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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
二度目の元勇者、三度目の元魔王

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最大の功労者


 ゴロゴロと退屈を謳歌するメリーの病室に、控えめなノックの音が訪れた。


 丁寧で、静かで、それでいて呆れる程に正しい礼節。

 ノック一つでそれがわかるというのは聞く方もだが行う程もよほどである。

 疲れる程の堅苦しい作法に『相変わらず堅苦しいなぁ』と苦笑しながら、メリーはドアを開け彼女を歓迎した。


「どうぞどうぞっと」

「はい。ありがとうございます」

 がちゃりと開かれるドアの向こうでそう答え微笑み、アウラは導かれるまま病室の中に。


 そっとドアが閉まるそのズレたタイミングとアウラの背を見て、メリーは一瞬眉をひそめたがすぐ元に戻した。


 アウラが椅子に着いたのを見て、メリーは即座に紅茶を用意してみせた。

 事前に準備をしていた様子なんてなかったし、何なら紅茶を淹れる設備も施設もこの病室にはない。

 それなのに、湯気が立つ完璧な状態で用意された紅茶。

 それを見てアウラは苦笑する。


「相変わらず訳がわからない。もはや魔法ですね」

「残念ながら魔法は使えないのよね。それで、貴女お砂糖は幾つ?」

 メリーはアウラではなく、わざとらしく虚空に向かい意味深な笑みを浮かべそう言葉にしてみせる。

 ここに居るのは二名なのに、カップは三つ用意されていた。


 言い逃れ出来ない程完璧に見抜かれ、素直にレティシアは姿を顕わにした。

「つまんないわ。もう少し驚いてくれても良いじゃない」

 無表情で、だけどどこか拗ねた様子で。

 その様子にアウラは苦笑いを浮かべた。


「そういうのはもっと素直な奴らにお願いして」

「外見だけは誰よりも素直じゃない」

「外見通りならこのタイミングでアウラ様がここに来る訳ないっしょ。そんで、今日はおいくつな気分なの?」

 普段砂糖を使わないアウラの紅茶に砂糖を二杯。

 頭脳労働として砂糖を求めるアウラが今望んでいる適量を入れてから、メリーはそう尋ねた。


 会話と顔色、それとちょっとした仕草で相手の好むお茶の濃度や温度、砂糖の個数が把握出来るなんてちょっとした特技をメリーは持っている。

 それでも、レティシアにはそれが通用しない位に気分屋であった。

「……ぐうの音も出ないわ。今日は砂糖がいらない気分かしらね」

 そう言って、諦めた様子でレティシアは席に着いた。


 レティシアの言う通り、メリーが本当に外見通りの幼い性格であったのならこの場は開かれていない。

 わざわざアウラが素の顔を見せに病室に訪れない。

 バッカニアの実質的な支配者であるアウラと実質的なフィクサーであるメリー。

 彼女達が集まるこの会合は言わばバッカニアの未来を……いや、全世界の未来を決める場と言っても過言ではないだろう。


「それで、レティが居るという事はそう言う事なの?」

 メリーはそう尋ねると、アウラは小さく頷いた。

「はい。ですから、貴女の体調を確認に来ました」

「にゃるにゃる。ん、あと一、二週間って感じよ。私の退院まではね」

「それはメリーの体感でですか?」

「いや、私的にはもう全然元気よ。医者の見立てで。最短で一週間長くても三週間で完治だとさ」

「なるほど。まあ、悪くないタイミングです。その位は待ちましょう。……ただでさえイレギュラーがあるんですから」

 アウラの言葉が何を示しているのか、メリーにはわかっている。


 同じ病院にいて、だけどメリーと異なり治療どころか意識さえ未だ目覚めないシア。

 彼女が使えない事は、いや安否が不明な事は実情だけでなくメンタル的にも非常に大きなイレギュラーであった。

 兵士達の士気や街の治安。

 それも大きいが、クロスの精神的にも。


 それは、いなくなって初めてわかるという奴だった。

 シアがいるのといないのでは、城下町の空気が全く違う。

 治安は悪化していない。

 シアの部下達が頑張っている。

 民も別に悪い事は考えていない。

 ホワイトリリィを筆頭に皆が出来る事を探している。

 それでも、シアが居た時なら、彼らはこんなどんよりとした顔を見せていなかった。


「レティも悪いね。私達性悪に付き合わせてずっと迷惑かけ続けて。本当ならもっと色々な人と青春っぽい事がしたかったでしょ?」

 メリーの言葉にきょとんとした後、レティシアは首を横に振った。

「いいえ、これはこれで悪くなかったわ」

「おや、寂しくなかったの?」

「退屈ではあったけど、貴女達とお話する時間は沢山あったから寂しくはなかったわね」

「それこそ尚苦痛だったでしょ。私達のお話ってのはそのもの政とか謀とかそっち系ばっかだった訳だし」

「それもそれで悪くなかったわよ。必死で、熱を感じられて。案外可愛らしいなんて思っていた位よ」

 アウラが冷酷なのは、メリーの指摘が鋭いのは。

 それはそうしなければ護れないと知っているからである。


 仲間に嫌われても、憎まれてもやるべき事をやる。

 死ねという命令を部下に下し続ける。

 それは紛れもなく、レティシア好みの『熱』であり『愛』だった。


「そ。まあ、不服な評価だけど甘んじて受けましょう。極秘ミッションを課して今日までずっと外部とほとんど接触出来ない様な状態で頑張って貰っていた訳だし。お詫びという訳じゃないけど、功績だけはちゃんと評価するから。ね?」

