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【バンドやる】その2

耳に悪い配信を始めてから50分ほどが経った。

配信中に配信主のアクトが、腹が減ったと言って近所のハンバーガーチェーン店に行ったという、アクシデントもありながら特にその他の事故は起こらず、ついには今日の配信最後の曲になっていた。


「皆んな楽しんでくれてありがとう!心寂しいが次の曲で今日は最後だ。心して聞く様に!」


アクトのその宣言で、コメント欄は喜びのコメントで溢れかえっていた。


「それじゃあ最後の曲は、俺をもとにして作られた曲『完璧超人』っと行きたかったところだが、変更してフォルテちゃんのオリジナル曲を歌ってもらいます」

「えっ?」


マイクを渡されたフォルテちゃんは、段取りになかった状況にただ1人困惑していた。


なぜこんな事になっかは、それは大体一週間前に遡戻る。

バンドメンバーが全員集まったことを、奏に報告していた際に、思いついた事だった。


「そういや、そのバンドを一緒にやってくれるフォルテちゃんって子なんだけど、今若干歌のスランプ気味でさ。多分このバンドを通してそれは解消されるはずなんだけど、その確認のためにできれば一曲歌わせたいんだけど、奏は大丈夫か?」

「どの曲をやるかを教えてくれれば、練習しとくから大丈夫だぞ」

「そっか、なら大丈夫だな。俺も今回は真面目にやるって決めてるから、練習しなきゃなんだよなー」

「えっ!阿久津が練習するってマジか。珍しい事もあるもんだな」

「いやー、実はそのフォルテちゃんって子、俺の勘違いで泣かせちゃってさ、今そのお詫びにスランプ治してあげてるから。真面目にやらんと思ってな」

「阿久津お前、勘違いで泣かせるはやばいだろ……」

「まぁそう言う事だから。あ、後曲ってのはそのフォルテちゃんのオリジナル曲で」



「『覚醒』」


その言葉と同時に、3人は曲を引きだす。今までの曲とは違い、3人の息がぴったりとあっており、元の曲より少し明るめにアレンジした曲調で奏でられる。

その様子に、初めは慌てていたフォルテも、自分の頬を叩き、気合を入れマイクをつよく握る。呼吸を整えるために深く息を吸う。

そこでアクトに言われていた言葉を思い出したフォルテは、吸った息を音を立てながら吐くと、今まで入れていた全身の力を抜いた。


最近のフォルテの歌い方は、その美声を生かして静かに、しかし力強く歌っていたが、今バンドメンバーと歌っている歌い方は、デビュー当初のカラオケに友達と行った時の様な、真面目にしかしそれ以上に楽しみながら歌う、歌い方だった。

歌の最中には、皆んなで合いの手を入れたり、結局我慢できなくなったアクトが、一部乗っ取ったりもしながらも、皆が楽しく歌を歌い演奏した。


その楽しそうなアクトと愉快な仲間達に釣られて、リスナー達も画面の前で歌い始めた。あるものは残業中の会社でいきなり、ある者は静かな部屋で1人っきりで、ある者は友達と一緒に、またある者は夫婦でデートに行きながら歌った。


そんな楽しい時間も、たった3分ちょっとで終わってしまった。だが、たった3分だったとしても、それはとても有意義な3分だった。


その後は、各々が感想を言い合い配信は終了した。


「いやー、皆んなお疲れ。さっきも聞いたけどどうだった?」

「私はお兄様の素晴らしさを再確認しました。今回はギターだけでなくその素晴らしい歌声を聞けて、大変嬉しく思っています」


リリィにそう言われた、アクトの鼻は天をつく様に伸びていた。


「僕はあれだね、流石につかれたかな。次またこう言う企画やる時は、もっと事前に言ってほしいかな」

「覚えてたらそうするわ」

「ははは」

「私はっ!」


そう言うと、フォルテはアクトに抱きつく様に近づいた。


「私は、その……アクトさんの事が、」


フォルテがそう言おうと瞬間、フォルテの後方から素人でも感じ取れる量の殺意が、フォルテに向けられた。


「俺がどうしたんだ?」

「アクトさんの事がす」

「すぅ?」

「…………素晴らしいと思いました」

「そうか!そうだろうな!この俺は素晴らしい存在だからな!」


そう言いながら高笑いしているアクトとは対照的に、フォルテは自分の意気地の無さに本気で悔しがっていた。


その後は、奏が本格的につかれている様子だったので、直ぐに解散する事になった。


帰り道が別れるまで、何故かフォルテが俺の裾を摘んだり、話したりを繰り返していたのだが、あれは一体なんだったのだろう?女の子の中で流行っているのか?

それに何故か小雪が急に甘えて来て、帰りは手を繋いで帰る事になったのだが、本当に何があったのだろう?


そんな事を考えながら家に帰宅すると、両親は数年ぶりに休日があったようで、デート(海外)に行った様だ。

夕食を小雪に作ってもらい、また何か面白そうな企画がないかと考えながら部屋に戻ると、フォルテからのメッセージが来ていた。

何か用でもあるのかと思い、それを開くとそこには、


「ありがとうございました。」


と、一言だけ書かれていた。

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