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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

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失意と怒りの五日目(前編)


 クロスが紙芝居を始めて三日が経過した。

 その間今までの様に仲良く……とはいかないものの、子供達も何とか納得し一緒にお勉強し遊ぶ事が出来る程度の仲にはなれた。


 スライムのマモルとコウモリ族のエンフはむしろ前の時よりも仲良くなれた。

 背伸びしたいお年頃であり、元々クロスの事を気に入っていたエンフにとってクロスはかっこいいお兄さんでお気に入りらしく、もう怖い人間ではなくなった。


 マモルに関しては、よくわからない。

 わからないのだが、時々勝手に肩の上や頭に乗っかってどろどろ溶ける辺り親しみを覚えている……と思ってたぶん良いだろう。

 マイペースでのほほんとしているマモルの正確な気持ちは、クロスには未だわからない。

 ただ、クロスはマモルから嫌な気持ちは感じず、傍にいると落ち着く為一緒にお昼寝する位には仲良くなっていた。


 一方妖樹族のアップルとはあまり上手くいっていない。

 こちらもこちらでマイペースなのだがマモルと違い他者に壁を作る性質らしく、クロスの事を恐れこそしないものの距離を縮めようとは決してしてこない。

 嫌われている事はないが、好かれているという訳でもなく警戒もされていない。

 どうやらあまりクロスに興味がないらしい。


 そして問題なのは、ドラゴン族イナとゴーレム族ギタンである。


 イナは常に警戒し暇を見れば威嚇をしてきて、ギタンに至っては「こんな奴早く出ていけば良いんだ」の様な類の言葉を本人の前で吐くという大人顔負けの舌戦っぷり。

 イナに関しては怯えているという風にとれるが、ギタンはどうやら完全にクロスを嫌っているらしい。


 それでも、どの子供も紙芝居の間は誰も文句を言わず我先にと良い席を取ろうとする辺りまだただの子供だった。


「にしても驚きました。どうして私達じゃないのにそんなに手慣れているんです?」

 紙芝居用の装置を二人で作りながらの最中、タキナはクロスにそう尋ねた。

「ん? どれの事?」

「紙芝居の作成に朗読、あと子供の扱いもですね。まるで私達先生みたいですよ」

「あはは。流石に本職ほどじゃないけど。まあそれなりに経験があるから」

「えっと……それは勇者パーティーにいた時の事でしょうか?」

「そうそう。クロードとソフィアは子供達の為に何かしたいってしょっちゅう言ってな、その度に孤児院や学園に赴いて慰安したりそれに飽き足らず町の空き地を借りて祭りを開いたりしてた。そんな訳で立派な勇者様と聖女様のお陰で俺らは子供の相手には慣れていると。俺も子供は嫌いじゃないしな」

 そう言葉にし、クロスは懐かしむ様に微笑んだ。


 その言葉にタキナは口を挟まない。

 自分の知っている情報と相当以上に齟齬があるが、それを口にしてクロスがどう思うのか怖くて尋ねる事が出来なかった。


 例えば、クロードとソフィア、両名が子供達の為に企画を開いたのはクロスが加入してからの事であり、それまではそんな行動を一切取っておらず、孤児院に慰安に行ってくれと町の人に言われても断っていた位である。


 そもそもそれ以前に、クロードもソフィアも子供の事が別に好きではなく、メディールに至っては子供嫌い。

 それなのに、クロスが加入した瞬間に四人全員がくるっと態度を変えて子供達を好きになり、色々な企画をする様になった。


 それがどうしてなのかわからない。

 だが、タキナは一つだけ理解した事がある。

 先代魔王が負けたのは、勇者が正しく勇者足りえる高潔な人物であり続けられたのは、奇異の目を向けられ人任せの奴らの中で戦い続けられたのは、きっと目の前の男、賢者クロスがいたからだろう。

