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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

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休日急に旧友に


 翌日、自宅にて目を覚ましたクロスは体の調子を確認した。

 ベッドから起き、立ち上がり、腕を回り、屈伸をしてジャンプして……。

「……問題ねーな」

 昨日までのあの調子が嘘だった様に思える程、体は問題なく動き活力に満ちていた。

 いや、むしろ体に巡る魔力は前よりもより力強くなっているまであった。


 クロスは知っている。

 強くなるというのは本当に大変な事であり、努力の一パーセントでも成長すれば調子が良い位だという事を。

 だからこの状況が不思議だった。


「どうして、何もしてないのに強くなってんの俺?」

 流れる魔力は大体一割程増している。

 つまり、前より魔法使いとして一割も成長したという事。

 そんな事あり得るのだろうか……。

「クロスさーん。起きてますかー?」

 ドアの外からエリーの声が聞こえ、クロスは返事をした。

「起きてるよー」

「メルクリウス様が来てますよー」

「ああ。着替えたらすぐ行くよ」

「わかりましたー」

 エリーの返事の後ぱたぱたといった遠ざかる足音が聞こえた。

「……んー。ま良いか。どうせ治癒による一時的な物だろ」

 そう呟き、クロスは着替えを始めた。




 食事を持ってきてくれたメルクリウスと共に朝食を終え、クロスはエリーを連れ外に出かけた。

 メルクリウスがわざわざ来たのは朝食を届けに来ただけではなく、本日の予定を伝える為。

 そしてメルクリウスが伝えた本日の予定は……特に何もなしだった。


『悪いがご主人はこれからがっつり事件にかかわる事が確定している。アリス関係なくな。という訳で忙しい日が続くから今日はしっかりと体を休めて欲しいという閣下の御厚意だ。ま、お前はどうせ休まないだろうがな』

 良くわかってるメルクリウスの言葉。

 その言葉通り、クロスは一日ゆっくりなんてせず、この機会にやっておきたい事があった。


「でもクロスさん。本当に私も来て良かったんです?」

 エリーは不安そうにそう呟いた。

「良いんだよ。従者なんだから」

「でも……私がいても何も出来ないというか邪魔にしか……」

「それならその方が良い。最悪なのは、エリーが役に立つ可能性があるという事だ」

「と言いますと?」

「暴力的なアレ」

 エリーは顔を一瞬顰めた後、首を縦に振った。

「わかりました。そういう事なら騎士として、喜んで付き合いましょう」

 そんな会話をしながら、二体は目的地の前に到着した。


 子供達が楽しそうにはしゃぐ声が響くその場所は、幼稚園。

 魔王立アウラフィール幼稚園。


 アウラ直属の教育機関のそこは魔王国としてのエリートとなり得る魔物を教育する機関であり、そしてクロスが卒園した場所でもある。

 ……つい数か月前に。


「すまない。入る為に何か手続きいるかな?」

 門の前をがっちりと警備する兵士にクロスがそう話しかけると番兵は槍を持ったまま礼儀正しく背筋を伸ばし声を張り上げた。

「いえ! 賢者様に対しその様な物は不要です。どうかご自由にお通り下さい」

「あ、そなの? 悪いね。でも出来たら賢者は止めてくれないかな?」

「はっ! 失礼しましたクロス様。どうぞお通り下さい! あ、こちらで書類を作成しておきますのでその……出来たら理由を説明頂けたらありがたいのですが……」

「ん? ナンパは駄目かな?」

「いえ、駄目ではないですが……後で閣下に報告する際どうなるか私共にはわかり兼ねますので」

「アウラなら笑ってくれると思うけどねー、流石に止めとくか。友達達に会いに来たって書いといて」

 そう言ってクロスはエリーと共に開かれた門を通って行った。


「……あの噂は、本当だったのか……」

 兵の一体がぽつりと呟いた。

「噂って何だ?」

「クロス様は、つい最近まで幼稚園児であったという噂だ……」

「……なんと……おいたわしや……。あの容姿、能力で幼稚園とは……。法という物は例外に対し厳しい物なんだな……」

「うむ。我々位はクロス様に対し偏見の目を持たぬようにしなければ……」

 そんな事を兵士達は話、納得した様子でクロスの背に同情の目を向けた。




「それでクロスさん。結局ここに来た理由って何です?」

 廊下を歩きながらエリーはそう尋ねた。

「ん? タキナさんの様子を見に来たのと友達に会いに来た感じ」

「……それだけですか?」

「うん。それだけ。どして?」

「いえ、昨日の事があったのでタキナさんに何かあるのかなーと……」

「ないよ別に。俺にとってタキナさんは良い先生で戦友で良い女。過去がどうとかそんなのはどうでも良いかな。ま、困っていたら恩位なら売っておきたいかなとは思ってるよ? んでそのお詫びにデートって感じで」

