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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

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早すぎる再会


 雲耀とハクはその光景を見て、ただただ唖然としていた。

 先に甘味処に向かわせ、待機させていたクロスとエリー。

 その二人が苦悶の表情を浮かべ、額に汗を流し苦しそうに呻くその光景に。


 そんな茫然とする雲耀とハクにクロスは気づき、辛そうなまま、弱弱しい声でぽつりと呟いた。


「苦しい……。もしやここの食べ物は……体に合わなかった……のか……」

 その言葉を、冷たい目で見つめるハク。

 無礼となるだろうが、失礼であろうが、その一言をハクは我慢出来なかった。

「ただの食べすぎです」

 テーブルに重ねられた大量の空の器。

 しかも容器の形を見る限り白玉あんみつやぜんざい等大きな物ばかりで、しかも全て汁すら残っていない。

 それは何よりのこの惨状の答えだった。

「ですよねー。うすうすそんな気がしてましたー」

 同じく苦しそうにしながら、エリーはそう呟いた。




「いやー。さっぱりとした味と食感に新鮮味もあって。そして店員さんの勧め方も上手くて止まるに止まれなかったわー」

 暖かいお茶を飲みながらクロスは笑顔でそう言葉にした。

 流石に十分という時間もあれば苦しさからは抜け出せていた。

 とは言え、クロスもエリーもまだまだお腹は重かった。

 クロスとエリーが最初食べたのはたっぷりと白玉が乗った餡子たっぷりのみつまめ、白玉あんみつだった。

 団子という物事体は知っていたがここまで真っ白で雑味のない白玉なんて食べた事がないクロスは驚き、さっぱりとしながらも確かに甘いその味にエリーは感動した。

 それがいけなかった。

 初めての味、初めての体験。

 今までとまるで異なりながらも完成度の高いデザートを知った事により、普段の限界点をクロスとエリーは完全に見失ってしまった。


「粉もんは腹に貯まるからな。そりゃそうなるわ。一体どんだけ食ったんだよ」

 ケラケラと笑いながらそう言葉にする雲耀の頭をハクはぺしんと叩きつけた。

「名代様ですよ。こほん。失礼しました。協議の結果、一度顔合わせが済んでいるという事により青竜門代表の私達が名代様の案内をする事になりました」

「おう。そんで上手く案内出来たらさっきの喧嘩の事許してくれや」

 その言葉に、ハクはきっと睨みつけながら先程よりも強めに雲耀の頭をどついた。


「要するにあれです。さっきのあれが外交問題にならない様帳消しにする為に点数を稼ぎに来たんですよ」

 そうエリーはクロスにこっそりと耳打ちした。

「なるほどねー。良し! さっきの喧嘩は面白かったから許す! これで良いだろ雲耀」

「おう。わるいな名代様。助かるわ」

「クロスで良いぞ。俺達は楽しく喧嘩した仲だろ?」

「おっ。話せるねぇ。それじゃクロス。礼と詫び代わりに、そしてせっかくよそ様から来たダチの為に好きなとこ案内してやるよ。どこが良い?」

 あっという間に打ち解け合うクロスと雲耀。

 それをハクは困惑した目で見ていた。


「えぇ……。どうしてあれで仲良くなっているのでしょうか……」

「お互い、苦労しそうな立場にいますね」

 そんなエリーの言葉に、ハクは心から同意した。

 同意したが、頷いたら失礼な様な気がしたので苦笑いを浮かべておいた。


「そいや。ハクさんは……」

「ハクで構いませんよ名代様」

「ああ。んじゃ俺もクロスで」

「畏まりました。ではクロス様、私がどうかしましたか?」

「ああいや……恰好がね……」

 そうクロスが言葉にすると、ハクは突然不安な表情に変わった。

「も、もしやどこか変でしたか? 服のセンスはそれほど悪いものではないと思っていたのですが……」

 そう、クロスとエリーの顔を見ながらハクは尋ねる。

「いや。全然変じゃない。なあエリー」

「はい。可愛いですよ」

 そう言われ、ハクは安堵の声を漏らした。


「なら良かったです。では、私の恰好がどうかしましたか?」

「いや、この里の恰好じゃないんだなと思ってな」

 そう、クロスは言葉にしてから再度ハクの姿を見つめた。


 先程あった時は門番として兜と鎧を着こんでいたハクだが、今はごく普通の女の子らしい恰好をしている。

 結いあげた長く白い髪は綺麗で、表情は穏やかながら凛としていて。

 そして服装はスカートとシャツという普通の恰好。

 そう、ハクの服装は普通だった。

 この里特有の物とは違って王都で良く見る普通の。


「あれだよハク。里の恰好してないのを不思議がっているんだよ」

 ぺらぺらとした体に纏うスタイルの不思議な服装の雲耀は言葉にした。

「ああ。私が『着物』じゃないからですか。クロス様。昔はともかく今の蓬莱の里は着物に拘りはありませんよ」

「あ、そなの?」

「はい。と言っても変わってきたのは本当に最近の事でして。なのでご年配の方はほぼ全員が着物。若い魔物になりますとその家の事情だったり好みだったりで服装は着物かそうでないかで半々になってますかね。雲耀さんはこう見えて家が名家な事と自身の好みから着物を着てますね。……ええ、とてもそうは見えませんがこの方名家の生まれなんですよね……」

