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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

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僅かな疑惑を残すまったりとした旅の始まり


 クロス達は依頼達成の為すぐに出ようとした。

 したのだが……案内であるパルスピカが急ぐ必要はないと言葉にする。

 それよりは長く何もない場所に向かう旅なのだからしっかり準備をしていった方が良いと言う為クロスはそれに従った。


 その準備の前に、クロスは蓬莱の里の土産を知り合い達に配った。

『お友達やお知り合いにはとちゃんと連絡を取らないと。僕の所為でクロスさんが困る事になるのはとても嫌です。それにお土産が勿体ないですよ』

 そんな言葉に従い、たっぷり時間をかけてメルクリウスやアウラ、ホワイトリリィ、グリュール、ついでにガスターを含めた知り合い達の元を巡りまわった。

 アウラの母であるフィリアだけにはいつもの様に会う事が出来なかったがそれ以外には大体の知り合いに会え、土産を渡し話をする事が出来た。


 その後、エリーとの家をパルスピカも連れて掃除を始める。

「長い事空けた家を放置するなんてとんでもない。家は帰るべき場所で自分の分身みたいな物。大切にしませんと」

 パルスピカが叱る様な口調で掃除の大切さを語り出かける前に大掃除をし、ついでにしばらく使わなくても次の掃除が楽になる様なちょっとした加工を施した。


『そこそこには遠い旅になりしばらく帰れませんからやるべき事はやっておきましょう』

 パルスピカの言葉に従い、クロスとエリーはそれぞれ思いつく限りの事を実行し、その後長旅の準備をした結果……気づけば魔王城にて一か月という時間が過ぎ去っていた。




 旅支度が済み、城下町から外に向かいながらクロスは隣にいるパルスピカに話しかけた。

「すまんなパル。出発まで大分かかってしまって」

「いえいえ。むしろ帰ってきて早々にすぐ出発というのは申し訳なく思ってたので丁度良いです。あと慌てる旅でもありませんので」

「そか。でもさ、実際問題大丈夫か? ターゲット逃げてない、こんなにゆっくりしたら?」

 パルスピカは自信満々に胸を叩いた。

「大丈夫です。村の仲間達がそいつのいる周辺を探ってますので移動したらすぐにわかります。それにそうそう逃げる事が出来ない場所でもありますし移動する頻度も極端に少ないですから」

 ぺかーとした良い笑顔でそう答えるパルの頭をクロスは乱暴に撫でた。


「んで、エリー。どうかしたか?」

 さっきから後ろで無言のまま何か考え込む様子のエリーにクロスはそう尋ねた。

「え、あ、いえ。何でもありません」

「そか」

 そうとだけクロスは答え、パルスピカの方に目を向け雑談を始めた。


 一月という間そこそこ一緒にいたからか、クロスとパルスピカの仲はそれなりに親しい物となっていた。

 それに関してエリーは何も思う事はない。

 というよりも、誰ともでも仲良くなれるクロスらしい事象とも言える。

 成熟期の精神状況そのままで幼稚園に入った状況で、園児とも先生とも親しくなれたなんてエリーから考えてあり得ない事を当たり前の様にやり遂げるクロスなのだから、歳が違うとか種族が違うとか、そんな程度の事気にする訳がない。


 エリーはそんな楽しそうな二体の後ろを付いて歩きながら、若干俯き考え込んだ表情をしていた。


 当然の事だが、エリーはクロスの騎士であり、従者として主の足りない部分を補う事をよしとしている。

 だから今回もクロスの代わりに依頼について調べてみて、そしてある一つの真実に行きついた。


 エリーの政治的能力は決して低くなく、そして一月という時間もあった為それなり以上に情報を手に入れる事が出来た。

 元老機関内で今回の話題を持って来たのはモーゼであり、依頼を決定したのもアウラに依頼を持って来たのも、パルスピカを用意したのも全てモーゼ。

 つまり、最初から最後までモーゼの手の平の上で動かされている可能性が高いという事である。


 今回の騒動は犬型の女性獣人が人類へのスパイ工作中、何故か突然裏切り魔物側に嘘情報を流す様になり、それにより先代魔王軍に決して軽くない被害を受けた。

 と言っても、その女性が人間の陣営に入ったという事はない。

 人間に魔物を受け入れるだけの度量などある訳がなかった。


 理由が不明なままただ独りで魔物と敵対し、魔物だけでなく人類からも逃げ回りながら人類に有利となる様立ち回り続けた孤独の抵抗者(レジスタンス)

 それが今回のターゲットである。

 ちなみに、アウラの時代へ変わった事により、指名手配扱いは変わっていないがその女性をどうしたら良いかというのは宙ぶらりんになっていた。

 何故それを今更、獣人であるモーゼが持って来たのかまでは流石にエリーでもわからなかった。


 ここまで調べ、エリーはたった一つの大きな真実に気付き今回の依頼に裏があると確信出来た。


 エリーは情報収集に関しては得意分野である。

 足を使っての情報はあまりだが情報屋等の特殊なコネを常に複数本維持したりと自分の手以外で情報を集める手段を常に用意している位には情報収集は得意である。


 そんなエリーがどれだけ調べても……そのターゲットの名前は一切出てこなかった。

 それは、ただただあり得ない事だった。

 コードネームプロキアは元老機関がつけた通称であり、名前ではない。


 無関係な一般市民ならともかく、長い間指名手配されていたなんて記録も残っているのにその本名がわからない?

