ホワイトリリィの憂鬱(後編)
荘厳かつ巨大な魔王城。
歴代の魔王城の様に途方もなく巨大であったりおどろおどろしさが醸し出されたりという事はなく、比較的普通の城でありつつも外装内装共に絢爛豪華であり、同時にある程度以上の戦闘に耐えられる機能性を保持している。
支配者である魔王の住まう拠点、その城の見た目は魔王にとってのステータスを表していると言っても決して過言ではない。
武力でも統率力でもなく、あくまで政治的に権力を握り、その両方を兼ね備えたからこそ豪華で安定的な居城。
それは即ち、アウラが武力、統率力なんて単純な物を飲み込むのは容易いという示威行為を行っている事に他ならない。
それほどに、この城は魔王アウラフィールという存在を顕著なまでに示していた。
その城の前で、リリィは一人祈っていた。
神に祈れない身である為に、天に、空に、そして自分の運に、リリィは心から祈っていた。
このまま自分が追い返されます様にと……。
反魔王派であり魔王に恐怖を抱いているリリィは悪の親玉の拠点の前に祈る事以外出来ない無力な状態となっていた。
だが、可能性が低い訳では決してない。
自分は反魔王派であり、それを理由に多くのデモを先導してきた。
自分の所為で魔王を嫌いになった者も少なくないという自負がある。
だからこそ、リリィはそう考え、その上で事情を聴いた後追い出される事にベットしていた。
だが……。
「ホワイトリリィ様ですね。どうぞお進み下さい」
門番がにこやかにそう対応したと同時に、招かれざる者を拒むことなく正門は当たり前の様に開かれる。
「んじゃ行こうかリリィちゃん」
クロスはそう言葉にし、にこやかな態度でリリィに接する。
それが完全に善意であるとわかるからこそ……リリィは引きつった笑みを浮かべる事しか出来なかった。
クロスは紹介する際、どこで何をしていたのか城の受付にしっかりと説明している。
その上でリリィは城に招かれた。
それは別にデモに参加していた程度の事など気にもしていないという理由もあるのだが……一番の理由は別にある。
それは、ホワイトリリィというハルピュイアが『賢者クロスの客人』であるからだ。
故に、リリィは反魔王派に所属していながら、身体検査すらなしの完全VIP待遇で城に迎えられる事となってしまった。
それでも、リリィはまだ希望を捨てていなかった。
あまり身分の高くない人が自分と応対してくれるという……確かな希望を。
リリィの様な庶民には豪勢すぎる客間にてリリィは落ち着かない様子でクロスと共に待機をしていた。
相談役が来る事になっているのだが……早く来て楽にして欲しい気持ちもあれば、永遠に来ないで欲しいという気持ちもある。
そんな気持ちでリリィは一杯になっていた。
リリィがそんな悩みを抱えている時ノックの音が響き、お茶と茶菓子をメイドが持って来た。
その紅茶の香りは素晴らしく、メイドが入って来た瞬間に部屋の空気が変わる程だった。
元々聴覚や嗅覚が人よりも鋭いハルピュイアは紅茶やコーヒーなど嗜好性の高い食事を好む。
実際リリィも紅茶に対して強い拘りがあるのだが、そのリリィが大切にしている超高級茶葉よりも今回の紅茶は何ランクも上である。
正直、こんなレベルの茶葉なんて見た事すらない。
茶菓子に用意されたクッキーも形が非常に精巧であり、それでいてバターの甘い香りが紅茶に負けず漂う。
リリィにとってそのクッキーは、宝石にも匹敵する。
それほどに、そのクッキーはリリィの目には光り輝いて見えていた。
「どうぞ我が家とお思いになってご遠慮なくお寛ぎ下さい」
そうメイドはリリィに言いながら二人に紅茶とクッキーを置いた。
それはどちらも、間違いなく美味しい。
一度食べてしまえば忘れられず、これまでの食生活を後悔しそうな程に。
むしろそれほどに素晴らしい紅茶とクッキーだからこそ、リリィの心に影が差す。
そう……リリィはこれが最後の晩餐の様に思えて仕方がなかった。
おずおずと紅茶のカップに手を伸ばすが……リリィは掴まない。
飲んだら死んでしまう様な気がして。
それでも、紅茶とクッキーはどちらもリリィの心を掴んで離さず誘惑してくる。
