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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

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旅を重ねる赤髪少女(前編)


 クロスは不穏な空気をした所に近づいてみて、何となく事情を察する事は出来た。


 鬼やら獣耳やら全身緑色やらの魔物の男五体に囲まれる、赤い髪の少女。

 ちょっとボーイッシュで()()()()そうなイメージが持てるその容姿に、この里らしくない動きやすそうな服装。

 そんな元気っ子は泣きそうな顔をする小さな鬼の男の子の前に庇う様に立っていた。


 足元には落ちた団子。

 囲む男の着物についたタレの汚れ。

 泣きそうな子供とそれを庇う可愛い……いや、とても可愛い女の子。

 まあつまり、そう言う事なのだろう。


 男達の方に正当性があるかもしれないのだから、もう少し様子見しても良かった。

 良かったのだが……男達の視線が小さな子供の方にでなく庇う方の少女に向いていて、しかもその目には非常に不愉快な色が宿っている。

 ならば元勇者として、困ってるのなら助けなければ……というのは建前。

 クロスとしての本当の心は、その本音は、可愛らしい元気っ子が困っているから勝手に体が動いた。

 実のところ、ただそれだけの事。

 底が深そうに見えて、びっくりするほど底が浅い。

 それがクロスという男の性だった。


「謝ってるのだから良いじゃないですか。こんなに怯えてるんですよ?」

 そう、髪の赤い少女は言い聞かせる様にたんたんと言葉にする。

 それが無駄だとわかっていても、正論を言う事しか少女は出来なかった。

「ガキだからって何でも許されるわけがないだろうが。あ? そこまで言うなら、てめぇが弁償すんのか?」

 そう言いながら、鬼は自分の着物の足辺りを指差す。

 そこには五センチ程醤油タレの染みが付いているだけで、言う程大げさなものではなかった。


 男はニヤニヤしたままその染みを指でぬすくってから自らの股間につけ、よりにやついた、小馬鹿にするような顔となった。

「嬢ちゃんが舐めとってくれても良いぞ? 俺達は優しいからそれで許すか考えてやっても良いぞ?」

 仲間の男達はゲラゲラと品なく笑った。

「許す気ない癖に―」

「馬鹿が許すに決まってるだろ? ちゃんと全員、満足させたらな」

 その言葉に、男達は再度、大声で笑う。

 その様子を見て少女がはぁと小さく溜息を吐いた。


「ご、ごめんなさいお姉ちゃん……」

 震える様な、かすれる声でそう声をかける子供。

 罪悪感いっぱいで、震えて、それでも怖いから独りになりたくない自分が嫌で……。

 そんな、もろもろをため込んだ子供に少女は優しく微笑みかけた。

「大丈夫。君は何も悪くない。最初にすぐごめんなさい出来た時点で、君に罪はないよ」

 そう言って、少女は子供の頭を撫でた。


「はぁ? 悪いに決まってんだろ。ごめんで済むんだったら俺に泣き寝入りしろってか? あ? そこまで言うんだったらお前が俺の着物代払ってくれるんだろうな?」

「んー。あいにく持ち合わせがあまりなくってねぇ」

 その言葉に男達は怒るそぶりを見せず、むしろ好都合とばかりにやけた笑みを浮かべた。

「んじゃ、その分働いて払ってもらおうか! そのちっちゃな体でよ! おら、こっちに来な!」

 そう言って男は強引に腕を掴み、引っ張る。

 その腕は、恐ろしい程に少女らしくない、ふとましい腕だった。

「きゃー。何するのよー。ちかーん」

 男に腕を引っ張られながらくねくねとし、裏声でそう叫ぶクロス。

 その様子に、男達だけでなく少女までもが茫然とした間抜け面を晒した。


「は? ……いや、てめぇ誰だよ!」

 我に返った男は腕を振りほどいてそう叫び、同時に周囲の男達はクロスに向かって睨みつけ、腰の得物に手をかけた。

「んー。ただのお節介かな。ここは俺がその着物の分金を払う。それで良いだろ?」

「良いわけねーだろ!? 関係ない奴は消えろ!」

「だってさ、関係ない君達は消えて良いらしいよ」

 そう言ってクロスは少女と子供の方に声をかける。


 怯えた様子の子供と、訳がわからないという様な表情をする少女に、クロスは微笑みかける。

 この期に及んで、この状況であっても、クロスが考えた事は。

『あ、思った以上に可愛いなこの子』

 という頭の悪い感想だった。


 人間でなら十代後半位。

 若々しくはあるけれど、大人の色気も帯びて、愛くるしい外見。

 はつらつとしていて元気の溢れていそうな印象の外見に加えて、子供を安心させるときに出した声は優しく、甘かった。

 とりあえず良い格好し終わった後にナンパでも出来ないだろうか。

 そうクロスは考えたのだが……おそらく無理だろう。

 今の少女の様子を見てそう思ったクロスは残念がる気持ちを抑えながら切り替え、とりあえずこの場を終わらせる事にした。


「お前さ。空気読めないって言われない?」

 男達の中の誰かが、呆れた口調でそう言葉にした。

「良く言われたよ」

 生前から聞き慣れた言葉にクロスは苦笑いを浮かべた。

「つーかさ、俺らの事知らないんだろ? 俺らは門番様の配下だぞ? わかってんの? 逆らったら死罪だぞ?」

「へー。そんな法律あったんだな」

「あったんだよ。わかってんの? 俺らがちょっと一声上に掛け合ったら……」

 言い切る前に、彼ら男達の目線はすいーっとクロスの背後にいる、新しい乱入者に移る。

