表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

167/880

フレイヤさんお手製学園生活のしおり

基本説明パートです。


 一通り個性的でかつお嬢様っぽいクラスメイト達と会話をし、一時間程経過した後……いきなり、お茶会が始まった。

 いや、それはただの小休止でありお茶会ではないらしいのだが、エリーとしてはいきなり白いカップに注がれたお茶と茶菓子を出されにこやかな様子となる現状はお茶会にしか思えなかった。

 そこでフレイヤはエリーにさっき作成したばかりの小冊子を手渡し、イディスについてや学園について簡素に纏め説明を始めた。


 イディスでの役割を大まかに分けると三つになる。

 予言者。

 守護者。

 その他雑用。


 予言者はその名の通りイディスの中枢機能である未来予知を行う者達。

 より正しく言えば未来予知を行えるたった独りの泉守を目指し、同時に泉守を支える者達の事。

 そんな彼女達はノルニルと呼ばれている。


 ノルニルの選考基準は未来予知の能力のみ。

 その手段、方法、全てが関係ない。

 ただ、未来が視えるかどうかの結果のみが求められ、その結果を伸ばす事のみを重視する。

 つまり、ノルニルの半数以上は戦闘能力が最低限程度しかないという事である。

 そんなノルニルを護る為存在するのが守護者、ヴァルキュリアであり、それを養育する専門機関の一つが今エリーが在籍しているアシューニヤ女学園となる。


 ヴァルキュリアと一括りにしているがその意味合いは戦闘する者程度であり、役割も内容も幅広い。


 イディスその物を防衛する軍の様な役割を担うグン。

 ノルニル直属の親衛隊、騎士相当の役割を担いつつ未来予知に手を貸すスクルド。

 イディス外部での活動が中心となるゲイル。

 泉守直属部隊ロタ。


 これでも編成先を一部抜粋しただけであり、ヴァルキュリアの進路先は戦闘というくくりの中であっても多岐に渡る。

 ちなみに、ただグンに入るだけなら当学園に一年でも在籍すれば十分だろう。

 高等部でなく中等部であっても。


 逆にスクルドになるには未来予知に手を貸せる、または自分で占星術が使える上に高度の戦闘力がなければ叶わない為、努力だけでなれるものではない。

 だからこそその様々な種類のヴァルキュリアを養育する為に養育所は学園という形だけでなく訓練所修練所学習院と様々な形でイディス内に存在している。


 ちなみにこのアシューニヤ女学園は特定のヴァルキュリアを養成する様な方針は取っておらず、生徒独り独りの特徴を高めそれに適した場所に送り込む事を使命とする様な方針となっている。



 

 最後にその他雑用。

 これは文字通りであり、イディスでの雑用を担当する職をひとまとめにしたもの。

 学園の用務員もそうでありこの美しい庭を維持する庭師もそう。

 多くの場合が外部より雇うのだがノルニルやヴァルキュリアを引退し来る者もいる。

 そしてその理由の大多数は、あまり目出度い事ではない。




 続いての説明は、アシューニヤ女学園について。


 このアシューニヤ女学園は初等部、中等部、高等部の三つが存在する。

 初等部中等部は義務教育がセットとなっており、主に基礎的な事を学ぶ。

 逆に高等部は専門的な知識、技能に加え生徒独自の能力向上を中心とする為クラス単位の授業とそれ以外の選択授業がほぼ同じ位の割合で行われる。


 また、初等部中等部は三年という在籍期間となっているが……高等部は少々以上に事情が異なる。

 高等部は五学年に別れているが、五年で卒業できる割合はあまり高くない。

 留年が恥ずかしくない程度には当たり前の事となっている。


 学年をあげるには厳しい進級試験を達成する必要がある上に、卒業自体は一年生でも可能となっている。

 ちなみにだが、女学園一年のまま卒業しても進路に困る事はない。

 当然学年が高ければ高い程優れているという証明になるが、高等部に一年在籍するだけで十分実用に足る力を持っているという証明になる。


 だからだろう。

 アシューニヤ女学園では目上の上級生には様付けで呼ぶのが習わしである。

 上級生かどうかは制服では紐状のタイか肩に付けられたワッペンの色で判断出来る様になっている。


 ベースさえ守ればかなり大胆なアレンジも許されている当学園の制服だが、そこだけは変える事が出来ない様になっているからだ。


「それと、後は各寮はクラスメイト二体一組となっていますがエリーさんは奇数での編入ですので……どうなるんでしょう。たぶん個別部屋になるとは思いますが……まあその辺りはおいおい先生から連絡があると思います」