怖いけど、恋しい。
そんな気持ちに怯えながら、リリィは助けを求めるつもりでクロスの方にちらっと眼を向けた。
ばーりぼーり。
そこには、至高とも言えるクッキーを大量に口に突っ込み、粉を零しながら貪るクロスの図があった。
「あ。お代わり貰える?」
挙句の果てにお皿を手渡して要求し、ずずーと音を立て紅茶を飲みだした。
リリィのクロスに抱いていた賢者のイメージが、音を立てて崩れた瞬間だった。
だが、そんなリリィと異なりメイドは心の底から嬉しそうに笑い、頷いた。
「はい! お皿は片付けますね。新しいお皿に用意いたしますので少々お待ち下さい!」
にぱーと遊んでもらっている犬の様な顔でメイドは頭を下げ、いそいそと部屋を出ていった。
「あ、ごめん品がなかったね」
そう、クロスはリリィの方を見て呟いた。
「へ? あ、その……」
否定出来ないリリィは曖昧な言葉しか呟けない。
そんな様子を見てクロスは苦笑いを浮かべ頭を下げた。
「本当ごめん。俺生まれが貧乏平民だったから礼儀作法とかあんま得意じゃないんだわ。だからちょい気がゆるんじゃって。次から気を付けるよ」
そう言葉にし、クロスは紅茶のカップを手に取り傾ける。
その仕草は礼儀的に問題はなく飲む時に音を立てていないのだが、本人の言う通りあまり得意な様子には見えない五十点程度の礼儀だった。
「ああ。なるほど。いえ。先程のままで大丈夫です。私には気を遣わないで下さい」
そう言って微笑むリリィの様子を見て、クロスは安堵の笑みを浮かべた。
「お? 悪いな。んじゃ自由にさせてもらうぜ?」
そう言ってクロスは紅茶に息を吹きかけ冷まし、一気に飲み干した。
「あー。染みるわー」
そんな事を呟き満足そうな顔をするクロス。
その様子を見てリリィはくすくすと微笑んだ。
リリィは少しだけ、クロスという人物の事が理解出来た。
物事の本質、というよりも、お互い笑顔でいられたら良いというのがクロスの本質なのだろう。
だからこそ、さっきのメイドが喜ぶ様に美味しそうに食べた。
ガサツで下品な食べ方。
だが、それでもその時のクロスの顔は確かに美味しそうで、用意したメイドにとってそれは本当に世話の焼き甲斐のある顔だった。
クロスは自由である。
その強力な自由という権利を使い何をするのかと言えば……知り合った人を笑顔にする事に使う。
だからこそ、クロスは賢者と呼ばれたのだとリリィは考えた。
本人に言えば『考えすぎだ』なんて言われそうだが、それでもリリィはそう信じた。
丁寧なノックの音の後、先程のメイドが嬉しそうな顔でクロスにクッキーを手渡す。
その直後、心配そうな顔でリリィの方を見つめた。
それでリリィは自分が一切食べていなかった事を思い出し、慌てて紅茶に手を伸ばし傾ける。
無理に飲んでも火傷しない程度には冷めた紅茶だったが、その味は予想以上に美味しく、リリィはとろけた様な顔となってしまっていた。
紅茶と茶菓子を堪能し、クロスとちょっとした世間話を続けた辺りで待機していたメイドはそっと部屋を立ち去る。
その直後、ノックの音が響いた。
それで自分の対応をしてくれる人が来たのだとリリィは気づき、リリィは両手を組み祈る様な仕草をする。
祈る神なんているわけがない。
だからこそ、リリィは祈った。
自分が嫌われており、それでいて偉い人皆が今忙しく……そしてクロスの影響力が少ない事を。
そしてノックの後、そっと扉が開かれ顔を出したのは……。
「お邪魔しますね。クロスさん。お茶の時間は終わりましたか?」
そうアウラが言葉にするとクロスは頷いた。
「ああ。いつも通りめっちゃ美味かった。作ってくれた人に直接お礼言いたいから後で案内してくれないか?」
「ええもちろん。彼も喜びます」
そう言ってアウラはニコニコと微笑みリリィの方に目を向けた。
「初めまして。名乗る必要はないでしょうが一応自己紹介を。私の名前はアウラフィール。どうぞ気軽にアウラとお呼び下さい」
そう言ってあまり堅苦しい対応をしたくない今代魔王アウラフィール・スト・シュライデン・トキシオン・ディズ・ラウルは嫌味も屈託もない笑みをリリィに向けた。
リリィは、世界を呪った。
