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召喚獣じゃないから!  作者: ごおるど
第一章 邂逅
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2

!虫注意!

 

 



 蚊って存在意義ないって思わない?

 不快感しか与えないわ、疫病撒き散らすわ、刺されるとかゆいし、ほんと最悪。


 音が耳について半分寝入っていたところを起こされた私は、かなり頭に来ていた。

 会社の繁忙期に残業して疲れ切って帰ってきて、眠りかけて来たところにこの仕打ち。


「明日も会社だっていうのに、ついでに明日も残業決定だっていうのにー」


 終電近くまで仕事していたせいでちょっと注意力散漫になっていた時、嫌味メガネの高山課長に、

「水野あづささん。電卓使っているのに、足し算間違えるってどういうことなんだ」

 と言われ、残業していた同僚たちに笑われて。

 それが切っ掛けで、効率が悪いから明日に持ち越そうって帰ることになったんだけど、次の日は次の日で、日常業務をこなしながら昨日残った仕事を終わらせなきゃいけないから、結局自分の首を絞めていることと同じなんだよね。

 普段は自炊してるけど、とても作ってる体力はなし。途中でコンビニ寄って買って帰りましたよ。栄養偏るから、食欲ないけどサラダをプラスした小さめのお弁当を食べて、お風呂入ってすぐに寝た。

 明日は……って、もう日付が変わったから、今日か。仕事が集中しちゃっているから今日も多分昨日と似たような仕事量だろうけど、せめて終電前に帰りたいから、体力をつける意味でも睡眠時間確保は重要なのに。


 じっとしているとまた近づいて来る不快な羽音に、眠気より怒りが勝って来て、起き上がると電気をつけた。

 窓や扉を開け放した記憶がないし、大体今はまだ六月で、ヤツ等が蔓延る時期にはちょっと早い。それに、ここって五階なんだよ。蚊ってこの高さまで自力で上がってこれるんだろうか?


 去年買った薬がそのまま使えればいいけど、蚊取り線香があるはずだから、最悪そっちだな。

 そんなことを思いながら棚を漁っていると、ようやく見つけたのが……電気式の奴の空箱。薬が切れてる。


 仕方がない、おばあちゃんが送って来た蚊取り線香が一缶あるから、煙いけどこれで行くか。スプレーの殺虫剤は体に悪そうだし……シューっと一吹きしてやりたいけど、寝床に噴射はしたくない。

 蚊取り線香は、田舎に住むおばあちゃんが野菜と一緒に送って来たもので、なんで今時?それもなんで開封済みの物を送ってくるの?って思ったけど、どうも隙間にクッキーの缶を入れるつもりが、間違えて送ってしまったらしい。因みに、比較的暖かな地方の田舎のなので、蚊はほぼ一年中出るのだそうだ。何て迷惑な。


 何が役に立つか分からないねーなんて思いつつ、片手に殺虫剤 (スプレー)、片手に蚊取り線香 (缶入り)を持った瞬間、ぐらりと視界が揺れた。


 あれ、地震?それとも貧血?と思ってしゃがんで両手を床に付いた。


 触ったのは、土。さらさらと渇いて暑い。


「はぇ?」

 私の部屋ってフローリングなのに、何で土?ってか、はぇってなんだ。


 危ないので、蚊取り線香と殺虫剤から手は放していたけど、裸足の足元に二つとも転がっている。……うん、めまいは一瞬だったみたいで揺れてはいないけど……この、私の周りにある、複雑な模様をした金色に輝く何かは何かなぁ?

