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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

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アリス


 それは本当に小さな違和感でしかなかった。

 何となく……本当に何となく……額にある小さな片角が疼く。

 僅かな不快感と共に。 

 その理由も原理も元人間であったクロスにはわからない。

 だが、それでも何となく程度の気掛かりを覚えている。


 大したものではないとは言っても、これは放置して良いものではないという事は、自分の変化でわかっている。

 何故かと言えば……目の前に美女二体がいるのに話しかけようとせず、その小さな違和感を覚える角が気になって仕方がないからだ。

 このクロスともあろう者が、美女とのおしゃべりよりも角の違和感程度を気にするなんて。

 それはクロスにとって、明らかに普通の事ではなかった。


「賢者様。いい加減気づいて下さいませんかね?」

 そんな明らかに不機嫌そうな様子のリベルの声に、クロスは我に返った。

「あ、ああ。すまん。何か用か?」

「いいえ。全くもって用などございません。ですが、護衛として出ているにもかかわらずどうにも集中力に欠けている様ですので。ああ。もしや私如きでは到底思いつかない様な思慮をお持ちなのですね。それは気づきませんでした、すいません賢者様の思う存分お好きな様に」

 そんないつもの嫌味にすら、クロスは角が気になり反応出来なかった。


 角を軽く触ってみる。

 どこかつるつるして、それでいて仄かに弾力があり暖かい。

 それはいつも通りであり、どこか変わった様子は触った感じではなかった。


「……あの、クロスさん。本当にどうかしました?」

 馬車の中で座っているだけとは言え、いつもおしゃべりな相手がずっと黙って反応が鈍いというのはリリィにとって十分に気掛かりな事だった。

「ああ……。あのさ、何か……角がこう……気になる? 感じ?」

「んー? どう気になるんです? 痛いんですか?」

「いや。痛いというか……。ピリピリしてるような……してない様な……。何というか……むずむずするというか……若干不快というか……よくわからないけど何か気になって不安になって、気持ち悪い」