「ま、魔王様……。どうして私めの様な者が魔王様と謁見など……」
「謁見と言う程仰々しいものではないですけど……どうしてかとまあ言われますと、色々理由がございますがクロスさんが私に助けて欲しいと手を伸ばしたからですね」
そうアウラは言葉にする。
リリィは、ほんの少しだけクロスを怨んだ。
「ああ。アウラって治世やら知略やらそう言う事が超得意だって聞いたからな。だからこういう相談事とかややこしい状況の打開とか出来ないかなと思って。ぶっちゃけ俺リリィちゃんが何に困っているかもわかってないし。悪いな忙しい中頼んで」
「いえ。今日は暇でしたし、それに私にとって興味深い話でもありましたから」
そう言ってアウラはクロスに微笑み……そしてソファに座ってリリィの方に体を向け目を合わせた。
「では。お話をしましょうか?」
そう言って微笑むアウラを見て、リリィは死を覚悟した。
「まずは謝罪を。……このような事になってしまい、本当にすいませんでした」
そう言葉にし、アウラは真面目な顔で頭を下げる。
それを見てクロスとリリィは驚きの表情を浮かべた。
「ま、魔王様。一体どうして……」
「……やはり、アウラとお呼びしてはいただけませんか」
そう言って悲しそうに微笑むアウラを見て、リリィは訂正した。
「アウラ様。何の謝罪でしょうか?」
「……ありがとう。それと、名前を呼ぶ事を許して頂いても宜しいでしょうか?」
その言葉で、リリィは自己紹介するのを忘れていた事を今更に思い出した。
「ご無礼を働きました。私の名前はホワイトリリィ。リリィとお呼び下さい」
「はい。ありがとうございますリリィさん。それで、リリィさんに謝る事は幾つかありますが……まずはクロスさんについてです」
その言葉にクロスは自分に指を差し、アウラはそれをしっかりと、クロスを追及するようなジト目を向けたまま頷いた。
「へ? えっと……、何か?」
訳がわからずそう尋ねるリリィに、アウラは再度、ぺこりと頭を下げた。
「単身で、嫌いな私の元に連れて来られるのは怖かったでしょう。本当にすいませんでした。見ての通り、クロスさんは情勢や陣営などといったそういう配慮があまり得意ではありません。ですから……悪気はないんです。信じられないかもしれませんが」
そう言って苦笑いを浮かべるアウラに対して、クロスはやらかした事に気づき、ぺこぺことリリィに頭を下げた。
「その上で、リリィさん。私に一つ約束をさせていただけませんか?」
「えっと、約束、ですか?」
「はい。この城に滞在する間、貴女が法を犯さない限り、私達は貴女に対して一切手を下しません。それを、魔王の名をもって約束します」
そう、アウラははっきりと言葉にした。
リリィは、どうしてアウラが魔王になれたのかを理解した。
自分とは何もかものステージが違いすぎる。
本気であっても、そうでなくても、自分では同じステージに立てない。
そうリリィは気づくだけの何かをアウラは持っていた。
「ありがとうございます。少しだけ、気が楽になりました」
今度は別の緊張が出てきたが、リリィはそれを飲み込みそう言葉にする。
それを聞いてアウラはかすかに、柔らかく微笑んだ。
「それで、貴女の悩みに――」
そうアウラが言葉にした瞬間、どんどんと叩く様なノックが響いた。
「――入れ」
アウラがそう対応すると黒い獣人らしき男が入ってきて敬礼姿を取り叫びだした。
「失礼します! 陛下のお求めの物が出来上がったという事ですので大至急お持ちしました! こちらになります!」
そう言葉にし、男はアウラに袋にも入れられていない分厚い紙束の資料を手渡した。
「ええ。ありがとう……。あら、これ印はあるのにサインがないわね。これは誰が用意した物?」
「はっ! ベリアル情報特務少将に渡す様頼まれました!」
「そう。サインを忘れるなんて……本当に大至急用意してくれたのね……。無理させちゃったかしら。ええ。確認が終わったわ。貴方、一つ頼まれてくれないかしら?」
「はっ! 何なりとお命じ下さい!」
アウラはその男に小さな宝石を一つ手渡した。
まるでビー玉の様に綺麗な球体で、真っ赤な宝石。
それを男は宝物の様に慎重に、両手で受け取った。
