美女さんが。男の方の為に。なんかそれ超かわよ! お兄さん愛されてるんだね!」

 そう言ってアンジェはパンパンとクロスの背を叩く。

「はは。そう言われるとどこかこそばゆいものがあるね」

 そう言ってクロスは照れ笑いを浮かべ後頭部を掻いた。


 丁度そのタイミングで、クロスはぺしんぺしんと頭を軽く叩かれ、上に意識を向けた。

「あの、そろそろ疲れも取れたので下ろしてくれない? というか、僕の事忘れてなかった?」

 おぶわれた子供はジト目でそうクロスに尋ねる。

 クロスは誤魔化し笑いを浮かべた後、そっと男の子を背中から下ろした。




「それで、おにーさんはこれからどうするの? 私はこの子を親御さんの元に届けて来るけど」

 それが当たり前だと考える辺り、相当良い子だーと思い微笑ましい目をクロスはアンジェに向けた。

「ああ。出来たら付いて行きたいけど……そろそろ、戻らないといけないでしょ」

 そう言ってクロスは未だ暗黒の空気が渦巻くエリーの方に目を向けた。

 爆発したり燃えたり雷が落ちたりはしていない。

 それどころか、恐ろしく静かなまま。

 だからこそ、逆に何が起きているのか考える事すら恐ろしかった。


 その答えを聞き、アンジェは少し残念そうに頬を掻いた。

「あはは。そりゃそうだね。でもちょっと残念」

「何が?」

「この子を送った後おにーさんとちょっとお話したり一緒にどこか行ったり……ま、デートしたかったなーと思ってね」

「……そりゃ本当に残念。アンジェちゃんとデートがなしになったなんて考えるだけで悲しくなるよ」

 実際ここまで初対面で好意的な相手なんて会った事がなく、しかもいけるかもと思える程度に良い感じだから、クロスは本当に泣きたくなっていた。

「あはは……またまた。ま、そういう事で、また今度会ったらお兄さんから話しかけてよ。それで時間があったら、どこかでお話しよ? それとおにーさんには悪いけど私はあの金髪のきれーなおねーさんともお話したいかな」

「オーケー。俺らもまだしばらくは蓬莱の里にいるから。次会ったら一緒に歩こうか」

「はーい。その時はよろしくね、おにーさん。じゃ、いこっか?」

 そう言ってアンジェは男の子の手を引き、街の奥に消えていった。

「いやぁ。可愛い子とお話するってのは本当潤うねぇ。生前ではここまで気楽で気さくに話なんて出来なかったから尚の事だ。……といった現実逃避は止めて……行くか」

 心配一割怖い物見たさ一割、そして残り八割の不安を抱え、クロスはそう呟いて、エリーの方角を見つめ溜息を吐いた。



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