 それだけはタキナの知る絶対の真実だった。


 だからこそ、タキナは目の前の男が偉大であり、素晴らしい存在だと思っていた。

 ついでに子供好きというのもタキナに取ってはポイントが高かった。

 あと綺麗とか褒められた事も。

 ついでに外見もどこか落ち着いた様子で時々子供っぽいとこもあって。

 とりあえず恋愛をこじらせつつあるタキナにとってクロスは絶妙なターゲットとなっていた。


「ところで、次の紙芝居はどんな内容にするんですか? あんまりえぐいのは……」

「ああ。流石に俺も四天王を倒したとかそういうのはやるつもりはない。……そうだな……あんまり好ましくないけど人間の国で悪い奴を倒した話でもするか」

 小国の王の不正を見抜き、小国を共に解放した事を思い出しながらクロスはそう呟いた。

「良いですねそれ。ああそうそう。魔物が殺されるとかのえぐいものは駄目ですけど、多少は殺伐としてても大丈夫ですよ」

「いや、園児相手にそれはちょっと……」

「あの子達はあの子達でエリートですから。多少はそう言う事を知っておかないとこの先困りますし。それにクロスさんが思うほど皆子供じゃないですよ」

「そうか。……いまいちその辺りの機微はわからん。まあ……後で文章作るから添削してみてくれ」

「了解です。あ、そっちのクレヨン取ってもらえますか? 赤い色の」

「これか。ほい」

 そっとクレヨンを手渡すクロスを見て、タキナは感謝の言葉と共に微笑んだ。


 昼休憩の時間内に完成させないと子供達が暴徒と化しかねない。

 その為に二人は集中し、うまく分担して作業を進めていた。


 そんな紙芝居作成に集中しきったその瞬間――けたたましく甲高い音が周囲に鳴り響く。

 ベルの音にも似た不快さの強い警戒音。

 耳を塞ぎたくなる程の不快さと音量にクロスは顔を顰めた。


「何だこりゃ。タキナさん。この煩いの……」

 そう言葉にしてクロスはタキナの方を見る。

 その顔は青ざめていて、それと同時にクロスが昔よくみた目をしていた。

 それは怒りと恐怖の目、戦いに赴く兵士達の様な目だった。


「タキナさん!」

 叫び声で我に返り、タキナはすぐに立ち上がった。

「クロスさん。来てください!」

「事情は!?」

「ブザーは襲撃者、この幼稚園に誰かが攻撃を仕掛けてきた合図です!」

 その言葉にクロスは顔を顰めた。

「何だそりゃ。誰がそんな馬鹿な事を……。いや、先に移動か。子供達のとこだな?」

 タキナが頷いたのを見て、クロスは子供達の元に急ぎ走った。




「何だよ……これ……」

 道中、あまりの光景にクロスの足は止まっていた。

 黒いローブを纏った集団が先生らしき女性達と戦っていた。

 彼らは周囲の被害を気にもせず魔法で周囲に黒い炎をまき散らし、先生達は必死に被害を減らしながら相手している。


 黒い炎が当たった個所が燃える事はない。

 ただ、その部分は色が失われ直接灰になっていく。

 燃え上がる事はないが、当たった個所は修復すら出来ないだろう。

 だからこそ、綺麗で子供達の遊び場であった幼稚園は色なき廃墟の様になっていた。


 また校庭では巨大なサソリが暴れまわっている。

 数人の先生が足止めしようとしているが気にもせず、五メートルを超えるサソリは遊具を壊し、グラウンドをめちゃくちゃにしながらただただ何も考えることなく暴れまわっていた。


