本来の任務(前編)
クロスが走り回り、オーナーの奥さんと娘以外に捕らえられた魔物を救おうと動き回っているその裏で、レースは終わりを迎える。
予選一レース、本選三レース、そして決勝の一レースという休憩を挟みながらの五レースは全て予定通り進行し、熱狂の中幕を閉じられる。
だが、メルクリウスの中にはその熱狂の名残が、レースの余韻が強く残り続けていた。
メルクリウスはバイクだけではなく、レースに出た事自体これが初めてである。
だから知らなかったのだ。
こんなに熱く燃え盛る様な気持ちになれるなんて、こんなに熱を帯びる物だったなんて。
流石に戦い程ではない。
それでも……龍族としての本能が刺激される程度にはメルクリウスは昂っていた。
とは言え、今のメルクリウスにはそれ以上に大きな感情が今は胸に宿っている。
それは――悔しさだ。
三体の魔物が案内に導かれ、レース会場から別の場所に案内される。
三体の魔物の先頭にいるのはゴブリン。
緑色の肌で小柄の小鬼。
整備服がやけに似合っていて、そしてゴブリンらしからぬおどおどした様子の男は常に後ろを気にしている。
そんな情けない男。
続いての魔物はメイド服の女性、メルクリウス。
綺麗な長い銀髪を揺らしながら、不機嫌そうな顔でゴブリンの背を追いかける様に歩く。
そして三体目は大柄狐目の男。
狐目とは言え獣人という訳ではなく、姿形は人そっくり。
目を開いているのか閉じているのかわからない鋭く細い目は表情が分かりにくい。
だが、今その大男は誰が見てもわかる表情をしている。
それは、苦笑い。
どんな気持ちかはわからないが、苦笑を浮かべている事だけは間違いなかった。
無言のまま、案内の魔物に連れられる三体は決勝の結果順に並んで歩く。
つまりこの順番は……。
「あの……ごめん、なさい……」
先頭のゴブリン、シンカという名の男は後ろの二体にそう呟き、謝罪をした。
「それは何に対しての謝罪だ?」
メルクリウスは本当にわからず、嫌味とかではなく純粋な気持ちでそう返した。
「えと……僕なんかがお二方の邪魔をして漁夫の利を得てしまって……」
シンカが泣きそうな顔でそう言葉にする。
申し訳なさそうなのはメルクリウスが不機嫌だからなのもあるだろうが、持ち前の気の弱さの部分が一番大きかった。
どうしてこの性根で優勝出来たのだろうか。
そう思う位、シンカはびくびくとしていた。
「私は自分の実力を出し切った。その上でお前が私を出し抜いた。それに何の思う事もない。むしろ力なき身で良くその僅かなチャンスを物にし私達に勝ったと思う。本心で、心から賞賛に値する」
多少の上から目線だが、ドラゴンにしては珍しく相手に気遣ったつもりで、メルクリウスはそう言葉にした。
メルクリウスはシンカに対して思う事はない。
たとえ自分を利用して優勝の座を奪い取ったとしても、それは立派な作戦であり、レースというルール内での出来事なのだから出し抜かれた自分が馬鹿なだけだ。
それに、出し抜いた事は本当に素晴らしいと思って尊敬さえ覚えている。
メルクリウスがむすーっとしているのはただ負けた事が悔しいから。
それだけであり誰かを恨む要素は一切ない。
「むしろ私はお前のその変わり様の方に驚いている。なあ……えと、グラノスだったか?」
メルクリウスは背後の大男にそう話しかけ、大男は頷いた。
「そうだな。レースの時あれだけ荒々しい走りを見せ同時に気性の激しさを顕わにしていたシンカとは思えない態度だ」
グラノスはそう言葉にした。
メルクリウスとグラノスが何を言いたいかは、レースを決定づける決勝後半の一シーンだけで説明が付けられる。
その時、メルクリウスとグラノスは見事一ミリも差がない程の横並びで並走していた。
残すはコーナー二つとその隙間と後ろにある直線のみ。