 そんな事ある訳がない。

 指名手配は名前とセットで残す物だ。


 昔から名前を把握出来ていなかった?

 それもあり得ない。

 その獣人奴隷は人間に裏切るまでは先代魔王軍のスパイであったのだから。


 じゃあ、どうして名前が出てこないのか。

 どうして元老機関は名称不明である事をそのままにしているのか。

 その理由はもっとわからない。


 だが、何もかもがわからないという事だけはエリーは間違いなく理解していた。


 更に付け足すなら……エリーはこの情報をクロスに既に伝えている。

 伝えた上でクロスはそれを全く重要視していない。

 エリーの事を信じていない訳ではなく、それが真実だとクロスは理解している。

 その上で、クロスは気にせずスルーする。

 それもまた、エリーにはわからない事だった。




 城下町の門付近に移動すると、クロスはそこに見知った相手がいる事に気が付いた。

 というか、嫌でもその風貌は目に入る。

 このスライムやら目玉やらのクリーチャーが跋扈しても誰も違和感を覚えない世界でその男、宗麟は明らかに異彩を放ち周囲から浮いていた。


 鋭い眼光、独特すぎる服装、殺意しか感じない刀。

 そしてその全てを押しとどめ圧縮したような威圧的な風貌。

 それは半径数メートルに一切の魔物を寄せ付けず、周囲から怯えられ、ひそひそ話をされる程度には目立つ事となっていた。


「宗麟じゃないか。何かあったのか?」

 今頃魔王城にいると思っていた相手がいた事に驚きながらクロスはそう尋ねた。

「クロス殿をお待ちしていました」

「俺を? 何かあったのか?」

「いえ、何も。ただ、クロス殿にはいくつも恩義のある身。幸いな事に今私は自由の身で、する事がありませぬ。ですので、微力ではありますが何か手伝えることはないだろうかと」