「はは。クロスさんらしいっちゃらしいですね」

「だろ? ……っと、ここだな」

 クロスは馴染みの教室の前で立ち止まり、こんこんとノックをした。


「ん? どちら様でしょうか? 皆ちょっと大人しくしていてくださいねー。はーい。少し待って下さーい」

 中から聞こえるタキナの声。

 その後パタパタと足音が響き、そして扉が開かれ……。

「はいはい。どちら様……ってく、クロスさん!?」

 驚きの声と共に大口を開く狐耳の女性。

 その女性に、びっくりのあまり耳をぴこぴこ動かすタキナにクロスはにこやかに微笑みかけた。

「や。見舞いのお礼に来たよ。ちびっこ共お前らも元気だったかー?」

 そう言ってクロスはタキナの後ろに顔を出し手を振る。

 それと同時に、わいわいと歓声が響いた。


「わー。クロスだー。元気だったー?」

 穏やかな声を出す液体化している男の子。 

 スライム族のマモルは前と何も変わらずふにゃふにゃな声穏やかな雰囲気、デフォルメとしか言えない雑な作りの顔でそう答えた。


「クロス……だ……。どう、して?」

 全身から枝が生えた様な姿の少女。

 外見だけなら人間の二十台前半位の大人の姿の妖樹族、アップル。

 その少女は枝の一つから林檎をぽんと作る。

 無表情ではあるが、喜んでいるのか驚いているのか位の感情の変化はあったらしい。


「アニキ! 俺達に会いに来てくれたのか!?」

 一番嬉しそうな声を出す、ゴーレムのギタン。

 人間というよりは岩の合成体と呼ぶ方が近いそちらよりのゴーレム。

 しかも全身が金属製という少年は誰よりも嬉しそうにそう叫んだ。


 ドラゴン族のイナは何も言わない。

 相変わらず無表情で、無口で。

 だけど、前より少しだけ大きくなった尻尾がぶんぶんと振られていた。


「……皆元気だった様で……ってあれ? エンフは? 卒園したの?」

 手を振りながら一体足りない事に気づいたクロスはそう尋ね、きょろきょろと四方左右を見渡す。

 天井に張り付いている訳でもなければどこかに隠れている訳でもない。


「あはは……」

 タキナは苦笑いの様な顔を浮かべながら教室内の一点を見つめる。

 更に、四体の園児も皆同様同じ場所を見つめた。


 そこには、クロスの見知らぬ少女が園児と共に並んで座っていた。


 背はエリーより少し低い位で、外見年齢は十代後半位。

 少し背伸びしたような大人びたワンピースを来たその長い金髪の少女は、クロスの方を見て優しく微笑んだ。

 まるで、知り合いかの様に。


「……は? え? ……もしかして……」

 驚くクロスの言葉に微笑みながら、その少女は立ち上がりそっとスカートを裾を掴みお辞儀をした。

「お久しぶりですクロスさん。エンフです。次再会する時までと頑張ってみましたが……少しは届きましたでしょうか?」

「……え? うっそぉ!?」

 クロスは驚く事しか出来なかった。


 前のエンフは本当に小さく、人間で言うなら一桁中盤から後半位の外見でしかなかった。

 そこから十年分位成長している。

 言われて見れば、どことなく面影がなくはない。

 前まであった活発そうな雰囲気がなくなり穏やかでお淑やかな雰囲気にはなっているが、その目元は前までの活発で元気そうな物。

 それと、前髪の形は前と同じ。


 エンフの姉と言われても納得出来る位には面影は残っていた。


「ふふ。それで、どうです?」

「え? どうって?」

「……もしかして、わざと言わせたいのですか? 酷い人ですね……」

「いや、その。すまん。驚いてそれどころでは……」

「貴女の好みの見た目に、中身に近づけましたか? 貴女の恋人の一人になれる位にはなれましたか?」

「は、はぁ!?」

 驚き叫ぶクロス。

 冷たいジト目で見つめるタキナとエリー。

 その様子を見てはしゃぐ子供達。

 正しく状況は、混沌と化した。


「クロスさん。子供に手をだすのはちょっと……」

「誤解だエリー。何もしてない! 本当だ」

 クロスが必死に手を振るのを見て、マモルは呑気に笑った。

「あははー。修羅場だー」

「それでクロスさん。事情を説明してもらえませす? いえ、大丈夫ですよ。精々アウラ様に報告するだけですので」

