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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

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ハーヴェスター下級農園


 未だ義務教育を終えておらず、正規の冒険者になれないクロスが受ける事の出来る仕事はアウラから与えられた物だけである。


 生きようと思えば、クロスは何もせず幾らでも自堕落に生きる事が可能だろう。

 魔王アウラフィールの食客相当である為、クロスは魔王城にいつでも押し入り来賓客という身分で接待を受ける事が出来るからだ。

 それ以前に、アウラは先代魔王の所業により魔物と化したクロスに対し強い負い目を感じている。

 国家としての賠償は終わったがクロスが頼み込めばアウラは自分の範囲でなら様々な無理をクロスの為にするだろう。


 更に、クロスは賢者という最高クラスの称号を与えられている。

 魔王国内であるなら多くの者が尊敬を覚え敬う称号である為、それを利用し生きていく事も容易である。

 そして極めつけは、有能で幾らでも稼げる従者がいつも傍に控えているという事実。

 エリーはクロスが思う以上に有能であり、アウラがクロスに相当肩入れしていなければクロスの騎士とするなんて絶対にせず手元に置いておこうとしただろう。


 要するに、上位貴族よりも更に上の身分となってしまっている為クロスは仕事なんてする必要がなくなっていた。

 それでも、クロスはそんな身分に甘んじておらず自ら身を粉にして働く意欲を見せている。


 別に聖者の様な綺麗な発想をしている訳でもなければ仕事が大好きという訳でもなく、当然ワーカホリックで仕事をしないと死ぬという事もない。

 むしろ自堕落な方で仕事をしなくて暮らせる事に幾分も魅力を感じる程度には駄目な考えを持っていた。


 それでもクロスがアウラからの仕事を受け続けているのは……これ以上落ちぶれたくないからである。


 クロスが自分の身分を理由に仕事をしなかった場合、どうなるか考えてみよう。

 アウラの世話になり、多くのメイド達からもてなされ、そしてエリーの稼いだ金で生きていく。

 多くの女性に接待されるんだからそりゃあ……楽で楽しい日々となるだろう。


 だが、それはぶっちゃけただのヒモである。

 流石のクロスも、ヒモになるまで落ちぶれたくない。

 むしろクロスは女の子にお金を払ってちやほやされる方が好みだった。


 だからこそ、クロスは今回もアウラからの依頼を喜んで受けた。

 アウラフィールの父、グリュール・ラウル。

 そのグリュンの農場の手伝いという子供でも出来そうな依頼を。


 その依頼を受けたのは報酬が気楽な職場と簡単な内容の割に多い事も理由の一つだが、一番の理由は好奇心からである。

 グリュンはハーヴェスターというこの世界唯一無二の称号を過去の魔王から与えられている。

 その豊穣をもたらす者とまで言われたグリュンの農場がどんなものなのか、興味を引かれない訳がなかった。




 そして実際に農場に向かい、仕事を手伝い……クロスは大きな勘違いをしていた事を今更理解した。

 農地から採取され、多くの従業員や手伝いの魔物達によって運ばれて行くのは穀物や野菜、果物等。

 それに加えて……植物系の魔物達。


 最初は食料により国家を支えてきたからと思っていた。

 だが実際はそれだけでなく、植物系であるなら魔物を生産出来るのだ。

 しかも、意思のある魔物、正しき国民、戦力を。


 タマネギや西瓜、カボチャに顔のついた魔物からアルラウネやドリアードなどの女性型、果てには動く木など。

 ハーヴェスターと呼ばれ、敬われる本当の理由を、クロスは理解した。

 国家に必要な物の全てを農園で賄うのだからそりゃ敬われ重宝されるに決まっている。

