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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

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三者三様皆現金


「雲耀さん。今度はこちらから尋ねてもよろしいでしょうか?」

 エリーの人間の怖さ説明の所為でやたらと重たくなった空気を誤魔化す為、追加で甘味を頼もうとお品書きを見つめていた雲耀はエリーの言葉に反応し、そっと顔を上げた。

「ああ。そりゃ構わないが……何だ?」

「質問と言うか確認なのですが……雲耀さん、玉藍様が今何に困り悩んでいるのか知っていますよね?」

 その言葉に、雲耀は何も答えない。

 何とも言えない様な気まずい表情と、誤魔化そうとするような苦笑いを浮かべるだけ。

 だがそれは、答えを知っている者の態度そのものだった。


 そう、雲耀はこの蓬莱の里に未来がない事を、財政難である事に気づいている。

 ほぼ全ての住民が気づいていない。

 玉藍に都市運営の権利と責任が全てのしかかり、ほぼ全てを独りでこなしているからだ。

 だからこそ、雲耀がそれに気づいたのは、本当にただの偶然だった。


「エリー。どういう事だ?」

 クロスは首を傾げ、そう尋ねた。

「雲耀さんって、実はめちゃくちゃ高給取りなんですよね。ここの門番長って役職で言えば軍部の将より上らしくて」

「へぇ。そりゃ凄い」

「偉い役職だから当然給料も多いのですが……雲耀さん、全額返納してるんです」

「……は?」

「ええ。帳簿みて雲耀さんの名前のとこ見たらびっくりしましたよ。ここ数年そっくりそのまま全額返納してるんですから。だから雲耀さん、この事に気づいていたんだなと思って」

 そうエリーとクロスは話すと、雲耀の反応を見つめる。

 雲耀は、小さく溜息を吐いた。

「そのまま財布に入れておく様言ったのに……うちの主君は馬鹿正直というか何と言うか……」

「つー事は、やっぱり……」

 クロスの言葉に、雲耀は頷いた。

「ああ。やばいって事位だが、わかってるし里長様とも一言二言だが話し合っている。……俺の収入程度じゃ支えにもならないと思うが……まあないよりはマシだろ」

 そう言って、雲耀は苦笑いを浮かべた。

「んじゃ、お前普段の金とかはどうしてるんだ?」

「ツケと、タカリと奢られが大半。どうしようもなくなったら外行って適当に稼いでる。獣とか、馬鹿とか狩って」

 そう、雲耀はドヤ顔で言葉にした。

「えぇ……。軍部最上層に限りなく近い地位なのに……蛮族みたいな生活じゃないですか……」

「俺としちゃ門番長なんて何時でも辞めて良いんだけどな。ほら。俺って偉い立場とかそういうの、似合わないだろ?」

 それにクロスとエリーは迷わず頷いた。

 今でも、クロスもエリーも雲耀が偉い立場であると忘れる様な、そんな態度しか取っていないのだからしょうがないだろう。


 良くも悪くも下町習慣が根付き、自由な風来坊の様にしか立ち振る舞えない、どこか気さくな男。

 ただ、自由過ぎて他者に迷惑をかけやすいし、かけてもあまり気にもしない、そんなタイプ。

 クロスにはそう見えており、雲耀自身自分をそうだと思っていた。


「まあ色々あってなったからにゃあそれなりにやるかって程度だったんだけどなぁ……その所為で辞められなくってしまったわ」

「辞められない?」

「俺が辞めたら、俺の後釜分おぜぜがそっちに流れるだろ? このかつかつな時に」

「ああ……」

 クロスは雲耀の言いたい事が理解出来た。


 雲耀は本心から門番長を辞めたいと願っている。

 立場なんかいらなくて、自由に生きる方が大切で。

 だけど、主君の苦労の為、国の為に辞められない。

 そう、雲耀にとって立場などどうでも良くて、門番長を辞めていない理由なんてのは、国の事を考えての上。

 自由で風来坊かもしれないが、それでも、誰かの為に我慢をする事を覚える位には雲耀は善良であった。


「つかさ、俺って見ての通りのこういう性格だ。だから里長様にゃちょっとという言葉じゃ届かない程迷惑かけてしまった。その償いと、助けてくれた恩義返しと考えりゃ、別にこの位当たり前な事でしかないけどな」

「迷惑ってどんなんだ?」

「……んー。家族問題とか、別に隠してる訳じゃないけど色々複雑な奴。俺、そこそこ良いトコの生まれだったから」

 そう、雲耀は言い辛そうに言葉にした。

「わり。聞かない方が良かったな」

「本当に隠してる訳じゃないんだぞ? ただ……実家の事とクソジジイの事は話すのもかかわるのもめんどくせぇ。聞かないでくれた方が楽なのは確かだ」

「ああ。すまん」

「いや、気にするな。そんな下らない事よりも、あんたらが蓬莱の里の危機について踏み込んでいる事の方がよほど大切な事だ。……ぶっちゃけどうするんだ? 名代としてだから……やっぱりお取り潰しな感じか?」