普通に考えたなら、直線での走行はメルクリウスに不利なはずだった。
単純な話、グラノスの魔導バイクはこの会場でもトップクラスの物であり、最高速の伸びなら他の追随を許さない。
だから普通に考えて、メルクリウスが横並びになる訳がないのだ。
どうして並走出来ているのか、その理由は誰にもわからない。
メルクリウスの技術か、バイクのチューンか。
ただ現実で言えばメルクリウスは前回王者のグラノスと直線で完全なる五分で競っていた。
走行技術も負けていない。
バイクの差も埋まっている。
だけれども……未だ有利なのはグラノスの方。
メルクリウスにはレースの経験が圧倒的に足りていなかった。
次のコーナーは大きな左曲り。
そして左側にいるのはグラノス。
つまり、内側にいるグラノスの方が速くコーナーを曲がれるという事である。
というよりも、このラスト一つ前のコーナーで勝負を付ける為に、グラノスはレース終盤までずっと左側を陣取るよう立ちまわっていた。
途中メルクリウスもそれに気づいてはいた。
気づいてはいたのだが……駆け引きの経験が浅いメルクリウスではどうする事も出来なかった。
このままいくとこのコーナーで差を付けられ、そのまま頭を抑えられ逃げきられてしまう。
別にメルクリウスはこのレースに勝つ事が目的ではない。
一位でなくとも二位か三位という順位で表彰台に立てたら、いやそれ以前にこの決勝レースに出られているだけで十分仕事は果たした事になる。
だが……ドラゴンという生き物は、とにかく負けず嫌いだった。
順当に行けば負ける。
ドラゴンが普段生きる上であり得ない状況に苛立ちを覚えながら、自分が圧倒的不利でかつ弱者の立場である事を嫌々飲み込み、グラノスに対する作戦を考える。
そして……メルクリウスはイチかバチかの手段に出た。
グラノスはその時点で勝ちを確信していた。
それは油断や慢心ではない。
メルクリウスのマシンスペックを自分の物と同等と考え、現時点で自分が出来る最高の手段を相手側が使ったとしても、この状況を逆転する方法はない。
そう考えたからだ。
グラノスの走りは正しく王者の物だった。
全ての動作を教科書に載せて良い程、効率的で、そして効果的な物。
最適な位置取りを行い、ギリギリの速度で最低限のロスで最もタイムが縮まるようにコーナーを曲がる。
それは正しく王者の走り。
最も正しい走り方、限りなく正解に近い動き。
ただし、それこそがグラノスの唯一の欠点でもあった。
コーナーを曲がっているその時、グラノスは見た。
自分の右側ではなく、左側、インコースを走るメルクリウスの姿を。
メルクリウスはスピードを落とし、強引に左側に潜り込んでいた。
グラノスの王者の走り。
コーナーを曲がる際の基本であるアウト、イン、アウトの位置取りを行うとわかってたからこそ、そのイン部分を潰し割り込む為、メルクリウスは後ろから強引に左側に移動した。
それはかなり無茶な姿勢、無茶な加速でのただのごり押しだった。
メルクリウスのバイクは魔導バイクに比べ最高速も加速も及ばない。
その代わり、馬力だけは遥かに上回る。
その馬力を強引に生かし、バイクに負担が行く事も想定しての無茶。
自分が速く走る為の走りではなく、相手を妨害し蹴落とす弱者の戦い方を、苦渋を飲む気持ちでメルクリウスは選択する。
何よりも、勝つために。
そしてその作戦は上手く行き、ほんの僅かではあるが、コーナーで抜ける際メルクリウスの方が前に出ていた。
ほんのわずかな差。
だが、その差はここからゴールまで永遠に埋まる事のない差でもあった。
終わった。
グラノスだけでなく、メルクリウスや、レースを見慣れた観客すらも、これが決定的な勝敗をつける一瞬であり、それに勝ったメルクリウスがこのまま優勝すると思った。
