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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

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考えすぎる女と考えなしの男(前編)


 リリィの拉致騒動が解決してから数日が経過した。

 帰って来た初日こそはクロスも事情聴取やら聞き取りやら相談やら病院やらであっちやこっちやの移動を強制されたが、それ以降は特に音沙汰もなく自由で暇な日が続いていた。

 と言っても、城から外出禁止の命を受けた為軟禁に近い状況でだが。


 持って帰った資料が色々と問題らしくアウラは相当に忙しいらしい。

 おかげで帰って来た初日以来クロスはアウラに政務室以外で会っていなかった。

 とは言え、アウラが忙しいのは仕方がない事でもあるし軟禁状態も納得しなければならない。

 数千、数万を犠牲にした犯罪者の証拠が出て来たのだから大事にならない訳がない。


 そんな周りが忙しい中、特にする事がないクロスは中庭で一人ベンチに座りぼーっとしていた。

 そっと、ボロボロになっていた右腕に目を向ける。

 右腕は外見だけなら元通りとなったのだが、それでもまだ完治という訳ではない。

 医者が絶対安静を出す程度にはまだ内側はボロボロらしい。

 それでも、元に戻るのだからありがたい話と言える。


「全くもってリベル様様だったわ」

 もしリベルがあの時治療してくれていなかったらどうなっていた事か。

 それがわかるからこそ、クロスはそうぽつりと呟いた。


「私がどうかしましたか?」

 そんな声が上から聞こえ、クロスは天を見る。

 そこには見下ろす様にクロスを見るリベルの姿があった。

「おー。リベルじゃん。やっほー。どした?」

「閣下から呼び出しがあった。恐らく先の騒動についてだと思うが……君は呼ばれていないのか?」

「今日の呼び出しはないかなー。軍事関係とかそっちの話じゃね?」

「なるほど。そういう事なら私だけというのもわかる。……って、どうかしたか? そんな食い入る様に見つめて」

 下からじーっと見つめる視線を感じながらリベルはそう尋ねた。

「いや眼福だなーと」

 リベルはクロスの視線が自分の胸に注がれている事に気づき、そっとクロスから離れ苦笑いを浮かべた。

「私にそういう目線を送って来た奴は久々だよ」

「え? そんなに綺麗なのに?」

「裏切り者な上に人から距離を取って来たしな。それに私は閣下に対してあまり好ましく思ってない者達を集めた陣営を構築している。女性というよりも潜在的な敵であると思う者の方が多いだろう」

「ほーん。そんな美人なのにもったいない」

「……素直に賞賛として受け取ろう。それでさっき私の名前を呼んでいた様だがどうかしたか? ああもしや陰口でも言っていたのか? それなら聞いてしまい申し訳ないな」

 嫌味混じりにそう答えるリベルにクロスはそっと右腕を見せつけた。

「右腕の事。あそこで治療してもらえなかったらやばかったみたいだから。だからありがと。……あの魔法はアウラから使用制限を受けたわ。腕が無事である保証が出来るまでもう使うなって」