 逆に逆らえば一気に反逆者扱いされ謀殺される事となる位だ。


 そんなこの場で生まれて来る魔物達を見て、クロスは何とも言えない表情となった。

「クロスさん。どうしたんですそんな表情になって。アルラウネとか露出が多い魔物の方々を視姦してるんです?」

 隣で野菜の収穫を手伝っていたエリーは主の変化に気づきそう尋ねた。

「エリーは普段俺をどういう風に見ているんだ?」

「女性大好き。えっちな事大好き」

「……ごめん。間違ってないわ」

「どうしてもしたいなら付き合いますよ。死ぬ程嫌ですけど」

「俺、嫌がる相手としたいと願う程屑じゃないよ」

「知ってます。それでどうしました?」

「んー。いやさ……グリュンの、ハーヴェスターの畑ってやべぇなって思って。うん……他に感想出てこないわ」

 クロスはそう言葉にした。

 膨大な量の田畑から生み出される資源。

 それにクロスはただただ圧倒されていた。

「そうですね。質、量共に世界最高峰である事は間違いないでしょう。ですが、ハーヴェスターの名前の凄さはこれだけじゃあないですけど」

「というとどゆこと?」

「この辺りはハーヴェスターの農地でも重要度がかなり低い方です。つまり……」

「これよりやばいのが山ほどあるという事か……」

「はい。文字通り山ほど。マンドラゴラとか危険ながらも有用な魔物が生産される場所ですら、重要度中ですし」

「……やべぇなハーヴェスター」

「やばいですよ。ハーヴェスター」

 そう言って、二人は腕を組み頷きあった。


「クロスにそう言われると少々複雑な気持ちになるのぅ」

 唐突に聞こえて来るしゃがれた声。

 その直後、その場にハーヴェスターの本体ごとグリュンがどこからともなく姿を現した。


「グリュンか。悪い。友にそう言われると悲しいわな」

 クロスは後ろを振り向きそう言葉にする。

 周囲の従業員や生産物達も主であるグリュンが来ても慌てもしない。

 つまり普段からこの様に現れるという事なのだろう。

「いやそれは構わん。私が複雑と言っているのは賢者の方が称号としての価値が高いからだよ。格上からやばいと言われるのは少々据わりが悪い」

「……うーん。正直自覚ないんだよね。そもそも不相応過ぎてあんま名乗りたくない位だし」

「そうかね? 私はクロスに相応しい称号だと思っておるよ」

 クロスは猜疑的な目でグリュンを見た。

「ほんとにぃー? どんなとこが?」

「ラフィールを全く利用しようとせず、あの子を大切にしてくれている所などじゃな。魔王という身分のあの子に、その弱みにクロスは付け込もうと一度もしなかった。それはとても高潔な事で、誰でも真似出来る事じゃない。そう私は思っておる」

「いやいや。大分利用してるぞ? しょっちゅう飯集ってるしこうして依頼を貰ってるし」

 グリュンは含み笑いをした。

「利用するという事がその程度の発想だからこそ、私はクロスの事が気に入っているし、ラフィールを任せても良いとさえ思っておる。どうかな? 本当に婿になる気はないかね? 何ならクロスが魔王となっても私は構わんぞ?」

「いやいや。そういうのは……」

「言っとくが、今はまだ冗談ではあるが内心本当にそうなって欲しいとは本気で思っとるぞ? あの苛烈な性格に少々貧相な体型と童顔。その上で魔王という苛烈な立場。いや私はラフィールがとっても可愛いと思ってるよ? あの子の為なら死んでも構わんとさえ思っとる。だが嫁の貰い手があるかどうかと言えば……」

「あの……ハーヴェスター? そろそろその辺りに……」

 エリーはおろおろとした様子で、そう言葉を切り出す。

 それにクロスもぶんぶんと何度も、慌てた様子で首を縦に振った。


「エリー。君も魔王の騎士と、いや、魔王クロスの騎士となるのは誇らしいと思わんかね? ああ、もちろん妾でも構わんよ? 魔王であるなら胤を残すというハーレムを築く正当な理由も――」