 そう言ってクロスは再度角を触る。

 何も変わっていなくても、気になって触らずにはいられなかった。


「んーリベルさんは何かご存知です? ネクロニアという種族の特徴ですかね?」

 そんなリリィの問いかけにリベルは曖昧に微笑んだ。

「さてどうでしょう。成長痛の様な物かもしれませんね」

 そう答えるリベルの様子はどこか変であったのだが……リリィには追及出来なかった。

 正しくは、知ってるのかと尋ねようかどうか悩んでいるその瞬間、馬車が大きく揺れそれどころではなくなっていた。


 座っていても投げ出されるほどの衝撃で、リリィは宙に浮き馬車の壁にぶつかりそうになる。

 そのリリィをクロスは慌てて抱き留め、そっと元の席に座らせた。

「あ、ありがとうございます」

 そんなリリィの言葉にクロスは真顔のまま頷いた。

「うん。だけどまた揺れるかもしれないから気をつけて」

 さっきまでと違いガタガタと揺れ続ける馬車に危機感を持ちクロスがそう言葉にすると、リリィはこくりと頷き答えた。


「……御者さん。何かありました?」

 クロスがそのまま小さな窓を開け御者の方を見る。

 だが、そこには誰も乗っていなかった。

 誰も乗っていない馬が、オロオロと慌てた様に走っている。

 そして鞍には僅かな血痕が残されていた。


「これは……」

 そうクロスが呟き、情報を共有しようとリベルの方を見る。

 だが、リベルはそこにはいなかった。


「賢者様はここで護衛を」

 そう聞こえて来たのは馬車の天井からだった。

 幾ら軽い成人女性とは言え金属鎧込みで言えば相当な重量がある。 

 そんな重量にこの馬車の屋根が耐えられるとは思えないのだが、それでも部屋は軋む音一つ立てていなかった。

「リベルはどうするんだ!?」

「私は一足先に首謀者を捕縛に。このまま守るだけではジリ貧ですので。雑魚の方は賢者様がお願いしますね」

 その言葉と同時に、とっと屋根から軽い音が響きリベルの気配が遠くに消えていった。


「雑魚の方って事は……つまり何かが襲ってくるという事か」

 そうクロスは呟き、自分の言葉にやけにしっくりきた。

 そう、ずっと違和感を覚えていたこの角は、この所為だったのだ。

 誰かが襲ってくる。

 それを知らせてくれていたのだと、クロスは周辺に感じる不思議な気配でようやく理解した。


「クロスさん。私はどうしたら良いです?」

 リリィが心配そうに尋ねるとクロスは微笑んだ。

「とりあえず馬止めるね。馬を狙われて転倒するのが怖い。その後は馬車にいて」

「は、はいわかりました」

「んで、何かやばいなってなったら……遠慮せず天井ぶち壊して空に逃げて。本当は一足先に逃げて欲しいんだけど……」

「今すぐ王都で助けを呼びましょうか?」

「リベルがいたらそう頼んだんだが……リリィちゃんを独りで逃がすのはちょっと怖い。リリィちゃん狙いなら飛んでる所をカモにされる可能性がある。だからちょいと蹴散らすからまずはここに隠れていて」

