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追放されなかった男~二度目の人生は土下座から始まりました~  作者: あらまき
新天地を生きる二度目の男

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出来損ないの無頼漢


 青竜門付近にある住宅街の中の小さな飯屋。

 寂れているという程ではないのだが、賑やかとはとても言えず。

 落ち拭いた雰囲気かと言えばそういう訳でもなく、時折酔っ払いの叫び声が響いて。


 言うならば、品のない店。

 飯屋でありながら売れるのは安酒とつまみばかりなんて本業が良くわからなくなった状態の、ぐだぐだした雰囲気の店。

 ついでに言うならば、時間は昼間の二時過ぎに酒を飲みに来るのだから、客の方は大体がしょうもない。


 そんなしょうもない輩の内の一体、静かに、だけど楽し気に飯を食う半鬼の男に己龍雲耀は声をかけた。


「おいおい旦那。こんな場所で一体何を?」

 そう声をかけられた男、クロス・ネクロニアは雲耀の方を見て不思議そうな顔をした。

「何って……飯食ってんだけど?」

「いやいや。どしてこんな場所で食ってるのかって話だよ」

「どうしてって言ったってなぁ……何となく? 偶に知らない店に入りたくなる時ってない?」

 そう答えるクロスに、雲耀は苦笑いを浮かべた。


「いやそう言う事じゃなくってさ、クロス、あんた今忙しいはずだろ? 昨日の今日じゃないか。いや、むしろ今日の方が本番だろ?」

 ある程度だが事情を知っている雲耀はそう言わずにはいられなかった。


 実働という意味で言えば、ヴァールとローザが訪れた例年の年間分位襲撃が起きた昨日がピークだった。

 お偉いさんが来るという情報だけがそこかしこに漏れ、そこかしこがそれを利用しようとあらゆる手段で襲撃を企み、その悉くを叩き潰した。

 襲撃がぴたっと止んだ事と、捕縛した数、そして破壊、奪取した武具等を考えると、門番達はしばらく外敵に悩まされる事はないだろう。

 だから門番長という責任ある立場ではあるが実質ただの戦闘要員である雲耀は暇をしているのだが……クロスの立場はそんな雲耀とは大きく異なる。

 クロスの今の立ち位置は純血を招いたその総責任者だからだ。


 これから幾度もの会議を重ねて純血種を受け入れる用意をしなければならず、そしてその議会は今この時も開かれている。

 その議会に首謀者であるクロスが参加しないというのはあまりにも無責任で、そして可笑しいと言える事だった。


 ただ……。

「ぶっちゃけるけどさ、今回の事って一から十まで……いや、一くらいなら俺が考えたか。ただ、大半は俺じゃなくてエリーが考えた事なんだ」

「はぁ。それでもクロスが主なんだからクロスの功績だし、クロスの責任でもあるだろ?」

「ああ。だから俺も午前中開かれた会議参加したんだよ。何が起きたと思う?」

「さぁ?」

「里長とヴァールが俺に何かの質問する。俺その質問をそのままエリーに尋ねる。エリーその質問俺に答える。俺その質問を質問者に伝える。これを繰り返している時、ふと皆が思ったんだ。『これ? エリーと直接やりとりした方がはやくね?』って」

「……ああ、うん。良くわかった。つまり……」

「役立たずどころか邪魔者になったのでこんなところで暇してるという事だ」

「何とまぁ……。と思ったが、良く考えたら俺と同じ立場になっただけか」

 そう雲耀が言葉にするとクロスは確かにと答え、そしてお互い顔を合わせ笑いあった。


「んじゃ、役立たず同盟として乾杯でもしようかね」

 そう言って、クロスはそっと小さなコップを掲げた。

「おやおや。こんな昼間っぱらから酒とは良い御身分ですな」

「いや、これただの水だ。流石にエリーに全部押し付けて来たこの状況で酒は飲めねーわ」

「そりゃそうか。……いや、俺もハクに全部押し付けて来てるから何も言えねーや」

「んじゃ、ただの水だけど、乾杯という事で」

「味気ねぇけど……しゃあなし。んじゃ、何に乾杯しようか?」

「この里の未来で良いんじゃないか?」

「それも良いねぇ……。クロス。あんたのお陰でこの里でもまともな未来が見える様になったもんな。……いや、まさかあんな劇物動かすとは思わなかったけど」

「やる時は徹底的に。そうでないと……後悔するからな」

「やけに含蓄籠った事言ってるじゃないか。それは実体験か?」

「後悔しない様全力で突っ走って生きたからな。滅茶苦茶で、失敗塗れで、誰からも馬鹿にされて。恥しかない人生だったよ。だけど、後悔してないぞ。出来る事全部やったからな」

