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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

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優雅であろうと心掛ける姉心、素直であろうとする妹心


 太陽が沈み、月が出る時間帯――。

 食堂の中、テーブルに着き二つの空席を見つめながらフレイヤとイラは若干緊張した面持ちとなっていた。

 フレイヤに関しては上級生に招待された事などない為、緊張するには十分な理由がある。

 だが、イラは別だ。

 上級生だろうか関係なく親しくなり、色々な意味で問題行動を繰り返すイラが今更食事位で緊張する訳がない。

 だからこそ、どうして同じ様な表情をしているのかフレイヤは疑問に思っていた。


「フレイヤさん。どうして緊張していますの?」

 フレイヤがイラに尋ねる前に、フレイヤの方からそう尋ねて来た。

「……そりゃあ、クラスメイトとは言いましても上級生の方のお誘いですよ? 緊張しない訳がありません。むしろイラさんはどうして?」

「私、緊張していました?」

「ええ。貴女が静かな時なんて授業を除けばそうないではありませんか」

「……そう、かもしれませんわね。……ああ、レイ様。なんと罪なお方でしょうか……」

「……お願いだから、レイ様に失礼を働かないで下さいよ? もし貴女が何かした上で貴女がどうなっても流石にそれは庇う気が起きません……」

「大丈夫ですわよ。ただレイ様とエリーさんを同時に愛でたいだけですから」

 何が大丈夫なのかさっぱりわからなかった。

「……貴女のそのメンタルが時々羨ましくなりますわ」

 フレイヤは盛大に溜息を吐く。

 それ位しか、今の感情を表現出来そうになかった。


「……ごめんなさい。どうやら待たせてしまったみたいね」

 その溜息を見ながら、エリーに引かれながらのレイはそう言葉にした。

「いえ、そんな事は。これはイラさんの馬鹿に呆れただけですので大丈夫です! 遅れましたがお食事招待して頂きありがとうございますわ!」

 そう叫び、フレイヤは席を立ちレイに頭を下げる。

 それに合わせイラも横で同じ様な動作をした。


 イラはこういう時本当に猫かぶりが上手い。

 黙ってさえいればまるで淑女の様に見えるのだから。

 中身はネコ科肉食獣だが。


「こちらこそ、招待に応じてくれてありがとう。と言っても、ただの食堂での食事ですけどね。次機会があればもう少し色々とした趣向を凝らしたいものです。……とりあえず、食べながら話しましょうか」