 その他生活での諸注意と身だしなみを気を付ける事等の説明をフレイヤは行った。


「色々ありがとうございます。これで……半分位ですね」

 エリーは渡された冊子を見てそう言葉にした。

 フレイヤに用意された三十ページ程の小冊子。

 その半分は、これまで習ったイディスや学園の事やその生活について。

 ちなみに残りの後半は学園生活の中心である戦闘についてが書かれている様だった。


 この時点で、フレイヤがどれだけ面倒見が良く細かい性格なのか理解出来る。

 ここまでしなくてもと思う位には、その冊子の内容、纏まり方、情報量が飛び出ていた。




「ここで一旦質問を受け付けようと思うのですが、エリーさん。何か質問が御座いますか?」

 そっとエリーは手を挙げた。

「あ、二つ程良いですか?」

 学園について多少わかったからか、エリーは知りたい事が出来ていた。

「はい。何でしょう?」

「まず、ルーンの誓いって何なのか聞いても良いでしょうか?」

 イラが言葉にしたルーンの誓い。

 それにエリーは聞き覚えがあった。

『ルーンの誓いを結ぶ事』

 それは、エリーが適応の試練として受けた条件の一つがそれだった。


「ルーンの誓い……ですね。もちろん説明するつもりですわ。学園において重要な事ですもの。ですが、少々長くなりそうですのでその前にもう一つの質問を尋ねても?」

「はい。もし失礼な事でしたら申し訳ありません。その時は謝罪を。――どうしてこのクラスに上級生の方がいるのでしょうか?」

 そう、エリーは言葉にする。

 教室後ろの方にいる二体の学生を見ながら。

 彼女達はタイの色も、ワッペンも皆と違う物になっていた。


「それは一つ目と二つ目、同じ答えとなるでしょう。実は、ルーンの誓いについても本当は冊子に纏めようとしたんですの。ですが当事者から……」

 フレイヤの言葉に続く様、生徒の一体が立ち上がった。

 ふかふかした耳当てをした、真っ白いショートカットで明るそうな少女。

 

 その少女は、はっきりこう告げた。

「ルーンの誓いをただ資料として説明するなんて無粋ですし、本質を理解した事になりません。ですので、その説明を私が……いえ、私達が引き継ごうと思います」

 活発そうなその少女は自信満々な様子だった。

「私としても、当事者の方の説明の方がわかりやすいと思いますので構いません。では、説明をお願いしますわ」

 フレイヤはそう言葉にし、自分の席に戻って行く。


 代わりに、さきほどの白いショートカットの少女含め六体の生徒が黒板の前に移動する。

 その六体には、学年の異なる制服を身に着けた二体の少女も混じっていた。


 少女達六体……いや、どちらかと言えば二体一組が三つと呼ぶ方がわかりやすいだろう。

 エリーが見てもわかる程度には二体ずつの距離感は近かった。 

 具体的に言えばクロスとエリーが横で歩く時位。


「ルーンの誓いとはつまり、命の誓い。一生を共にする覚悟と背中を預けられる信頼。共に終焉の道を歩く事を良しとする愛。そういう物を結び合った仲の事を言います。ああ、さきほどもしましたが改めて自己紹介を。私の名前はモア・メイデンスノー。このクラスに三組いるルーンの誓いを結んだ一組です」


 モアは早口でそうまくしたてぺこりと一礼してから……更に早口で言葉を吐きだし続けた。


「ルーンの誓いは要は運命のお相手との契約です巡り合い二度と離れない運命を感じその運命に共に身を委ね生涯を共にする。そういうものです私にとってフロン……隣にいる私のエインヘリヤルがそうです例えどんな時も離れたくないと願う愛しいお方私の綺羅星情熱的でそれでいて穏やかでたおやかで触れるだけで心が温かく――」