残り短い直線二つとコーナーが一つあるが、もうそこで逆転するチャンスはない。
そう、思っていた。
後ろから、シンカの乗る小型のバイクが抜けて来るまでは。
『いちゃこらと走ってんじゃねーよ! そんなに交わるのが気持ち良かったのか?』
そう叫び、シンカはメルクリウスよりも更にインコースからコーナーを抜ける。
二台のマシンとマシン一台分の差をつけて。
そして、直線に入るとシンカは品のない叫び声を上げ、何やら品のない言葉を連発しながら、更に直線で加速する。
それこそ、グラノスやメルクリウスのマシンよりもなお速い速度で。
出し抜かれてから、メルクリウスとグラノスはようやく理解した。
シンカは最初から最後まで、この一瞬を狙っていたのだと。
シンカはレース最初から常にメルクリウスの背後に位置するよう走っていた。
最初はそのにやけ面と品性のなさからメルクリウスという綺麗所について走っているだけだと誰もが思っていた。
実際は違う。
ずっと誰かの後ろに隠れ、風避けにし、マシンのエネルギー消費を最低限に抑えながら虎視眈々とその隙を狙っていたのだ。
しかも、レースの最初から。
王者であり常に前にいたグラノスではなく、メルクリウスの後ろにいた理由。
つまり、最初からシンカは予想していたのだ。
メルクリウスが一番前を走るという事を。
そしてシンカの望み通り、メルクリウスはそれをやってのけた。
最後の最後、一番のチャンスでグラノスを出し抜いた。
その一瞬を、メルクリウス以上に待ち望んでいたシンカが見逃す訳がなかった。
残りは、ずっと温存していたエンジンをフルスロットルで回すだけ。
最初からこの瞬間まで、シンカは自分のマシンを温存し続けた。
だからこそ、観客もレーサーもシンカのマシンを誤解していた。
コーナー重視の小型マシンであると。
実際はフルスロットルで爆発的な加速、最高速を得られる代わりに一分も持たずエネルギーが尽きる一瞬だけが輝くマシンだと、最後になるまで誰も予想していなかった。
そのまま温めたエンジン、蓄えたエネルギーを全て吐き出し、シンカはぶっちぎってゴールし優勝フラッグを二体から奪い去って行った。
「す、すいません酷い事言ってしまって……」
シンカはぺこぺこと頭を繰り返しさげ続ける。
ひゃはははという三下の様な笑い方をし、抜き去る際には嫌味を言うようなレースをしていたとはとても思えない。
性格は最悪だったが、その腕は確か。
そんなレーサーだと思っていた。
「いや、別に構わん。ヒールに徹しているのだとしたら素晴らしい演技力だと思う。なあ……えっと、メイドさん?」
「今はそう呼んでくれ。うむ。そうだな。好みではないが勝つ為にああいう演技をしているのだとすれば確かに素晴らしいものがある。その勝利への執念、私は嫌いではない」
そう言葉にし、二体はシンカの方を見た。
「いえ……その……。素……なんです。僕、乗り物を運転すると性格変わるタイプでして……」
その言葉を聞き、二体はお互い顔を見合わせぱちくりと目を動かした。
「いや……まあ……そういうタイプがいる事は知っている」
グラノスはそう呟いた。
「うむ。だが……貴様の運転する乗り物だけには乗りたくないな」
そうメルクリウスが付け足す様、心からそう思い言葉を吐露する。
グラノスはその言葉にしっかりと頷いた。
「あはは……。ですが、そんな僕なんてお二方の様な実力ないのにこんな場所にいて……なんだか心苦しくて……」
「確かに、技量も一歩劣って、マシンも一発こっきりのじゃじゃ馬。好みではあるが全体スペックは私達に見劣りするな。だが……その上で貴様が勝ったんだ。むしろ誇れ。うじうじせずに堂々とすれば良かろう」
メルクリウスの言葉にグラノスも頷いた。
