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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
二度目の元勇者、三度目の元魔王

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スリーエス


 輝く銀騎士は背面の小さな機械金属羽(スラスター)を稼働させ空を機動する。

 短いブーストを繰り返し直線的に稼働するそれは既存の自由に飛ぶ天使と比べ大分劣っている様だった。

 だが……だからこそメディはその姿に、行っている事に驚きを覚える。

 ハイテクな飛行手段に見えるが、行っている事自体はローテクの極みであった。


「……凄いわね。アレ」

 魔法の専門家であるからこそ、その異質さと発想力を誰よりも理解出来ていた。


 銀騎士が行っているのは魔力振動を意図的に放ち、それを推進力とする技法である。

 魔力振動自体はどんな魔法を使っても発生する、単なる現象である。

 魔法を扱った際使用しきれなかった余剰魔力、つまりロスが原因で発生する現象。

 だからそれそのものは大した事ではない。


 問題は、その本来はロスでしかない魔力振動を飛行に使おうなんて発想を行っている事の方。

 銀騎士が行っているのは、微細な振動を完全に把握するという事。

 それは同時に、魔力という現象の完全解明と完全掌握を為したという事である。


「メディはアレ、出来ますか?」

 アウラの質問にメディは首を横に振る。

「練習してみない事には断言は……ただ、正直言えばイカレてるとしか思わないわ」

 技術的な意味だけで言えば、あり得ない程に簡単である。

 魔法でさえないから魔力が僅かでもあればちょっとした訓練で同様の事象を誰でも起こせる。


 なにせ大本は魔力管理が杜撰過ぎるが故の失敗と同様の現象なのだから。


 だが、アレの凄まじい所は暴発とも言えるその事象を、完全にコントロールしているという点にある。

 爆発の規模とその指向性を、一切の誤差なく完璧に常時操作し続けるなんてのははっきり言って不可能に近い。

 それを、あの銀騎士は平然と実戦で行っていた。


 簡単すぎる飛行理論。

 人では管理しきれない魔力掌握。

 どちらも、あまりにも異質過ぎた。


「あれ、大分見た目違うけど……」

 メリーはぽつりと呟く。

 その正体に思い当たるフシがある……というより、他には候補すらない。


 薄っすらと、印象程度である。

 だが、空中機動を繰り返す銀騎士はクロスが持ち帰ったヨロイのフィギュア、それの面影を持っていた。




 先進の技術で造られた次世代のヨロイ、その基礎形態。

 機人集落からのプレゼントで貰った、ちょっとしたお土産。

 それは間違いなく文明の壁を越えたテクノロジーである。


 だがそれは言う程に特別な物ではない。 

 数か月前ならともかく、今の状態では。


 そのヨロイはあくまで『次世代のヨロイ』であり、それ以上でも以下でもない。

 つまり、完全にコピー出来たと仮定しても、魔導機文明の遺物である天使には到底及ばないという事である。

 

 更に言うならば、完全なコピーさえ不可能である。

 なにせこれはあくまでフィギュア。

 造形関連はスケール以外完璧であっても、ヨロイに本来含まれている内部機構は完全に空である。

 完全に復元する為には、それを操作する頭脳やそれに伴う制御関連全ては、自作しなけれならなかった。

 それは魔導機文明でもなければ純粋な機械技術でもない。

 今の時代の魔力文明の垂井を集めた最新技術……を更に発展させた物を要求されるという事。

 マリアベルの専門でないそれを用意する事は不可能である。


 特に克服しなければならない大きな問題が、次なる二点。

 飛行関連と、それに伴う搭乗者問題。

 飛行技術は用意された次世代ヨロイに含まれない技術であるが、それがなければ天使とは戦いにさえならない。

 しかも、搭乗者という極大の余剰重量を抱えながら。


 この問題は、マリアベルがあらゆる手段を講じても最後まで克服出来なかった問題であった。


 その二つを含めたすべての問題を、アウラが『とある手段』を持って克服し、そして更に改良まで加え天使にさえ相対出来る兵器にまで完成度を上げた。

 それこそが、この銀騎士である。


「名前は!? な、なな名前は何て言うだこいつの!?」

 動く姿に興奮し、叫ぶクロスにアウラは気圧され狼狽える。

 ついでに言えば、とある事情からクロスには名前は隠しておきたかった。

 少なくとも、アリスを殺し戻ってくるまでは。

「な、名前ですか……。では、シルバーランスナイト(銀槍の騎士)とでも……」

「槍ないぞ!? まさか変形して槍を持つのか!?」

 わくわくしながら、クロスは空を舞うそれを見る。

 そんなクロスの様子にアウラは、槍を持たせなかった事にちょっとだけ罪悪感を抱いた。




 高速飛行とは言え直線起動のみで、天使程の自由度はない。

 つまり……狙い撃ちはそう難しくないという事である。

 