「当然だな。あんな無茶苦茶な技自爆以外の何者でもない」

「あはは。っと、呼ばれている相手を長話に付き合わせるのもアレか」

 その言葉にリベルはアウラから呼び出された事を思い出した。

「そうだな。閣下を待たせているのだった。それじゃあ悪いが失礼する」

 そう言ってリベルは微笑み、その場を立ち去った。


「……さて、喜んでくれるかねぇ。それとも……怒るかなぁ……」

 そうぽつりと呟き、クロスは空を見る。


 空はいつもの様に青く綺麗で、そして暖かい日差しを降り注がせていて……。

 クロスはつい眠たくなる様な心地よさに包まれたまま、ぼーっとしたゆるやかな時間を過ごした。




「失礼します」

 丁寧なノックの後に、リベルは部屋に入り自らの主に忠誠を示す為背筋を伸ばし直立不動となった。

「……ええ。良く来てくれました。楽にして下さい」

 アウラからそう声を掛けられ、リベルは足を半歩分だけ開く。

 ただし背筋は伸ばしたままで。

「それで閣下。本日はどの様な御用で?」

「幾つかありますが、まずは簡単な調書を。貴女の目線であの時何が起きたのか簡単に説明してもらえますか?」

「はっ。では失礼します」


 そう言葉にし、リベルはリリィが誘拐されてからクロスと共に救出に向かい助ける事に成功した事を説明した。

 そのほとんどがクロスの功績であり、自分はむしろ足を引っ張った方であるとも付け加えて。


「王都に戻りし後、閣下の偉大なるお力により私の失敗で傷付けてしまったホワイトリリィ嬢を完璧に癒して下さった事には心より感謝を送り――」

「それはもう良いですよ」

 アウラは苦笑いを浮かべリベルの言葉を遮った。


 折れてしまったリリィの翼はアウラが直々に治療した。

 多少折れた位なら病院でも治療を出来ただろうが、それでは元の綺麗な翼にはならない。

 今までかけた手入れが行き届かない分と美しさは病院の治療では考慮に入れない分、どうしても治癒後翼の質は落ちてしまう。

 というよりも、リリィの丁寧な手入れすらも取り戻す様な治療なんて物自体があまりにも無理な話である。

 それを簡単に成し遂げたのが、魔王ことアウラだった。


「感謝してもしきれません。私の所為で彼女は大切な翼を失いかけたのですから……」

「貴女が庇わなければ命すら失っていたではないですか。あまり気にしない方が……」

「いいえ! 私が最初から最後まで私利私欲を捨て完璧に護衛出来ていればこうはならなかったかもしれません。ですから……」

「かもの話は止めましょう。もしもという話は誰も得しませんし何も改善しません」

「……はっ。では改めて、偉大なる魔法により我が不徳によるリリィ嬢の治癒をして下さった閣下に感謝を」

 そう言ってリベルは敬礼をしてみせた。

「あはは。別に私の魔法位そんな特別じゃ……」

「世界の五本指に入る程の腕が特別でないと?」

「ええ。だって魔王なのに五本指程度でしかないんですから」

 そう言ってアウラは苦笑いを浮かべた。


 魔王国の象徴、最強の証。 

 それが魔王である。

 だが戦闘能力で言えばアウラは世界最強と言う訳では決してない。

 近接戦闘では上位一割程度で、得意な魔法は五本指の一本程度。

 それでは最強とはとても呼べない。

 だからアウラは自分の事を大した事がないと考えていた。


 逆に言えば、魔法使い五本指の一本位の実力を持ちながら近接戦闘もこなせるという事でもあるのだが。

 それに加えて……。

「恐れながら申し上げます。閣下には卓越した政治的判断能力と恐るべき謀略があるではないですか。歴代魔王最恐の一人であると私は考えておりますが」

「あはは……それは魔王としてですら褒めて良い部分かわからないですけどね」

「少なくとも、ただ強いだけの方が魔王でしたら私はこの場にいなかったと愚考致します」

 それをリベルなりの最上位の誉め言葉であるとアウラは考えた。

「そうですね。ではそういう事と考えましょう」

 そう言った後、アウラは小さく溜息を吐き、そっと気持ちを切り替えた。


「それで次の用事ですが……日時は決まっていませんが数日後に式典が開かれる予定です」

「式典……ですか?」