 グリュンはそこでようやく、クロスとエリーの二体が怯えた表情で自分の背後を見ている事に気が付いた。

 おそるおそる……ゆっくりと……グリュンは後ろを振り向く。

 そこには、満面の笑みを浮かべる最愛の娘、アウラの姿が――。

 その笑顔は、まるで獣が牙をむいた時の様だった。


「おおう。いや、パパ心配だから。その……」

 ごごごごごと謎の威圧オーラを放つ魔王様に飲まれ、グリュンは言葉を飲み込む。

 そして、全く関係のない方角を指差した。

「おっと。私は仕事をしなければ。上に立つ者の責務として誰よりも働かなければ。ああ忙しい忙しい」

 そう言葉にし、グリュンは地面にポンと魔法陣を生み出し、そしてその場から姿を消した。


「……逃げたな」

 クロスはそう言葉にした。

「逃げましたね」

 そうエリーも同意し、そして二体は残されたアウラの方を見る。

 アウラは、大きくわざとらしく溜息を吐いた。

「すいません。忘れてください……」

 そう言葉にするアウラの表情には、ただただ呆れと諦めだけが宿っていた。


「何か……大変だな」

「ええ。両親ともがああですから……クロスさんも迷惑かけてすいません」

「別に俺は良いんだけどね。可愛いアウラとそう言われるのは嫌じゃないし」

 アウラは苦笑いを浮かべた。

「はいはいそういう事にしておきましょう。それでクロスさん。いない父の代わりに私が次の仕事をお願いしますね。そうですね……C地区……あちら側の方がどうやら遅れてる様なので手伝いお願い出来ますか? エリーと共に」

「あいよ。何か特別な仕事とかある感じ?」

「いえ。こちらと同じで箱詰めされた生産物を倉庫に運ぶだけかと」

「わかった。エリー、行こうか」

 その言葉にエリーが頷くのを見て、クロスは言われるがまま遠くの農地に向かって行った。


「はぁ。まったく……私みたいな性悪と結婚してくれる方なんて元老機関以外に居る訳ないじゃないですか……」

 そうアウラは呟き、何時もの様に莫大な量の仕事をこなしに城に戻っていった。




 えっちらおっちらと他の従業員と共に芋類を運んでいるその途中、クロスはどこか不思議な印象をした女の子を見つけた。

 畑の傍でぼーっと突っ立っている、無表情の女の子。

 魔物は基本レベルが高いからこういう言葉が適しているかわからないが、可愛らしい外見のその子には、足が付いていなかった。


 いや、足がないという以前に、彼女は全身水色の半透明だった。

 髪の毛や顔、肌は当然、胸に宝玉のついたもこもこっぽい寝間着を身に着けているが、その全てが半透明となって向こう側が透けており、更にその少女は宙にふわふわ浮いている。 