 メリーの言葉に、アウラは頷く。


 むしろ、評価しない訳にはいかない。

 レティシアは今戦争の最大功績者であるのだから。




 アウラとメリーが一緒に居るという事はそう珍しい事ではない。

 メリーは元々アウラ直属の部下であり、また同時に策略めいた事が出来る数少ない腹黒(同志)であるからだ。

 国として悪い事をするのならば、この二名はベストパートナーと言っても決して過言ではない。


 じゃあその腹黒ティーパーティーにどうしてレティシアがいるのか。

 それは単純に、彼女にしか出来ない事があったからである。


 アウラとメリーに押し付けらえた、大変面倒な極秘ミッション。

 その所為でレティシアはこれまでほとんど戦闘に参加出来ず、他者とマトモな交流が取れず、ただただ延々と繰り返し移動させられ続けた。


 そう、依頼内容は移動。

 レティシアは今日までずっと、ほぼ休みなくただただ移動を繰り返し移動し続けていた

 文字通りずっとである。

 倒れるギリギリまで不眠不休で、倒れても無理やり体力と魔力を回復させて、転移魔法を使い続けて。

 このメリー、アウラとの場で平然としているが、それは単純なやせ我慢である。


 転移魔法は天使に妨害され、使えない。


 だがそれは天使勢力全盛期の話であり、ナンバーズを失った現在転移阻害はほとんどなくなっている。

 それを一早く察したのがメリーである。

 そしてアウラと相談し、阻害効果の移り変わり、転移阻害が減少するタイミングに合わせレティシアに調査依頼を出した。


 レティシアはどこで転移阻害があったか、いつまで転移阻害があったのかを実際に転移をしながら調べ続けた。

 アウラとメリーはマップに阻害が確認された場所を日付事に記し確認、比較を繰り返す。

 その地道な作業をひたすら繰り返し、そして今日この場に三名が揃ったという事は、レティシアが転移する必要がなくなったという事は……つまり、そういう事。


 アウラはとんと、マップを一枚をテーブルに置く。

 ここからはとても離れていて、そして何もないはずの場所である。

 いや、何も置けないと呼ぶほうが正しい。


 魔王国の領地でもなければ人間の領地でもない。

 魔力の流れが不安定で半径数十キロ規模で異常気象が続いている……はずなのだが、近くに居たレティシアは特に異常を感じず平穏な天候だったらしい。


「相当広い空間だったからレティには迷惑をかけました。ですが、その成果はあったかと。他に候補はありません。ここだけです」

 アウラはそう断言する。


 何度も計算を重ねた。

 出て来た回答が正しいか何度もチェックした。

 それでも、答えが変わる事はなかった。


 ダミーも偽装もない。

 ここが、最終攻略地点。

 つまり……アリスが居る場所。


「……それで、どう動くつもり? 悪いけど、私はあまり役に立てないわよ?」

 レティシアの言葉にアウラは苦笑した。

「これ以上貴女を酷使するつもりはありません。色々な意味で」

 単純に苦労掛け過ぎたから休んで欲しいという気持ちはある。

 だけど同時に、為政者としてこれ以上レティシアに功績を稼がれたら不味いとも考えていた。


 アウラやメリーがクロス達と視点が大きく異なる点の一つに、戦争終了後も考えている事にある。

