3-1 砂界に向けた空の旅
追放という名目で僕らが目指すのは通称『砂界』と呼ばれる乾燥地帯だ。
それは獣人領の西方に位置しているのだが、途中には巨大な山脈があって越えるのが厳しい。
そのため、比較的山脈越えが簡単な北方からぐるりと迂回して向かう。
「ふふーっ♪ 風が気持ちいい」
アイオーンが三連続く飛竜の鞍の先頭で手綱を握ってくれているのは変わらない。
しかしテアは僕の鞍に移動していた。
懐の彼女は背を反らすようにして伸びをして僕に頬ずりをしている。
「はいはい、テア。前は向いていようね」
それが誤って落ちないようにシートベルトをしておくのが僕の仕事だ。
なにせもう数度はアイオーンがふるいをかけてくる。
「わひゃっ!?」
「失礼。手頃な上昇気流があったもので。これも飛竜を休ませるためです」
「いやまあ、曲芸飛行でもされない限りは大丈夫だし、そう言われると文句はないけどさぁ……」
彼女に仕事を任せ、後ろでイチャイチャしていた身としては少し罪悪感が働くらしい。
テアの返答は大人しかった。
「それにしても、空の魔物にも全然追いつかせないのはすごいね。私が迎撃するし、もう少し直線的に飛んでもいいんだよ?」
「《空間走査》で周辺状況は完全に把握しているので問題ありません。本日の休憩まで魔力は持ちます」
「えっ。そんな過剰に備えなくてもいいでしょう!? ここら辺の魔物なんてザコだし!?」
「お構いなく。どうぞ今ひと時だけマスターの独占を。魔力が尽きた暁には濃厚接触で補充させていただきます。主の体液を欲するなんて、これもホムンクルスの悲しき性ですね」
「ちょっ。一緒に座っているだけだし、何度も揺れで邪魔されているのに!?」
それでは釣り合わないと気付いたテアは手綱を引ったくったのだった。