「はは。義理堅い事だなぁ」

「性分ですので」

 そう言葉にし、宗麟は笑いもせず小さく会釈の様な一礼をした。


 クロスはちらっとパルスピカの方を見た後少し考え、申し訳なさそうな顔をした。

「悪い宗麟。ぶっちゃけ戦力足りてるみたいだから大丈夫だ。すまんな気を使ってくれたのに」

「いえ。むしろ逆にお気を使わせて申し訳ない。クロス殿、どうかご武運を」

 その言葉にクロスは頷き、そのままパルスピカとエリーを連れ門の方に向かった。

「良かったんですか?」

 エリーが小声でそう尋ねると、クロスは微笑み頷いた。

「良いんだよ。男のツレはこいつだけで良いわ」

 そう呟き、クロスはパルスピカの頭をぽんぽんと叩いた。



 草原の中、轍すら見えない程整った道を進みながらクロスは遠くを見る。

 綺麗で整って、何もない平原。

 子供達だけで出ても誰も心配せず、盗賊も意志なき魔物も滅多に入ってこず入ってきてもすぐ殲滅出来る様な場所。

 だからこそ、長閑で緩やかな空気が流れていた。


「そいやさパル」

「あ、はい。何ですか?」

「飛行便はともかくさ、どうして馬車すら使ってないんだ?」

「あ、そっちの方が良かったですか? 近場の街が目的なので馬車でも歩いてもそこまで差はないかなと思いまして」

「どの位の距離?」

「一日位野宿する距離ですね。……あ、野宿嫌でした? だったら今から馬車を呼んでも――」

「野宿で大丈夫です」

 クロスが答えるより先にエリーがそう言葉にした。


「え、エリー様は……」

「さんでもちゃんでも呼び捨てでも良いですよパル君」

「は、はい。エリーさんは野宿が好きなんですか? 僕の種族はそういう方多かったですが」

「いえ別に。ただ……クロスさんは料理が得意なので」

「え? 野宿が嬉しい位?」

「野宿が楽しみになる位ですね」

「なるほど。それは楽しみです」

 そう答え、パルスピカは可愛らしい笑顔を浮かべ微笑んだ。


「本当に可愛いなぁパル君は。女の子より可愛いんじゃないですかね」

 成熟期もまだというだけでない純粋さ溢れるあどけない可愛さ。

 正直女性であるエリーすらも夢中になる可愛さだった。

 それはどちらかと言えば美女とか美形とかそういう類よりも、小さな女の子を着飾ったりする様なそっち系の可愛さだが。


「……はは。僕としては恰好良くなりたいんですけどね」

 そう言ってパルスピカは頬を掻いた。

「もったいない気もしますが、なりたい自分ならそれも大切ですね。頑張って下さい。本当にもったいないですけど」

 惜しそうな様子のエリーにクロスは苦笑いを浮かべた。


「ありがとうございます。とは言え、難しいのはわかってるんですけどね。僕もクロスさんみたいに恰好良くなれたら良いんですが」

「へ? 俺みたいに?」

「いや、クロスさん恰好良くないですか? 僕の好みはもう少しこう……大きくて強そうな感じですけど」

「……あ、そっか。今の俺はそうだったな」

 そう呟きクロスは頭にある片角に手を振れる。


 もうそこそこ長い付き合いなのに、クロスはこの体が自分の物だという実感をあまり持てていなかった。

 数か月程の付き合いで、ようやく借り物の体だと認識出来た様な、その程度。

 それがクロスの自分の体の認識だった。


「あ、クロスさんの場合外見より中身の方がとてもかっこよくて憧れます。何より強くて……僕あまり戦う力ありませんので」

「そうか?」

「はい。というかクロスさんが強くなかったら誰が強いんですか?」

「いや、俺魔王城の中だとそんなに強くないだろ。なあエリー」

 話を振られたエリーは少しだけ困った顔をした。

「四将軍……クロスさんには四天王と言えばわかりますかね?」

「え? ああうん。痛い程知ってるけど」


 そりゃあ知っているに決まっている。

 クロスは敵として戦っているのだから。


 魔法使いのリビングデッド。

 巨大斧二刀流のオーガ。

 空を駆ける翼人の女性。

 そして常識離れした挙動を繰り返すヨロイ乗り。


 その全てが激戦で、その全てで足を引っ張る事しか出来なかった。

 忘れる訳がない。

 忘れられる様な、ぬるい地獄ではない。

 その戦いで得られた糧を忘れる程、クロスは己の才能にうぬぼれていなかった。


「その四将軍と今のクロスさんは同格です」

「……うぇいうぇいうぇいうぇい。んな馬鹿な事あるか」

「そう言うと思ってました。クロスさんは二つ程誤解していますので」

「ご、誤解?」

「まず一つ、クロスさんは四将軍が魔王国で魔王様を除いた最強の集団だと思ってません?」

「……違うのか? 四天王って言うから……」

「違います。四将軍は軍部トップクラスである事は間違いないです。ただ……どちらかと言えば単独行動をする遊撃のエースと呼ぶ方が近いです」

「なるほど。……単体戦力は最高峰だけど決して最強って訳じゃあない。それ位の強さという事か」

「はい。と言っても、トップクラスである事は間違いないですが」

「なら俺と同格な訳ないな。今の俺でさえあの時の四天王のつま先程の強さも持ってない。俺とエリーが一緒でもどの一体も倒せる気がしないな」

「そこがもう一つの誤解です」

「と、言うと?」

「……少々悪口に近くなるのですが……今の四将軍は、クロスさんが知る時と比べるなら遥かに弱いです」

「はぁ? どうしてだ?」

「方針の違いですね。アウラ様が力でまとめるタイプではなくて政治でまとめるタイプだからです。先代は力での支配という意味なら歴代でも最高峰でしたからそれと比べるのは……」

「なるほど。そういう理由か」

「それともう一つ。……その……こちらも少々言い辛いのですが……その……勇者パーティーの方が実力の上から順に……その……」

「あ」

 クロスは察してしまった。


 クロスの無二の親友で人類の聖域。

 勇者の中の勇者。 

 世界の守護者。

 クロード・ヴァン・ブレイブ・ディルシール。


 今思っても、あの強さは異常だった。

 剣を使っている理由が『剣があれば大体の事が解決するから』であり、そして実際に大抵の事は剣一本で解決してきた男である。

 普通の訳がない。


 クロスにとっては気の良い仲間で遠い目標である友だが、魔物から見たらそれは間違いなく、絶望の死神だった。


「オーライ。何か罪悪感とか恨みとか色々思いつくが忘れよう。つまり実力がごそっと落ちたから俺程度でもアウラ陣営でそこそこの実力者になると」

「というか元々のクロスさん結構な上位レベルですよ。最近の成長と魔法操作を加え、更に私というサポートを足すと……アウラ様の陣営で上位十名に入るかと」

「そかー。……でも俺メルクリウスに勝てる気しないんだけど」

「あのお方やハーヴェスター等のお方は完全に例外です。色々な意味で」

「そりゃそうか……。とは言え、メルクリウスにはいつかは勝ちたい……いや、いつか勝つけどな」

 そう呟き、クロスはぎゅっと己の拳を握った。


「そのメルクリウス様って、そんなに強いんですか?」

 パルスピカの質問に、エリーは誰でもわかる様な短い一言でその理由を答えた。

「トップクラスのドラゴンです」

 パルスピカは絶句した。


「……そ、そんな相手にいつか勝つって挑戦し続けるつもりなんですクロスさん!? やっぱり凄いです!」

 今まで以上に強い尊敬を込め、パルスピカはクロスを見上げる。

 その純粋な目は、邪オンリーな理由でメルクリウスに勝ちたいと願うクロスには少々痛くて、眩しくて、まっすぐ見る事が出来なかった。


 そんなクロスの心境が理解出来、エリーは小さく溜息を吐き苦笑いを浮かべた。



ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
いかにも潜在的スパイなのに話の流れ的に絆されても問題なさそうな感じがするな、パルピス君。いやパルスピカきゅん。
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