 そう言葉にし、レイはカートの中にある食事をエリーと共にテーブルに並べだした。


 それでフレイヤとイラの二体は初めてレイがわざわざ食事を持って来たのだと理解した。

 というよりも、そんな事する訳がないと思っていた為今の今まで理解出来なかった。

「レイ様!? 食堂の者に運ばせれば良いのに何故わざわざ!?」

 学園の食堂とは言えそのサービスは一流レストランと遜色ない。

 だからこそ、レイのその行動は奇行にしか映らなかった。


「招待したのに何も用意出来なかったからせめてこれ位はと。後ね、私誰かに命令をする事ってあまり好きじゃないの」

 そう言って、レイは笑った。

 どこか嘲笑めいて、それでいて悲しそうに。


「……そのお気持ち、ご厚意、心よりお礼を」

 ぺこりと頭を下げ、そう言葉にするフレイヤ。

 それにレイは軽く会釈をする様頭を下げ返した。


「……あの、レイ様。一つ、宜しいでしょうか?」

 イラはテーブルに並んでいく食事を見ながら、そう呟いた。

「何かしらイラさん。嫌いな物でもありましたか?」

「いえ、私食べられる物は何でも食べる主義ですので……」

「奇遇ね。私もよ」

「いえ、そうではなく……多く、ないですか? もしかしてあと数名ご招待した方がいらっしゃったりします?」

 イラはテーブルの食事量を見てそう尋ねる。

 とても四名分の食事とは思えず、その倍はありそうだった。


「いえ、これは……エリーさんの分です」

「……はい?」

 フレイヤとイラは首を傾げ、エリーは慌てた様子でレイに掴みかかった。

「ちょ、ちょっとお姉様!?」

「どうやら昨日は皆様とお食事をする時恥ずかしいからと通常量にしたそうですが、元々エリーさんは結構な健啖家ですのでこの位は……」

「そう、なのですかエリーさん?」

 フレイヤの質問にエリーは顔を反らした。

「いえ別に我慢したとかそんな事はなくてですね……」

「エリーさん。正直に申しませんと……。今後困るのは貴女だけでなくお互いですよ?」

 レイの叱責により、しゅーんとなりながらエリーは頷いた。

「すいません。私元々男社会にいたからか結構な量食べるんですはい。食べるの好きなんです」

「一応言っておきますが、当学園での食事量自体外と比べ少ないという理由もありますよ。エリーさんが健啖家なのは紛れもない事実ですけれど」

 そんなフォローなのか追撃なのかわからないレイの言葉にエリーは恥ずかしそうにし、フレイヤは苦笑いを浮かべた。


「ま、気持ちはわかりますわ。私も割と食べる方ですけど見栄の為に我慢している部分ありますからね」

 イラはそう言葉にした。

「そうなのですかイラさん」

「ええそうなのですよレイ様。お食事会となればお近づきになるチャンスですから。それとあまり多く食べるとやはり困惑する方もいらっしゃいますし。とりあえずこの程度なら二食分は食べられますわ」

「そう……。なら、今日位は遠慮せず食べて頂戴。貴女が多少多く食べてもエリーさんがいる以上目立つ事はないでしょう」

「まあ、それは素敵! では遠慮せずそうさせて頂きますわレイ様、エリーさん」

 そう言葉にして微笑むイラにレイは釣られ微笑を浮かべた。




 ゆっくりとナイフを動かし、野菜を小さく切り分け、そっと口に運ぶ。

 丁寧に、それでいて周囲からどう見られるかを考えながら、指先にまで意識を運ぶ。

 学園生として、淑女として恥ずかしくない様、レイは細心の注意を払いながら諸動作に気を配る。

 だからこそ、その食事風景は美しく……少女達は確かに、憧れを感じた。


「……フレイヤさん、イラさん。どうかしましたか? お食事が進んでいない様ですが?」

 そう言葉にし、レイは紅茶のカップを口に運ぶ。

 それだけの動作であっても、思わず吐息が漏れそうな位様になっていた。


「すみません。ただ、レイ様に見とれていましただけですわ。そうですよねフレイヤさん」

 イラの言葉にフレイヤは恥ずかしそうに頷いた。

「……そう? 私なんかのどこにそんな要素があるのかわからないけれど……」

 そう、レイは困った顔で呟いた。

「……それ、本気で仰ってます?」

 イラの言葉にレイは首を傾げ頷いた。

「え、ええ。本気ですけれど……」

「レイお姉様はご自身の魅力に気づくべきですわ。私の様にふらふらと寄って来る肉食の蝶が溢れる前に」

「はぁ。良くわかりませんが、その忠告は受け取りました。まあ、諸作法という意味でなら理解しましょう。フレイヤさんはまあ及第点として、イラさんはちょっとその辺り適当にしていそうですし」

「あはは……バレてまして?」

「ええ。誤魔化し方ばかり覚えている様ですわねイラさん。わかる者が見れば変にさかしく見えますから修正する事をお勧めします。……私で良ければ教えますので。そして……私の可愛い妹――エリーさん?」

 レイらしからぬニコニコとした顔。

 ただ、その顔は嬉しいというよりも怒っている様にしか見えなかった。


「はい? 何です?」

 フレイヤやイラとは異なり、エリーは食べる事にのみ集中していた。

 ただ……その作法は正直マナーと呼んで良いものではなかった。


 これが一般的な値の安い食堂であるなら問題はないだろう。

 エリーだってあまりに見苦しい食べ方をしたい訳でもない。


 だが、アシューニヤ女学園という場においてのその食べ方は、少々以上に低俗過ぎた。


「エリーさん。せめてナイフとフォークの使い方位は正しく覚えましょう。特にナイフ。どうしてそんなノコギリみたいな使い方をするのですか。それに一口も大きいですしフォークの使い方もそんなお皿を刺さんする程の勢いで刺さなくても……」