 そうクロスは言葉にしてから、安心させる為にリリィの頭を軽く撫でる。

 頼りになる心音と、老人が孫を撫でる様な優しい手つき。

 それにリリィは確かな安堵を覚えた。

 リリィの表情から恐れが薄くなったのを見て、クロスは馬車から馬に飛び乗り、馬をゆっくりと停止させた。


「さて……鬼が出るか蛇が出るか……鬼は俺か」

 そう言って苦笑いをした後、怪し気な気配を纏った襲撃者達の姿を確認する。

 馬車を取り囲み高速でこちらに迫ってくるソレ。

 ソレらは、数々の魔物と戦って来たクロスにとっても理解の範疇外にある何かであり、生物なのかすら把握出来なかった。


 外見で最も近いのは、マネキンだろう。

 種族で言えばパペットかマリオネットに似ている。

 金属で出来た人型のマネキン。

 ただし、表面の約半分は体の中身が露見していた。


 露見した中身もまた、クロスにとって理解出来ない物だった。

 小さく黒い長方形の部品や細いパイプが埋まっていたり、火花が散っていたり赤やら青やらの光を内蔵から発していたり。

 もうよくわからない。


 それに加えて、魔物かどうかも定かではない。

 意思なき魔物とかそういう話ではなく、感覚でこれらは同族ではないと認識出来る。

 例えるなら、生きた人形。

 金属で出来た機械人形というべき存在、兵器。

 そんな機械人形達は足を一切動かさずにスライドする様な歩法で恐ろしい速度のまま、馬車に接近していた。


「……気持ちわっる。……二十……四十……うわもっといるなこれ。これが機械狂信者の「ぺっと」って奴かもしかして」

 そう言葉にし、クロスは馬から降りて機械人形に挑みかかりに向かった。

 あまりに気持ち悪いからさっさと倒そう。

 クロスはそう判断した。




 襲撃が来る事をリベルは知っていた。

 より正しく言えば、クロスの感じる違和感の正体をリベルは知っていた。

 クロスが感じていた角の違和感、それがクロスが多数の敵意を感じたものだったと。

 知っていた上で、リベルは黙っていた。

 理由は単純、今みたいに自分独りで今回の首謀者を捕縛、処断する為である。

 もっと言えば、功績を集める為だ。

 そんな事の為だけに、危険であるにもかかわらず黙っており、またクロスの疑問にも敢えて答えなかった。

 他者から見ればそんな事で、と思うだろう。


 だがリベルから見れば……裏切り者として自分を卑下するリベルにとって功績とは、名誉とは、出世とは、生涯の全てでもある。

 裏切る際に全てを失ったからこそ、リベルはその為だけに生きていると言っても過言ではなかった。


 だからこそリベルは襲撃のタイミングですぐに馬車を降り首謀者を探し、そして見つけた。

 機械人形を解き放つその奥にいる、独りの少女を。


 艶やかな白い髪は膝近くまであり綺麗な光沢を放っている。

 その髪にも負けない程肌は美白できめ細かく、そしてその髪と肌両方の白を全て塗りつぶす程に、瞳はぞっとする程に赤い。

 ルビーとか、宝石とか、そういう色ではない。

 淀んだ紅、まるで腐った血。

 恐怖すら感じる瞳が可憐さ、美しさを全て台無しにしている。

 その様な悍ましい風貌をした少女はまだ冷え込む様な時期でもないのに毛皮の帽子とコートを羽織り無表情で馬車を見つめていた。


 幸か不幸か、リベルは彼女の事を知っていた。

『都市食らいのアリス』

 前魔王時代には既に特級危険生物に指定されていた由緒正しきテロリスト。

 百年以上前からその活動は見受けられ、確認されただけでも二十の都市、百体の民がアリスの犠牲となっている。

 一時賞金も掛けられていた事もあったのだが、犠牲者が増えるだけだった為先代魔王時代に撤回された。

 そんなアリスを見て、リベルがまず考えたのはリリィの危機だった。


 自分が狙われる可能性は限りなく低く、ターゲットは間違いなくクロスかリリィである。

 そしてクロスなら本当にどうでも良い。

 むしろ殺してくれた方がプラスとなるまである。

 だが無辜の民であるリリィなら話は別だ。

 リリィが狙われているのなら魔王国の騎士である自分は彼女を守る必要がある。


 そこまで考えたのだが……結局名誉欲に負けリベルはリリィの事を全てクロスに押し付け、遠くにいるアリスを打ちのめさんと突貫した。


 機械人形程度にならクロスが遅れを取る事はないという考えに加え、黒幕を止めなければ延々と危機が続くという真っ当な考えもリベルは持っていた。

 ただ、選択の決め手はやはり自身の名誉欲だった。

 また最後の一手の中には、クロスにだけは出世の機会を、名誉を受ける機会を与えてなるものかという私情もあるのを、リベルは否定しきれなかった。




 現在、リベルはさっきまで走っていた馬車よりも早く駆け抜けている。

 金属の鎧を身に纏っていてもこの程度の速度を出し続ける事が苦ではない。

 その位は優れた自負がリベルにはあった。

 だが、それでもやはり目の前のアリスという少女は別格で、完全に化物としか言いようがない。

 ゆっくりと、ただ歩いているだけのアリスに全く追いつけないリベルはそう思わざるを得なかった。


 それでも、追いつけたら何とかなる。

 アリスが情報通りに広範囲殲滅型並びに儀式遂行型であるなら負ける事はないとリベルは考えていた。


 しばらくそんな追いかけっこをした後……アリスはそっと立ち止まる。

 表情こそ変わらないが額には脂汗を掻いていた。

 それは分厚い服装の所為というより、疲労や体調不良によるものだとリベルは推測した。


「調子の悪い時に動いたのか。ま、私にとっては都合が良いか」

 そうリベルが呟きながらアリスの目前で立ち止まると、無表情だったアリスはとたんに嫌悪を露わにした。

「体調が良い日なんて私にはないからね」

 それは子供らしい声帯から放たれたとはとても思えない程に恐ろしく冷たい声だった。

「病院でも紹介してあげましょうか? 大人しく捕まるならだけど」

「児戯程度しか出来ない場所に求める物なんてないわ」

「そ。それで、どうするの?」

「?」

 アリスはそっと首を傾げた。

「それは抵抗を諦めたという事で良い?」

「抵抗? 何の話をしているの?」

 いまいち理解出来ていないアリスにリベルはイラつきながら答えた。

「これより私は魔王国騎士としてアリスを捕縛する。ちなみに、生死問わずだ。死ぬのが怖いなら抵抗せず――」

 その言葉に、アリスはにっこりと微笑んだ。


「面白い冗談ね。まず一つ、抵抗とか捕縛とか、そういうのは格下に対して言う言葉よ。二つ、死ぬのが怖くない訳ないじゃない。だから私はここにいるの。そして三つ。私、どうやら貴女の事嫌いみたい」