「つかさ、今回の俺の記録、前回優勝した時より速かったんだぞ? それで三位なんだからもうしゃあないとしか言えん。俺は実力以上の力を出した。そして負けた。そこは絶対の真理だ。つまり……堂々として良いんだ。良い走りだったよ。シンカ、あんたは本当に速かった」
そう言葉にし、グラノスはシンカの肩をぽんと叩く。
シンカはどこか申し訳なさそうな表情のままだが、それでも、確かにグラノスの言葉に頷き微笑を零した。
「だからさぁ、俺負けた訳じゃん? いい加減俺の事司会が王者って言うの止めてくれねーかなぁ……。王者が三位に陥落ならまだわかる。王者が三位に着いたって言葉何かおかしくね?」
グラノスは苦笑いを浮かべながらそう愚痴をこぼした。
「貴様は自分が王者と呼ばれる事が気に食わないのか?」
グラノスは頷いた。
「ああ。勝って当然のレースなんて一度もなかった。ただ運と実力が噛み合って二度程優勝しただけだ。それで王者と呼ばれるのはなぁ。何より王者とか偉そうな感じが俺にゃ性に合わん」
グラノスはきっぱりとそう言い切った。
「ふむ。私はそうは思わんが……まあ、今回初めてきた私が何やら言うのもあれだろう。おいシンカ。王者の走りとやらを説明してやれ」
何故か上から目線の命令口調。
それにシンカは何故か嬉しそうに頷いた。
「はい! グラノスさんが王者と呼ばれるのは二度優勝した事ではなく、二度優勝する実力を王道と呼べる様な走りで魅せてくれたからです! 僕もそうです! まっすぐと堂の入った走り、誰もが見惚れる芸術的なライン取り、圧倒的強者の駆け引き。そしてどんなプレッシャーの中でも一切ぶれず自分の走りをするそのスタイル。まさしくその走り方は王道そのもの。だからグラノスさんは王者と呼ばれているんです!」
ふんすと鼻息荒く、まるで舎弟が兄貴分を褒める時の様な感じでシンカはそうまくしたてた。
「お、おう。と言っても俺は当たり前の事しかしてないけどなぁ……。練習時間だけなら誰よりも多く取るよう心がけている位で」
「お前にとっての当たり前が皆にとっての当たり前とは思うなよ。それこそ強者の理論だ」
「……とは言えなぁ……シンカだけでなくメイドさん、あんたにも俺負けてる訳だし……」
「私のはマシンスペックと肉体スペックでのごり押しだ。強者の動きではあるが王者の走りでは決してない。シンカ、説明」
「はいっ! メイドさんは見るからに非常に走り慣れ、その上かなりの速度馴れしていましたがレース自体に慣れた様子はまったく見られません。コーナーで僕があっさり不意を突ける位に。つまり普段はもっと広い……大自然を走っていたのだと思われます。同時にメイドさんのバイク操作はかなり高度な身体能力で技術をカバーしているフシもあります。もちろん十分な技術はありますがそれ以上に肉体のスペックが凄まじいですね。おそらく僕どころかグラノスさんの三……いえ十倍位は筋力があるかと」
シンカは早口でまくし立てる様そう言い放った。
「うむ。命じといて言うのはなんだがちょっと気持ち悪いな貴様。だがまあ大体合ってる」
「……ふむ。ところでマシンスペックという事だが……正直俺はあんたのマシンがめちゃくちゃ気になってる。ほとんど魔力が出ていないのにどうしてあんなに速いんだ? 一体どんなブースター積んでるんだ?」
そう、グラノスが言葉にするとシンカも非常に興味津々という様子でメルクリウスの方を見た。
バイクに乗る者として、少しでも速く走ろうとするレーサーとして、何よりただのバイク馬鹿として、それが気にならない訳がなかった。
魔力が低いのに最高速が出るバイクなんて存在する事すら考えていなかった。
「まあ、そもそも魔力使ってないしな……」
メルクリウスはぽつりとそう呟いた。
「ん? 何だって?」
グラノスがそう聞き返すが、メルクリウスは苦笑を浮かべ首を横に振った。