「あ、あはは……お姉様。お食事は楽しく楽しく……ね?」

 ちらちらとクラスメイトに目を向け盾にしエリーはそう誤魔化す様言葉にした。

「……そう、ですね。せっかくクラスメイトでお食事会をしているのです。この時位小言は止めましょう」

 そう言葉にし、レイは紅茶を一口、口に含んだ。


 エリーはお小言を逃れられ安堵の息を吐いた。

「ではエリーさん、部屋に戻った時はお覚悟を。忘れない内に徹底的に指導をしましょう」

 エリーは露骨に顔を顰めた後、嫌な事を忘れる様食事に集中し出した。


「……たった一日ですが、いえ、一日だからこそわかりますね。エリーさんの印象が明らかに違うってわかりますね」

 フレイヤの言葉にレイは頷いた。

「気を張っていたのでしょう。……まあ、今は逆に少々以上気が抜けすぎていますが」

「えへへ。お姉様がいますからね」

「……はぁ。本当、甘え上手な妹が出来て嬉しいわ」

 レイは苦笑しながらそう呟いた。




「あの、レイ様、一つ尋ねても宜しいでしょうか?」

 イラの言葉にレイは頷いた。

「ええ。構わないわ」

「私、これでも上級生の方にも色々な意味で可愛がられていまして」

「ええ。そう見えるわね」

「なのでそこそこ顔が広いのですが……特に見目麗しいレイ様の様な方は」

「私は自分が綺麗と思わないから同意し辛いけれど一応納得しておくわ」

「その私が、レイ様を知らないっていうのがあり得ない事なんですの。ですので……レイ様一体今までどこに居たんですの? 私の美女センサーにこんなビンビン反応してますのに知らないなんて……」

