第20話(改稿前 前後に矛盾があります)
俺は家に帰って、時分の部屋でしばらくゆっくりしていた。
やっぱり、今日は張り切り過ぎていたんだと思う。全身が疲れているように感じた。
何より、電車の中の夢乃の言葉が頭から離れなかった。
夢乃はなんであんなこと言ったんだろう。「かっこいい」だなんて。
もしかして、夢乃って俺のこと好きなのか?
いや待て。
俺は中学時代、こういう勘違いを何度も犯してきた。
だから、あんなことになってしまったんだろ?
俺は、今の夢乃との心地いい友人関係を崩したくはなかった。
だから、勘違いなんかするな。俺はかわいい子にとってちょうどいいだけの、友人Aなんだから。
でもさぁ、あの夢乃が誰かを「かっこいい」なんて、言ってるの聞いたことないんだけど。
ああー、どっちなんだ。ほんと何なんだよ。嬉しいのに、どうしていいかわかんねーよ。
そんなことを考えてベッドの上をゴロゴロしていたら、そのまま眠ってしまった。
「……ちゃん、お兄ちゃん! ご飯だよ!」
ん? 何だろ。
まあいいか。まだ眠いし。
「お兄ちゃん! ご飯って言ってるじゃん!」
んん? これ奏美の声か?
目をこすりながら開けてみる。
気がつくと、また奏美が部屋に入り込んでいた。勝手に入るなって言っただろ。
「……なんだよ、奏美。静かに寝かせてくれよ……」
「だってしょうがないでしょ? お母さんに起こせって言われたんだから。ご飯だって!」
母さんという言葉を聞いて、俺は起き上がった。このままじゃ確実に怒られてしまう。
「分かったよ。行くって言っといて」
それを聞いたら、奏美は部屋を出て、ドタドタと階段を降りていった。
「お兄ちゃん食べるって~」
はいはい、行きますよ。
1階に降りて、俺は両親と妹と一緒に4人でご飯を食べた。今日は母さんの得意料理の1つ、手作りハヤシライスだ。
もちろん、俺の大好物でもあった。
俺は家族の誰よりも山盛りにご飯を盛ると、たっぷりハヤシライスをかけて窓際の自分の指定席に着く。
確かにまだ体は疲れていたけど、食欲は別なんだよな~。
一口口に運ぶ。うまい!
「カレーは飲み物」って言葉があるけど、ハヤシライスも飲み物だろ、これ。
あっという間に俺の皿からご飯がなくなっていく。
「ごちそうさま!」
俺は流しに皿を持って行った。
「疲れてるって聞いてたけど、大丈夫そうだな」
「そうね。あれだけ食べたら大丈夫よ」
父さんと母さんがそう話している。うまいものの前じゃ高校生の疲れなんて大したことないんだよな。
「お兄ちゃん、食べるの早すぎない?」
奏美がそう言ったけど、聞かないふりして俺はすぐに風呂に入った。
「あ~、きもちいい~」
やっぱり一番風呂は最高だな。汗とか疲れがきれいに流れていく気がする。
風呂から上がると、俺はすぐに2階に戻った。スマホに気になるLANEが来ていたからだ。
部屋でベッドに横になる。あくびが出て寝そうになるけど、まだ寝るわけにはいかない。
今日のことで、聞いておかないといけないことがあるからだ。
俺はスマホを触ってLANEを開いた。
愛瑠から個別のメッセージが来ている。
『あいる♥ あたしの情報、役立ったでしょ~』
俺は愛瑠に、一言聞きたいことがあった。
愛瑠に電話をかける。
「あ~慎一から電話だ~。珍し~。どしたの~?」
愛瑠の口調は、明らかに俺から電話が来るのを分かっていたって感じだった。
「愛瑠。どうやって調べたか分からないけど、情報ありがとな。助かったよ」
「ぜ~んぜん~。あたし~、そういうの得意だし~。慎一の役に立ったからオッケー~」
愛瑠はあくまで軽い感じで話す。
俺は、愛瑠に感謝しつつも、聞かなければいけないと思っていた。
「なあ愛瑠。中谷先生の靴箱に神城の情報が入ってたらしいんだけど、何か知ってるか?」
少しの間、沈黙があった。
しばらくして、甘くいたずらっぽい声が聞こえてくる。
「へぇ~。そんなことあったんだ~。誰だろ~そんなことしたの~?」
多分、聞いても自分がやったとは言わないだろうな。
「まあいいか。それでさ、中谷先生から聞いた話が、愛瑠から聞いてた情報とちょっと違ってたんだけど」
「へぇ~。私でも間違うことあるんだ~。どこが違ったの~?」
間違っていた、と言われても愛瑠は余裕そのものだった。
「神城が去年何人か退学させたとか、陸上部員が何人辞めたとか、そういうのが事実じゃなかったって。中谷先生が神城に聞いたって言ってた」
ここまで言っても、愛瑠は余裕そのものだ。
「ほんと~? 間違えちゃったか~。ざんね~ん」
「どういうつもりだったんだ?」
俺は、間違いなく愛瑠がわざとやったという思いを込めた口調で言った。
「え~。神城がすごくヒドい奴だって情報があったから~、慎一の本気が見られると思ったんだよね~。思った通りだった~。花音も助かったし~、慎一ってスゴいんだな~って」
やっぱりそうか。
俺は怒る気はなかった。そもそも、愛瑠の情報がなかったら神城に迫ることすらできなかったからだ。
「まあ、もういいけど。問題は解決したし。こっちこそありがとう。俺も愛瑠すごいって思ったよ」
まあ、色んな意味で、だけれども。
「ほんと~? じゃ~あ~、今度デートに誘ってほしいな~、なんて」
はい? で、デート?
