生涯の集大成
揺蕩う鎮魂歌。
その壮大な名前の割に本来の効果は地味極まりなく、完全に名前負けしていた。
メディールがクロスに少量の魔力を送り、それを振動させそのまんまぶん殴りつける。
ただそれだけの技であり、要するにめちゃくちゃ震えるパンチでしかない。
元々のクロスの腕力を計算し、使う魔力も少量である事を考えると確かに効率の良い攻撃ではある。
鎧を貫けるしゴーレムにもダメージを与えられる。
その上手加減すれば振動で相手の意識を刈り取るなんて芸当も出来る。
だが所詮その程度。
クロスの攻撃として見れば優秀な技だが、豊富な魔力と数多の魔法を使いこなすメディールの技として考えたら無駄極まりない。
むしろ勇者時代この技は比較的消音で素早く壁を壊せたり肉を柔らかくしたり骨を砕いたりという小技の方に役立てていた。
だから名前負けしていた技だが……今回だけは違う。
メディールがクロスの体の事を考えて僅かしか魔力を送っていなかったのと異なり、魔物となったクロスが自らの魔力を全力全開で使用した。
その威力はレクイエムの名前に相応しいものと言っても過言ではなかった。
既に老人のペット、ガラハのその誰にも見せたくない醜き姿は一欠けらたりとも残っていない。
纏めて塵と化し跡形すらなくなっている。
それだけではなく、ガラハのいた位置に一メートルを超える大穴が開き一階が姿を見せていた。
殴らず触れただけでこの威力、それは現存するクロスのどの技よりも強力な物だった。
「……何と無茶苦茶な。そんな量の魔力を一度に使用出来るならもっとマシな技もあるだろう」
老人はクロスに向かってそう言葉にした。
「知るか。次はお前だクソジジイ。あの子みたいに綺麗に逝けると思うなよ……」
そうクロスは呟き、怒りを燃やす。
心を燃やし、理性で管理する。
それが魔力を生む方法であるとクロスは経験と本能から察していた。
「まあ、確かに私に勝ち目はないだろう。私の戦闘力を補う為に用意したペットが一瞬で溶けた事を考えると。万に一つか……億に一つか……。とは言え、それでも諦める訳にはいかないがね!」
そう叫び、老人は何か筒状の物を投げつける。
それがリリィとリベルに向けた物だと気付いたクロスは慌てて手を伸ばし、その筒状の物を叩き落とした。
ずるっといったやけに滑る感触を足に感じ、叩き落とした視線のままクロスは倒れ、びたーんと激しく転倒する。
滑って転んで、それと同時にびしゃっといった音を立て体が液体に染まった。
その赤い液体が血であると認識するのに、クロスは数秒の時間を要した。
どうしてこんなところに血液が?
その疑問の答えが見つかる前に、大きな爆発の音が響き、部屋が振動しパラパラと天井から埃が舞い散る。
どうやらクロスがはじきとばした金属製の筒は爆弾だったらしい。
それと同時に老人は後ろに向き、振り向きもせず全力で逃げ出した。
ここで逃がしたら、またあの子の様な存在が生まれてしまう。
そう考えたクロスは、全力で立ち上がろうとして……もう一度倒れ込み血液に染まった。
なにやら、体のバランスがおかしい。
それにようやく気付いたクロスは自分の右腕に目を向ける。
その右腕であった物は、目をそむけたくなるほど酷い傷を帯びていた。
別に敵の不可視な攻撃を受けたとか、あの筒に触れたからとか、そう言う事情ではない。
そもそも、考えてみれば当然の事だった。
どうしてメディールが揺蕩う鎮魂歌を使う時少量の魔力だけを、それもわざわざ調整してクロスに渡していたのか。
その理由はこの技がその威力に見合った振動を腕に発生させる事にある。
そして今回、頭に触れて床まで消える程の振動を腕に発生させたのだ。
無傷でいられる訳がなかった。
無数の細かい傷が右腕全体に生まれ、そこから血が漏れ続けている。