「……そう、ね。……まあ、その質問には一言で終わるわ」

「と、言いますと?」

「私は元、二年生スルトクラスにいました」

「あ」

「あ」

 フレイヤとイラは同時にそう呟き、納得したような様子……というよりも、触れたらいけない物に触れてしまったような申し訳なさそうな顔をしてレイから顔を反らした。


「お姉様、スルトクラスって何ですか?」

 エリーはそんな空気気にもせず、スパッと話題の深くに切り込んだ。

「要するに、滅茶苦茶なクラスって事です。一名二名いなくなっても担任含め誰も気にしない様な」

「いやいやそんなクラスある訳が……」

「それがありますの。どの学年にも一つは問題児を集めたクラスが。そして二年のスルトクラスはその中でも特別アレなのが多くて……」

「へー。でも、どうしてお姉様がそのクラスに?」

「私、孤児だったのよ。それで色々……いえ、あまり愉快な話ではないのでこの話は止めておきましょう。というかエリーさん。クラスメイトの顔色位伺って話題を振りなさい」

 そう言われ、エリーはフレイヤとイラの顔を見る。


 その顔は、早く打ちきれ、流れを変えろと強く主張していた。

「……お姉様さっきから紅茶しか飲んでませんがもう良いんですか?」

「ええ。私そこまで食べられる方ではないので。と言っても、十分に食べはしたつもりですよ。私食べるの早いので」

「あの作法で食べるの早いって凄いですねお姉様」

「食べないと食べ損ね……いえまあ良いでしょう。エリーさんはどうぞ私に気にせずお食事の続きを。私は……そうですね。イラさん、一つ……尋ねても宜しいでしょうか?」

 レイの言葉にイラは食事の手を止め、水を飲んで口の中を流し込んでから頷いた。


「はい何でしょう? ちなみにスリーサイズは……」

「興味ないわ。……もし、答えたくない事なら早めに教えて頂戴。追及しないから」

「別に私に後ろ位事も悲しい過去もありませんわよ? 素行以外」

「反省文の数と問題行動の数は貴女当学園でトップクラスですものね」

 フレイヤはそう付け足し呟いた。


「……本命の質問の前に尋ねたいのだけど、一体何をしているんですか貴女は……」

「ナニをしていましたの」

 そう、ねっちょとした笑顔を浮かべイラは答えた。

「……エリーさんの教育に悪くない程度に接して下さいね」

「ええ大丈夫ですわ。むしろ私は将を落とす時は馬も一緒にいただくタイプですのでその時はどうかよろしくと……」

「本当、良い性格してますわね。それで聞きたい事なのですが……そのミドルネームについて教えて頂いても構いませんか?」

v・v(ヴァンヴェール)ですか? まあ、確かに少々変わってますわね。ミドルネーム二つでしかも記述する際はv一文字ですし」

「それはどうしてその様な名前なのか尋ねても? 私の知っている方に良く似ていますので……」

「ふむ……。その方は吸血鬼とかリッチとかそういう古い家柄でかつその方向性でそこそこ高貴な方です?」

「……いえ、どちらかと言えばあまり宜しくない家柄という方が正しいかと」

「ではきっと私のミドルネームとは無関係ですわね。この名前はアレです。名家に生まれたからうんぬんーとかそういう奴ですわ。私もあまり興味ないのでざっくり説明ですけど。それでも気になる様でしたらその方の名前を教えてくださればアプリコット家で調べてみますが……」

「いえ、それには及びません。質問に答えていただきありがとうございました。……そのお礼という訳でもございませんが……デザートを用意してもらっていますのでお食事が終わりましたら皆で一緒に食べましょう」

 そう言葉にするレイの微笑み。

 ただそれだけで、イラはお腹がいっぱいになる様な気持ちだった。


 エリーは気にもせず食事を続けていた。




 デザートのレアチーズケーキを四体で楽しみながら談笑をしているその最中、フレイヤは唐突にレイに質問をした。

「あの、レイ様。答えにくい事でしたら良いのですが……」

「何かしらフレイヤさん。クラスメイトです。遠慮せず尋ねてください」

「では……どうして私達をお食事に誘って下さったのですか? いえ、ぶっちゃけ私だけなら納得出来るんです。クラス委員でかつ無難な選択肢だと自分で思ってますので、ですが同時にこれは……」

 そう言葉にし、フレイヤはイラの方を見た。

「何ですの? 何か文句が?」

「反省文、先生への謝罪、授業の遅れ対策、私が何一つ貴女に対して文句がありませんと?」

 イラはそっと顔を反らす。

 その様子を見てレイはくすりと微笑んだ。


「なるほど。と言っても、そこまで複雑な理由はありませんのよ? ほとんどフレイヤさんの予想通りです。クラス全員と交流を共にしようと思っていまして、その上で最初に貴女方を選ぶのが最も無難だと思っただけです」

「……イラさんが、無難……ですか?」

「ええ。無難ですわ。だってイラさん、自分に正直じゃないですか。礼儀作法も習得していて、その上で自分の主義主張を強く主張し他者と交流を結ぶ。そういう方の方が礼儀作法を知らない方や話術で己を隠す方よりも遥かに交流しやすい相手だと思い、この場に呼びました」

「これを、御しやすいと……」

「可愛らしいお方だと思いますわよ?」

「……レイ様は凄いお方なんですね」

 フレイヤは尊敬の眼差しを向けながらそう呟いた。

「そんな事ないわ。それに……イラさんがどれだけ問題行動を起こしても私には何の被害もありませんもの。なので、私にとっては無難な選択肢というだけです。……同情は、しますわフレイヤさん」