 何時の間にやら延々と、本当に延々と隣にいる少女の自慢を始めるモア。

 その様子をクラスメイト達はまたかと苦笑いをする様な表情で見ていた。

 ただ、そんなクラスメイト達の様子にはどこか羨望の様な物がある様に、エリーには見えた。


「モア。クールダウン」

 隣にいる青い髪の少女、エリーにフロン・ブルームと名乗った少女はそう言葉にした。

「だって、私のフロンへの愛は――」

「モア。エリーさんが困っている」

「……むぅ」

 モアはぷくーっとちょっと膨れた後、フロンの手をぎゅーっと握り黙り込んだ。


「すまないエリーさん。脱線するのはわかっていたけれど、フレイヤさんと相談して情報ではなく僕達の想いを先に知って欲しいと思ってモアに話をさせた。多少極端ではあるが、僕も同じ気持ちだし隣にいる二組もきっとそう。ルーンの誓いとはそういう物だとわかってもらえたと思う」

 その言葉にエリーは頷いた。

「はい。要するに、パートナーの様な物ですよね。同時に夫婦の様な意味合いもある」

「……そう……だね。概ねその認識で構わない。それ故に色々問題があるのだけどね」

「問題ですか?」

「うん。夫婦の様な物だけど夫婦じゃない。僕達は恋愛要素があるなし関係なく誓いを結ぶ。だから実際誓いを結んだペアに旦那が出来た時良く揉めるんだよ。……逆に、ルーンの誓いを結んだ者同士で結婚する事も珍しくないけど……と言っても、エリーさんにはわかりにくいよね。恋愛感情があったりなかったり関係なかったりする話だし」