同時に、骨という骨が全て砕け粒子となり軟体動物の様にぐにゃぐにゃ。
辛うじて腕という体を成しているがその機能は残されておらず、後わずかでも長く振動を帯びていれば右腕自体なくなっていたという事は考えるまでもない。
おびただしい量の血液を吐き出し、骨がぐちゃぐちゃに砕けた状態であっても傷みはわずかにすら感じない。
どうやら、右腕の感覚自体が死んでいるらしい。
「……案外気づかないものだなぁ」
そう言葉にし、クロスは右腕を庇いながら立ち上がり老人を追いかけた。
開幕で自分の空けた大穴に落ちそうになりながら……。
諦めない……諦めない……諦めない。
最後の最後まで、諦めない。
老人の頭にあるのは、この様な状況であっても生き延びる事だけだった。
無色の魔力しか生成出来なかったクロスが土壇場で有色の魔力を生成した。
それもただ生成しただけでなく精錬、生成という魔法使い特有の工程を行って。
それはあり得ないと呼んでもおかしくない程の奇跡である。
それがこんなタイミングで起きるなんて。
そう老人は考え悔やんだ。
だが、逆にこのタイミングだからこそとも老人は考えられた。
それは一種の防衛装置と言い換えても良い。
世の理不尽、具体的に言えば自分の事なのだが、この世界には自らの目的の為に弱者を犠牲にする者達がいる。
その理不尽に対して弱者が助けを求めて祈り、そして生まれる物。
平和を脅かす者に対してのカウンター、理不尽に対しての理不尽。
それこそが、勇者であると老人は考える。
だからこの場でクロスが覚醒して肉体の力を発揮出来る様になっても何らおかしくないと考えた。
だからこその絶体絶命なのだが、それでも最後まで諦められない理由が老人にはあった。
自分がどれだけ残酷な事を重ね、どれだけ世の中に不条理を振りまいたか。
それでも……それには確かに目的があった。
使命があった。
為すべき役割がまだ残っていた。
後ろからクロスという名の獣が追いかけて来る。
ただ自らを殺す為だけに。
それは恐怖、それは絶望。
今まで自らが弱者に対して与えて来たそれが、ここにきて弱者となった老人に帰って来る。
右腕は壊れ、全身にダメージが残り、ボロボロな状態。
それでも、獣の目は死んでおらず、むしろ輝かせている。
魔力を纏ったからか小さかった片角は伸び、目をギラつかせ、自分を殺戮する為だけに追い掛けて来る。
当然だが、身体能力が違いすぎて老人と獣の距離は着々と縮んでいた。
そして追いつかれるその一瞬……老人は魔法と機械の混合である防御シールドを展開する。
亀の甲羅の様な緑光のシールドが襲い掛かるクロスのダガーを防ぐ……事なく貫かれた。
耐久力とか、威力とか、そういう話ですらない。
纏っている魔力の量が違いすぎ、全ての魔法的行動が無意味でしかなかった。
今のクロスなら特に何の魔法も行使する事なくかけられた魔法を解除し破壊する事が出来るだろう。
それほどにクロスの魔力は膨大な量となっていた。
例えるなら、水たまりと湖。
存在そのものが異なる領域と言っても良く、それは上澄みの魔法使いの領域、素人が踏み込んではならぬ魔法の深淵と呼んでも良い領域だった。
せめて老人が魔法使いとしてもう少し優れていたならもう少し勝負になっただろう。
どれだけ優れた魔力を保有しても術式の行使出来ない未熟な魔法使いであるなら、まだやり様は残されている。
だが、老人は魔法使いの領域にすら踏み込んでおらず、本職はただの機械、並びに生体研究者でしかなかった。
老人は自らの体を庇う為、左手を前に出す。
その左手は、バターを切るかのようにあっさりと切り裂かれる。
ごとりと音を立て、自らの腕が落ちる。
