誰にも負けない美学の形
ドヤ顔金髪ぱっつん美少女はレイとエリーが反応するまで決めポーズを取り、そのまま動かず反応を待つ。
当然、その光景は周囲の注目を集めるのだが……思ったよりも、冷たい目で見られていない。
仕事を中断された受付も、静かな食事を邪魔された客も、演奏中の奏者も、皆が温かい目でアンジェとレイ、エリーを見ている。
ああ……つまり、良くある事なのか……。
そう、レイは思い納得した。
エリーがちらっとレイの方を見ると、レイは微笑を浮かべ頭を下げた。
「ごきげんようアンジェさん。一応初めましてになるのかしら?」
「ごきげんレイ様。そうですね。自己紹介の必要はありませんけど。そしてエリーさんレイ様。わかってると思いますが……貴女方に決闘を申し込みます!」
「でしょうね。この状況で言うならそれ位でしょう。それで、どちらに?」
アンジェはぴたっと止まり、体を震わせた。
「……はい? どちらにって……」
「私に? それともエリーさん?」
「……へ? いや、なんで別々の流れ? 貴女方ルーンの誓いをした仲なんじゃ……」
「別に分かれても勝てますので、私も、私のエリーさんも」
「いや。意味がわかりません。というかそもそもエリーさんハイロウも扱えないのに戦える訳が……」
「そこはまあ何とかする秘策が御座いますので。それでどちらに? クラス対抗戦での事が原因ならエリーさんにどうぞ。あの時私は模擬戦に参加すらしていませんでしたし」
「……レイ様はその時何を」
「学友とお茶を嗜んでおりました」
アンジェは目をぱちくりさせた後、そっと頭を抱えた。
「……私、外見は可愛いけど中身は破天荒だって自分の事思ってたけど……うん……中身はまだ普通だったかもしれない」
そう言葉にした後、一呼吸を置き、仕切り直しアンジェはエリーにびしっと指を差した。
「エリーさん。貴女に決闘を申し込みます! どちらがより可憐に、可愛く戦えるか勝負です!」
「……え、あ、勝負は受けますがアンジェさんの方が可愛いと思いますよ。ドールみたいでフリフリなその制服も似合いますし立ち振る舞いも元気一杯で。私アンジェさんみたいな可愛い方好きです」
そう、エリーはにっこりと微笑み言葉にする。
周囲からの注目が、エリーの言葉により一気に増す。
感嘆の溜息と、頬を赤らめニコニコする女性の方々。
和やかな目から、微笑ましい目。
そして、見世物を見る様な目。
他者の恋愛を楽しむ様な、そんな注目にアンジェは顔を真っ赤にした。
「私は貴女のそういう部分がすっごく苦手です! でも勝負は勝負です。ハイロウ使えないから負けたなんて恥ずかしい事しないで下さいよ!」
アンジェはそう言った後、何故か怒った様な仕草で受付の横を通り通路の先に歩いて行った。
「……あれについていけば良いんですか?」
レイの言葉に受付は頷いた。
「はい。一番会場の決闘はもうすぐ終わるでしょうし。本来ならアンジェ様は三階層の闘士なのですが……今日のところはエリー様に合わせてこちら一階層での決闘となります」
「なるほど。……武器をここで出しておく事って許されますか?」
「はい? え、まあ……ハイロウをずっと武器にしっぱなしの方もいますし別に大丈夫ですが……」
「ありがとう」
そう答え、レイはエリーの手に指を伝わせ、そっとその黄金の腕輪をなぞる様に触れる。
そして……それを起動して剣の形にした。
これがレイの言う、秘策。
エリーのハイロウの自由度を事前に最低限まで調整し、同時に魔力の流れを極限まで低下させ武器の固定化を強化する。
ハイロウの持ち味を全て殺す様な、そんな調整だが……今のエリーにとってはこれが最善。
この状態でなら……武器が固定化され簡単に変化しないこの条件でなら、エリーであっても武器を維持する事が可能だった。
あくまで維持だけであり、事前にレイに武器に変化させてもらわなければならないが。