 ゴーストっぽい外見だがゴーストとも異なり、スライム族っぽいかと言われたらそれもまたどこか違っている様に見える。

 そんな不思議な女の子に、クロスは声をかけた。


 深い理由はない。

 ただ、可愛い子が暇そうにしていたら声をかけるのなんて、クロスにとってはりんごが地面に落ちる事と同じ位当たり前の事でしかないからだ。


「暇そうだけどどうかした? んで君は誰? 従業員? それともここで生まれた子?」

 クロスの声に半透明の少女は顔を向ける。

 その顔は、とにかく無表情のままだった。


「従業員ですよー。今暇ですけど」

 無表情で無気力な棒読み。

 まるで拒絶にすら感じるその話し方。

 だけど、クロスには何故かその声が楽しそうに聞こえた。


「どうして暇なの? 今一番忙しい時じゃん」

「私の種族ーわかりません?」

「わからん」

 クロスはそう断言した。

 少なくとも、クロスが生前出会った魔物の中にこの少女と同じ者がいた記憶はなかった。


「私水霊族なんでー」

「なにそれ? 精霊の仲間?」

「そう思われて付けられたけどー、まったく関係ないんですよー。困った事に。ただの水棲生物でございまする」

「水棲……水で暮らす……ああ。その体水で出来ているのか」

「あいー。いや正しくは水っぽい何かで水じゃあないらしいんですけどね」

「ほー。あ、そうそう。俺の名前はクロス。君の名前は?」

「おおー。貴方があの有名なクロス様ですか。地面に跪いた方が良いです? 出来たら土で汚れたくないんですけど」

「いやいや。むしろそういう態度は止めて欲しいかな」

「……大丈夫わかってますよ」

 そう言葉にし、少女はクロスの肩をとんとんと叩いた。

 その半透明で綺麗な手は人と同じ様に弾力があり、そしてスライムの様にひやっこく気持ちよかった。

「いっつあじょーく、なんで。ぶっちゃけ私、堅苦しいの嫌いなんで何もかも適当にはなしますね」

「そうしてくれ。普段の君の話し方、ちょっと面白いし」

 その少女は無表情のままではあるが、何故かどことなく、嬉しそうな雰囲気を醸し出していた。


「ぺかー」

 そう、少女は意味もなく淡々とした口調で言葉にした。

「……どした?」

「面白いって言われて、喜んでいるのを表現しました」

「そかそか。んで君の名前は」

 少女は穏やかに微笑み、空を見つめた。

「雪がこんこんと降る夜の様に……ひらひらと儚く美しい生涯を送って欲しい。そういう事で……ユキという名を……」

「そか。ユキちゃんっていうのか……」

「いえ、ユキというペンネームを自分で名付けてハガキ投稿しているだけです。ペンネームをリアルで呼ばれたら死にたくなるので呼ばないで下さい。ほらほら。じんましん」

 そう言って、その少女は自分の肌を指差す。

 その肌には蕁麻疹どころかぶつぶつの一つもなく、つるっとした水そのものだった。


「……蕁麻疹もただのジョークかな?」

「うぃー。でも恥ずかしいのはほんとだったりする。……きゃっ」

 そう言って顔を隠し恥ずかしがる様な演技をする少女。

 見ていて飽きないが、会話が進まないのが欠点だとクロスは思った。


「んで、君の名前はなんてーの?」

「タルト。美味しそうなタルトを食べていた時に思いついたから」

「それもペンネームかな? 本当の名前は?」

「だからタルト」

 冗談だと思うクロスは少女の顔を見続ける。

 だが、少女はそれ以上何も言わず、むふーと鼻息を立てドヤ顔をしていた。

「……そっちは、ガチなんだ」

「ガチだったりする。パパ上がタルトを食べててなんか可愛いからなんて理由で、その日から、私の名前はタルトです。ちょっと恥ずかしいけど、嫌いじゃないんです。だって響きが可愛いから。そんな私、百八十五歳独身彼氏募集中。……ごめん嘘。百八十五歳でもないし彼氏も募集してない。でも友達は募集中」

 何となくだが、クロスはその少女、タルトの事がわかってきた。


 無表情で声にメリハリはないが、おしゃべり好きで楽しい事が好き。

 どうやらそういうタイプらしい。


「んで。タルトはどうしてここに?」

「……真面目な話?」

「いんにゃ。可愛い君との会話を楽しんでるから、好きに話して良いよ」

「照れるぜ。……ああうん。まじまじと見ないでね恥ずかしいから。これでも花も恥じらう乙女っぽい何かなんだから。冗談かもしれないし本当かもしれない」

「可愛いのは本当だから」

「やめれ。真面目に行くとね、私の仕事は水撒き。だから収穫の時は暇なの」

「なるほど」

「あ、でもでも、好きでサボってる訳じゃないから。ただ、私は緊急用に余力を残しとかないといけないから荷物運び手伝うのは禁止されてるの。特別扱いは嬉しいけどなんか寂しくてちょっとしょんぼりで、そして罪悪感があるけどそれが私のお仕事なの」