体内に流れる液体金属すらも何の防御にもならず、むしろそのリキッドメタルが何故か消滅してしまっている。
腕が落ちてから時間差で耐えがたき痛みが老人の体に駆け巡る。
とは言え、耐えるしかない。
左腕を犠牲にした時間を使い、老人は再度走りだす。
リキッドメタルが全て失われ、身体能力が低下し速度差がより顕著になって、逃げる為の場所も思いつかなくても、老人は最後の最後まで諦めず走った。
取れる手段は全て取る。
その上で駄目なら……その時また考える。
だから諦めない。
クロスが覚醒したように、自分も覚醒するかもしれない。
何かの力が目覚めるか、何かの助けが来るか、何か幸運が起きるかもしれない。
だから老人は最後まで諦めるつもりはなかった。
その後数度の接触を繰り返すもその全てに道具、技術を用いて逃げる。
老人の体はボロボロでもう死に体に近い。
それでも、老人は速度を落とす事なく精一杯のペースで走り続ける。
それをクロスは追い掛け続け、最後……ついにクロスは老人の足をすくい上げる様に掴んだ。
老人は、まるで枯れ木の様に軽かった。
こんな足で良く逃げたもんだ。
そうクロスが思う位には、体重が少なかった。
「いい加減諦めろ。もう苦しんで死ねとは言わん。苦しまず殺してやるから」
同情も憐憫とも違う、この無意味な追いかけっこの徒労感からクロスはそう言葉にする。
それを聞いて、老人はくるっと振り向いた。
「それも良いかもしれないね。ただし……もう一つだけ手段が残っているんだ。悪いが付き合って貰おう」
そう言葉にする老人の左腕には、金属製の筒が、しかも逃げ出した時に見た物の何倍も大きな物が握られていた。
「っ――! 馬鹿かお前は! ただの自爆じゃねーか!?」
「だから使いたくなかった最後の手段なんですよ」
そう言って老人は笑い、クロスと密着したまま手の中でその金属の筒を、爆発させた。
爆弾を爆発させ、自分は逃げるだけの体力が残ってクロスは走れない位負傷をする。
老人に残されたのはそんな運頼みの方法だけとなっていた。
建物内に光が満ちる。
真っ白い暴力的な光と共に体を焼く様な熱が二人に叩き込まれ、その後衝撃と轟音が光る。
老人は枯れ木の様に吹き飛び、壁に叩きつけられべちょっと潰れたヒキガエルの様な音を立てた。
ボロボロで、感覚もない。
だが、一応ではあっても……老人はまだ息をしていた。
一方クロスは――。
「ってー! 危ないにも程があるだろ……」
そう呟き全身の様子を見る。
至るところに燻った煙が出て、身を護る為に犠牲にしたボロボロの右腕に至ってはえぐいを通り越して惨い事になってしまった。
微妙に肉の焼ける匂いとその焼けた見た目からしばらくハンバーグが食べられそうにない。
それ位は右腕が悲惨な事になっていた。
「……これでも……まだ無事ですか……」
そう言って老人は微笑み、諦めた。
「……あー。生きてる……んだよな……」
そうクロスは老人に声をかけた。
目はこちらを見ているから生きてはいるらしいが返事はなかった。
耳からの血を見る限り鼓膜が破裂したのだろう。
だがそれ以上に気になるのは下半身の方。
老人の腰から下は……存在していなかった。
片腕と下半身を失い、耳も聞こえない。
それでもまだ、老人は生きていた。
「……はは……万策尽きました」
「だろうな。その状態で逆転の手があればこえーわ」
「何を言っているのかわかりませんが……一つ頼まれて下さい。私のテーブルの二段目に鍵のかかった引き出しがあります。鍵は『991』。そこの中にある物を陛下に……魔王様にお届け願えますか?」
「断る。何で危険な物をアウラに届けにゃいけないのか。机毎処分してやる」
「……その口の動きと顔から拒否されたと考えますね。ですのでこう言いましょう。その資料は私の犯罪の証拠が事細かに記されています。これは偉い人に渡さないと駄目な奴じゃないですかねー」