 そう言葉にし、アリスはリベルに初めて意識を向けた。

 ただそれだけ。

 たったそれだけで、リベルは金縛りにあったかのように一切動けなくなり、同時に呼吸が全く出来なくなった。


 その敵意は今までリベルが受けて来た全ての恨み憎しみを足しても足りないだろう。

 派閥を裏切りアウラに付いたリベルを恨みながら死んだ者は数えきれない。

 だが、そんな恨みなどアリスから感じるものに比べたら微々たるものでしかない。


 その強すぎる恨みと怒り、嘆きを込めた敵意はただ敵意と呼ぶには決してふさわしくない。

 それはもはや、呪いの域だった。


「がっ……ぐ……」

 無理やり呼吸をしようと喉を開くが、それでも息が出来ない。

 別に魔法とか呪術とか魔眼とか、そういったものを使われたからではない。

 むしろそういったものなら対策が取れる。

 どれだけ言葉を飾った所で、それはただの敵意でしかない。

 ただの敵意に、リベルは屈している。

 単純にアリスの意識が生物として次元が異なっていた。


 これまで鍛え続けて来た剣技も、アウラにすら隠して来た切り札も、指先一つ動かせず、正気も保てない状態では何一つ意味を成せなかった。


「……あら貴女。……その外見で精神面よりの魔物なのね……ちょっとだけ興味が湧いたわ」

 そう言葉にして、アリスはゆっくりと、ゆっくりと、動けないリベルの傍に向かって歩く。

 そしてお茶会でも開きそうなにこやかな顔のまま、リベルの喉元に手を伸ばしそのまま締め上げだした。

 ぎり、ぎりと軋む喉と苦しそうなうめき声を出すリベル。

 それを無視し、アリスはにこやかなまま何かを分析しだした。

「生命活動に必要なほとんどが精神側にある。なのにそれだけはっきりと人型に具現化するなんて……一体どんな種族よ。全く……妬ましい……」

 淡々とした言葉。

 だからこその心からの言葉。

 そんな妬みの声と共に、アリスはリベルを睨みつけた。

 おぞましく、死の淵に立つ様な瞳で。


 リベルは自分でも恵まれている自信がある。 

 種族が能力が、生まれが。

 全てが恵まれている。

 それがそのまま、アリスの怒りとなっていた。


「妬ましいわ……狂おしい程に。泣いちゃいそうになる程に。だから……頂戴? 全部、私に」

 そう呟き、アリスはその手に力を込める。

 たったそれだけで、恐ろしい勢いで自分の体を構成する何かが吸われていくのをリベルは感じた。

 自分が積み上げて来た物が、自分が恵まれていると感じる物が、自分自身が、魔力がアリスに吸われていく。

 それと同時に、繋がり吸われる事でほんの僅かだけアリスという存在を理解した。

 アリスという存在からは、常に死の気配が纏わりついている。

 他の誰でもなく、アリス自身を殺さんと。

 アリスの体は、どうしようもない末期の死病に侵されていた。


「うふ……ふふ。うふふふふ……」

 アリスはご機嫌な様子だった。

 自分の中に力が漲るのが、目の前の恵まれた存在が弱り朽ち果てようとしているのが、世界が自分の思い通りに行く事が、何もかもが楽しくて笑っていた。

 魔力しか吸えないが、それでも大量の魔力が吸えたのはありがたい事だった。

 だが……。


「ふふふふふ……けふっ」

 アリスの口から小さな、弱弱しい咳が漏れる。

 それと同時にアリスはリベルから手を放し、自分の両手を口に当てる。

 だが手を当てた位ではどうしようもなく、直後、アリスの口から大量の液体が漏れ出した。


 ぼたぼたっと音を立て、どす黒い色の鮮血が地面に広がっていく。

 同時にぼたっぼたっと気持ちの悪い落下音とともに大きな黒い細胞の塊が口内から吐き出され、転がり落ちる。

 その細胞はまるで心臓の様にどくんどくんと脈打っていた。

