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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

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一つ目の試練の始まり


 クロスの向かった部屋には、文字通り何もなかった。

 ベッドやタンス等家具は当然、窓さえも。

 しかも、寝ころぶ事さえ出来ない程狭い部屋。

 メイドの女性と共に入っただけで圧迫感が生まれ息苦しくなる様な、そんな部屋だった。


「えっと……これは……立ったまま寝ろという事なのでしょうか?」

 震えながらクロスはそう尋ねた。

 ここが貴方のお部屋ですと言われ連れて来られた部屋がこれであるのなら、まずは虐めを疑うレベルである。

「いえ。その様な事は御座いません。ここはただの荷物置きで御座いますので」

 クロスは男嫌いとかそういう理由で嫌がらせを受けたのかと一瞬の勘違いを正し、ほっと安堵の息を吐いた。


「そかそか。んじゃ俺部屋は? ここの隣とか?」

「いえ、ありませんよ。クロス様が安らかに眠る様な部屋を用意せよとは申しつけられおりませんので」

「まさかの斜め下!? へ? 何これ男いびり? 君もしかして男性嫌い? だったら何かごめん」

「好きか嫌いかと言われましても正直どうでも良いとしか……」

「ああ。好きの反対は無関心とかそういう……」

「いえ。そういう訳でも。クロス様の事は正直好感を持てておりますし」

 クロスの耳は、ぴくりと反応した。

「え? ……まじで?」

「はい」

 そう、メイドは表情を崩さないままぺこりと頭を下げ頷いた。

「どうして? 顔?」

「いえ。顔ではなくですね……」

 メイドは苦笑いを浮かべながらそっと髪を動かし頭皮を見せる。

 そこには隠せる程度の小さな角が見えていた。

 クロスと同じ、片方だけの角。


 おでこ付近にあるクロスとは違いもう少し上にあるが、それでも、それは紛れもなくネクロニアの姿だった。

「ああ。同族だったのか……も一体のあっちの子も?」

「いえ。妹は別種族で角もありません」

「なるほどなるほど。……じゃあ、本当に嫌がらせじゃない?」

「はい。そんな事は行いません」

「嫌いだからとかじゃない?」

「クロス様に対し嫌悪を覚えていましたらここまで傍にいられません」

 狭い室内であるからだろう、顔がすぐ近くにあり異性であるなら若干緊張するような距離。

 そこでもメイドは平然としていた。

「……嫌そうでもないけど、何の感情も見えないのはちょっと悲しいかな」

「残念ですが好感度が足りませんね。表情変化はもう少し好感度を稼いでからお願いします。贈り物とかが効果的かと存じますよ」

 そう、メイドは無表情で言葉にする。 

 それにクロスが何と返せば良いかわからず黙っていると……女性は赤くなった顔をぷいっと反らした。

「申し訳ございません。わかりにくい冗談で」

 ポカーンとした後、クロスは楽しそうに笑う。

 その笑い声を聞いてメイドはより表情を朱に染めた。




「そんでさ、俺はこれからどうすれば良いんだ?」

「はい。まず試練の前提となる事なのですが……この場所に適応するってどういう事だと思いますか?」

「と、言うと?」

「ここは男性が訪れる事が極力ない場所。特例を除き男子禁制。その場所に男性が適するという事は……」

「ま……まさかマイサンとお別れを……」

 股間を抑えながらのクロスにメイドは絶対零度の様な視線を向けた。

「それでもかまいませんがそれで宜しいでしょうか?」

「宜しくありませんごめんなさい話を続けてください」

 メイドはぺこりと頭を下げる。


 その表情は、割とマジだった。

 割とマジで、大切な物を刈り取る顔をしていた。


「クロス様に行って貰うのは……そうですね、簡単に言えば、かくれんぼでございます」

「かく……れんぼ?」

「はい。男子禁制の場所に適する男という事は、いない物と同然、そしている事が当たり前すぎて誰にも気付かれないという事。故に、誰にも見つからず一週間の間隠れ続けて貰います」

「……はい。……はい? まじで?」

「大マジです」

「……ふむ。試しに聞くけど見つかった場合は?」

「再度一週間やり直しですね。ただまあ二度目はないでしょう。この試練はイディス全域での軍事訓練として動いています。殺傷が許可された実戦さながらの。まあ、的であるクロス様はイディス陣営に対し攻撃の許可は下りておりませんが」

「わぁおー。理不尽。いや、最初から命の危機って言ってたな」

「理不尽と思います。酷いと思います。ですが、泉守の命である以上私共はそれを良しとします」

「だよねー」

「はい。ちなみに泉守様は参加しませんが別の未来予知を行う方々はこの軍事訓練に参加する予定となっております。まあ精度も低く、未来予知未満の占い程度ですが。占星術等の」

「なるほど。それって的中率どの位?」

「わかりませんが……まあ五割を切る事はないでしょう。仮にも未来予知に特化したイディスの未来予知士ですから」

「オーライオーライ。……いやそれきつくない?」

「かなりきついと思います。早めにギブアップして命を大切にする事をオススメしたい位には」

「だよなぁ。……も一個聞いて良い?」

「はい。何でしょうか?」

「エリーも同じ試練を受けるの?」

「いえ。エリー様は女性ですから適応試練もそこまで厳しい物にはなりません。普通に日常生活を優等生として送ってもらうだけ、男性であるクロス様が例外なだけでございます」