「ちゃんと魔力を流し続け……いえ、そんな言葉要らないわね。触っているだけで魔力流れているんですから」
「精霊の長所ですねー。ここでは欠点ですけど。それじゃ、行って来ますお姉様」
「ええ。大丈夫とは思うけど武器化が解けたら私を探しなさい。ちゃんと勝ちなさいよ?」
エリーは微笑んだ後、手を振りながらアンジェの進んだ通路の方を走って進んでいった。
「遅いですよエリーさん。まだですか!?」
「ごめんなさいアンジェさん。すぐ行きます」
そんな淑女らしからぬ声、どたどた走る足音を聞いて溜息を吐いた後、レイは呟いた。
「さて、私は誰と戦う事が出来るのかしら」
そう言葉にし、ぐるりと、周囲を見る。
自分を食い物にしようとする、そのハイエナの様な目を向ける相手を。
エリーがそこに着いた時、まだ前の決闘の最中だった。
クラスが行う模擬戦よりも何倍も広い、四角い透明な何かで囲われた空間。
直線五十メートルの正方形状のフィールドが中央に一つでかでかと置かれ、その周囲はみっちりと観客席で埋め尽くされている。
一階からだけでなく、二階部分からも観戦出来る立体的な観客席。
とは言え、観客の入り自体は非常に少ない。
千程度は入れそうな観客席ではあるのだが、見に来ているのは精々二十体程度だろう。
「……本当にエリーさんだけで戦うのですね」
そう、アンジェは言葉にした。
エリーはアンジェの方を見て、こくりと頷く。
「はい。ハイロウの使い方はともかく、戦闘経験だけならまあ少なくありませんので」
「でしょうねぇ……。言っておいて何ですけど色々怖くなってきました」
そう、アンジェは言葉にする。
詳しくは知らないが、アンジェはエリーが魔王アウラフィール直属の部下である事を知っている。
つまり、相当に強いという事を理解している。
その上であっても、勝ち目があると考えていた。
これは実戦ではなく、模擬戦。
しかもハイロウ限定の。
同種の精霊である自分だからこそ、いかにハイロウの扱いが自分達に不利か。
それを知っている事こそが、アンジェの強み。
不安な気持ちは相当強いが。
「それでも、頑張らないと。ここで貴女様より私が可愛いとアピールしなければ……」
「いや、別にそんな可愛さとか私は……。それと、前も言いましたけど別に無理に敬語使わなくても良いですよ?」
「はっ! そうだった! でもしょうがないじゃん天の上の様な感じなんだから。まあ可愛さが上だってアピールするんだから、堂々としないとね!」
そう言葉にし、ドヤ顔をしながら胸を張るアンジェ。
あらゆる状況で可愛さを重視するというのは、エリーにはない考え方である。
だが、それを一概に間違いとは思わない。
確かに、戦闘において必要ない要素であろう。
だが、独自の美学が力となる事があるのもまた真実の為、エリーは否定しない。
アンジェの奇妙な立ち振る舞い、理解出来ない言動は、確かな美学に溢れていた。
「……胸の大きさなら私負けてますね。くすん」
エリーがそうぽつりと呟くとアンジェはぴたっと固まり、そして徐々に真っ赤になり猫背になり胸を腕で隠した。
「どこ見てんのよー!」
「いや、羨ましいなーって……ってあれ? 何か……」
エリーはきょろきょろと周囲を見回し、そう呟く。
さきほどまでほとんどいなかったはずなのに、観客が結構な数来ている。
少なくとも、百体位はいるだろう。
「ま、私の決闘だからね。これでもファンがついてるのよ。可愛い私のね」
そう、アンジェは胸を強調せずドヤ顔をしてみせた。
「なるほど。流石ですねー。っと話している内に、前の試合終わりそうですね」
フィールドを見ながらエリーはそう呟く。
その瞬間、剣を持った少女がもう片方の銃を持つ少女に接近し、そして何度かの乱戦の後その銃を柄で叩き剣を振る。
その直後、銃を持っていた少女はフィールドの外にはじき出され、地面に強く叩きつけられた。