「それで第八慰安補給施設を開いてベリアルを含めた今回手伝ってくれた全員を案内してあげて。もちろん。貴方もね」
その言葉に男は涎を堪えている様なニヤケ面を晒し、再度敬礼を重ねた。
「はっ! 陛下の御厚意、ありがたく存じます。喜んで楽しませて頂きます!」
そう言ってその男は慌てた様子で部屋から去っていった。
「……えと、アウラ。その慰安補給施設って何だ?」
クロスがそう尋ねるとアウラは微笑んだ。
「普段開かない質重視のご褒美用食事処です。さっきの丸い球がチケット兼魔力の魔石です」
「へー。そうか。そういうところもあるんだなぁ」
クロスは感心する様にそう呟いた。
「ではリリィさん。少々読む時間を頂けますか? 今資料が届きましたので」
「へ? 資料って?」
「貴女の周りと、デモ隊の資料です。きっと貴女の希望が叶うと思いまして急遽用意しました。情報がなければ何もわかりませんので」
そう言ってアウラは手元の資料を読みふけりだした。
一枚に大体五秒程で、数十枚。
相当量だったにもかかわらず大した時間は取られず、あっという間に読み終わるとアウラは悲しそうな表情を浮かべリリィの方を見た。
「リリィさん。貴女の質問は、クロスさんに相談した理由は、本当にやりたかった事が出来ず何故か今デモばかりをやっている事について憂いたものでしたよね?」
その言葉にリリィは頷いた。
「はい。別にデモが悪いとは言いません。良い面もあります。ですが……私は国を良くしたかっただけです。誰かの悪口を叫びたい訳じゃ……なかった……はずなんです」
そう言ってリリィは最初の時を思い出した。
あの時は、確かな満足感があった。
それに、誰かの悪口を言って貶す様な事もしていなかったし、笑顔に溢れていた。
今の様に殺気立って誰かの悪口を言い続けていた事なんて――なかった。
「リリィさん。再度……貴女に謝罪を。私達の醜い政治争いに貴女の様な綺麗な心を持った方を巻き込んでしまい、本当に申し訳ありませんでした」
さっきまで以上に深く、腰を限界まで曲げてアウラは頭を下げた。
それは間違いなく、心の底からの謝罪だった。
だからこそ、リリィは理解出来た。
自分は誰かに利用されて反魔王派に誘導されたのだと。
「……私は、誰に、どうやって良い様に扱われていたのでしょう?」
「…………。リリィさんの叔父にあたる方が、元老議員の一人から借金をしています」
「ああなんだ。……ずっと昔から、私は利用されてたのか」
乾いた笑いを浮かべながら、リリィはそう呟いた。
叔父がリリィに接触してきたのは歩きタバコ禁止条例が出来てからすぐで、そしてその叔父の紹介で人数の規模が広がっていった。
つまり、現在リリィがデモ隊に所属しているのは叔父が原因である。
気づいてしまえば、なんてことはない。
悲しい程に無知であった自分が蒔いた種に過ぎなかった。
「リリィちゃん。大丈夫?」
クロスがそう尋ねると、リリィは頷いた。
「はい。大丈夫です。ちょっと自分の馬鹿さ加減にうんざりしましたけど」
決して大丈夫に見えない顔で、リリィはそう言葉にし、作り笑いを浮かべた。
「よくわからないけど、リリィちゃんのやってきた事が間違いだったとは思えないよ?」
「……どうしてです?」
「あのデモたい? とか言う時色々な人を見たけど、あの集団ではリリィちゃんに目を向ける人が一番多かった。それにあの中ではリリィちゃんが一番真剣な顔をしてたね。つまりそれだけ真剣に物事を考え、そして色々な人に愛されていたって事。例えそれが間違いだったとしても、その全部が間違いだったなんて俺にはとても思えない」
お世辞でもなく、本心でそう言葉にするクロス。
それに対してアウラも頷いた。
「ええ。私もそう思うわ。貴女の様な臣民が持てて、私は幸せよ。たとえ反私側だったとしてもね」
その言葉にリリィはくすりと微笑んだ。
「冗談なのか本気なのかわかりません」
「あら本気よ? もちろん、私側に来てくれたらもっと嬉しいのも事実ですけど」
その言葉にリリィは驚いた表情を浮かべ、そして微笑んだ。
「考えておきますね」
「ええ。考えて頂戴」