「何でだよ……。平和じゃなかったのかよ……。どうして……」

 こっちに来てからクロスは思っていた。

 何て進んだ文明で、何て平和なんだろうか。

 こんなに人間達より進んだ文明なら身内同士の争いなんてなくて、きっと人間以外となら平和だろう。

 そう思っていた。

 だが、今ここで起きているのは紛れもない戦争である。

 姿を隠して街中でとても使って良い様なレベルじゃない魔法を行使し、同時に武装した何者かが襲い暴れまわっている。

 それはまさしく戦争の略奪であった。


 クロスの中にあったゆるい気持ちが、楽しく自由に生きようという気持ちが冷たく凍え、視界が赤く染まっていく様な錯覚を覚えた。


「クロスさん!」

 タキナの叫び声で我に返ったその時――目の前には黒いローブを羽織った何者かが襲い掛かって来た。

 剣と盾というオーソドックスな装備で、緩やかに歪曲した片手剣で何者かはクロスに剣を振りかざす。

 それを見て……クロスは後ろではなく前に跳んだ。

 そして剣が振り下ろされる前にそのままローブ姿の何者かの顔を軽く叩く。

「うおっ」

 どうやら男らしい何者かは顔にあたったクロスの手に驚き目を閉じた。

 その隙に、クロスは男の後ろに回り込む。

 ついでにローブを奪って。

 ローブ姿だった男は緑色の鱗を身に纏うトカゲの様な正体を露見させていた。


「……リザードマンか。タキナさん。こいつらどうしたら良いの?」

「え? あ、はい! 好きにしてください。規則的にはクロスさんは生徒ですので逃げて欲しいのですが……」

「タキナさんとしてはどうして欲しい?」

「……手伝ってくれたら嬉しいです」

「あいよ。と言っても、悪いけど二流程度のちんけな実力だ。あんまり期待しないでくれよ」

 そう言葉にしてからクロスは満面の笑みを浮かべ、リザードマンに向けてその腕を伸ばす。


 リザードマンはその腕を見て後ろに下がり、切り落とそうとするが、……クロスの腕はリザードマンが下がり剣を振るよりも断然早くリザードマンの胴体に触れる。

 そして――何事もなかったかのように、心臓を抉りだした。


「な……は……え……」

 リザードマンは現状が理解出来ずぱくぱくと苦しそうに口を動かす。

 そして理解した最後に放った言葉は……。

「かせ……せ……」

 その一言を聞き、クロスはそのまま心臓を握りつぶした。

 それとほぼ同時に、リザードマンは動かなくなりぱしゃっと音を立て血だまりの中に倒れた。


 その凄惨な光景に敵も味方も絶句しクロスの方を見つめる。

 タキナだけは理解した。

 理解出来てしまった。

 クロスが本気で怒っているという事に。


 何が逆鱗に触れたのかわからない。

 ただ、今のクロスは冷静に見えているがそれは見かけだけである。

 中身はきっとマグマの如く煮えたぎっているのだろう。

 優しいクロスの姿を知っているからこそ、タキナにはそう思えた。


 クロスは平然と倒れているリザードマンから剣を奪い、その剣を持ち身軽な動作で外にいる巨大なサソリに向かう。


 そしてそのまま剣を大きく振り上げ――サソリを一刀のもと、両断してみせた。

「……ちっ。折れたか」

 クロスは先がない剣を見て溜息を吐き、その辺に捨てタキナの元に戻って来た。

「タキナさん。とりあえず子供達の所に行きましょう」

 サソリが消え、一匹のリザードマンが悲惨な死を遂げて敵の動きが緩くなったのを見てクロスはそう提案する。

 その言葉にタキナは頷き、自分の教え子の元に走った。




「放して! 放してよ!」

 そんなエンフの叫び声を聞き、クロスは慌てて教室の扉を開けた。

 そこには見慣れぬ背の低い男が一人、エンフの手を掴み無理やり引っ張っていた。

 それと同時に、クロスは周囲にある何かに気が付いた。


 それは子供達が泣きながら血を流し倒れている姿だった。

 マモルは体が維持出来ず完全に液状と化して痙攣しており、イナは顔から血を流しうつ伏せに倒れてている。

 アップルは腕や足が折れて変な方向に曲がり、そして泣きながら抵抗しているエンフは小さな男、ゴブリンに殴られ続けていた。


「はやく来い! 抵抗しなければ痛い目に合わずに……ちぃ。もう来やがった!」

 そう言葉にしてからゴブリンはエンフを掴んでいる手を放して慌てて逃げ出そうとし、壁に空いていた穴の方に走る。

 だが、クロスもタキナもゴブリンの足より何倍も速く穴の前に二人は立ち互いに顔を見合った。

「タキナさん。こいつには絶対聞かないといけない事があるんだけど」

「奇遇ですね。私もそう思っていたところです」

「……聞きだせる?」

「ごうも……尋問ですね。苦手じゃありませんとだけ」

「そう。じゃ、任せるよ。俺は大した事出来ないけどこの子達の手当てをしたいから」

「ええ。わかっています。……クロスさんも怒ってるのに私に譲ってくれるなんて優しいですねぇ」

 タキナはそう言ってからぞくりとする様な歪で不気味な笑顔を浮かべ、ゴブリンの方を見る。


 子供を人質に取ろうか強行突破して逃げようか、そんな悩みが透けてみえる様な怪しい動きをしている情けないゴブリンを。


 どうやらさきほどのリザードマンと比べるまでもないほどの小者らしい。

 情報を聞くのは容易そうだが……何もしない可能性も十分にありえた。


「じゃあ、私はちょっと裏の拷問し……教育部屋の方に行ってきますので」

 そう言葉にしてから、タキナはパチンと指を弾く。

 たったそれだけで、三メートルは離れていたゴブリンはぱたりと倒れ動かなくなった。


「じゃ、タキナさん。他の事は良いから……」

「はい。わかっています」

 二人はこの場にいない生徒、ゴーレムのギタンの事を考えながら頷いた。


ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
これで二流? あぁ、勇者たちが人外すぎて自己評価イカレてるのか……
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