「……良くわかったわね。終わるって」
「見ていたら相手の技量と戦況位はわかりますよ。それで、ここからどうしたら良いんです?」
「あっち。あっちに行って審判っぽいのに次の予定だって言えば良いわ。じゃ、私は反対側に行くから」
そう言って、アンジェは深刻そうな顔でそちらに向かう。
負けるつもりはない。
だが、戦闘の技量、センスだけはどう考えても勝ち目がない。
というよりも、闘いとして成立しないだろう。
だからこそ、しっかりと考える必要がある。
アンジェは先程の会話で、改めてそれを思い知らされた。
エリーとアンジェがフィールドに入ると、音楽が鳴り響いた。
ピアノと弦楽器の入り交じっていながらも、どこかポップでライトなメロディ。
アンジェが事前に頼んだ開幕の合図。
可愛く、凛々しく、それでいて美しく。
自分をイメージした作らせた、専用の曲。
徹底的に作り出す、可愛いという自分のフィールド。
自分の世界。
この中でなら、絶対に負けないという、そんなルーティーン。
そんな曲流れるフィールドで、エリーは少しだけ挙動不審な様子となる。
そりゃそうだ。
会場に上がったらいきなり曲が流れるのだから驚くに決まっている。
しかも、いつ試合が始まるのか、それとももう始まっているのかわからないのだから不安にもなる。
とは言え、出来る事もない為……わからない事尽くしでわからないなりに、エリーはその時を待つ事にした。
アンジェから攻撃をしかけてくるその時を。
曲が流れ、そこで観客達に踊る様アピールするアンジェを微笑ましく見守って三十秒位経った位。
アンジェがそっと、手の平をエリーに向け、そして指を一本折る。
四。
その意味を理解し、エリーは頷いた。
三。
アンジェはハイロウを手の平に握れる短い棒に、剣の持ち手だけの様な道具に変化させる。
二。
エリーは剣を構え、アンジェの行動を待ち受ける。
一。
りーんごーんと、大きな鐘が鳴り響き、観客達の歓声が轟いた。
戦闘力で勝てないアンジェが勝っている部分は、ハイロウの操作のみ。
アンジェもハイロウの緻密操作がそこまで得意という訳ではないが、それでも初等中等六年のアドバンテージは伊達ではない。
では、ハイロウの操作によるメリットとは何か。
それは二点。
一点は、圧倒的な自由度。
様々な武器に変化させるというのは、ハイロウの初歩の初歩。
それは使い方をまだ極めていない証でしかない。
本当にハイロウを扱えるのなら……既存の存在する武器に変化させるのではなく、自由に思い描く武器へと変化させられる。
例えば……こんな風に。
アンジェが握る棒から、発光する紐状の何かが生じ、鞭となった。
魔力を固定化させひも状にした鞭。
変幻自在の鞭に長さまで自由となり、しかも何度でも再生出来る。
それは、ハイロウをただ武器に姿を変える腕輪と思っていたエリーでは想像出来ない使い方だった。
アンジェは優雅に、それでいて可愛らしく鞭を振るう。
鞭という拷問用の残酷な武器ではあるが、その鞭のデザインにアンジェ自身の立ち振る舞いは、どこかアンジェらしかった。
エリーは軽いステップで鞭を躱していく。
変幻自在であっても、手元を見れば避けるのはそれほど難しくない。
だがそれは、アンジェの想定内の事でしかなかった。
赤く輝く魔力の光。
その光はエリーに襲い掛かるその瞬間――唐突に三つに分かれ、それぞれ生物であるかの様な、回り込み絡めとる様な挙動をし始める。
アンジェの武器は鞭としても使えるが、鞭という訳でもない。
魔力をひも状にして扱える道具である。
魔力が元なのだから、当然増やせるし操作も出来た。
後方、左右、前方。
全ての逃げ道を塞ぐ三つの光。
エリーは回避する事を諦め強引に右側に突っ込み、自分からその魔力の鞭に当たりに行く。
