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砂界で始める鍛冶錬金《アルス・マグナ》~魔法医学で獣人とドワーフを救う地下工房。大地を枯らした竜も助け、楽園作りのスローライフを目指します。  作者: 蒼空チョコ
4章 人間領と獣人領と砂界の三つ巴

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エピローグ 邪な神様の祝福

 エリノアとの交渉は終わったとはいえ、まだ信頼することはできない。


 彼女を縛る契約呪具を手に入れるほか、結果報告のためにも僕らは獣人領の宰相に連絡を取った。


「おおっ、待ちわびたぞ!?」


 連絡が繋がるや、宰相は通信を媒介する水晶に飛びついてきた。


 こちらの無事を見回して安堵の息を吐いている。


 そんな様子に、前回と同じく獣人領の神殿に集まった邪神と将軍たちも苦笑気味だ。


「誰も欠けることなく勝利したのだな。なんという子たちだ……」

「ええとですね、実はそこに関して伝えておきたいことがあって」

「何か有益な情報でもあったか?」


 勝利を収めただけでも朗報だ。


 それ以上のものがあるとは宰相も全く予想をしていない顔に見える。


「はい。今代の勇者は総数十二だそうです」

「そのうち二つを落としたともなれば、魔力量的には邪神一人で並ぶ。我々自身の奮闘だけでも大きく勝利に近づくな。卑しい考えにはなるが、紅き神獣はどうなった?」


「無事です。今は体力を回復するために火山で休んでいますね」

「協力を得られるのなら、勝利は手堅いかもしれんな」


 これほどまでの戦況は類を見ない。


 話を耳にした将軍たちにも喜びが垣間見え、邪神は少し肩透かしのように頬杖を突く。


 そして僕たちを称える声が上がると、宰相は堪えきれずに口元を緩めていた。


「ご苦労だったな、エルディナンド。そこまでしてくれたのならば後は――」

「あ、あの……実はまだ一つ」


 おずおずと手を上げると、宰相の後方では大きな笑いが生まれていた。


 宰相は緩みそうな口元を何とか整えて威厳を保ちつつ、耳を傾けてくれる。


「テア、イオン。いいね?」

「私はいつだってエルの味方だよ」

「マスターのお望みとあらば何であろうと」


 エリノアと手を組む経緯を説明し、今後に目指すものを説明する。


 その最終確認をしてみると、彼女たちは頼もしく頷いてくれた。


「――つまり、勇者の一人と手を組み、蒼き竜を開放する。そして、間髪入れずにもう一人くらい勇者を陥れる、と?」

「はい。エリノアたちが事を終えて戻るのを装うのなら、それくらいのスピードになります」


 これを説明してみるとどうだろう。


 宰相や将軍たちは一転して複雑そうな面持ちだった。


「……エルディナンド。もう十分だ。これ以上、身を削って尽くされるのは私たちの方が心苦しい」

「でも、そこにできることがあるなら僕は進みたいです。だって、僕は故郷が好きですから」


 答えてみると、どうだ。


 宰相は心を痛めた様子で水晶に手を伸ばす。


 けれどもこれは通信だ。物理的に隔たれていることで、彼はその手を握り締めるしかなかった。


「今度という今度は賛成しかねる。エリノアは殺せ。新たな勇者にも挑むな」

「……じゃあ、せめてもうちょっと状況を見ましょう。赤竜さんの望みである蒼き竜を救出するだけなら問題ないですね? それで神獣二頭、勇者一人が裏切りをしてくれるならかなり安全に敵を討てます。それができれば、何百人もの獣人が命を落とさずに済みます」

「それは――……くっ!」


 国を率いる者として、宰相は葛藤していた。


 多くの人命が救われる当てがあるのなら、一人の命を犠牲にする。


 それが邪神復活の理念だ。


 僕が獣人領に留まり、兵士として戦うのをさせまいと国外追放にしたのとはわけが違う。


 救われる命の桁が変われば否とは言えなくなる。


「……いや、違うっ。お前はすでに獣人領の民ではない! そんなことに命を費やす義理はないんだ!」


 絞り出すように叫ぶ父の姿に僕の胸は痛んだ。


 これは罪悪感だ。



 その反面、それだけ想ってくれることには胸が温まる。


「――ありがとう、お父さん。だから僕は欲張りに頑張ります。できるだけ多くの獣人を救えるように、そしてこの砂界を楽園にしてみます」


 その言葉に返答はない。


 宰相は無力感を苛むように水晶玉を置いた台を叩くのみだ。


 そんな彼に見せつけるようにテアは僕の腕を取る。


「お義父さん。私はね、こんなエルだからこそ好きなんだよ? それに、絶対に成し遂げてくれるから大丈夫。だって、私のために死だって克服してくれたんだから」


 絶望的なわけではない。


 むしろ今回の一件に比べれば何回りも簡単なはずだ。


 それをせずにいれば僕たちこそ心が苦しくて生きた心地がしなくなってしまう。


 二度目の人生をそんな形でダメにしたくはない。


 二人で親に宣言をしていたところ、邪神の視線がアイオーンに向けられた。


『《時の権能》。俺の言いつけは忘れていないな? 彼を守り続けろ』

「無論です。良きマスターに巡り合わせてもらい、感謝しています」

『ああ。お前たちの未来に祝福を。決して死なず、望む未来を勝ち取れ』


 邪な神様だからだろうか。


 彼は僕らの欲張りな願望を決して否定しなかった。


 僕ら三人はその声に対してただ一言、「はい!」と返すのみだった。



 そうして通信は途切れる。


 親を悲しませるなんて酷いことをしてしまったものだけど、決意は固い。


 僕は心強く支えてくれるテアとアイオーンに目を向けた。


「これからもよろしくね、二人とも」


 それに対して肯定が返ってきたのは言うまでもない。




砂界で始める鍛冶錬金(アルス・マグナ)、終わり。

約1ヶ月半の連載にお付き合いくださり、ありがとうございました。

医療ネタを取り入れつつ、心地いいスピード感やノンストレスな展開を上手く取り入れたつもりでしたが、小説家になろうの壁はまだまだ厚いですね。精進したいと思います。

お話はここで一区切りですが、多くの読者さんが見てくれるのなら第二部も執筆します。

ですので、ここまでのお話をよかったと思ってくださった方々は奮って評価やレビューをしてくれると作者冥利に尽きます。どうぞよろしくお願いします!


また、むしろこちらが大事になるのですが、精進するためにも次回作を同時に始めます!

題名は「アルフォール魔獣医院の再誕賢者」です!

空想上の生物が出る獣医大学っぽく、ハリーポッターのような魔法学園ものという要素です。それに加え、ダンまちのように熱い要素をどうにか取り入れていきたいと思います。

下にリンクをつけているので、どうかこちらも応援よろしくお願いいたします!

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