俺がデートに誘うなんて無理だろ。そもそもそんなこと、したことなんてないし。
「えっと、何言ってんの? で、デート? 冗談はやめてくれよ。俺には無理だって」
そう言って、逃げるしかなかった。でも、嬉しくない、と言ったら嘘だ。
「あ~、慎一逃げた~。愛瑠また振られちゃった~。それじゃ、今度誘うからね~」
振られた、という言葉を使いながらも、愛瑠はとにかく楽しそうだ。いつものように、俺をからかって面白がってるんだろう。
通話の終わったスマホを眺めていると、愛瑠からメッセージが来た。
『あいる♥ 逃がさないからね~』
何だろう。愛瑠にここまで気に入られている理由が、いまだに分からない。
でも、嫌な気分じゃなかった。デートに誘うのはちょっと難しいけど、愛瑠とはしばらくこんな感じなんじゃないだろうか。
その後、俺は机に向かっていた。
ハナコーは進学校だからとにかく宿題が多い。今週末は国語2枚、数学4枚、英語3枚、その他社会や理科も出ていて、かなりの時間集中してやらないと終わらない量だ。
とはいっても、もう明日から6月。最初はひいひい言ってたけど、もう慣れていた。
気がつくと10時。夕方からやっていたからもう3時間以上だろうか。宿題はほぼ終わっていた。後は、俺が得意な国語だけだ。あっという間に終わるだろう。
その時だった。それまで気にしていなかったスマホの画面が光ったのは。
俺は右手でスマホを手に取る。
『花音♪ ちょっと話したいんだけどいいかな?』
花音からだ。何だろうか。
『慎一 いいよ』
俺はそう返信して一息つこうとベッドに移動した。
すぐに、花音から通話が来た。
「もしもし。どうしたの花音?」
「うん、ちょっと話したくて」
話がしたい、か。何だろう。
それから、2人で他愛のない話をし続けた。
「夢乃と愛瑠が、慎一もやるときはやってくれるんだね、って褒めてたよ」
「ちょっと待って。それあんまり褒めてないよね。俺が普段何もやってないみたいじゃん」
「そんなことないよ。でね、颯人が『俺も褒めて』なんてLANE送ってくるから、おかしくって」
「いや、颯人はほんとに大活躍だったよ。もっと褒めてやって」
「うん。でも、彼方が『颯人は褒めすぎたら調子に乗るから』って。ふふっ」
俺は改めてグループLANEを見た。俺が寝ている間にいろいろ話していたみたいだ。
「俺この時ちょうど寝てたんだよね」
「反応がないからそうだろうってみんな言ってた。それで、ね……」
楽しく話していた花音が急に黙った。何だろう。
「ん? どうかした?」
「お願いが、あるんだけど……」
お願い?
「何だろう。花音のお願いなら何でもOKだよ。何?」
花音は再び黙った。そして、はずかしそうに言った。
「……、明日、時間、あるかな?」
「時間?」
宿題はほとんど終わっている。明日は何をしようか考えていたところだった。
「宿題ほぼ終わってるし、時間あるけど?」
「じゃあ、明日。一緒に、出かけない?」
なんだ、そういうことか。
「ああ、いいよ。どこ行く?」
俺はあまり考えず答えた。
「あ、花岡中央駅、行きたいんだけど」
花岡中央駅、か。なんで休みの日に行きたいんだろう。まあいいや。
「わかった。じゃあ、ひむか市駅に集合だね」
そんな感じで、明日の予定が決まっていった。
「それじゃ、また明日」
「うん、また明日」
そう言って、俺たちは通話を終えた。
明日、高山と花岡中央駅か。
うーん、なにか気になるんだけど、何だろう。