 天使の集団、その内騎士に近い数十機程が一斉にライフルを向け、照射する。

 連射式の無数の光弾。

 その全てが同じ場所、騎士の次なる移動ポイントに置かれる。

 既にブースト後である為避ける事も叶わず、その光は――騎士に直弾する。


 激しく炸裂する閃光。

 その光の奥から騎士は堂々と姿を現し、突進。

 そして、左手甲より生じるエネルギーブレードにて天使の翼を裂いた。


『ラミデュエラル装甲』

 その銀色の装甲は、マリアベルの発明の完成品の一つ。

 完成したのはつい最近。

 ソフィアが無数の光弾に見舞われ、女性として見るも無残な背中となった時。

 それが最後の資料として、その技術は誕生した。

 量産性のない完全新規の特殊装甲。


 効果自体はとても単純で、『光』と『熱』の両方を遮断する。

 本当にそれだけ。

 つまり、天使が持つライフルの完全対策装甲である。


 無数の光弾をもろともせずに騎士は空を舞い、再び天使の正面に立つ。

 そして静かに、まるで儀式かの様に右拳を腹部に押し当てた。


 ドスン! と、鈍い音が一つ。


 銀騎士の右腕から何か細いパーツが射出され、天使はビクンと体を震わせてからそのまま動かなくなる。

 堕ちていく天使の腹部には、巨大な銀色の杭が突き刺さっていた。


 その後も直線状に空を飛びながら、二つの武器を扱い数機の天使を騎士は落とした。

 左腕のエネルギーブレードと右腕のパイルバンカー。

 それだけが、騎士の持つ武器であった。


 更にクロスのテンションは高まり、目が星の様になっている。

 パイルバンカーが槍かと勘違いをしながら。


 外見の派手さと異なり、銀騎士は効率的な事しか行っていない。

 なにせこれはこう見えても扱いはアウラ直属の部下に相当する。

 浪漫とかそういう要素は完全に無視し、ただただ出来る事出来る様にしかしていない。

 つまり、単なる作業である。


 とは言え、パフォーマンスの要素がないかと言ったらそうでもない。

 もちろんそれは、クロスに見せる為ではない。

 銀騎士は見下し舐め腐る天使共の注目を集めるただそのの為だけに、わざと暴れ回っていた。


 そして十分注目が集まったのをアウラは確認し、右手を上げて次の指令を出す。


 突如として騎士は地面に着地し、地面の中に手を突っ込んだ。

 そして地面から、『細長く巨大な何か』を重苦しそうに引き上げる。


 長さおよそ八メートルで持ち手が横にあるそれは攻城兵器の様でもあれば騎乗槍の様でもある。

 鎧と同様の銀色の、美しい突起物。

 その威圧感やサイズ比から槍というよりもむしろ()()とかそっちの方が近いかもしれない。

 その良くわからないけど恰好良い何かを両手で持ち構え、先端を天使の集団に向けた辺りで、ようやくそれが銃の類であるとクロス達は理解した。


「クロスさん。そろそろですよ」

 アウラはそう言葉にする。

 その意味を理解し不満そうな顔をするクロスの腕を、メディが抱きしめ掴む。

 無理やりでも引っ張るという意思を見せる為に。


 そして、銀騎士からそれが放たれた。


 もう少し、スマートな攻撃と思っていた。

 天使みたいな光の攻撃とか、何か綺麗な魔法とか。

 そういったファンタジックでヒロイック的な物が出るとクロスは想像していた。


 だけど、それはどちらかと言えば、暴力的なまでの爆発であった。

 爆発に指向性を持たせたとか無数の大砲を同時に発射したとか、そういう類の物。

 極めて頭の悪い兵器であった。


 銀色の筒から巨大熱量が放出され、砲身は耐えきれず先端から解け崩壊が始まっていた。

 それに伴い巨大な、やたらと巨大な火炎放射がまっすぐ直線状に走っていった。


 超巨大熱量の一発。

 たった一度しか使えない兵器。

 それは、ミリアが残していった龍爪炸裂弾にメルクリウスの龍血を突っ込み更に魔力を濃縮させ撃ちだすという、理論もへったくれもないただただ頭のおかしな兵器であった。


 そうして光に等しい炎が消えた後には、天使だらけの空に巨大な風穴があいていた。

 アウラが即座に合図を出すと、メディは名残惜しそうに騎士を手を伸ばすクロスを引っ張っていく。

 そして全員で、その包囲網の先に逃げていった。




「……何とか、隠す事が出来ましたね」

 立ち去ってから、アウラは小さく安堵の息を吐き額の汗を拭う。

 クロスのモチベーション維持もまた、アウラが自分に課した役割の一つであった。

「何故だ……。何故、何故『それ』から天使の反応がある!? それは一体何だ!?」

 天使の誰かがアウラに向かいそう叫んだ。


 本当に一手差であった。

 もう少し早くそれを言われたら、クロス達にバレていた可能性が高かった。


 いや別にばれても問題はない。

 非道な事はしていないのだから。

 ただ、バレたらバレたでせっかくの憧れが台無しになるというか、モチベーションが落ちるというか……。

 つまり……。


『それは我らが彼女と契約したからです』

 銀騎士の声が響く。