右の二の腕に、思いっきりビンタをされた時の様な衝撃と、悲鳴を上げそうになる激痛。
そして、焼ける様な熱さがエリーを襲う。
服は破れていない。
だがそれは威力が低かったという事ではなく、制服が優秀であるという事でしかない。
その証拠に、エリーの右腕からぽたりぽたりと赤い液体が落ち制服の腕部分をじわりと赤く染めあげていた。
「……これで負けって事ないですよね?」
無表情でのエリーの言葉にアンジェは頷いた。
「もっちろん! この程度で終わるなんて思っちゃいないわ。それより、どうして武器で受けなかったの?」
武器破壊がもっとも容易い勝利条件であるアンジェはそう尋ねた。
「いえ、武器が戻っちゃったら私何も出来なくなっちゃうので」
武器を護る為に怪我をする本末転倒ぶりにアンジェは苦笑いを浮かべる。
それでも、手加減はしない。
手加減をしていい相手ではない事をアンジェは正しく理解していた。
正面にいるのは、あの魔王の騎士であった者なのだから。
エリーは足を止めず、左右にステップを刻みながら徐々にアンジェに近づいていく。
鞭に囲まれない様立ち振る舞いながらも徐々に距離を詰めるその立ち回りは、わかっていながら対処が難しい。
王道だからこそ、アンジェは戦闘経験の差が理解出来ていた。
少しずつ距離を取りながら鞭を振るうも当たる気配もなく、何なら縄跳びの様にジャンプで回避される始末。
そして――二体の距離が剣の間合いに入るその瞬間……アンジェは跳んだ。
まさかの上空への移動。
それはエリーにとって予想する事さえ出来ない行動だった。
ハイロウを扱う事のもう一つのメリット。
それは……機動性。
ここでは魔法を使う事も魔力を使う事も許可されていない。
だが、ハイロウを通した場合は別。
ハイロウに通した魔力は、未来予知において足を引っ張らないハイロウの性質が付与された魔力ならば、自由に行使出来る。
そして、ハイロウが変化させられる数、大きさには、限界はない。
魔力、イメージ、センス、技術。
そういった才能の壁はあるものの、逆に言えばそこさえ解消されれば、ハイロウの可能性は無限大となる。
アンジェは靴底に変化させたハイロウから魔力を噴出し、魔力を空中で固定させる。
その魔力を壁扱いにして思いっきり蹴り、アンジェは空を駆ける。
空中での立体起動、ハイロウを使う上での鉄板戦術の一つ。
そのままエリーの背後に移動し、アンジェは強襲する。
ここに初めて来たエリーがそんな鉄板戦術を知る訳がなく、また知っていてもここまで完璧にタイミングを合わせた奇襲、回避する事は容易くない。
だから、決まると思った。
鞭をほとんどが刃と化した赤い斧に変化させて両手で持ち、その背中に突撃する。
最大重量、最大火力。
アンジェリアの誇る、最高打点。
エリーの背中はそのまま。
振り向く事もなく、アンジェにずっと背中を向けたまま。
だが、アンジェは後ろを見るエリーと、眼が合っていた。
まずい。
アンジェがそう思った時には、既に手遅れだった。
何が起きたのか、当事者であるアンジェにはわからなかった。
結果を言えば奇襲は失敗して自分は地面に着地しており、更に自分の左腕に刃が突き刺さった様な刺し傷が残りじりじりと痛みを放っていた。
「……背中に目でも付いてるのかしら?」
痛みを堪えながらも挑発的な笑みを浮かべ、アンジェはそう言葉にする。
「ついていたら振り向きませんよ」
そう、あっさりとエリーは返した。
「……まだ、負けたなんて思ってないわよ」
アンジェの言葉に、エリーは微笑んだ。
「ええ。まだ始まったばかりですからね」
その言葉が、アンジェには怖かった。
こんな大怪我をしてもまだ終わっていないと言い切るエリーが、それが当たり前の生涯を送ってきた事が。
だけど、それでも、アンジェは笑ってみせる。
アンジェは自分の美学に乗っ取り、微笑み、可憐に跳び、駆け、優雅に戦う。