 そう、フロンは困った顔で言葉にした。

「……いえ。その気持ちは少々ですが多分わかると思います」

 結婚的な愛情ではないが強い愛を持つからこそエリーは彼女達ルーンの誓いを結び合った者同士の気持ちが何となくだがわかる様な気がしていた。


「――そうか。とりあえず、今度は僕からの説明をするね。どちらかと言えば資料的な説明だからたぶん、わかりやすいと思う」

 そうフロンは言葉にした後、モアと握り合っているその握手を見せる。

 モアは右手、フロンは左手の小指に、小さな金色の指輪が付けられていた。


「これがルーンの誓いを結び合った証。その証明として……」

 モアはフロンの指輪に、とんと軽く自分の指輪を当てる。 

 そうすると、指輪は金属音を発し眩いばかりの光を短い間だけ放出した。


「こんな感じ。これが誓いを結べたという正しい証明だよ。それじゃあ説明していくね。ルーンの誓いの内容、結ぶ条件、それに伴うメリット。とりあえず準に――」

「フロン――メリットなんて言い方私好きじゃないわ。だってルーンの誓いを結べる相手に出会う事そのものがメリットの様な物じゃない」

「わかってるよ。良いから任せて」

 そう言葉にし、フロンはモアの頭を撫でる。

 モアは猫の様な顔になり嬉しそうに喉を鳴らしだした。


「さて――今の内に――」

 そう言葉にし、フロンは早口だけど聞き取りやすい様はきはきとした声で説明を始めた。




 ルーンの誓い。

 それはこの女学園のパートナー制度の事。

 同級生、または上下一学年異なる生徒とのみ結ぶ事が許された比翼の契約。

 ちなみに下級生と結んだ場合は自動的に下級生のクラスへの編入となる。


 その際でも学年自体の変動はない。

 二年生が一年生と誓いを結んでも二年生のままであり、三年生の昇進試験を受ける事が出来る。

 とは言え誓いで許された差は上下一学年である為、一年生側が二年生にならない限り二年生は三年生に上がる事は出来ないが。


 条件はシビアであり、心から信頼出来る相手でかつ生涯を共にする覚悟を持った場合のみ指輪に認められる。

 具体的に言えば、将来結婚しても誓いを結んだ相手を蔑ろにしないだけの覚悟は最低でも必要になってくる。

 それは口で言ってもどうしようもなく、また一方通行でも意味がない。

 お互い心からそう望まない限り、誓いは成立しない。


 それに伴う一番のメリットは、常に共に行動出来る事。 

 昇進試験以外では個別での成績で判断されなくなり、あらゆる場面でペアでの成績で判断される。

 それは一対一の模擬戦であっても例外ではなく、一対一という訓練であっても二体の連携という数の暴力すら可能となる。


 だからここにいる三組の誓いを結んだペアは例外なく、学年上位の成績を誇っている。

 特にモア、フロン以外の二組は相方が上級生。

 成績が低い訳がなかった。


「つまりルーンの誓いとは運命の相手を見つけた事と同時にお互いを利用し合える特権を手にしたという事にもなる。デメリットもない事はないが……基本的にないね」

「その、ない事もないデメリットというのを尋ねても良いでしょうか?」

 エリーの言葉にフロンは困った顔で頷いた。

「要するに……普通の夫婦やパートナーと同じだよ。喧嘩した時とか……ねぇ……」

 エリーは理解し苦笑いを浮かべながら頷いた。

「はい。良くわかりました。説明ありがとうございます」

「ん。興味あるみたいだし、君にも誓いが結べる様な相手が現れる事を願っているよ。モア、戻ろう」

 そうフロンは席の方を見ながら言葉にした。

「えー! まだ話し足りないです」

「良いから。君の気持ちはエリーさんにも十分に伝わったから」

「まだまだ伝え足ーりーなーいー」

 そんな駄々をこねるモアを、フロンは苦笑いしながら引きずり席に帰す。

 その後ろを共に来た二組は苦笑いと微笑ましさ半々という様な顔でついて歩いた。




 エリーはそっと静かに――頭を抱えた。

 ただでさえ不安の多いであろう学園生活において、最大最高の不安が生まれてしまった……。


 適応の試練の条件は、クラスで優秀な成績を残す事。

 それだけなら、どうでも良かった。

 だが、その条件の一つにルーンの誓いを結ぶ事があった。


 ルーンの誓いは生涯を共にする覚悟がいるとモアは言っていた。

 だが、エリーはこの学園にずっといるつもりはなく、あくまで短期で帰る予定。

 長くても三か月位しか滞在する予定となっていない。

 しかも、あまり詳しい事情は話せない。


 その条件で共に付いて来て生涯を結ぶ相手なんて、正直見つかる気がしない。

 いやそれ以前の話だ。

 エリーは既に、ただ独り尽くす存在を見つけている。

 そんな自分が身を委ねる事が出来る様な、ルーンの誓いを結べる様な相手を見つけられるとは到底思えなかった。


「前途多難だなぁ……」

 つい、愚痴る様そう言葉が漏れていた。

「何か不安な事が御座いますか?」

 フレイヤがエリーの顔色を窺い、心配そうに尋ねて来た。

 エリーは慌てて首を横に振り、微笑んだ。

「いえ! 大丈夫です何でもないので、続きをお願い出来ますか?」

「……わかりました。ですが、今この時は共に学び共に戦う仲間です。何かあれば是非相談してくださいね」

 そう言って、フレイヤは微笑み黒板の前に移動した。

「では再開します。ここからは引き続き私が……。伝える予定の三つの内二つ。学園の事、ルーンの誓いの事を終えました。だから最後の一つ、戦闘についての説明をしたいと思います。エリーさん。十五ページを開いて下さいませ」

 エリーは頷き小冊子のページを開く。

 そこには大きな腕輪の絵が描かれていた。


「では、私達に唯一許された武器、私達がハイロウと呼ぶ――」


 ガラガラ!


 真面目で教師みたいなフレイヤの声をかき消す様、乱暴に物音を立て教室の扉が開かれた。

 その先にいたのは、太もも位まである長い金色の髪が目立つ少女。

 背が低く、前髪もぱっつんな事もあり実際以上に幼く見えるであろうその少女は、やけに挑発的な顔立ちのまま、ずかずかと教室に乗り込んで来た。


「転入生が来たと聞いたから来てあげたわ。さ、私の前に来なさい」

 制服を見るに一年生である少女は、やけに上から目線でエリーの方を見ていた。



ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