 クロスの後ろ、子供と少女を庇う様に立つ、エリーの方に。


「エリーか。悪いな何も言わないで出てきて」

「いえいえ。構いませんよ。それが勤めですので」

 そう言ってエリーは優しく微笑みかけた。


「でも、今は逆効果なんだよなぁ……」

 そう言ってクロスは苦笑いを浮かべる。

 男達がこの後どんな行動に出るのかわかりきってしまっていた。

「ふーん。あんた、そんな綺麗な召使もつ程度には身分高いのか……よし、慰謝料と……ついでに前金として、そこの女を寄越せ。それで許してやるよ」

 鬼の一体がそう声をかけ、仲間に目で合図を送る。

 受けた男達は下卑た顔で頷き、エリーと後ろの少女を連れ去ろうとした。

 だが……。


 エリーは自分に来る手と少女に来る手を叩く様に振り払った。

「って。いってぇなおい。お前逆らえる立場か? あ? お前わかってるのか自分の立場が」

 怒り心頭というような様子で、男はエリーに恫喝する。 

 それを飄々とした態度で受け流し、エリーは少女と子供の前に立ちふさがった。

「ええ。わかってますよ。主が誰で、誰を守るべきか、ちゃんとわかってます」

 その言葉に、男が顔を顰め、怒りに満ちた笑みを浮かべた。

 自分の欲望の為に、自分の怒りを鎮める為に何かをしでかそうとする、そんな笑みを。


「ほうほう。わかってるってか。――このなよなよしたええかっこしぃの、糞みたいな主様がそんなに大切か? こんな木偶の棒より役に立ちそうにない、ひょろひょろとしたボケナスがなぁ!」

 そう叫び、男はクロスに思いっきり蹴りを放つ。

 それをクロスは平然と受けた。

 ぶっちゃけ大したダメージにならない事位わかっていたからだ。


 だが、それがまずかった。

 その行動だけは、クロスは取ってはならなかった。

 それはあらゆる意味で悪手であり、クロスの失敗はただこの一点だけだったと言っても良い。

 理由は二つ。

 一つは、防がなかった事により、実力を読む力すらない男達はクロスが防げなかったと、全く戦えないのだと勘違いしてしまった事。

 これにより、男達はさらに増長した。

 もう一つは、もっと単純な理由。

 それはエリーとはどういう存在で、どういう意図があってここにいるのかという事にある。


 軽口で、友達付き合いの様な感覚をしているが、エリーは心の底からクロスを尊敬し主と敬っていた。

 クロスの為ならば死んでも良い。

 主としてだが本当に敬愛し、大切に思っている。

 その主がだ……自分の目の前で馬鹿にされ、蹴られた。

 それはエリーにとって自分の事を貶められる以上の屈辱だった。

 とは言え、エリーは()()、冷静でいた。

 この時までは()()自分の怒りをコントロール出来ていた。


 男達のうちの一体、手の空いた男が、地面に落ちていた団子を、クロスの頭に投げつける。

 べちょっと音をたて団子が当たり、男達が馬鹿笑いをした。


「本当、あんたも災難だな。こんな何の役にも立たないへなちょこのお守りをしないといけないなんてよ。そこだけは同情してる。なあ、代わりに俺らに奉仕しないか? 気持ち良くしてやるぜ? こんなへにゃへにゃした役たたずと違ってカッチカチな俺達がよ」

 そう言って男は下品なジェスチャーをし、周りの男はそれにゲラゲラ笑いながらも、下卑た目をする。


 それが、エリーの限界だった。

 生まれて初めて、心から尊敬する主を馬鹿にされた時どうなるか、エリーは今日、初めて知った。


「……やっべ」

 クロスはこの時、ようやく自分の失敗を理解した。

 エリーは今まで見せた事がない様な、笑みを浮かべていた。

 おどろおどろしくて、威圧的で。

 鬼よりもよほど鬼らしい笑みのエリー。


 そのエリーを見て、クロスは理解した。

 もうどうしようもないという事を。

 もう、止めようがないという事を。


 一部、気づいているのもこの中にはいるだろう。

 赤毛の少女なんかも気づいている様子を見せている。

 エリーの上空付近、そこらあたりの大気中の魔力が渦巻く様に荒れ狂っている。

 自然では絶対に起きない様な現象。

 まるで大規模魔法を使う前触れの様な気配。

 それは『やばい気配』と呼ぶ以外になかった。


 この状況で、その主であるクロスが選んだ選択は、逃げる事だった。


「エリー。この場は任せた!」

 そんな気休め程度の言葉を投げかけ、クロスは子供と少女の手を掴んでその場を逃げる様に去っていく。

 エリーもそれに納得してかそこを動かず、嗤ったまま、男達の方に顔を向け続けた。


「へっ。あいつびびって逃げやがった。まあ良い。あいつが逃げたって事は、あいつら全員の分を姉ちゃんがその体で払ってくれるんだよな?」

 その言葉と同時に、逃げられない様男達五体はエリーを取り囲む。


 エリーはそれでも、笑ったままだった。

 笑ったまま、冷静に、どこまでやったら大丈夫か、どこまでやってやろうか。

 誰を生かしておこうか。

 そんな事を考えながら、極めて冷静であるつもりになっていた。


ありがとうございました。

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クロスさんそれは政治的にもガチの悪手ですわよ…… 門番の配下ってのがどこまで本当か関係なく軍事関係者を名乗るゴロツキが魔王名代をコケにしたって万が一アウラの耳に入ったらクロスがどう思うかとかアウラがど…
[気になる点] 主人公が学ぶ気が一切ないのが不思議 田舎者だから学がなくて当たり前っていう思考はおかしい [一言] 面白いです
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