「いや。何でもない。ぶっちゃけよう。あのバイクは、私の分身はめちゃくちゃ高価な上に値段の上限を気にせず改造しまくっている。エンジンの一部品で貴様らのバイクがまるまる買える位の値段と言えばわかるだろう」
「具体的には?」
「エンジン全体の改造費で一億ブルード。一パーツ交換でも百万ブルードは下らん」
グラノスとシンカは目を丸くした。
「……おいおい。俺のバイクは本体代とチューン全部含めても五十万ブルード位だぞ……」
グラノスはそう言葉にする。
それでも、既存の量産魔導バイクの中ではかなり高価な方である。
「僕のは遺跡産ですから値段は難しいですが……それでもそこまで高価なものではないですね。改造費も精々二万ブルード位です……」
シンカはあっけにとられながらそう呟く。
二体の魔物はそのあり得ない値段を一切疑っていない。
むしろ納得していた。
魔力が最低限であってもそれだけのチューンをすれば、あんな素晴らしい走りが出来る。
または、魔力が最低限でも走れる様な遺跡産の物である。
何かはわからないが、あの理不尽かつ凶暴なサウンドと共に走る暴力の塊というとんでも存在だと納得するには十分な値段だった。
「……私からも一つ、聞きたい事がある」
そう言葉にし、メルクリウスはグラノスの方を見た。
「ん? 何だ? バイクのチューン方法とかメンテオイルは何とかか?」
「それも気になるが……」
「僕も凄く気になります!」
きりっとした口調で話に入るシンカ。
おどおどして舎弟みたいだが、バイク馬鹿な事には変わらないらしい。
ここにいる二体と同じ様に。
「はぁ……。そうではなくてだな……グラノス。貴様前回前々回と優勝していたんだよな?」
「あ、ああ。まあな。あんたらがいなかったから優勝したんだけど」
「そういう世辞はいらん。そうではなく、優勝したなら知っているだろう。今私達はどこに向かっているんだ?」
メルクリウスはそう言葉にした。
案内の男に連れられて、大きな建物とは別の建物、しかも地下に移動している。
これだけの会話をずっとしてもまだ到着せず、歩き続ける程遠くまで。
一体どこに行っているのか。
メルクリウスはそれが気になっていた。
「いや、俺もわからん。前回の時はレース場の中央で酒ぶっかけあって、そのまま大型の飛行便で宴会場に直行した」
グラノスの言葉を聞き、メルクリウスはバイク馬鹿モードから本来の作戦モードに、メイドモードに意識を切り替えた。
「……ふむ。おいシンカ。私を先頭にしろ。そして前にいる貴様。私達は今どこに向かっている?」
案内の男はくるりと振り向き、首を横に振った。
「い、いえ……私にもわかりません……」
その様子は今にも泣きそうで、同時に心臓は激しく鼓動を上げている。
不安、恐れ、恐怖……そして、罪悪感。
心臓の鼓動から、メルクリウスは男のそんな感情を読み取った。
「そうか、もう良い。グラノス。この男の事を知っているか?」
グラノスは首を縦に動かした。
「ああ。スタッフの上役だな。具体的に何の役職かは知らんが」
「そうか。だとしたなら……脅されているのか」
そう、メルクリウスが小さく呟くと、男はびくっと体を震わせる。
「……当然の事だが、閣下の想定通りの展開か。流石閣下だ。あっちの方はどうなっているかわからないが……まあご主人ならうまくやっているだろう。おい貴様。貴様は何も気にせず言われた通りにして構わんからな?」
そう、メルクリウスは脅されていると思われる案内の男に声をかける。
メルクリウスとしては、それは慰めと元気付けのつもりであった。
だが、聞いている男の方はそんな風にはとても思えず、むしろ一種の死刑宣告の様な気がして誰が見てもわかる程表情を青ざめさせた。
ありがとうございました。