「いやいやタキナさん。貴女事情知ってるじゃないですか! 何もないのに! でしょ?」

 そして慌てふためくクロスを見て、エンフはくすくすと笑った。


「冗談よクロス。そっけなく振ってくれた事のお返し」

「……はぁー。心臓に悪い冗談はやめてくれ。エリーに殺されるかと思った」

「ふふ。ごめんなさい。それでどう? 少しは綺麗になった?」

「――ああ。見違えたよ。立派なレディーになったね」

「――振った事、後悔する位?」

「ちょっとだけな」

「そ。んじゃもっと後悔させてあげるから」

 そう言って、エンフはクロスにウィンクをして見せる。

 その様子は昔の背伸びしがちな女の子エンフそのもので、少しだけクロスは安堵の息を吐いた。




 子供達と外で遊んでいるクロスを横目にタキナとエリーは横並びに座る。

 何の用事もないのに来るなんてタキナは思っていない。

 だが……。

「それでエリー様。本日はどの様な用事でしょうか?」

 緊張した様子……というよりも観念した様子でタキナはそう尋ねた。

「んー。そうですね……とりあえず、クロスさんは貴女の本当の職場を知りましたよ」

 タキナはどこか諦めた様な、そんな笑みを浮かべた。

 いつかバレると思っていた。 

 そして、いつか責められると、騙してたなと言われる事を。

「そう、ですか。それで、クロスさんは私に何と? お話すらしたくないと?」

「え? どうしてです?」

「いや、だって……」

「クロスさんですよ? クロスさんが女性相手に話したくないってあり得ないでしょう」

「……え、えぇ……。じゃあ何か任務を伝えに来て下さったのですか?」

「え、いや別に。そんなのもないですよ?」

「……じゃあ一体何の用事で?」

「ないですよ。なーんの用事も。休暇が出来たので見舞いのお礼ついでに遊びに来ただけ。つまり……いつものクロスさんです。だから安心してください。クロスさんは怒ってもいなければ嘆いても悲しんでもいません」


 そもそもクロスの視点から言えば。

『え? スパイだったの? かっこいいじゃん……。でも詳しく聞いたら悪いよね。黙っておこう』

 なんて無言の尊敬が増えて好感度が増した位である。

 裏切られたという気持ちなんてなく、ついでに言えば例え本当に裏切られてもクロスはあまり気にしない。 

 女性相手に対してのクロスの堪忍袋の緒は非常にしなやかで丈夫、滅多に切れない。

 ただし男相手には割とすぐ切れるが。


「……そう、ですか。はは。たった一月なんですよね。クロスさんと一緒にいたの。でも……凄く長かったような気がします。ついでに、凄く昔だった様な気も」

「良くも悪くも目立つ方ですから。タキナさんもクロスさんの事が好きなんです?」

「もって事は、エリー様も?」

「私は従者としてなんで違いますが……まあ徐々に増えて来てる感じはします。クロスさんを純粋な好意で狙っている方。不純という意味ならその千倍位いますし」

「せ、千倍!?」

「はい。賢者という名称、元勇者としての地位、権力、人間の情報、アウラ様の側近ポジ、女性に弱いとまあこれでもかとハニトラが有効な上にはまった時の利点が非常に多いので常に狙われています。アウラ様が止めていなければ結婚願書が頭より高い位置まで積まれてた位には」

「……まあ、そういう方ですからね。破天荒……ともまた違いますが」

「ただの女好きですよ」

「はは。……私も違いますよ。そういうのではないです。というよりも、さっさと諦めちゃったんですよ」

「どうしてです?」

「告白しようとすら思わなかったからですかね。エンフちゃんっていたじゃないですか」

「さっきのコウモリ族の子ですね」

「あの子は本気で告白して、本気で諦めずにいて、そして本気で自分を磨きました。その結果が……」

「急成長ですか」

「はい。生物として、女性として成長し、会えない思いを募らせながらも負けず折れずああなりました。最初はただの年上への憧れでしかなかったですが……今はどうなんでしょうね。私にはわかりません。ただ……私はああはなれない、あそこまで出来ない。そう思ったので……だから、私は諦めました」