「そか。んじゃ良いや。やろう。何時から始まる感じ?」

「クロス様がこの部屋を出た後、私が泉守様の元に戻り報告をした時から試練が始まります」

「オーケー。んじゃさ、この試練が無事に終わったらデートしてくれない? 同族のよしみでさ」

 にこやかにそう言葉にするクロス。 

 それに対し、メイドは無表情のままだった。

「……死亡フラグでございますね。もう少し過剰に建てたら逆転すると思われますので幾つか重ねる事をお勧めします。故郷に帰ったら店を立てるとかこんな場所にいられるか等々を」

「……どゆこと?」

「なんでもございません。逢瀬の件はお断りします。恥ずかしいので」

 メイドはそっと顔を反らした。

「残念」

「ですが、ご褒美に私お手製の食事を用意する程度なら吝かではございません」

「おっ良いね。んじゃそれでよろしく。期待してるね」

 そう言葉にし、クロスは荷物をそこに置いてその身のまま外に出て行った。


「……誰かに食事を用意する約束をしたのは……本当に久しぶりです。……楽しみ……です。では……いつもよりも心持ゆっくり移動してクロス様の時間を稼ぎましょう。怒られない程度に」

 そう言葉にし移動するメイドの速度は牛歩どころかナメクジ位の速度。


 料理を作るのは妹に『お前の料理は二度と食わない』と言われて以来の事なので、顔に出ないもののメイドは内心非常に期待をしていた。




 その翌日――エリーはエリーでクロスと全く異なる試練を課せられていた。

 男であるクロスと異なりエリーの受ける試練……適応の試練はそれほど難しい物ではない。


 このイディス内にある戦闘科目を中心とする学園に通い、同級生達よりも優秀な成績を残す事。


 詳しい事は専門用語過ぎて聞いてもまだ良くわからなかったが、大まかにはそんな感じ。

 またその試練には期日もなく、失敗しても幾度もリトライが効き、またよほどの事がない限り死ぬ事もない。

 あくまで他の学園生と同じ扱いの中、結果を残すだけ。


 その時点までは、エリーはこの試練をそこまで大変な物ではないと考えていた。

 別に傲慢になった訳ではない。

 エリーは過去先代魔王軍の一員として活動をしており、その際軍事における基本的な戦闘行動は全て徹底的に叩き込まれている。

 それも男社会の中で。

 そんなエリーだからこそ高等学校レベルの戦闘教育に、しかも金銭的に余裕を持った上流階級の女性達が集う場所で苦労する自分が想像出来なかった。


 むしろ戦闘教育よりも、イディスの風習として行われる美容関連の方をエリーは恐れている位である。

 イディスは例え戦闘を中心とする学園であっても美を疎かにする事あらずという教育方針となっていた。


 元軍属として行動をしていた為エリーは世間一般的な女性よりも疎い部分がある。

 お洒落という意味だけではそこまで苦手ではないが、流行を追うとか化粧とかそういう部分は確実に不得手。


 そこは必死に頑張ろう……綺麗になる事は嫌いではないから……。


 なんて、昨日までエリーは思っていた。

 はっきり言って、学園を舐めていた。

 実際にその光景を、学園風景を見るまでは、エリーは舐めているなんて自覚すらなかったが……見てから確信した。

 これは、大変な事になると。


 学院の前、実際に自分の通うそこを見た時……エリーは背筋が凍える様な恐怖と同時に絶対的な絶望感を覚え、軍より容易いなどとぬるい事を考えていた自分を呪い殺したくなる。


 逃げたい、諦めたい、忘れたい。


 自分には無理だ。

 ここで生活をするのは、馴染むのは、私では不可能だ。

 軍のシゴキに耐え続けたエリーであっても、そう確信している。

 何故かと言えば――。




 学園の庭にいる乙女達の微笑は穏やかで物腰柔らかく、羽を彷彿とさせる程軽やかで……。

 まるで穢れなど知らぬというような無垢である事を示す様、少女達は純白の制服に身を包んでいる。

 ゆっくりとした、優雅なその姿は彼女達の気品を示すと同時に、どこか女性として背伸びをしている様でどこか微笑ましい気持ちとなる。

 朝露の雫流るる白百合達は弱弱しい朝の陽ざしに照らされながら、皆それぞれが今この時を大切にし、同時に当たり前の様に学友達に微笑みという親愛の愛を注ぐ。


 その様はまるで――天使達の集会の様だった。


「ごきげんよう」

 にこやかな声で、少女達は挨拶を交わす。

「ごきげんよう」

 そう、当たり前の様に言葉を返し、立ち止まっては微笑み合う。

 白百合が咲き乱れ、鐘の音が祝福を示し鳴り響く様に――。


 ここはアシューニヤ女学園。

 未来の未来予知術者(ノルニル)を護る守護乙女(ヴァルキュリア)となるべく日々己を磨く、少女達の学び舎。

 未来輝く少女達の明日を祝福する、祝音の鐘が鳴り響く希望の花園――。


 エリーは玄関前で――そっと頭を抱えた。


ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
これ試験乗り越えても死亡フラグ消えないんじゃね? 少なくとも次の試練に行く前に入院になりかねん
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