 フレイヤの眉が露骨に下がった瞬間だった。


「……全く、人を罰ゲームか何かの様に……」

「罰ゲームの方がマシですわよ」

 そのフレイヤの嘆きは、これまでのどの言葉よりも説得力を帯びていた。


「さて、皆食べ終わった様子ですしお話も大体終わりました。そろそろ片しましょうか」

 そう言葉にしながらレイが皿をカートに乗せだすと、従業員らしき女性が慌てて走って来た。

 どうやら様子を伺っていたらしい。


「お嬢様。どうか私共にお任せを! お嬢様方にその様な事をされると我々も心苦しゅうございます!」

「……自分で食べた物を片付ける位普通の事では?」

「立派な教育を受けた事はわかりますが、どうかここは我々にお任せを!」

 今日出会ったばかりではあるが、それでもフレイヤもイラも今のレイの気持ちが理解出来た。


 レイは、露骨に落ち込んでいた。


「そう、ね。ごめんなさい。貴方達のお仕事を奪ってしまったようです。それじゃあ、お願いしても宜しいかしら?」

「もちろんです」

 そう叫び、従業員の女性は慌てた様子で皿をカートに乗せだした。


「やる事がなくなってしまったわ。……邪魔にならない様退出しましょうか」

 レイの言葉にエリーは頷き、レイの手を掴み道を誘導した。


「……あの、エリーさん。どちらに向かっているのですか?」

 出口ではなく店の奥の方に向かうエリーを見てイラはそう尋ねた。

 エリーはくすりと微笑み自慢げな顔をイラに向けた。

「お姉様はそういう方なので」

 その言葉にフレイヤとイラが首を傾げている最中に……レイはエリーの手を離し前に出て、店の奥の方に深く頭を下げた。

「ご馳走様でした。美味しかったです」

 そう、レイは言葉にする。


 その声は、決して怒鳴る様な声ではなかった。

 だが、凛として、透き通っていて……だからだろう。

 大きな声でなくとも、店全域に音が伝わり、レイはたった独りで店中の視線を独占した。


 レイの声を聞いて、慌てて真っ白なシェフ姿の女性が両手粉塗れになりながら店の裏から顔を出した。


「そ、そんな滅相もない。お仕事ですのでお嬢様は何も気にせずに……」

「ええ、立派なお仕事だと思います。ですが、料理が美味しいのはそれが仕事だからではなく、貴女が私達に美味しく食べて欲しいという好意からでしょう。であるなら、私はその気持ちに報いる為、せめて礼をしたいの。それ位しか出来ないから。ご馳走様でした。本当に美味しかったです。また食べたい位に」

 そう言って、レイはにこりと微笑みかけた。


 彼女は、料理人としてのプライドを持っている。

 彼女にとって料理を作る事は、当たり前の事である。

 例えどんな暴言を吐かれようと、それを貫く覚悟を持っている。


 その上で、そのレイの言葉を聞いて、泣きそうになった。

 言われない事が、ここでは当たり前だった。


 報酬は金銭で払うのが当たり前の事だから。

 ここは、そういうお嬢様でいる事が当たり前だから。


 だから、美味しいなんて言葉を直接投げられたのは、お礼を言われたのは……ここでは初めての事だった。


「……ありがとう……ございます……」

 頭を下げ、そうとだけ答えるシェフ。

 声が震えている事を知らないフリをし、レイはコックに再度感謝と尊敬を込め深く頭を下げエリーの手を掴んだ。

「ご馳走様でした! 美味しかったです!」

 エリーもそれに合わせ叫び、レイの手を引きその場を後にする。


 フレイヤとイラも前例に対し見よう見真似で頭を下げ、小さな声で感謝を伝えて二体に着き店を出て行った。


 真似をしたのは、何となく、レイとエリーの行動に恰好良いと思ったから。

 ただそれだけ。


 だが、そう思ったのはフレイヤとイラだけではなかったらしく……今日よりしばらくの間、コック、シェフに食後感謝を込め礼を言う文化が学園内で流行しだした。


ありがとうございました。

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なんだ……?なんなんだこのNTR感は……!! いやいや、ワンチャン逃げる事に飽きたクロスが女装してる可能性がまだある……!
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