 それはどう考えても、体内に入っていて良い様な物ではななかった。


「くそが……くそが……くそが……がふ。……ぐ、ぐぐ……」

 舌っ足らずな声で苦しそうに呻き必死に口を押えるものの、鮮血も、転がり落ちる細胞も止まる気配がない。


 手が離れたからか気づいた時にはリベルは息が出来体も自由に動く様になっていた。

 だから慌てて逃げようとしたのだが……どうやら思った以上に魔力が吸われていたらしく体が思う様に動かない。

 それでも恐怖から必死に逃げようと体を動かそうとするのだが、リベルはそのまま地面にへたりこんでしまった。


「……くそが……妬ましい。恨めしい。憎たらしい。……どうしてだ。どうしていつも私なんだ……」

 アリスはそう呟き、自らの血で魔法陣を宙に描く。

 赤黒い色の不気味な魔法陣は地面に落ちた細胞の様に不気味に脈打つとそのままアリスの体内に潜りこんだ。


「……ふぅ……ふぅ……」

 苦しそうに小さな呼吸を重ねるアリス。

 額は脂汗びっしりで、全身震えながら、それでも、血を吐かずちゃんと呼吸をする事が出来ていた。

 ぺっっと、アリスは口に残った血と黒い細胞を吐き出し、そしてへたりこんだリベルを見つめた。

「まあ。可愛らしい騎士様。逃げる事も立ち向かう事も出来なかったのね」

 そう侮蔑を吐き出し、少女らしく笑った後、アリスは再度リベルに手を伸ばし――。


「待ってもらえませんかね?」

 その声に、アリスは動きを止め声の方を睨みつけた。

「……あんたか」

「ええ。私です」

 そう言葉にし、白髪で長髪の老人がぺこりと頭を下げた。

 その老人に、リベルは見覚えがない。

 だがろくでもないという事だけは理解出来る。

 かちりかちりと体の中から金属製の歯車の動く音が漏れる人型の男が、マトモである訳がなかった。

 確かに機械種族という物は存在するが、この老人は違う。

 後から人工的に機械を入れていた。


「……何か用?」

「ええ。その方をこちらに渡してもらいたくて」

「……疲れたから魔力を補充したいんだけど」

「もう粗方吸ったじゃないですか。これ以上吸えば死にますよ?」

「別に良いじゃない。これは貴方のターゲットじゃないんだし」

「はい。ですが……ええ。端的に言いますと人質が欲しくて」

 その言葉にアリスは不満を露わにした。

「えぇー。別にあいつら程度ならあんたのペットを使えば良いじゃない」

「それも良いのですが確実な方法の方が好ましいので」

「……それで、この騎士様を預ける私にメリットは?」

 その言葉を予想していたのか、老人はにこりと微笑んだ。

「はい。ではこの段階で依頼終了と言う事で報酬を今この場で渡すというのはどうでしょう?」

 そう言葉にし、老人はアリスに書類の束を見せる。

 アリスは自分の手を着ている毛皮の服で拭って血を拭きとり、奪い取る様にその書類を手にして確認しだす。

 そして書類がお望みの物であると理解すると、にこーっと可愛らしい笑顔を浮かべた。


「ありがとう。ええ、じゃあ用事も終わったし私はこれで帰るわね。余命の短い貴方とはもう二度と会う事はないでしょうけど、お元気で」

 アリスはそう言葉にした後貴族らしい仰々しいお辞儀をし、そのまま空中に魔法陣の作ってそのまま魔法陣の中に消えていった。


「どちらの方が余命が少ないでしょうかね。いえ、殺されたくありませんし陰口は止めましょうか」

 そう言った後、老人はにこやかなままリベルの口元にハンカチを押し当てる。

 それだけで、リベルの意識は闇に消えた。



ありがとうございました。

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