 ゆっくり回転している、これ。


 触ろうとして、当たり前だけど触れなかった。光源がなんだか分かんないけど、試しに一歩、歩いてみると一緒にくっついてくる。



「──お前が最強の召喚獣か」

「はあ?」

 聞き覚えのない声の主に話しかけられて、顔を上げた。


 近くに立っていたのは、きんきらの髪に空色の目をしたイケメンと、魔導師チックなローブを着た若い男。きんきらに比べれば地味だけど、こちらも悪くはない顔立ちの……賢そうな青年だ。なんか二人して珍しいものでも見るような眼をしてこちらを見ている。

 やたら偉そうなしゃべり方だったので、声の主は多分イケメンの方だと思う。


「……しょうかんじゅう?何それ」

「お前のことだ。……誠に面妖な事よな。人間にしか見えないが、何もないところから現れたのだから、間違いなく人ではなし。着ている服も見たこともないものだ。……少々みすぼらしいが、まあ、見た目よりも実力よ。さあ、召喚獣、召喚主の命令に従え」

「何言ってんの、このイケメン。顔はいいくせに頭は残念なの?」


 みすぼらしくて悪かったな、これはパジャマだ。あんたが着ている、髪と同じくらい派手な銀色の鎧に比べれば、そりゃあみすぼらしいでしょうよ。

 コスプレ……と思いたいが、持っている剣と着ている鎧のやたら緻密で重厚感あふれる感じがとても嫌だ。がっちゃがっちゃ動くたびに煩く音を立てているし。


 夢……だよね?夜だったのが今は昼間の晴天で、裸足の足で踏んだ小石が刺さって痛いけど、ついでになんか向こうの方に、得体の知れない黒いモノがうごうごしてるけど、気のせい、だよね?


 私がきょろきょろと辺りを見回している間に、二人は少し小さな声で話をしていた。

「いけめん……?──シスル。もしやうまく制御できていないのか?言っていることは分かるが、時々分からぬ単語が混じる上に、命令を聞かぬぞ」

「解読は七割でございました故、多少は手綱が緩むことあるやもしれませぬ」

 イケメンに慇懃に答えたのは魔導師で、困惑気味のイケメンに対して、魔導師の青年は顔色が変わらない。偉い人とそのお付きって感じだけど、親しそうな感じではないね。臨時上司と部下って感じ?


「解読が進めば、もう少し制御できると?」

「はい、ただ、あの魔法陣に使用されている文字は特殊で、なかなか思うように研究が進んでいないのが現状です。ですが、こうして召喚獣を呼び出せたのですから、まずは重畳と申し上げてもよろしいのではないかと」

「呼び出したとて、あのようなやる気のない様子ではな。せめて能力(ちから)の一端でも見せてもらわねば」

「はい。確かにその通りですが、他の召喚魔法では、呼び出したものが制御を失って暴れまわったこともありましたから、このように大人しくじっとしているということは、隷属の鎖が確実に届いているはずです」


 こっちの人権無視して、言う事聞かせます感がひどいんだけど、本当に一体何なの。

「ちょっともういい加減にして、私を元の所に戻してくれない?明日も働かなきゃいけないんだから」


 夢ならとっとと覚めておくれ。そう思って言ったのだけど、元の所に戻せというのは、何かの符牒の様なものだったらしい。二人は一瞬顔を見合わせた後、叫んだ。


「今ここにいる者達の中では、お前が最大の能力の持ち主であるはず。何でも良い、早くあの魔物等を葬り去れ!」


 その声が聞こえたのかよく分からなかったけれど、黒いモノが動き始めた。……段々と黒が濃くなる。うわんと変な耳鳴りが聞こえ、黒いモノの正体が遠目にも見え始めた。


 変な音は耳鳴りではなくて、薄く透明な二枚翅で飛来する音だったらしく、その音も次第に大きくなる。それは、鋭い錐のような口を持ち、細長い体には黒い縞が入っていて、毛が生えたような触角が二本、六本の足にも縞模様がある虫で──。


「さあ、あれを倒せ、召喚獣!」


 イケメンに示された、体長約五十センチの蚊の大群に、私は全力で叫んだ。


「あほかー!こちとら平凡な乙女なの!あんなもの倒せるわけないでしょ!私は召喚獣なんかじゃなーい!」






最初は蚊をGで書いていたのですが、途中で気持ち悪くなりました(笑)


知らんわ、そんなもんと思うかもしれませんが、一応、現代に出てくる蚊はアカイエカ、魔物の方はヤブ蚊をイメージしています。

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