「はい。勲章授与式です」

 その言葉にリベルはぴくりと体を震わせた。


 リベルの心は巨大な虚栄心と満ち足りない自己肯定感にて形成されている。

 だから人からどれだけ蔑まれようと見下されようと、出世や勲章という物には心の底から飢え望んでいた。

 それこそ、リベルは友を売って出世出来るのなら迷わず売るだろう。

 今のリベルに友と呼べる様な存在はいないが。


「つまり……この私に勲章が与えられると?」

 期待を漏らさぬ様極めて冷静に、リベルはそう言葉にする。

 アウラにはきっとバレているだろうが、それでもリベルはせめて恰好だけはつけたかった。 

「はい。おめでとうございます」

「光栄です。ところで……理由を尋ねても? 正直勲章授与いただける程の何かをした記憶はないのですが」

 アウラは頭を押さえながらテーブルから紙束を取り出す。

 目下の頭痛の種であり、ここ数日寝室と政務室を往復する日々となった原因。

 厄介でありがたい爆弾並の危険物。


 それにリベルは見覚えがあった。

 それはクロスと共に持ち帰ったあの老人の証拠、その一部だった。


「これ、何だと思います?」

「リリィ嬢を狙った機械狂信者が自ら書き記した、これまで行って来た数々の犯行の内容ですね」

「ええそうですね。リベルの視点から見ればそう見えますよね」

「……違うのですか?」

「いえ。正しいです。これは多くの魔物や人間を実験に使ったその記録。それ自体は間違いない事です。ですがこの資料の価値はその程度には留まりません」

「と、言いますと?」

「……リベルさん。魔王国の、引いては魔物の世界全域における医療の問題点をご存知ですか?」

「また唐突ですね……。そうですね……。魔法の技術進歩により医療技術の発展に遅れが見える事、と私は考えますが」

 リベルはそう答えた。


 才能によるが、アウラの様に魔法で怪我や病気を治療出来る存在がいる魔王国ではどうしても医療技術というものが軽視されやすい。

 特に治療という面でなら魔法という万能薬があるのだから医療は意味がないと考える魔物も決して少数ではない。

 その為、医療技術の成長は他分野に比べて発展が遅れている。

 そうリベルは考察した。


「それも決して間違いではないですね。ですが、それに重なる様な非常に面倒かつ対処方法が存在しない理由がもう一つあります。それは……魔物の生体についてです」

「と、言いますと?」

「魔物の種類は千差万別な上に、混合種が日々生まれつつあります。それに対応する技術なんて存在し得ると思いますか? 具体的に言えば、スライムとゴーレムの治療方法は別です。ではこの二種の属性を持った魔物はどうすれば?」

「なるほど。おっしゃりたい事は理解しました。それが今の医療の問題と」

「はい。医療技術にも相当の公金をかけていますがどうしても種類の多き魔物社会ではめぼしい成果は出て来ません。……成果を出す方法はわかっているんです。ですが、それを実行する方法が私達魔王国にはありませんでした」

「その方法とは?」

「無差別無作為のデータ収集。とにかく多くの種類種族から様々なデータを集めれば医療は各段に進歩します。要するに解剖や実験ですね。ただし……罪もない一般市民を犠牲にしないと広いデータは得られません。ですが、国として成立している以上そんな事出来る訳がないんです……」

 そう言って、アウラはちらっと資料に目を向けた。


「ではその資料の本当の価値とは……いえそうじゃない。……まさかあの老人の目的は……」

 アウラはこくりと頷いた。

「はい。この詳細な資料と書き方、多く幅広い検体データと混雑された細胞の調査報告。それを見るに彼の本当の目的は魔王国の繁栄と医療の発展と見て間違いないかと。私はこの方法を絶対に認めません。ですが……この資料で都合百年……いえ、千年程我々の医療は進歩するでしょう……」

 アウラは表情を曇らせ、苦々し気にそう呟いた。


「それはめでたい、で良いのでしょうか?」

「わかりません。ですが、事実は事実として受け取らないといけません。その上で、私は当然国としても、多くの犠牲を強いたこの方に名誉を与える訳には行きません。ですのでその名誉を……」

