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砂界で始める鍛冶錬金《アルス・マグナ》~魔法医学で獣人とドワーフを救う地下工房。大地を枯らした竜も助け、楽園作りのスローライフを目指します。  作者: 蒼空チョコ
3章 言い伝えの領域へ

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17-1 術式仕込みの発酵食品

 単純に相手を害するような品は勇者ならば軽く見破る。


 しかし途中の村々で略奪などをしており、仕掛けるチャンスがあるのもまた事実――。


 そんなヒントを得た僕らは自宅の工房に戻って準備を始めていた。



 テアはソファーで寝こけ半分に。アイオーンは細々とした作業を手伝ってくれつつ、作業が進んでいた。


 そんなとき、玄関からドアノッカーの金属音が上がる。


「ご案内してきます」

「よろしく」


 作業を中断したアイオーンが連れてくるのはドゥーヴル、サンディ、ウルリーカの三人だ。


「こんにちは、エルディナンドさん! ええと、山羊の乳と麦芽糖の樽はこっちでいいんですか?」

「うん、ありがとう。そっちに置いてくれる?」


 錬金術を扱うための工房なので様々な鉱物、ガラス容器や液体などが並んでいる。


 持ってきてもらった物資はひとまず隅に置いてもらった。


 ドゥーヴルとサンディが物珍しそうに目を走らせる一方、ウルリーカが歩み寄ってくる。


「……れ、錬金術、ですよね。傍で見てもいいですか?」


 彼女は服の裾を握り、問いかけてきた。


「大丈夫。でも、ウルリーカちゃんは攻撃系の黒魔法使いだし、あまり参考にならないんじゃないの?」

「えっ、ええとですねっ。そのぅ……転向! 転向もいいかなって、思って……」


 子犬みたいに寄り添ってきたと思ったら、やたらともじもじしている。


 興味津々というより、頬を赤らめ――。



 この甘酸っぱい雰囲気を察せないほど僕も鈍くない。


 どうしたものかと視線を外して対応を考えようとしたところ、眠れるお犬様がこちらに歩いてくるのを目にした。


「子リスちゃん、エルは私のつがいだからね?」

「そっ、それはなんとなく感じていたんですけど……。あ、憧れとかもダメ、ですか……!?」

「ううん。……獣人の血は情熱的だもんねぇ。あ、この人には呑まれるって思っちゃったらもうズブズブになるよね。わかるわかる」


 そういう習性が獣人の複雑な家族構成に発展することも多いのはよく耳にすることだった。


 それだけ伝えてソファーに戻っていくテアを苦笑気味に見送る。



 こういう現場は程々にある。


 ドゥーヴルとサンディはむしろ搬入物とその使い道が気になるようだった。


「錬金術……?」

「うっ、ううん……?」


 むしろ醸造家への搬入物資みたいなものなので、二人は理解が及ばない顔だ。


「あはは、それっぽくないよね」


 ひとまずウルリーカは錬金術に興味があるようだし、僕はそこについて触れにいく。


「錬金術は金属錬成、ホムンクルスの製造みたいな培養技術、エリクサーや賢者の石の生成の三系統が主になるんだけど、今回は三つ目に近いかな」

「はっ、なるほど! つまりエリクサーの材料ってことですか!?」


 ドゥーヴルは手を叩く。


「そこまではいかないよ。そうだなぁ、古い呪術師が作った馬乳酒や麦酒は魔力を帯びていて、それを飲むと元気が湧いたって話は聞いたことがある?」


 問いかけてみると、冒険者三人は頷いた。


 古い時代はそういう治癒や雨乞いの力が崇められることがあったらしい。


「酒はミジンコより小さな生物が乳やら麦やらを変化させて作ってくれるものなんだって。その過程で栄養豊富になるっていうのも元気の秘密なんだけど、もう一つ魔力を帯びているっていう点も関わっていてね」


 易しく説いているので理解はできているようだが、三人はこの先の答えまでは想像できていない様子だ。


「その小さな生物が微弱な治癒魔法を垂れ流しにしているのが元気の源であり、魔力を帯びた原因なんだって。それと同じく、微生物に様々な術式を仕込んで利用してやろうって考えがあるんだよ。ゆくゆくは、こいつらを利用して魔力の増強を使用とかね」


 腸内には無数の微生物がいる。


 いい微生物を取り入れれば体調が良くなるように、特定の属性や術式を仕込んだ微生物を摂取して力にするという考えだ。


「まあ、単純に仕込んだ術式じゃ気付いて当然だからもう少し工夫をして……」

「工夫……?」


 今後の勇者対策についてぼそぼそと呟いて思考していたところ、三人はきょとんと首を傾げた。


「ああ、こっちの話。例えば寒冷地で体を温めてくれるホットドリンク、治癒促進のポーション、殺鼠剤とか駆虫薬もこういう技術で作れるねってお話」

「ふわぁ……! エルさんは、そういうことも目指しているんですねっ!」


 軽くまとめて話したところ、ウルリーカは目を輝かせて見つめてくるのだった。


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