 ただ勝てば良い訳ではない。

 むしろ彼女達にとっては、戦いが終わった後の方が本番であるとも言えた。


 現時点で、レティシアの功績一位はほぼ確定している。

 例え単独でアリスを倒したとしても、レティシアにはまだ及ばない。


 敵本拠地を単独で、世界中を移動して探し当てたのだ。

 彼女が一位でなければ誰が一位となるのか。


 その上で外征部隊での戦果まで稼がれたら確実にパワーバランスが崩れる。

 それこそ、国を割る恐れがある程に。


 レティシアにそのつもりがない事はわかりきっている。

 彼女はそこまで国政に興味がなく、またそこまで愚かではない。

 聡明であるからこそ、彼女は己の欲する熱を持つ人々を愛するのだから。


 だけど、レティシアを担ぎ上げる馬鹿がいないとは言い切れない。

 いや……確実に、レティシアを祭り上げる馬鹿が出て来るとアウラは自身の経験から断言出来た。

 そしてその結果何が起きるかと言えば……身内を政争に利用された事をピュアブラッドが知り、激怒からの粛清祭り、最悪の場合は国家戦争。

 そこまで想像出来てしまうから、レティシアをこれ以上使う事が出来なくなっていた。


 とは言えそれは勝てると見越した上での考えである為、最悪の場合は後先考えず酷使する事になるだろう。

 クロス含め自分達全員が死んだ後という、本当に最悪の場合、その最後の切札がきっと彼女となる。


「つーかさ、ここまで来たら私達だけがやる事ってもう終わってるよね?」

 メリーはそう口に出す。


 余力が残っている内に最終決戦の準備を整える。

 それが、メリーとアウラの策略家としての最後の仕事。


 ここから策略家ではどうにも出来ない。

 この先の仕事は軍人であり、英雄であり、マッドサイエンティストであり王である者達の仕事。

 アウラ達の仕事はそんな彼らの道標を用意する事に過ぎなかった。


 まず、『バッカニアを護る』者達。

 拠点であると同時に避難地区。

 ここが落ちたら文明そのものが崩落する。


 次に、『世界を護る』者達。

 ここから先は敵の目を反らす為と、仲間を増やす為、バッカニアだけでなく周囲にまで手を伸ばさなければならない。

 いうなれば、支配地域の奪取である。


 最後に、『敵拠点に突入』する者。

 突入部隊が最も重要だが、最も優先度を下げなければならない。

 国防と地域奪取には出来る限りの数が必要となるから、最少人数、つまり一騎当千の(強者)を選りすぐって送り込まれる。

 それが誰かと言えば即ち……。


「それでは、作戦会議に<彼>を呼びましょう」

 アウラはそう、口にする。

 具体的にそれが誰かを敢えて口にする必要がない位に、それは当たり前の事であった。

 

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  そう言えば途中からレティ全然出て来なかったがなるほど、アリスの拠点探してたのか……  確かに、『一人で』『世界中』探し回ったのなら、その功績は絶対的に揺るがないものだな。 [気になる点]…
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