 そこまで言われて、ようやくリベルはアウラの伝えたい事が理解出来た。


 医学を千年進めた偉業を功績として認めなければならないのだが、張本人は死んでいる上に犠牲者を続出させた犯罪者である。

 そんな人物を国として、犠牲を許してしまった魔王国として絶対に認める訳にはいかない。

 だからその空席となった偉大なる功績をこの資料を持って来たクロスと自分に与える事とした。

 と言う事なのだろう。


 それはリベルにとって非常に都合の良い結果と言える。

 クロスと連名と言うのは正直業腹だが、それでも多大な功績を働いた者として魔王から直々に勲章が渡され、同時に何等かの報酬が授けられる。

 しかもその内容は医学を千年進める為に尽力した功績である。

 今後上の地位を目指す時の足掛かりとしても十分だろう。

 そう考えると、都合が良すぎて頬がにやけてしまいそうになる程だった。


「理解しました。棚ぼたではありますが、ありがたく受け取らせていただきましょう」

 そうリベルが言葉にすると、アウラはほっと息を撫でおろした。

「ええ。そうしてください。では数日後このアウラフィール・スト・シュライデン・トキシオン・ディズ・ラウル勲章の授与式と合わせて騎士団長昇進式を行わせていただきますね」

 リベルはノータイムで噴き出した。

 完全に脳がフリーズしたがそれでもその衝撃的内容からとりあえず間抜け面となって噴き出し……固まった頭で必死に思考を掘り進め、何とか一言だけ絞り出す事が出来た。

「た、タイムをっ!?」

「認めます」

 予想していたのかにっこりと微笑みアウラはそう返した。


 まず、これは大前提。

 リベル(自分)は外来から途中参入した裏切り者である。

 それも旧陣営は前魔王派閥というのだから裏切りの中でも特に性質の悪い部類だろう。


 そんな自分が騎士となれたのはそういう約束で裏切ったからに他ならない。

 騎士とは国ではなく魔王本人に対して忠誠を誓い魔王の命じるままに行動する独立部隊である。

 だから入団するには非常に狭く高いハードルを越えなければならない。

 そして当然そのハードルには、身分や出身もかかわってくる。

 だから騎士になる事だけでも相応に素晴らしい事であり、また騎士自体が相当な名誉職でもある。


 そんなリベルが騎士団長に昇進する。

 それは嬉しい名誉あるとかそういう話ですらなくなってしまう事態である。

 そもそも、上昇志向の強いリベルですら最終目標は騎士団小隊の隊長程度だった。

 その望みの階級を三つも四つも飛ばして騎士団長の一名に、騎士団全体の上から数えて三番目に偉い立場に選ばれる。

 その事を考えただけで、リベルは顔が青ざめた。


 確実に、同輩や自分の下に付いた者達から妬みと怒りと恨みを買い殺される。

 少なくとも、自分が同じ立場でそんな奴が来ればきっとやっかみから全てを奪い去るだろう。

 それ位は恐ろしい事だった。


 だが、問題はこれだけではない。

 というよりも、その大変な地位の問題以上にもっと大きな問題が存在していた。

 それは勲章である。

 勲章授与と言われリベルが考えていたのは騎士勲章の授与だった。


 騎士としての成果と誇りを褒めたたえる為の勲章。

 そう言うものと思ったが……出て来たのはアウラ名義の勲章。

 魔王が自らの名前での勲章を出すというのは最上位の勲章の証であり、人間であれば勇者に渡す様な勲章を意味する。

 それも、略さずのフルネームでの勲章。

 間違いなくそれは最上位の最上位、これ以上の勲章は現在存在しておらず、またその勲章は現在誰一人として受け取っていない。

 つまり、数日後にはリベルが魔王国最上位勲章を受け持った唯一の存在になるという事だ。


 意味がわからないし嬉しさを感じる以前に、恐ろしさと申し訳なさで顔が引きつる。

 それでも思考を張り巡らせてその理由を探し、そしてリベルははっとした顔となった。


 要するに……閣下はクロスに対して下駄を履かせたいのだろう。


 そうだと思ったリベルはしたり顔で微笑んだ。

「閣下が賢者様に勲章を贈りたいというのは理解しました。ですが今回の騒動を収めた賢者様と迷惑をかけた私が同じ勲章を受け取るのはあまりに失礼。私の勲章や昇進は少々考え直して頂きたく存じます」