 そう言葉にし、ハクは雲耀を睨みつけた。

 言いたい事は非常に良くわかる。

 たしかに雲耀は着物だが、あまりに薄汚れていてボロ布にしか見えない状態で、この恰好で良いトコの出と言われても正直納得出来なかった。


「あー。まあお偉いさんの案内にこのボロは合わないな。と言っても家に帰って着替えるのもちょっとあれだし……良し。ハク、道中行きつけの着物屋寄ってくれ。せっかくだし新しいの買うわ」

 そう雲耀が言葉にすると、クロスはぴこーんと何か思いついた様な顔に変わった。

「なあ。その着物って奴高いのか?」

 クロスの言葉にハクは首を横に振った。

「物によりけりですがそんな事ないですよ。安い物はちょっと豪華な夕飯程度のお金で足りる位です」

「なるほど。んじゃもう一つ。余所者が着物を着るって変かな?」

 その言葉に、ハクはクロスの考えに気が付き、嬉しそうにくすりと笑った。

「いえいえまさか! 私が王都のファッションを好む様に、王都の方が蓬莱のファッションを気に入っていただける事も、何も変じゃないです」

「そかそか。なら良かったわ。んじゃ俺も旅行の想い出がてらその着物って奴買ってーついでに着替えてここを練り歩くか。……という事でエリー様。是非とも予算の方を何とぞ……」

 手を合わせて頼み込むクロスにエリーは微笑んだ。

「そんな事しなくてもそれ位は出しますよ。ただしあまり高いのは駄目ですからね」

 そう言葉にすると、クロスはぐっとガッツポーズを取った。


「……何? そっちの嬢ちゃんがクロスの金握ってんの?」

 雲耀の言葉にエリーは頷いた。

「はい。此度の依頼の間は金銭管理は私が任せて頂いています」

「……ああ! あんたら夫婦(めおと)だったのか」

 その言葉に、クロスとエリーは同時に首を傾げた。

「いえ。私はただの従者ですよ?」

 その言葉に、雲耀は首を傾げ考え込む。

「……そか。そういうのもあるのか……いや、あるのか? ……都会ってのは変な文化があるんだな」

 考えても良くわからなかった雲耀はそういうものかと適当にお茶を濁して理解したつもりになった。


「こほん。既に行く場所が決まった後で言うのも何なのですが、(みょう)だ――失礼、クロス様に本日の御予定をお伝えしたく存じます」

 畏まった言葉遣いの後、ハクは再度、コホンと一つ咳払いをした。


「魔王様の依頼書にはまず里の様子をクロス様に見て、この地で安穏と生きている民達の日常を知ってもらいたいと書かれておりました。ですので、長の元に案内する前に私達が少し里の住宅地を案内し一般的な民衆の向かう場所を見て貰いたいと思いますが……それでよろしいでしょうか?」

「……なるほど。つまり観光か。腕がなる」

 そう答えるクロスにくすっと笑い、ハクは頷いた。

「はい。観光をしてもらい、是非とも良い印象を持ち帰って欲しいと思います。ちなみにこの甘味処も少々高めではありますが大衆用の店です。ですので、甘味についてはどの位の物かはもうお腹に十分理解していただいたと私は愚考します」

 笑うのを堪える様にハクがそう言葉にするのを裏付ける、大量の空の容器。

 それにクロスが楽しそうに頷き、エリーが恥ずかしそうに俯いた。


「そして幸か不幸か続いては食の次、服装についてとなりましたが……。大衆的な……いえ、雲耀さんの行きつけですから一般的とはあらゆる意味で言い難いですが……まあ安く着物の買える場所に向かおうと思います。個人的に色々思う所はありますし少々恐ろしいのですが……それでよろしいでしょうか?」

「宜しいですとも。ただ、その一般的じゃないってのはどういう意味か聞いても」

「ええ。その……控えめな表現で少々以上に変わり者の無口な店主という事だけ覚えて頂けたら、後は他の店と同じです」

 そう困った顔をするハクからクロスは何となくだがどういう店なのか察する事が出来た。


「んじゃ、とりあえずそんな感じで。その着物屋ってのに行った後はどうするんだ?」

「幾つか行く予定の場所は決めていたのですが……大体の場所が行けそうになくなりましたから今考え直しているところです」

「ん? 行けなくなった? 何かトラブルか?」

「いえ、軽食が楽しめる場所に行こうと思っていたのですが……」

 ハクは苦笑いを浮かべながら空の器を見つめる。

 クロスとエリーはそっと目を逸らした。


「ま、腹が減ってから行きゃ良いだろ。まあ俺が適当に楽しい場所に案内してやるからハクは安心しろ。んで、他の門とかそういう場所には案内するのか?」

 雲耀の言葉にハクは首を横に振った。

「いえ。私達の仕事は民衆の暮らしを見せる事、そしてその後のそういう大切な場所の事は里長様に任せる予定です。ですので、夕飯の時間までにクロス様、エリー様の胃が消化出来つつ適度に空腹になっていただきつつ、私達下々の暮らしを見てもらえたら理想となります」

「……下々……ねぇ。まあ了解だ。んじゃ、さっさと着物屋行こうぜ。さあささあさ! 座ってる時間がもったいない。時間は残り数刻程度。せっかくこの俺様が案内するってぇんだから。飯以外にも娯楽で腹一杯になって貰わないと、でないと俺の名前が泣いちまう。さあさ立っておくんなまし!」

 そんな不思議な言葉使いの雲耀に引っ張られる様に、クロスとエリーは甘味処の外に連れ出された。


「あ、お会計は里長様の方に付けといてください」

 ハクは店員にそう言い残した。

「わかりましたハク様。またの御贔屓を」

 そう言って店員に見送られながら、ハクは先に行ったクロス達の背を追いかけた。



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