まるで他人事の様な口ぶりの老人の言葉にクロスは顔を顰めた。
「……危険な物を渡したくない」
「危険だから渡したくない、ですかね? だったら魔王様の処理班にでも依頼してください。別に私はどんな方法でも届けばそれで良いのですよ。あの方に渡りさえすれば……。ああでも……もうあのお方じゃないんですよね。はは……まあそれでも、無駄にはならないでしょう」
そう、老人は遠い目で囁いた。
下半身がないまま、朗々とした様子でまるで歌うかのように老人は言葉を紡いだ。
それは余力があるからというよりもむしろ逆で、残った余力を全て使ってクロスに言葉を紡いだ様にクロスは感じた。
実際、老人はその言葉の後は何も言わず、ただ虚ろな目で壁をじーっと見続けていた。
「……何か最後に言いたい事は……って聞こえなかったな。……楽にしてやる」
そう言って、クロスは短刀を分かりやすく構えた。
「……ああ。介錯ですか。最後まで……善良ですねぇ」
クロスは老人の傍に寄り、肌で感じられる様に声を発した。
「言い残す言葉は、最後の言葉はあるか?」
「書類を届けてください。それだけです」
そう言って、老人は目を閉じる。
クロスはその老人の心臓に、短刀を突きつけた。
「すまない。全部任せてしまったな」
その言葉で茫然としていたクロスは我に返る。
怪我の疲労か、血が足りないからか。
時間もわからないがどうやら意識を失っていたらしい。
「いや構わん」
そう言ってクロスはその声の主であるリベルの方を見る。
リベルはリリィをお姫様抱っこしていた。
「さすが騎士様ー。超似合うー」
そう言ってクロスはニコニコとした表情を浮かべた。
「……それはおちょくっていると取って良いか?」
「いや。本気だが?」
「……ああそうかい」
そう呟いた後リベルはそっと壁にリリィを寝かせ、クロスの方に来て感覚のない右腕を取った。
「……酷すぎる。全身火傷もそうだが……この右腕は……。いつ崩れ落ちてもおかしくない程じゃないか。一体何をされたらこんな事に……」
「魔法の後遺症……というか反動。つまり自爆だな」
「……君は馬鹿か? いや馬鹿だろ?」
「今回ばかりは俺も俺以上の馬鹿は世界にいないかもって思った」
その言葉にリベルはわざとらしく溜息を吐いた後クロスを睨みつけ、そして両手から光を放ちクロスの右腕を光で包んだ。
「おっ。魔力の方戻ったのか?」
「それなりにな。特殊な環境でない限り私は外部から魔力を永続的に補給出来る。それより……覚悟した方が良いぞ」
「え? 何が――」
そこまで呟いた後、クロスは真っ青な顔となり顔を顰め脂汗まみれとなる。
単純に、死んでしまいたくなる位痛かった。
千切れ切った神経が元に戻ろうと蠢き、砕けた骨が無理やり繋がろうとし、失われていた皮膚の感覚が蘇る。
それはどんな拷問よりも痛い程の激痛だった。
声にならない声をあげ、身じろぎする事すら出来ない痛みをただ受け続けるだけ。
そんな状態のクロスをリベルはニヤリと笑った。
「怨みたかったら怨んでも良いぞ。それ位君が堕ちてくれた方が私の心が楽になる」
必要な治療をする相手に八つ当たりをする。
それ位は凡庸な部分を持っていて欲しいという願いからリベルはそう言葉にする。
だが、クロスはそんな事思わない。
思う訳がない。
リベルが思う以上にクロスは人間らしくて、それでいて煩悩に満ち溢れていた。
「……おっぱいかわい子ちゃん怨む位なら……俺は痛みで死ぬ……」
ぷるぷると震えながらの、心の叫び。
この痛みに耐えながら嘘や見栄は張れない。
張れる訳がない。
だからこそ、それはクロスの本当の心から本心であるとリベルは理解した。