 アウラの考えを読み取り、その上で自分の保身を行いもう少し低い勲章や報酬、地位を貰う。

 この短期間で思いついたにしては完璧な返しではないだろうか。

 そう思いドヤ顔で微笑むリベルに、アウラは一言返した。


「クロスさんはそもそも授与どころか式に出席すらしませんよ?」

 リベルは自分の考えが、完全に思い違いである事を理解した。

「え……あ……は……はぁ!?」

「ついでに言えばクロスさんは勲章だけでなく報酬すら拒否しました」

「な、何故です!?」

 勲章を拒否する事自体は目立ちたくないと言って拒否する者もいるからまだ理解出来る。

 だが、報酬すら拒絶するのは意味がわからないし前代未聞だろう。


 もしクロスが本当に賢者様と呼ばれる様な存在で、私利私欲が全くないのならばそういう発想になる事もある。

 だが、リベルの見る限りクロスはそういうタイプではない。

 勲章とか『何かかっこいいじゃん』とでも言って受け取るだろうし、皆の前でちやほやされる事も間違いなく喜ぶ。


 一切難しい事を考えず欲しい物を尋ねられると政治的な配慮なんてしないで正直に欲しい物を答える。

 そういう幼稚ながらもまっすぐで素直なタイプがクロスである。

 だからこそ、クロスが拒否する理由はないはずとリベルは考えていた。


「……何故……か、聞いても?」

「聞かない方が良いですよ?」

 アウラは意味深な口調でそう言葉にする。

 とは言え、聞かない訳にはいかなかった。

「知っているのでしたら賢者様のその深い思慮を教えて頂ければ」

 若干の苛立ちと怒りを覚えながらリベルはにっこりと満面の笑みでそう尋ねる。

 その様子を見てアウラは苦笑いを浮かべた。


「クロスさんはですね……『俺の称号とか報酬とかそういうのは全部リベルに回してくれ。後ついでに俺と会う時いつもリベルが辛そうだからあまり俺と会わない様にしてあげて欲しいかな』と私に伝えました」

「……は?」

「クロスさんに地位とかが大切って話しませんでした?」

「えっと……しま……した」

「それを聞いてそういう事なら自分の分はあげようって、凄く気軽に伝えて来ましたよ。……という訳でアウラ魔王国以来の快挙の功績が二名分纏めてリベルさんの物に。……そりゃもう私の名前を使うしかないですよね……」

 そう言葉にするアウラすらも、若干だが困っている様子だった。


 実際アウラとしてもこの結果は望む所ではない。

 あまりリベルが出世しすぎると自分のパワーバランスが怪しくなるし、なにより周囲とまともにコミュニケーションを取っていないリベルが出世するとリベルの命すら危機になりかねない。

 今でさえリベルの評判は微妙なのに急激な出世と最上位勲章授与なんてあればどうなるか……アウラすら想像出来ない事態となってしまう。


 それでも、魔王であるアウラは正しく功績を評価しなければならない。

 論功行賞を正しく行えないというのは国としてあまりに不健全でありその様な事態に陥ると国全体が危機となってしまう。

 だからこそ、ある意味においてはアウラも板挟みと言える状況に陥っていた。


 リベルはぷるぷると小さく震え、小さな声で呟いた。

「賢者様からきちんと話を聞いてきます」

 そうとだけ答え、リベルは礼すらもせずそのまま部屋の外に飛び出していった。

「……クロスさんが上手く説得してくれると良いけど……無理ですよねぇ」

 そうアウラはぽつりと呟いた。


「いや。案外面白い結果になるやもしれぬぞ」

 そう、カーテンの裏で隠れてアウラの仕事を手伝っていた男性は呟いた。

「あらお父様。どう面白くなると?」

「……ま、それはもう一度彼女が戻ってきてからわかる事であろう。きっとそう時間はかからずに戻ってくるであろう」

 そう言ってグリュールはニヤリと微笑み、ワインを軽く持ち上げて傾け――

「政務室での飲酒はご法度です」

 傾ける前にアウラに取り上げられ、グリュールは露骨なまでにしょんぼりとした顔を浮かべた。


ありがとうございました。

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