「そう、ですか。クロスさんはタキナさんの事気にしてましたけどね」

「え? 本当ですか!? もしかして会いたいとか綺麗とか妻にしたいとかそんな事言ってました。いやーそんな困ります私には園児達がー」

 そう言いながら、タキナはくねくねと身をよじる。

 その様子は、どう見てもぽんこつそのものだった。


「私、それほど貴女と親しくありませんでしたが……それでも、そうじゃなかったのは知ってますよ。だから……いつの間にこんな事になったのでしょうか……」

 その言葉の意味が良くわからず、タキナは首を傾げた。




「アニキー。アニキって今何してるんです?」

 ドッジボールの最中、クロスは何時の間にかアニキ呼びになってるギタンにそう尋ねられた。

「あん? 何ってどういう意味で?」

「アニキって魔王様直々に仕事を受けるエージェントなんでしょ?」

「……エージェントか。何かかっこいい呼び名だな。これからそう名乗っても良いな」

「違った?」

「ぶっちゃけお手伝いさんに近いかな。またはアウラに身分を補填して貰って好き放題してるだけ」

 そう間抜けな実態を晒すと、何故かギタンは余計尊敬の眼差しをクロスに向けた。

「ま、魔王様を呼び捨てにして利用してるなんて……アニキ流石っす!」

「いや、だからそういうのじゃ……」

「またまたー。あんな綺麗な方連れてますし流石アニ――ぶへぇ!」

 変な叫び声を上げながらボールが顔面にめり込むギタン。


 そのままきりもみ回転をしながらギタンはコートの外に転がって行き、そこでようやくボールはギタンの顔から離れる。

 そのボールをアップルは取り、転がり倒れるギタンにぽんと優しく当てた。

「顔面は、セーフだから、これで、アウト。ふふ……」

「……容赦、ねーな……お前ら……ぐふっ」

 そう言葉にし、ギタンは倒れた。

「ギ、ギターン! 誰が一体――」

 そう言葉にし、クロスは相手コートを見る。

 そこには、誰もいなかった。


「……あれ?」

 クロスが首を傾げたその瞬間、背後に強烈な気配を感じた。

 圧倒的強者の威圧感。 

 ここ最近良く味わった種族的脅威。

 慌てて振り向くが、背後にいるのは倒れたギタンとその横で座るアップルだけ。

 そして、アップルの手にはボールはなかった。


「引っかかったぁ」

 耳元で、艶のある声が響く。

 その直後、ボールがぽんとクロスの背に当った。


「……一体、何したんだエンフ」

 クロスはくるっと振り向き、目の前でふわふわと跳ぶエンフにそう尋ねた。

「イナちゃんに殺気飛ばして貰っただけよ。あと、私は最初からコートの中にいた。姿を消してね。魔力や気配は隠せないからちゃんと見たら見えたはずだよ」

「そか。凄くなったね」

「えへへー。でしょ? 私頑張ったんだよ? 背だけじゃなくっておっぱいもおっきくなったし……こうして、力も強くなった。お父さんとお母さんよりも色々出来る様になったんだよ」

「ああ。凄いね。ところでさ、俺も一つ良いかな?」

「何クロス? 惚れ直しちゃった? もう、しょうがないなぁ」

 ニコニコと嬉しそうなエンフ。

 調子に乗りやすい事と調子に乗った時は駄目になる事はどうやら変わりないらしい。

「エンフ。ボールは地面に付く前に取ったらセーフなんだぜ?」

「は? そんな事知って――あ」

 エンフは自分の体にボールが当たり、ぽんぽんと地面を弾むその様を見て、事情を理解した。

 クロスは自分にボールが当たった時すぐキャッチしていたと。


「油断がなければ負けてたかな。とりあえずお疲れさん」

「むきー! そこは素直に負けて私に惚れ直すところでしょー!? クロスの馬鹿ー!」

 そう叫び、エンフはふわふわ浮きながらクロスの背中にぽかぽか拳をぶつけた。


 大人げなく高笑いをするクロス。

 悔しそうなフリをしながらクロスにくっつくエンフ。

 皆が楽しそうだからニコニコ笑顔のマモル。

 自分が頑張ったのに負けた事が少し悔しいけど楽しかったと感じるアップルとイナ。

 アニキが勝った事が嬉しいギタン。

 

 久しぶりの全員集合で穏やかな顔をするタキナ。

 そして、皆を笑顔にする事が出来る主を見て、エリーは満面の笑みを浮かべた。


「こういう休暇も、偶には良いかもしれませんね」

 エリーは久方ぶりに何の憂いもなく楽しんでいるクロスを見ながら、そう呟いた。


ありがとうございました。

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[良い点] >>「クロス様は、つい最近まで幼稚園児であったという噂だ……」 「……なんと……おいたわしや……。あの容姿、能力で幼稚園とは……。法という物は例外に対し厳しい物なんだな……」 「うむ。…
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