「なるほど。真面目なんだね」

「真面目に不真面目するのが私の趣味でござんす」

「そ。そいや水棲って事は今ここにいるのは……」

「クロスさん。どうかしましたか?」

 話の途中、動きを止めたクロスが心配になりエリーはクロスに話しかけた。


「ああ、悪い。ちょっと可愛い子いたからお話してた。先に荷物だけ運んで来るからちょっとこの子と話しててくれ。この子の名前はタルト。見ての通り面白い子だ。んでタルト、こっちが俺の騎士エリー。見ての通り真面目な金髪美女様だ」

「ちょ、何ですかその悪意に満ちた紹介」

 慌てた様子でおろおろするエリー。

 それを見て、クロスとタルトはアイコンタクトを取りお互い頷いた。

『おちょくりやすい状態のうちの子を置いて行く。存分に楽しんでくれ』

 そんなアイコンタクトを出すクロスに、タルトは親指を立て返事をした。


「なるほど。貴女様がかの有名な金髪女騎士様……」

「いやちょっと待って下さい。間違ってないですけどその呼び方はどこか不本意な悪意含まれてません?」

「気のせいです。よしんばその通りでも、たぶんきっと気のせいです」

「やっぱり悪意あるんじゃないですか……」

「悪意はないですよ悪意は……。でも、エリーさんが有名な事は本当……です」

 タルトはドヤ顔でそう言葉にするのだが……そのドヤ顔は無表情で淡々としていて、クロスでなければ理解出来ないドヤ顔だった。


「まあそれなりに色々してきましたからねぇ。それで、どんな風に私は有名だとタルトさんは聞いたんです?」

「鉄仮面――」

「――ああ。リベルナイトの時代ですね」

 エリーは納得し頷いた。

 あの頃の自分は無表情で功績目当てでただ仕事をし続けていただけ。

 今と比べたら、生きていたと呼ぶ事すら微妙な生き方をしていた時。

 その時は確かに、ほとんど笑っていなかった。

「――が、愛の炎で溶けて恋する少女にジョブチェンジしたと言われる伝説の乙女系女騎士様」

「いやちょっと待って。それ本当。私そんな風に思われてるの?」

「……いっつあ、じょーく……」

 そう言葉にし、親指を立てるタルト。


 無表情で淡々と言葉にする為、その冗談は死ぬ程わかりにくく、エリーは盛大に溜息を吐いた。


「……本当はどんな噂が流れてる感じですか?」

 少し聞くのが怖いが、エリーはそう尋ねてみた。

「ん? 楽しそうで、とても綺麗になって、一緒に仕事をしていた時口説いておくんだったってエリーさんの昔の同僚が言ってたよ。酒の席で」

「綺麗に? 良くわかりませんね」

「表情が豊かになったって事だよ。私わかるよ? 私に表情ないから……」

 そう、タルトは言葉にする。

 少し寂しくて、悲しくて、そしてとっても羨ましい。

 そんな、タルトの本音だった。


「ですが、タルトさんとても可愛いですよ? 表情は乏しいかもしれませんがそれもまた魅力に見える位に」

「……ありがと。でも、面白いって言って貰った時の方が……嬉しかったかな」

「ん? 何か言いました?」

「ううん。綺麗って言ってくれてありがとって」

「いえいえ」

 そう言って、エリーは微笑んだ。

 タルトは微笑み返そうと努力したが、上手くいかなかったので両手の人差し指で口角を上げた。




 クロスが慌てる様に走って戻ってきて、そしてタルトにこう尋ねた。

「結局水霊族って一体どんな種族なんだ? 水で出来た精霊的な?」

「ですからー精霊とは関係ないんですー。精霊様に聞かれたら怒られますよ?」

「……そうなのか?」

 そう言ってクロスはエリーの方を見た。

 エリーは首を横に振った。


「……え? まじ? エリー様精霊様なんでございましたんでしょうでした?」

「あ、はい。一応精霊です。そいや最近まで隠してましたね。もうどうでも良いですけど」

「……跪いた方が宜しかったです?」

「止めて下さい……。ああ、少しだけクロスさんの気持ちがわかりました。一々仰々しくされると少し寂しい気持ちになりますね」