拘りを捨てる事は、アンジェにとって死を意味していた。
そこからの戦いは、可愛いという言葉からはかけ離れていた。
お互いじりじりと移動し、お互いが隙を狙い交互に攻撃をするという泥くさく見ていても苦しくなる様な戦い方。
だが、そんな戦いは長くは続かなかった。
勝敗を決したのは、決して美学の差などではない。
アンジェの美学は、エリーに対し意味があった。
美学が足を引っ張ったという事は、決してない。
知恵と覚悟、技術、経験によって、圧倒的な実力差にも負けていなかった。
ハイロウを扱う事、この場での戦闘経験。
それにより、実力差自体は確かに補っていた。
勝敗を決めたのは美学の差でも、実力差でも、ましてや努力の差なんかでもない。
無粋な言い方だが、それはとある経験の差。
戦闘と切っても切れないが、学園生だとどうしても少なくなるその経験の……。
アンジェは左腕の痛みにより、集中力を途切れさせていた。
どうしても、痛みが思考を遮り足を重くしていた。
一方エリーはアンジェよりも傷は酷く、その鞭という形状による攻撃の所為か痛みも酷い。
それでも、エリーは集中力を途切れさせる事なく戦い続けられた。
その程度の痛みをなんて、堪えるなんて考えすら要らない程度に、痛みに慣れていた。
勝敗の差は、痛みを乗り越えて来た、その数の差だった。
エリーが剣の持ち手でアンジェの左手を強く叩くと、その衝撃と痛みに耐えきれずアンジェは武器を落とす。
そして手から離れた武器は腕輪に戻り……次の武器に変化させる前に、エリーの剣はアンジェの首に密着していた。
ここから悪あがきをする事もまた可能だった。
このフィールド内では致命傷の攻撃は無効化され、外に放り差出されるだけ。
死なないのだから、勝つ為ならそれ位するべきだろう。
実際、外に出すか降参をするまで勝敗はつかないというのが決闘での常識である。
だが……。
アンジェはそっと、両手を挙げた。
「降参よ。参ったわ。可愛さでは負けたつもりはないけど」
傷つけない為にわざわざ降参の余地を残してくれた相手に対し悪あがきをするなんて可愛くない選択、アンジェに選べる訳がなかった。
「お疲れ様です。良い勝負でした。ところで包帯とか持っていませんか?」
「はい? そりゃ持ってるけど……どうしたの?」
「いえ、止血をしようかと。次の試合で相手の方を血で汚すのは申し訳ないので」
「え? すぐ次をするつもりなの? 普通怪我したら休むでしょ?」
「いえ。この程度怪我の内にも……」
「いやいや! 思いっきり当たったし! 何なら貫かれた私よりも重い怪我じゃん! ほら腕焼けてるし肉見えて気持ち悪い事になってる! 良いからちゃんと治療受けなさいよ!」
腕をまくりながら、アンジェはそう声を荒げた。
「時間がもったいないので」
そう、あっけらかんと言葉にするエリー。
アンジェは、何とも表現しづらい表情を浮かべる。
眉を顰め、信じられない物を見る様な目と同時に、馬鹿を見る様な……そんな目だった。
「わかった。……もう……わかったからついて来なさい。回復薬あげるから。それなら次の試合までに痛みがない位までは回復するはずよ」
「そんな便利なものあるんですね」
「本来ならまだあんたには貰えない物よ! 可愛い私に勝ったご褒美と思いなさい!」
どっちかと言えばほっとけないという気持ちなのだが、それを飲み込みアンジェはそう叫んだ。
「ありがとうございます可愛いアンジェさん」
「……馬鹿にしてるの?」
「いえ。本当に可愛いと思いますよ。抱きしめたいなーって思う位。いえ、そうしようと思う位」
そう言葉にし、エリーはアンジェをぎゅっと抱きしめる。
それに抵抗しようとするアンジェだがどうあがいても抜け出せないし腕は痛いしあんまり嫌じゃないしという事で、諦めてされるがままとなった。
ありがとうございました。