 それは女性の声であった。


 そして……その声には、何機かの天使は聞き覚えがあった。

「この声……この波長……こいつ、あの悪名高い変態天使の『アザゼル』だ!」

 そう、それが答え。


 この銀騎士の正式名称は『極地用近接機3S(スリーエス)』。

 単純に、三人の姉妹を表す。

 尚『愛の守護像トライエル』を自称しているが誰にもそうは呼ばれていない。


 何故、マリアベルでさえ不可能なはずの発明を完成させ実用化まで出来たのか。

 どこにこの未完成兵器を動かす頭脳があったのか。

 どうやって搭乗者なしというあり得ない事を実現出来たか。

 そして、どの様にして足りない戦闘力を確保し天使を倒す機械を造れたか。


 その答えが、全てこの一点。

 不可能であった事象全て、中にあるアザゼル三姉妹の頭脳を使う事で解決している。


 肉体ではなく、回路のみを積む事で軽量化に成功。

 しかも機甲天使三機分のスペックにより完全な制御も可能。

 その上で天使相手に知識差で負ける事もなく、役割も理解している。


 完璧な、文字通り完璧な兵士であった。


 アウラはその姿を見て微笑んだ。

 ――なんとまあ、可愛らしい事かしら。敵も……味方も。


 現在、最強と良く言われる種族は二つ。

 ドラゴンとピュアブラッドである。

 これ以外にも強い種族は大勢いる。

 ただ、この二種族ははるか昔から強大であったと語り継がれていた。


 また太古の昔には魔人と呼ばれる魔物最強の種族も居たと言われている。

 サキュバスという存在は災害として認定され今でも絵本で子供達に脅威を知らしめている。


 そういった強いとされる種族は同時に危険視もされ、悪名も語り継がれる。


 一方、かつて魔物世界には『悪魔』という種族がいた。

 今でも生き残りはいるが、もうほとんど滅んだと同じ存在である。

 少なくとも、種族としては滅亡したと言い切っても良い。


 彼ら悪魔は強大な力を持ち、また悪という名にふさわしい程に悪意に満ちた種族であった。

 彼らによって悲惨な時代が生み出された事もあった。

 だけど今彼らの事を知る者はほとんどいない。

 どうでも良い物として、居たとされる事さえ風化されてしまっていた。

 歴史家さえも忘れるという程に。


 かつて強かったという意味なら魔人の様に一部で語り継がれるし、かつて恐ろしかったというのならサキュバスの様に危険視される。

 こんな風に忘れられる事などあり得ない。


 その理由を、悪魔の欠点をアウラは知っている。

『悪魔は、嘘がつけない』

 たったそれだけなのだが、その一点があらゆる強さを、悪辣さを台無しにした。

 恐れられたのは最初の数百年だけで、滅ぶ手前では弱小種族からさえも食い物にされた。


 そして天使は、悪魔と同様の欠点を持っている

 彼女達は悪魔の制約と異なり、全く嘘が付けないという訳ではない。

 だが、既存の種族と比べてあまりにも心が弱すぎる。

 人と比べ何倍も嘘までハードルが高く、そして敵相手であっても嘘を付くつもりさえない天使達。

 それは策略家であるアウラにとっては、もはや単なるカモでしかなかった。


『我らの願いを聞き届けてくれた。我らの願いを受け取ってくれた』

『我らと約束してくれた。彼女は我らと契約し褒賞を約束してくれた』

『約束の地を我らに与えると誓った。人を害する羽虫の身を捨てる事など、その約束に比べたら些細な事。むしろお前達の様な愛なき者と一緒だったという事に虫唾が走りますね。虫だけに。虫だけに』


 それぞれ異なった三つの女性の声が、銀騎士の中から響く。

 幾ら姉妹とは言え、天使の肉体を捨て一緒の体になるという事は、脳回路が直接接続されるという事は、相当に悍ましい事であった。

 だがそれでも、躊躇う事はなかった。

 アウラはそれだけの人参をぶら下げていた。


「ここから先は殲滅です。私も戦うので少しでも早く削り切って下さい」

『了解です。マスター。我らの夢の為に』

 銀騎士はそう答え、アウラと共闘する。


 空を埋め尽くす天使を見て、せめて五十時間位で終わってくれたら良いなぁ……なんて考えながら。


 ちなみにアウラと三姉妹の契約だが『同性愛を好む者のみの国を創りそこの守護者とする事』なんて内容である。

 土地はこの戦争の所為で余りに余っていて、人手はどこまでも足りず、魔物の中には同性恋愛がメインで子を残せる種族も大勢いて、そもそも性別なき者もいる。

 こんな状況である為、元魔王であるアウラにとってそのお願いは児戯よりも容易い事であった。


ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  本来は『ロス』でしか無いのを、活用してるのか……いやどんな原理だよ。  ってかロスを制御出来るなら回収も出来るから殆ど永久機関じゃん……  人類の命題の一つ成し遂げた……?マリアベルの技…
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