「だろ? んでタルト。興味本位だから嫌なら無視して良いけど、どういう種族か教えてくれない?」

「良いですよー。と言っても、ぶっちゃけ精霊様とか超常的なのとはなーんも関係なくてですね、クリオネの魔物って言えばわかりやすいですかね」

「……クリオネって何?」

「……おおう。説明する方法がなくなってしまった。助けて大いなる精霊様」

 そう言って、タルトはエリーの方に目を向けた。


「……私も文献で見た事しかないですけど、寒い水の中にいる半透明の生物ですね。小さくて可愛らしいそうです。タルトさんみたいに」

 そう言葉にすると、タルトは無表情ながらエリーの方をじーっと見つめ続けた。

「お、おいエリー。何か珍しくまじでもの言いたげな顔してるぞ?」

「そう、なんです? タルトさん。何か失礼な事言いました?」

 タルトはこくりと頷いた。

「私以外の水霊族にそれ言うと、たぶん絶望的な表情をするか鬼の様な顔するので止めておいた方が良いです」

「ごめんなさい。すぐ撤回します。同じ失敗したくないので理由教えていただけませんか?」

 エリーは慌ててそう言葉にした。

「あい。優しいタルトちゃんはその理由を説明しましょう。……ごめんタルトちゃんは痛いから止める。んで理由だけど、ぶっちゃけクリオネは、可愛くない。むしろぐろい」

「……そう、なんですか?」

「なのです」

「わかり……ました。二度と言わないと約束します」

「お願いします。んでクロスさんや」

「はい、なんでござんすかタルトさんや」

「アメーバとかミカヅキモとか、その辺わかりやす?」

「わからんです」

「そかー。んじゃナメクジ」

「それならわかるよ」

「私の種族そんな感じです」

「……え、えぇ……。ナメクジで良いの?」

 クロスは困った顔でそう尋ねた。

「良いんです。クリオネより百億倍マシなので」

「そんなにクリオネ嫌なのか……」

「そんなに嫌なんですよ。水霊族皆がなめくじの魔物からその地位を奪い取ろうって本気で考える位に……っと、どうやらお仕事のようですので、私はこれで失礼します。クロスさん、エリーさん。付き合ってくれてありがとうございまする。良ければまた――」

「可愛い子と話すのは俺のライフワークだ。この次はデートで食事とかしながらゆっくりお話しようぜ」

 そう、クロスはタルトの言葉を遮り言葉にした。


「……デートは嫌です。ですが……エリーさんも含めた一緒の食事なら、しょうがないから付いて行きまする」

 そう言って、タルトはふわふわとどこかに移動していった。


「振られちゃったけど、まあ食事の約束取りつけたし良しとしようか」

 そう言ってクロスは微笑んだ。

「んー。……まあ良いか」

「どしたエリー?」

「いえ。私はクロスさんより他者の感情に機敏でないので、きっと気のせいです。仕事の続きをしましょう」

 タルトの最後の言葉が照れ隠しの様に感じたエリーは伝えようか悩んだが、気のせいだと思い言葉にするのは止めておいた。


ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
自分が読み飛ばしてなければ、前の仕事の完了報告とか、前の仕事からどれくらい経ったのかとかがないのがつらい。前の仕事が終わってないのにワープしていきなり始まったように見えた。一文でもあれば…
抱かれるのは嫌って言ってる割に嫌々ながらも拒否はしないとか騎士としてとはいえ自分の窮屈で卑屈な生き方を全否定して価値観を(いい意味で)壊してくれたクロスに心も体も全てをかけて生涯尽くすとか言ってる辺り…
[気になる点] 前話までの獣人の話、元老なんちゃらの連中のほうが解決していないので途中で話ぶった切られたようにしか思えません
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