 そう言ってクロスはどこか遠くを見つめた。

「……そりゃそうか。んじゃ、これからも続く後悔しない生き方に乾杯」

「難しいだろうけど、そうありたいもんだ。乾杯」

 そう言って二人はコップをかちんと鳴らし、一口それを口に含む。

 わかっていた事ではあるが、やはりそれは酒ではなくただの水で……その事に落胆し二体は小さく溜息を吐いた。




 ぐだぐだと飯を食いながら雑談をする事三十分。

 クロスは猛烈な違和感を覚えていた。


 雲耀という男は竹を割った性格という言葉がびっくりするほど良く似合う。

 その代わりに後先考えないで動いてしまう位には、雲耀の性格は単純でわかりやすく、そして激しい。


 のはずなのに、今クロスの隣にいる男はさっぱりした部分も後先考えない部分も、その両方の特性が出ていない。

 だからこそ、クロスは違和感に苛まれていた。


 ゆっくり静かに食事をして、普段より口数が少なくて聞き手に回り続け、そして同時に悩んでいる様な表情を浮かべる。

 何か言いたい事があるのだと誰が見てもわかる様な態度。

 それなのに、はっきりとその『言いたい事』を口にせずうじうじする雲耀。

 その姿は、あまりにもらしくなかった。


「なあクロス。お前は――いや、何でもな――」

「だあ! もう止めてくれ! お前がなんか普通の奴みたいな態度取ると変な寒いぼ出て来る。思い出せよ! 初対面で喧嘩売って来たあの時の輝いていたお前を!」

「……それ、輝いているのか?」

「少なくとも今よりはな。……ほれ。何があったのかとっとと話せ。聞いて欲しいんだろ?」

「……俺だってさ、悩みを抱える事もあるさ」

「悩みを持つななんて言わねーよ。ただ言いたい事があるならはっきり言えって言ってるんだよ。ぶっちゃけ似合わなくて違和感で吐きそうになってくる」

 そうクロスに言われてもいまいち踏ん切りが付かないらしく、雲耀は曖昧な笑みを浮かべるだけ。


 その様子を見て、クロスは呟いた。

「……恋愛相談か」

 その一言に、雲耀は飲んでいた水を噴き出し盛大に咽せた。

「は、はぁ!? どうしてそうなるんだよ!?」

「照れるなよ。男がうじうじ悩む事なんてそうそうない。……ふむ。ハクちゃんとの事かな。だったら協力するのも別に吝かではないぞ?」

 そう言ってきりっとした表情を作るクロス。

 それを見て……ぽかーんとした表情を浮かべた後、雲耀はゲラゲラと盛大に笑う。


「あ、あれ? 違った?」

 そんなクロスの言葉を聞いているのか聞いてないのか雲耀はしばらく笑い続け……飯屋の店主がブチギレてゲンコツを落とすまではずっと大きな声で笑い続けた。



「次騒いだら出てってもらうからね!」

 そう言って、店長らしき大男は大股で厨房に戻っていった。

「悪い悪い! おー痛ぇ痛ぇ。んで、何だっけ。ハクとの恋愛相談だっけ。……俺としちゃ笑い話でどうでも良い事だけど、まああんまり口に出さないでくれ。ぶっちゃけ色々とめんどい事になるから」

「……ふむ。それは良いけど……ああ、事情も聴かない方が良い類の話か」

「いんや。シンプルな話だ。俺もあいつもそこそこ以上の名家の生まれで、んで俺らは親に勝手に許嫁にされた仲ってだけさ」

 その言葉に、クロスはにやけ面となった。

「ほほーう! つまり……将来的にはそういう――」

「――破棄した」

 クロスの笑顔は、一瞬で凍り付いた。

「……は?」

「ま、色々と理由はあるけど、一番は俺が家庭を持てるとは思えなかったからかな」

 その事に、何かを言おうと考えた。

 考えたけど、クロスは部外者が言って良い言葉ではないと思い、その言葉を飲み込んだ。

「……良く考えて、そう選択したんだよな?」

「もちろんだ。他にも家柄とか役割とかそういった色々面倒かつ糞みたいな理由はあるぞ? だけどまあ、一番の理由は結局俺そのもので、そしてそれでも断って後悔はなかったぞ。……副門番長としてあいつが来た時死ぬ程気まずかったけど」

「なあ。お互いに恋愛感情とかは……」

「ないな。断言出来る。お互い物心つく前の許嫁で、そして俺はあっちにふらふらこっちにふらふらするロクデナシの大馬鹿野郎。逆にあっちはドが付く真面目な性格と来た。だからそういうのはないぞ」