 心配そうに尋ねる雲耀に、クロスは首を横に振った。

「そうならない為に、今動いて色々調べてるんだ」

「……もしかして……どうにか出来るのか?」

 そう言われ、クロスはエリーの方に目を向けた。


「…………正直に申しまして……大変難しいかと。ただ、我が主のクロスさんは、まっっっっったく諦めてませんけど」

 そう、エリーは苦笑いのまま、それでいてどこか誇らし気にそう言葉にしてみせた。

「……ははっ。何であんたらが里助ける方向で動いてるんだよ。本国側だろうが」

「あん? んなもん……」

 そう言葉にし、クロスは押し黙った。

 一体どうして、自分が蓬莱の里を助けようとしていたのだろうか。

 そこまで考え、昨日の夜の事を思い出し、そして答えは出た。

 恐ろしくわかりやすく、そして、自分本位で身勝手な答えが。


「んなもん綺麗なお姉ちゃんが悲しそうな顔で困ってたからだよ。ここは男としちゃ、かっこつける場面だろうが」

 その言葉に、雲耀は目が点になった。

 一体この賢者様が、元勇者の仲間が、魔王討伐者が、魔王名代が何を言っているのかわからなかった。

 その後少し間抜け面を晒した後、雲耀は自分と同じ様な、低俗で単純な思考回路をしているのだとわかり、口から笑みが漏れた。


「くっ。ふ……ふは……。あ……あはははははははははは! そりゃそうだ。あんたは正しい! 綺麗なねーちゃんなら助けたいし、点数稼いで良い思いしたくなるわな!」

「だろ? 終わった後に、酒でも飲みながら『あの時はありがとうございました……。貴方の事、心より尊敬しております』とかしな垂れながら言われてみろよ? もう気分最高潮テンションマックスで鼻伸ばしまくりの伸びまくりだぞ」

「良い女に、酒。後は美味い飯。それだけありゃ極楽そのもの。これ以上ない程の至福の時間だわな」

「だな! 全部終わったら玉藍にそう願おうかね」

「里長を女扱い出来るのなんてあんた位なもんだわな。だが、それも良い。やっちまえ」

 そう言って、二人はゲラゲラと笑いあった。


「男性って……そんな単純なんです?」

 ぽつりと、そう尋ねるエリー。

 クロスが特別そうなのだと思ったら、その意見に同意する雲耀が出て来た事でエリーの考える男性像が少々崩れた瞬間だった。


「あん? 大なり小なり抱えてるもんあって、取り繕ってるけど、概ね男なんてこんなもんだぞ?」

 雲耀の言葉に、エリーは引きつった笑みを浮かべる事しか出来なかった。




「んで雲耀よ。そんな訳で俺が玉藍にちやほやされる様な、そんな良い思いをする為ここを救うアイディアが欲しい。何かないか?」

 クロスは酒でも飲んでるのかと思う位上機嫌でそう言葉にした。

「あん? んなもん、あったら俺や里長様がとうにやってるに決まってるだろ。俺らに期待するのは無駄だぞ? ぶっちゃけ思いつく限りの事はもう試してるからな。その上で駄目だったからむしろこっちから言いたい。何か良い方法とか、可能性が見出せたらすぐに教えてくれ。出来る限り手伝わせろ。俺達の里なんだから」

「……そうだわな。やってるに決まってるわな。特に玉藍めっちゃ優秀な感じだったし。……うーん、どうしたもんか……。とりあえず、もう少しこの里の事を調べてから考えるか。つーわけで、何か面白い場所教えてくれ。もしかしたらヒントが隠れてるかもしれん」

「面白い場所……ねぇ。ああ、面白そうな事が起きそうな場所ならちょいと心当たりがあるぞ?」

「ほうほう。と言うと?」

「朱雀門の方が昨日からどうも変に騒がしい。珍しい事があったみたいだ。元々騒ぐのが好きな奴らだから騒動が多いのはいつもの事だが……どうにも毛色が違う。良い事か悪い事か、大騒動かしょっぱい事件か、それは知らんが、まあ何か起こるってのは間違いないだろう」

「ほー。……関係ないけど、朱雀門の方って、飯は美味いのか?」

「俺の感想だが、飯自体は美味いがあんたらが今まで食った様なのは期待しない方が良い。下町の味で、品がなく、それでいて伝統がない。ただし、美味いのは確かだな。この辺りと比べりゃ、辛い系が多くて甘い系が少ないって感じか?」

 そう、お茶をすすりながら雲耀は答えた。


「エリー。聞いたか、ここと違う感じで、それでいて美味いらしいぞ?」

「はい。らしいですね」

 そうエリーは返し、クロスと目で通じ合い、同時に頷く。

 次の行先が決まった瞬間だった。


ありがとうございました。


いつもより少し更新が遅れそうです。

もし日にちが空いたらごめんなさい。

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― 新着の感想 ―
要は取引相手の国内生産率が上がって食料の特需が無くなり国内消費に切り替えても他に特産がないから外貨を稼げず置いてけぼり食らってる状態か …………日本やん 考えつくのは芸術関係の特産を作って王都に売って…
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