そう言って二人はまんざらでもない顔で見つめ合った。
何を話しているのか半分以上わからないクロスは良い雰囲気である事だけを察しとりあえず頷いておいた。
「えっと、少し口調崩させて下さい。何て言うか……その……クロスさんの前であんまり偉そうな態度をするのは……ちょっと据わりが悪いんで」
軍人への対応の所為かキリッとしていたアウラはふにゃっとした何時ものアウラに戻り、そう言葉にした。
「え? 俺に気にせずアウラはアウラらしくしてくれ。俺なんかその辺の石ころと思って」
「そう言われましてもねぇ……。それにこっちが素ですし」
そう言ってアウラは苦笑いを浮かべた。
「……アウラ様よりも、クロスさんの方が偉いんです?」
きょとんとした顔でリリィがそう尋ねるとクロスは慌てて、盛大に首を横に振った。
「いえいえそうじゃなくて、普段からこういう口調で接しているので何となく気恥ずかしいんです」
「なるほど。……つまりは……そう言う事だったのですね?」
そう言ってニマニマした笑みを浮かべるリリィ。
それに対してクロスは真顔で首を傾げ、アウラは苦笑いを浮かべそっと首を横に振る。
それは、本当にお互い脈なしにしか見えない対応でリリィは少しだけつまんなさそうな顔になった。
「リリィさん。調べた結果……あまり好ましくない事実がわかりました。貴女の叔父とは関係がない事で、また貴女ともあまり関係がない事実ではあるのですが……。結論から言います。このままリリィさんを帰す事は出来ません」
その言葉に、リリィではなくクロスの方が驚いた。
「は? 何でだ? リリィちゃんは何も悪くないんだろ?」
その言葉に、リリィは首を横に振った。
「いえ。魔王様に直接直談判したような形になりましたし……それにここで得た情報もあります。それをそのまま反体制側に渡すというのはあまり……。ですので数日の拘束位は全然――」
「リリィさん。そうじゃないんです。そういう事でしたら別に帰ってもらっても構わないんですよ。隠している事なんてほとんどありませんし。これはどちらかと言えばリリィさんを守る為の拘束です」
「え?」
予想外の答えにリリィはぽかーんとした顔となった。
「アウラ。何かあったんか?」
「……リリィさんが参加しているデモ隊のメンバーに機械狂信者が紛れ込んでいます」
その言葉に、クロスは無表情となる。
喜怒哀楽を表さない無の顔。
だからこそ、その顔には強い怒りの感情が込められていた。
「え? あれ? あの……機械信仰って別に禁止されていませんよね?」
実際機械信仰は一般的とは言えないが決して悪質な物ではない為信仰している人は偶におり、リリィの友人にも機械信者の者も数人混じっている。
だからこそ、不安げにリリィはそう尋ねた。
「はい。機械信仰だけなら別に幾らでも。ですが、無辜の民を実験動物にする様な狂った信者を私は認めないだけです。ですのでご安心を。マシンカルティストというのは機械信者とは完全に別物ですので」
そう言葉にするアウラの笑みにも、確かな怒りが混じっていた。
「そんな酷い人達が……」
どちらかと言えば信じられないというニュアンスでリリィは呟いた。
大勢いる為に皆が善良ではなく、中には面倒かつ性質の悪い魔物も混じっている。
だがそれでも、そんな大悪党はデモ隊にいない。
そうリリィは信じていた。
「リリィちゃん。数日前にさ……あの幼稚園、狙われたんだ。その時、俺は誘拐された子供を助けに行った。確かに……そこにはいたんだ。気が狂い機械に取りつかれ屑となったイカレ共が……」
淡々と、怒りを胸にクロスは呟いた。
「…………わかりました。しばらくお世話になります。もちろん、何かわからない事があれば何でも聞いて下さい。でも……」
「でも、何です?」
「出来れば、私の友人も安全な場所に避難させてくれませんか? 真っ当ですが機械信者もいますからもしそれが本当でしたら……」
「そうですね。確かに機械信者でしたら狙われる可能性も考えられますしリリィさんの心配もごもっともです。わかりました。すぐ手配します」
そうアウラが言葉にし、リリィはほっと安堵の息を吐いた。
ありがとうござました。