「……ほーん」

「ま、そんな訳で下手にいじると俺の立場がガンガン悪くなるからその手の話題は避けてくれ。……いや、マジでこの手の話題出て来るとハク本気で怒るんだわ。俺が捨てた側だからさ」

「だろうなぁ。一方的な婚約破棄みたいなもんだし。ま、言わないでおくさ。部外者が踏み込んで良い話じゃないっぽいし」

「そうしてくれ。……んで、本題の俺の事なんだが……さて、どこから話そうかなぁ……」

 そう言って雲耀は遠くを見つめた。

「お? やっとうじうじするのは止めたか」

「おう。あまりに馬鹿馬鹿しい推測聞いたからか悩んでるのが馬鹿らしくなったわ。なんだよ恋愛相談って」

 そう言って雲耀はゲラゲラ笑った。


「うっせー! それじゃ一体何に悩んでんだよ?」

「悩みというよりは……クロスを巻き込む事にちょっと抵抗があってな。とは言え、他に手はないが」

「……ふむ? つまりどういう事だ?」

「そうだなぁ……いや、本当にどこから話したら良いか本当にわからん」

「とりあえず、俺に何をして欲しいか言え。手を貸せそうなら貸してやるから」

 雲耀はその言葉に苦笑いを浮かべ、そしてクロスの目をじっと見つめた。


「俺と共にある奴と戦って欲しい」

 そう、雲耀は真剣な様子で言葉にした。

「……なるほどねぇ。やばい案件まだ抱えてたのか」

 戦うと言っただけで雲耀の瞳に恐怖が宿ったのを見て、クロスはそう言葉にした。


「やばいなんてもんじゃないな。ぶっちゃけ俺だけなら死にに行くのと同等だ。つまり、参加するだけでクロスも死の可能性があるって事だな」

「……ふむ」

「だから巻き込みたくなかったんだけど……すまん! 他に適任な奴全く思いつかんかった」

「いや。それは良いんだ。ただ……戦う理由を教えてくれないか? 里の危機か? 誰かの為か?」

「……ま、当然だよな。戦う必要ない事に命を賭ける馬鹿はいない。ぶっちゃけるけどさ、これといった理由ないんだわ。勝っても何か得するわけでもなし、負けても誰かが不幸になる事もなく、しいて言えば戦った俺らの命がなくなる位。つまり、必要のない無駄な戦いなんだわ。ああ……今の俺の立場なら本当に無意味だ」

「無意味で、無駄で、そんで命がけと。だけど、それでも戦う必要があると?」

 雲耀は頷いた。


「じゃ、その理由を教えてくれ」

「男の意地……が近いだろうな。うん。本当にそれだけ。……悪い。さっきのはなかった事にしてくれ。命を賭ける様な事に魔王名代様を付き合わせちゃまずかったな」

 そう言って、雲耀はその席を立ち入り口の方に振り向く――。

「待った」

 クロスがそう呟くと、雲耀は足を止める。

 クロスは立ち上がって、そしてゆっくり、呟いた。

「かっけーじゃん。必要がないけどやらないといけない意地の張り合い。俺は好きだぞそういうの。そんで、ダチが命がけで自分を貫こうとしているのを助けるって、俺は超かっけーと思うぞ。だから良いぜ。何したいかわからんが、付き合ってやんよ」

 その言葉に、雲耀は馬鹿を見る様な目でクロスを見た。

「……さっきも言ったが、命を失う可能性があるんだぞ? 比喩とかそういう事ではなく、あいつは名代だからと言って手加減なんてしてくれない」

「そうかい。それでも、俺の決意は変わらんぞ?」

「……逆に俺も聞きたい。クロス。お前の戦う理由はなんだ? 俺の意地の為に命を賭ける覚悟なんて、どうして持てるんだ?」

 その言葉に、クロスはニヤリと笑った。


「ダチが男の意地を貫く為に命を賭ける場面なんてそうそう巡り合えないだろ?」

「……いや、それ冗談じゃなくって本気で言ってたのか?」

「残念な事に、本気も本気だ」

「……わかってはいたけど……クロス、お前馬鹿だろ?」

「おう。大馬鹿野郎だぞ。誰かさんみたいにな」

 その言葉に何も言い返せず、雲耀は苦笑いを浮かべた。


「……すまん。手を貸してくれ。面倒なしきたりをぶち壊す為に、ぶっ飛ばしたい奴がいるんだ」

「おう」

 そう言って、クロスは檄を飛ばす様雲耀の肩に軽く拳をぶつけた。



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