「何というか……馬鹿だね本当に……」
呆れ顔で微笑みながら、リベルはそう呟いた。
だがそれはそれとして治療に手を抜く事はなく、時間にしておよそ三十分。
クロスは地獄を味わい続けた。
ケロイド状の見るも無残な姿ではあるものの、それでも指や骨格がしっかり残り右腕であると把握出来る位にまで回復したのを見ると、リベルは丁寧に包帯で腕を巻いていった。
「とりあえずこれで後遺症は残らないだろう。後の治療はちゃんとした場所で見て貰ってくれ」
「ああ。助かった。ところで……これと同じ様にリリィちゃんの翼も治療出来ない?」
そうクロスが尋ねるとリベルは悲しそうに首を横に振った。
「君の場合は下手に治療が遅れたら後遺症が……というか切り落とすハメになりそうだったから緊急で治療した。だがリリィ嬢の場合は時間こそかかるがいずれ戻るから無理に治療する必要はない。というよりも……無理に治療をすれば逆に後遺症になる可能性がある。翼という器官は繊細であり、私にない器官だから治療の成功率が低いんだ」
「そか。ごめん無理言って」
「いや。その気持ちは良くわかる。彼女が翼をとても大切にしているのだってわかるからね。……だから何とかしてやりたいが……私に出来る事は精々怒りを解消する為に殴られる事位だろう」
「その時は俺も一緒に殴られるさ。んで、くっそ面倒だがこいつから嫌な遺言受け取った」
そう言ってクロスは老人の亡骸に指を差した。
「何と?」
「鍵付きの棚にある書類をアウラに届けろって。自分の犯罪の証拠だそうだ」
「……どうしてそんな事を言ったのだろう?」
「さあ? 俺にはわからん。証拠って事なら届けないといけないよな。判明していない犠牲者もいるだろうし」
「そうだな。それで、どうして嫌そうなんだ?」
「色々やらかしたクソジジイのデスクとか何が出て来るかわからんしその書類も真っ当な書類かどうかもわからんからだ。特に俺はさっきまでいやーな鬼ごっこしてたからなぁ。びっくり箱の方がまだ大人しいって位色々やってきた。その書類が魔王殺しの罠だとしても俺は驚かない」
「……ふむ。では私が開けよう。私ならある程度罠の探知も出来るし毒も洗脳も効かないからね」
「そか。んじゃ任せるわ」
「ああ。それじゃリリィ嬢は君に任せる。……くれぐれも、くれぐれもだ! 彼女に卑猥な事はするなよ?」
そう言いながらリベルはそっとクロスにリリィを預ける。
腕の中に抱かれるその体は、恐ろしい程に軽くまるで羽の様だった。
「……妄想だけならセーフだよな?」
「アウトだよ……」
リベルはそう呟き、溜息を吐いてクロスをジト目で見た。
机の書類をと言われたが肝心の部屋がわからず二人は小一時間部屋を探索し、そしてその目的の部屋、真っ白い部屋の奥に机とベッドだけが置かれた老人の私室を発見した。
その間リリィは目を覚ます事はなく、クロスの腕の中に抱かれるだけとなっている。
リベル曰く『精神的に衰弱した』かららしい。
「それで、机のどこだ?」
「引き出し二段目暗証番号は『991』だそうだ」
「了解」
それだけ答えリベルは机の目的の場所を漁り、あっさりと茶色い封筒を幾つも発見した。
一つにつき三百枚程度の紙束入りが合計二十個。
その内一つをリベルは取り出し、中を確認した。
「……何のトラップも掛けられていないし言われた通りただの研究資料だな。……強いて言えば内容が酷く不快な位か」
「んじゃ、それをアウラに届く様頼むわ。直接渡すのはあんまり良くないだろ?」
「そうだな。わかった。私から閣下に渡る様にしておく」
「ああ頼んだ。それじゃ……帰ろう……いい加減疲れた」
うんざりした顔でそう呟くクロスに、リベルは同じ様な疲れ切った顔で苦笑を浮かべながら頷いた。
ありがとうございました。




